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神域第三大戦 カオス・ジェネシス88

『………それも試したと?』
「だってそれが一番確実に死に至るじゃない?生命体は」
「…確かに、生きていることに嫌気がさして色々試したとおっしゃっていましたが……」
「自傷は真っ先にやったんだけど、まぁーなにもかも無駄だった。だから四肢もいで心臓抉り出したくらいじゃ死なない死なない」
カラカラと凪子は笑いながらそう言うが、周りの者にとっては笑い事ではない。だが、空気など読まないと言うように、『それは笑い事であるのだ』と言い聞かせるかのように凪子は明るい笑みを崩さない。
その表情のまま鞄からバインダーと紙を取り出した凪子は、バインダーにくっつけてあったボールペンでさらさらと人形を描いた。ぐりぐり、と四肢と心臓部、つまり“深遠の”に埋め込まれていた宝石の部分を塗り潰し、とんとんと叩いて見せる。
「恐らく私の意識を制御しているのがあの要石だろうから、一旦隔離さえしてしまえば支配から逃れることは可能かもしれない」
『…。うん、まぁセオリー通りでいくならそうだね。だが攻撃すると呪いが発動するような代物なら、直接ではなく間接的とはいえ、切除するような行いには反応するんじゃないかな?』
「!ダ・ヴィンチちゃん、」
何事もないように、凪子に特に言及することもなく話に乗ったダ・ヴィンチをマシュは責めるように声をあげたが、たしなめるように首を振られ、眉尻を下げながらも大人しく押し黙った。
「まぁ、その時はその時だ。万一発生してもいいように、切り落としは私がやる」
「呪いというのは、どの程度の?」
「前回は片腕と片目の使用不能。麻痺状態に近いかな」
「他には?」
「分からん。あるかもしれないしないかもしれない」
「……そうか。効果があるかは分からないが、護符程度なら私が作成しよう」
リンドウの問いかけに凪子は淡々と答え、リンドウも淡々と話を進める。
死にたくて自傷行為に及んだ、などと聞かされればリンドウは動揺を見せようなものだったが、彼はなにも言わずに作戦会議に参加していた。予想していた範疇のことなのか、すぐに問い詰めはしないということなのか。
マシュと藤丸はリンドウを気にしつつも、凪子とダ・ヴィンチのやり取りを聞いていた。
「遠距離攻撃も呪いの対象だった以上、俺の宝具も早々には使えない。どう足留めするかがキーになりそうだな」
「凪子さんの言うとおり誘き出せるなら、トラップを用意しておくのは?」
『それが一番確実かな。トラップでの攻撃の場合、呪いの対象はどこにいくと思う?』
「んー、作成者かな…無いという可能性もあるか?」
「…じゃ、一応その用意は俺がしよう。お嬢ちゃんはマスターの防衛に専念してもらった方がよさそうだ」
「分かりました、お任せください」
とんとん拍子に話は進んでいく。防衛のマシュ、広範囲攻撃のヘクトール、なんでもござれの凪子と来れば、役割分担ははっきりしているからだろう。
『君に聞くのは失礼かもしれないが、この時代の君は、どれくらい強い?』
ずばり切り込んできたダ・ヴィンチに、凪子は苦笑いを浮かべる。自分の記憶での当時の自己評価と、今見た当時の自分というものはやはり解離のあるものだったのだろう。
「獣だな、ありゃ。策を労して戦うということをしない」
『ほう?なら、失礼だが、脅威ではない?』
「過大評価をするつもりはないけど、危険なレベルではない、なんてことはない。人間がいくら知恵があっても生身じゃ犬にも勝つのが難しいのと同じさ。獣には獣の危険性がある」
「………確かに君の戦い方は…なんというか……雑、だよね………」
「っ…………」
ダ・ヴィンチに対する凪子の返答に思い当たるところがあったのか、気まずそうに目をそらしながらも評価を口にしたリンドウの言葉に、ヘクトールが思わず吹き出し顔をそらした。ぷるぷるとその肩は笑いをこらえるのに震えている。
凪子も否定はできないのか、あー、と小さく唸って天をあおいだ。
「死なないことは分かっているし、痛みを気にするということもしないから、刺したり斬ったりしたところで全く気に止めないのよねー…それが少し厄介かな」
「…確かにウィッカーマンの手に捕まったとき、力業でこじ開けて出てきてたよね……あんなことしたら腕折れちゃうんじゃ」
「折れてたと思うよぉ、でも別にすぐ治るし…っていう感覚なんだよね。……だから、これなら怯むだろう、って攻撃をしても怯まないとか、警戒して間をとるだろうとか、そういう策略戦が恐らく効かない」
『……成程、確かにそれで死にもしないから大した損傷にもならない、となると、対策のたてようがある意味ないから難しいというのはあるのかもしれないな』
「まぁ要はお馬鹿だ。馬鹿だから複雑な策略は逆に意味をなさない。罠にはめても力づくで突破してくるだろうから、スピードが肝心だと思う。動きを止めて、即落とす。罠から抜けたら関節を狙って攻撃して動きを止めて、やっぱり落とす。そんなところじゃなかろうか」
『成程ね、じゃあシンプルにそれでいこう!罠はそちらで簡単に作れそうなものを考えてみようじゃないか』
ダ・ヴィンチは深く何度か頷き、そう言った。
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