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中野:デフレというのは二つの意味で怖いんです。デフレで怖いのは、まず給与水準が下がる、生活水準が下がるということです。当然失業も多くなるし、デフレってやっぱり人間には耐えがたいんですよね。生活水準が下がっていく、失業が多くて将来が見えないというのは、経済的に苦しくなること以上に閉塞感をもたらすんですよ。失業して、おまえなんか要らないと言われる疎外感を味わうのもそうですね。人間というのは、将来に向けて生きている動物ですから、その将来が不安になるのは、現在の自分の心理や幸福感を著しく傷つけているのが一つ目です。デフレの怖さのもう一つは、いわゆる左翼的な、アンチ成長の議論に関係してきます。デフレというのは供給が過剰で、需要が足りない状態だ。だったら日本には、世界的に見ても十分に豊かなんだから、これ以上需要を伸ばして、欲しいものもないのに、無理に買わなくてもいいじゃないか。過剰な供給のほうを下げて、小さくまとまればいいというのが低成長論者の意見。日本の知識人のなかにもかなりあります。 非常に正しく聞こえるんですが、その議論が見失っていることが一つあります。需要には、
将来の投資も入っているということです。需要が消費だけだったら、需要が小さいままでもいいのかもしれません。足るを知ればよい、ですみます。ところが、需要のなかには消費だけじゃなく投資も入っている。(中略)縮小した需要に合わせて供給力を落とせばおさまるという問題ではなくて、投資需要がないということは、将来に必要なものに、今、お金が出せなくなるという状況なわけですね。

将来の子供の生活や教育に必要な投資とか、あるいは自分たち夫婦の老後のための準備とか、将来に向けた投資がまったくできなくなる。今の自分のために投資をするという、つまり未来のことを考えて生きるという非常に人間らしいことができなくなるんですよ。身近な人間のためばかりじゃない。遠い将来の日本人のために、将来の石油が不足しないように、今から新しいエネルギーを開発するとか、宇宙開発をするとか、いろいろやってるじゃないですか。そういうことができなくなることを低成長論者は忘れてますよね。デフレの怖さの二つ目とは、これなんですよ。