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神域第三大戦 カオス・ジェネシス68

ダグザはちら、と凪子の顔を覗きこみ、また大きくため息をついた。茶目っ気が復活してきている。
「ま、そこまで言わせてしまってはのう。ただし、分かっとるとは思うが二つ目の提案だけだ。お主らの共闘の交渉をルーが了承するかどうかは保証せんし、二柱を助けられた借りはこれで貸し借りなしじゃ。情報がほしい、というなら話せる範囲でくれてやろう、全く」
「…!感謝する。ならすぐに移動といこうか、そろそろ結界展開がキツい」
「あぁ、構わん。人間のお嬢ちゃん、お主もそれでいいか?」
「えっ?あ、はい!」
不意に話を振られた藤丸は驚いたように裏返った声を出したが、すぐに了承の言葉を返した。だが実際、返す以外になかっただろう。
そんな様子を見ていたマーリンは楽しそうに目を細めた。
「ふふ。深遠なる内のもの、だったかな?」
「凪子だ。生憎と今の私には名前がある」
「凪子くん。いやぁ、君は中々カルデアのマスターを振り回しているね!豪胆さとかではなく、方針面でここまで振り回しているのは君が始めてではないかな?」
からからと笑うマーリンの声色はどこまでも楽しげで、嫌味かと受け取った凪子はその毒気のなさにげんなりしたように目を細めた。
藤丸に視線を向ければ、困ったように凪子とマーリンとを見合っていた。はぁ、と凪子は息を吐き出した。
「…他のサーヴァントがどうだったのかは知らんけど、一応私としては彼らの命の責任を背負ってる。無謀なことを咎めているだけだ」
「交渉は君が主導だったようだけれど?」
「そりゃあ当然じゃろう、お主らには悪いが、深遠のが口にするから耳を貸したのだ、一々人間に構ってやれるほど暇じゃありゃあせん」
交渉事などという大事を主導していたくせに?と暗に問うマーリンの言葉に答えを返したのは、タラニスとルーをそれぞれ片腕で抱えあげたダグザだった。ルーはまだ目を覚まさないようで片腕で姫抱きに、タラニスはまだ意識があるようだったので肩に乗せるように持ち上げ、タラニスがダグザの頭に手を回して安定をとっていた。
ダグザはそのまま軽々とした足取りで凪子達の元へ戻ってきた。
「まぁ、事前に打ち合わせをしていなかったのなら、お主の我が儘と言われても無理はないかもしれんがのう?深遠の」
「…いや。それに関してはしている暇はなかったから仕方ない。目の前でその相談をするのも間抜けな話だし、なにより交渉ってのは時勢が必要なものだ。見逃してしまうくらいなら多少、個人プレーがあっても仕方ないってもんだ、トゥアハ・デ・ダナーンの最高神よ」
「あぁ。それに、異論があるなら我らがマスターはちゃんと口を挟むさ。さっきこいつが一人でやると言い出した時みたいにな」
「あーら、乗じて怒られるかと思ったら優しいでやんの」
「てことはお前自分勝手にやってた自覚はあったのか??」
「てへぺろ」
「…ほう、偶々か。成程運気を寄せるというのは強ちまぐれではないのかもしれんな、人の子よ」
ダグザはやいのやいのとヘクトール、クー・フーリンと凪子がわちゃわちゃしているのを横目に、藤丸にそう言った。藤丸は一瞬たじろいだが、すぐにぐ、と拳を握りしめると真っ直ぐダグザを見上げた。
「…私は、私がやれることを、やるだけです。やるしか、ないから」
「ハ、謙虚は美徳とはよく言ったものだな」
臆せず言葉を返した藤丸にダグザは満足げに笑い、お前はちょっと黙ってなさい、とマーリンに釘を指してから、凪子を見て頷いた。
凪子もその動きに頷き返し、パン、と手を鳴らして固有結界を解いた。


―――


 「………はぁ、成程…?まぁ随分と………君は本当に…予想を裏切っていくよね……」
凪子の固有結界を解除した一行は、バロールの気配がしないか気を配りながら、リンドウの森へと足早に向かった。森の中央で凪子達の帰りを待っていたらしいリンドウは凪子を見るとほっ、と息をついたが、凪子達の後ろに姿を見せたダグザ達を見やいなや座っていた岩から転げ落ちてしまった。
森を出てからの経緯を凪子に説明されたリンドウは、頭を抱えつつもそうゆっくりと言葉を返したのだった。混乱と動揺が面白いほど伝わってきていた。
「お主、そんな気はしとったがまぁた相談せんかったな?」
はぁー、とダグザは呆れたようにため息をつく。さすがに凪子も悪いと思ったか、ぽりぽりと頬をかいた。
「いやぁ、リンドウの場合は先見で分かってるかなぁって…」
「いや、確かにとんでもない客人が来ることはわかっていた、分かっていたとも。だから森で待っていたわけだし…でもそれが、トゥアハ・デ・ダナーンの最高神と万能神、それに君が殺しにいったと言っていた神そのものが来るとはさすがにね、予想の範疇を越えてくるよ、君友達いないと思ったらどういう繋がり持ってるんだい??」
「HAHAHA。まぁ、因縁だよどちらかというと。それはさておき、そういう訳でルーとタラニスを助けたい。…泉をもらってもいいか?」
ふ、と真剣な空気を醸し出した凪子に、リンドウはすぐに柔らかく笑った。
「勿論構わないよ。君の頼みであることは勿論、光神は我が奉りし神だ、断る理由がない」
「…一応言うておくぞ、ドルイド。儂らに手を貸したと知れれば、バロールに目をつけられるかもしれぬぞ」
ダグザが、リンドウにそう声をかける。リンドウは少し驚いたようにダグザを見たのち、ふ、と笑ったまま自身の手を胸に当てた。
「もう終わる命です、どうぞお気遣いはされませぬよう、お頼み申し上げます。それに、私の友が囚われているとなれば、私も放ってはおけません。この森が、私の命が彼女を救うことに繋がるのであれば、厭うことなどありますでしょうか」
「…左様か」
ダグザは迷いのないリンドウの答えに小さくそう返すと、もう問いはしまい、というように小さく笑った。
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