スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

我が征く道は73

その日の夜。
「………んっ」
使い魔を町中に放ち、なにかに反応があるまでのんびりすごそう、と、ホテルの部屋のベッドでごろごろしながら、なんとなく酒をかっくらっていた凪子は、ぴくり、と反応して身体を起こした。
昨晩鶴の位置を探るのに使ったコンパスを床に放る。ころころ、と床に転がって止まったコンパスは、キィィ、と音をたてて中央の紋章が消え、ホログラム的に冬木市全域の地図を表示した。
点々と、ところどころに赤い光が点っている。おそらく鶴がいるところだろう。
「…、ん?あの少年の家か」
1つだけ、点滅している光があった。場所は衛宮邸だ。
下着姿でごろごろしていた凪子は、それを確認してベッドから降りた。手早く防寒に良さそうな洋服を着込み、コートと鞄を装備すし、ルーン飴を口に放り込む。
「さぁて、行きますか!」
あらかじめテープに作っておいた魔方陣を掌に貼り、点滅している光を握りしめる。
「我を導け白き鳥 汝の世界を私に寄越せ」
キィィ、と強い光が指の間から漏れ出、一瞬のうちに凪子を飲み込んだ。



 「よっと」
そうして凪子は、折り鶴の場所へと現れた。一枚の紙となったもと折り鶴を拾い、丁寧にたたんでポケットにしまう。
キョロキョロと辺りを見回すが、サーヴァントの気配はない。
「んー?確かに人為的な魔力変動があった………あ、」
おかしいな、とうろうろとしていると、士郎が玄関から出てきた。この前見かけたときはライダーに腕を貫かれていたが、どうやらその傷はすでに治っているようだ。
「(…あぁ、アヴァロンって治癒能力みたいのあったんだっけな、そういや)」
だが、彼はセイバーも連れておらず、何より起きている様子がない。
不思議に思い、じ、と目を凝らせば、なにやら魔力で編まれた糸が絡み付いている。
「おやおや、釣られてやんの」
士郎が寝ているらしいことをいいことに、凪子はそんな風に呟く。魔力の雰囲気からして、恐らく招いているのはキャスターだろう。
「まぁ、セイバーは最優のサーヴァントなんて言われるしね。厄介なものから潰していくタイプか。まさにそんな感じするわ」
そんなことを言いながら、凪子は50メートルほど距離をとって、士郎のあとを追跡することにした。

 深夜の町は、キャスターの技の効能が強まっているように感じる。ずいぶんと遠慮がないものだ。殺すまで吸いとらない分マシと思うべきか。
士郎はふらふらとした足取りで、柳洞寺へとたどり着いた。凪子の予想は当たったらしい。
「(…さすがに今回、アサシンは通してくれないだろうな)」
そう判断した凪子は一旦追跡をやめ、側面から柳洞寺に入ることにした。寺の結界は、凪子には効果がない。であるなら、ここはセオリー通り、こそこそと行くべきだろうと判断してのことだった。
「(よいせ、よいせ、と……)」
鬱蒼とした林のなかを通る。アサシンに気配が気取られないよう、慎重に音をあまりたてないようにして進むため、士郎とは距離ができてしまっただろう。
「(ま、いいか。セイバーがいつ気が付くか…って程度だしな。セイバーのマスターがどうなろうが正直どうでもいいし、っと)」
林のいりくんだ中を苦労しながら進むこと10分、ようやく凪子は寺の壁へと突き当たったを
「(よっ、と)」
ぴょん、と軽く跳躍して、塀の屋根に飛び乗る。
夜の寺は、それはそれは静かだった。キャスターの本拠地直下なのだ、寺の住民もさぞかし死んだように眠っていることだろう。
きょろきょろ、とその位置から士郎を探すと、キャスターと向かい合っているのが見えた。
キャスターにはルーン飴程度ではバレてしまうので、寺に隣接して生えている木の中から丈夫そうな一本を選び、そちらへと飛び移った。
そして、腰を落ち着けるところを決めると、その場所にも直接ルーンを刻み、観戦体勢に入った。

我が征く道は72

「(………としたら、あんなものを産み出そう、なんて思ってる奴を放置していいのか…)」
すぅ、と凪子は目を細めた。言峰は恐ろしい勢いで麻婆を平らげ、凪子よりも先に店を出ていった。残った麻婆をちまちま口に運びながら、そんなことを考える。
「(…、人理に介入するのは、嫌なんだけどなぁ…逆に、この思惑にすら気が付かない魔術協会大丈夫って感じだけど……)」
「冷めるぞ?」
「えっ、あっ、おっおぅ??」
自分はどうすべきなのか、っていうか魔術師ども気が付けよバカー、などと考えていると、不意に呆れたような声が上から降ってきた。話しかけられることがあるなどと思わなかった凪子は驚いたように声を主を見上げた。
「わぉ英雄王。何してんの中華料理屋で」
そこにいたのは、なぜかギルガメッシュだった。ギルガメッシュはつまらなそうに凪子を見ながら、なぜかその向かいに座った。
「何、言峰を見かけたついでに覗いてみれば貴様がいたからな」
「あら、お仲間なのにどこで何してるか把握してないの?」
「俺とあやつは仲間ではない。一々あれがどこにいるのかなど知らんし、興味もない」
ギルガメッシュはそういって足を組んだ。以前見たときと比べて表情はつまらなそうで、その物憂げな表情は美形に磨きをかけている。
「ふぅん。じゃ、そちらさんは何してたの」
勿論、凪子にはそんなことどうでもいいことなのであるが。
ギルガメッシュは肩をすくめた。
「聖杯戦争にろくな動きもないからな、退屈している」
「まぁ、まともにバトルやってんのランサーくらいだもんねぇ」
「た・い・く・つ・だ」
「?……え、あ、何、私に紛らわせろって?」
「また相手をせよと命じたであろう。我を興じさせるには足りないともな」
がっ、と、ギルガメッシュの手が凪子の顎をつかむ。凪子はもぐもぐと咀嚼を続けながら、困ったように眉間を寄せる。
「…、そう言われてもいつバトルがあるか分からんし」
「貴様の都合など知らん」
「どいひ」
「………、だがそうだな。それが気になって我の相手が出来んというのなら、明後日だ」
「明後日?木曜日?」
つい、とギルガメッシュの手が離れた。ぐい、とコップの水を飲み干してそう聞き返せば、ギルガメッシュはぼすん、と背もたれに体を預け、腕を組んだ。
「その日は何もない」
「なんで分かる………え、まさか千里眼持ち?」
「まぁな」
「うわずっるぅ…」
「わざわざ教えてやったのだ、くだらんものだったら許さんぞ」
「おお怖い」
ぱくり、と凪子は最後の麻婆を口に含んだ。ようやく食べ終わった。
「その辺はご心配なく、楽しめそうな方法は考えてあるよ」
「ほう?」
ごちそうさまでした、と、ぱちんと手を合わせる。ギルガメッシュは意外そうに凪子を見た。
「ついでに今日明日何があるか教えてもらえたりする?」
「たわけ、そこまで気前よくはないわ」
「残念。じゃあ木曜日、どこに行けば?」
「教会にくると面倒だな。…よし、新都の公園にこい」
「前回の決着場所?」
「そうだ。昼にいく、我が行くまでには準備を整えておけよ」
「ん、オッケー。たのしみにしといてね」
ギルガメッシュはそれだけ言うとさっさと店を出ていってしまった。
凪子も支払いを済ませ、店を出る。
「…っぁ〜辛かった……。まぁでも、ないとは言わなかったから、何かしら今日明日はあるんだろうな」
学校の結界は、基盤を壊されている様子はあるが発動しそうな気配はない。あそこはまだ動かないだろう。
「…、やっぱ寺張ってるのがいいのかなぁ?うーん、分からんのう」
凪子はごそごそ、と鞄を探った。中華料理屋、泰山に入る前に買っておいた、折り紙を取り出す。
「ま、だったら午後は使い魔折り鶴作って適当に散開させておいて、何かあるまで寝よう!厄日は寝るに限る!」
凪子はそういって、新都のホテルへと足を向けた。
<<prev next>>