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神域第三大戦 カオス・ジェネシス83

『…今回のことは、我々にできる範疇の事を越えている。それに何度か観測し直しているが、やはりその特異点は現段階で人理定礎に関係しない特異点…つまり目先の驚異ではない特異点だ。だが危険度でいうならば、今までのあらゆる特異点の中で最悪のレベルで危険、カルデアの責任者として、その領域に君達を残しておくことを了承できない』
「ドクター…!」
ロマニの言葉にマシュが声をあげたが、ホログラムに映るロマニの表情は揺るがなかった。彼はマシュから目をそらすと凪子の方を見た。
『先日の奇妙な特異点の比じゃあない危険さだ。春風凪子くん、協力いただけないだろうか』
「っ、おいロマニ・アーキマン…!」
「―――それは無理だろうよ」
『!?』
マシュや藤丸の言葉を聞かずに話を進めようとしたロマニに思わずクー・フーリンが声をあげたとき、凛とした声が家の中に響いた。
面々が驚く間もなく、一陣の風が家の中に吹いたと思えば、凪子たちが最初に遭遇した時に纏っていたものと同じ緑色の礼装を翻して、ルーが家の中に姿を現した。
『―!?』
「あらァ、出て来てよかったの??というかその礼装は何ぞ??お色直し??」
現れたルーに絶句した様子の二人を尻目に凪子が能天気に問いかければ、びしり、とルーの額に僅かに青筋がたった。だが怒るだけ無駄とでも思ったか、はぁ、と長くため息をつくだけだった。
「……………頭に風穴開けるぞ貴様ァ。貴様らが魔力密度が高いと壊れる惰弱な物だと言っていたのであろうが」
「あぁ成程偽装礼装なのか」
『…礼装で偽装をした状態でこの数値……。……っ、貴方が、神話に名高き彼の光神なのでしょうか』
「美辞麗句は結構だ、カルデアとやら。どれだけ無礼であろうがそこの阿呆より、不遜でどうしようもない人間はいないだろうからな、今は気にはしない」
「はっは〜ん言ってくれるぅ、まぁ不遜である自覚はあるけど」
「あるのかい…全く君は……」
恭しく言葉を述べたロマニを一蹴に伏し、凪子への愚痴を漏らしながらもルーはゆったりと腰を下ろした。緑の礼装がふわりと舞い、身体に沿うようにゆっくりと落ちる。
ルーはクー・フーリンをちらりと見たのち、はっ、と小さく嘲るような笑いをあげた。
「まぁ?途中離脱したところで問題ないような事態であるのなら、こちらとしては疾く失せてもらえるのは願ったり叶ったりではあったのだがな」
「!」
「…、こちらとて暇ではない、事態の深刻さを過剰表現していたことは不問に伏そう」
「…………、………………」
ルーが言っているのは、凪子がこの特異点を藤丸たちの生きる時代の世界の崩壊に直結したものだと説明していたことに対してであろう。
それは凪子の特異点というものへの理解の不足が理由の一因にあり、カルデア側の認識を聞いた今となっては、それを嘘と捉えても無理はない。
だが、ルーはこの事態が世界が介入するような案件であることを仄めかしていた。そうであるならば、それがどういう意味を持つのか―未来にどういう影響を及ぼすのか―分からない訳ではないだろう。それでも敢えてルーは、それを説明するのではなくカルデア側に同調することを選んだ。
思わず口を挟もうとした凪子であったが、ルーの真意が知れないこと、またルーが現れ様に言った、帰還は無理だろうという言葉の意図が分からない為に、しぶしぶと口を閉ざした。
そんな凪子の一瞬の思考に気が付いたのはルーだっただけのようで、凪子はふとその顔を見れば、その目は僅かに楽しそうに歪んで凪子を見ていた。凪子はべ、と異種返しのように舌をつきだすと、ぷいと視線をそらしてロマニらの方へと向けた。
『…では、失礼して。貴方は無理だと仰ったが、何が無理なのでしょうか』
「貴様が遣わした人間の、速急の帰還が、だ」
『…それはこの異常となにか関係が?』
「異常が…といえば異常がなのであろうが。かの魔神に使役されているものが、その目的にカルデアの排除をあげていた」
『!!』
「…そういえば」
―ルーが理由としてあげた言葉に、ロマニらが息を呑むのと忌々しげにヘクトールが呟いたのはほぼ同時だった。
確かに、ダーク凪子はその目的を、カルデアの排除、代弁者の抹殺、角ぐむことを阻むものの殲滅だと述べていた。最後の角ぐむが何を指すのかは凪子にも、藤丸たちにも分かっていないことではあったが、凪子には代弁者が己を指していたことに改めて気が付いていた。明確にカルデアの排除を目的としたということは、敵はカルデアを、“敵として”認識にしているということは明らかだ。
ルーは焦った様子を見せるロマニに目を細めた。
「アレが敵と見定めたのであれば、そう易々と見逃すことはないだろうよ。大体、貴様がそう判断しても強制的に帰還させなかった、というのであれば、レイシフトなる行程が正常に働いていないということだろう。アレに敵視されている状態で、そうした不安定な策を労することは危険だと助言をくれてやろう」
『…っ』
ロマニはルーの言葉に大きく目を見開き、悔しげに俯いた。レイシフトの最中はあまりに無防備になる、そのような危険な賭けに出るにはあまりにリスキーであることが分かってしまったのだろう。
ルーは小さくため息をつき、肩を竦めた。
「とはいえ、だからといって魔神を倒すことそれ自体に貴様らができることはない。貴様の配下は私に同盟を持ち掛けたが……司令塔がそういった方針ならば受ける道理はないな」
「!!光神ルーよ、」
「いいや、こちらとしては何がなんでもお前に助力する理由ができた」
「何?」
そう言って早々に腰をあげて話を終わらせようとしたルーだったが、凪子の言葉にぴたりとその動きを止めた。先に待ったをかけていたクー・フーリンも、凪子の言葉に驚いて凪子を見る。驚いたように凪子を見ているのは、藤丸とマシュも同じだった。
凪子は向けられる様々な視線に困ったような表情を浮かべたのち、ひらり、とあげた両手を振った。
「つまり何としてもお前に勝ってもらわないことには、ここにいるカルデアの面々の命はないということだ。残念だったなァルーよ、お前、とうに彼らの命の責任をおっかぶせられてたってことだ」
「…!」
「助力するしないで彼女たちの命の保証が揺れるのなら、私もここの問題は全部お前にひっかぶせて彼女たちを逃がすことに賛同するね。だがどちらにしても、お前が負けたら彼女らの命はないし、逃げられないことをお前が今お墨付きをつけちまった。だったらお前の戦いに“付き合うしかない”。お前の戦いを指くわえて見ているだけ………っていうのは、あまりに不安すぎるだろ?」
「………成程な」
ルーははじめは驚いたように凪子の言葉を聞いていたが、次第に納得したようで、忌々しげにそう呟いた。
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