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この街の太陽は沈まない78

「待てChaFSSの、無理を……ッ、ボス!?」
ランサーは廃墟に落ちていたとみられる鉄棒を持って女王蜂に襲いかかった。女王蜂は跳躍してそれをかわすと、素早く別の部屋へと飛び込んでいった。
それを追撃しようしたランサーを、同じ部屋から飛び出してきたもうひとつの影が引き止めた。ぎょっとしたような声にそちらを見れば、見覚えのある部下の顔。
「ラーマ。……何してんだ?」
「ぐっ……ぅ、」
「あん?」
なぜここでラーマが出てくるのか。見たところ大きな損傷はなさそうだが、無事ならばこんなところで何をしているのか。
それを問いただそうとした時に、勇ましく飛びかかっていったランサーが突然膝をつくものだから、オルタは思わずそちらを見た。
ここに来て、また訳のわからないことになってきた、と、内心ため息をつく。ランサーの方はここにきてようやくオルタに気がついたようで、ぎょっとしたようにオルタを見た。その鉄棒を向けられる前に、念のためにと持たされている拳銃を引き抜き、その額に向けた。
顔色は悪く見えるが、その目はぎらぎらと光っている。多少体調が優れないくらいでは引き下がらないということだろう。なら、きっと自分のことも見逃しはしないはずだ。
そう考えてのことだった。案の定ランサーは振り上げようとしていた腕を止め、苛立たしげにオルタを睨みあげた。
「……なんでUGFクリードのボスがこんなところに、げほっ、」
「ああ言わんこっちゃない…!」
「おい、説明しろ。おまえ、誘拐されてたろう」
「はっ、あ、あぁ!」
ラーマはオルタとプロトを交互に見てあわあわとしていたが、オルタのドスの効いた声に一瞬息をのみ、そしてすぐに落ち着きを取り戻した。
あまちゃんのように見えて、こういう切り替えの早さがある。それがオルタがラーマを幹部に据えている理由のひとつだ。
「まず、私と、あと彼も、例のアンプルを打たれて、それで拉致されたようだ」
「………よく生きてたな、運が良かったのか?」
話しながら、ちらり、と視線を女王蜂が消えた方に視線をやる。動く気配はない。どうやら、向こうもこちらの話に興味があるらしい。先の反応を見るに、この二人を拐ったのも雀蜂の仕業ではないようだ。
「…いや、どちらかというと、死なないように薄めたものを使ったのではないかと。現に、私も彼も、効果が抜けてはいない………」
「あぁ、なるほど」
「…私と彼は同じ部屋に監禁されていた。目隠しをされていたからどこかまでは…」
「……?ここじゃねぇのか」
「ここには…そうだな、10時間ほど前に移動させられた。少し前になぜか見張りがいなくなったから、拘束を解いてどうしたものか、と思っていたときに、あなたが飛び込んできた、というところだ」
「…てことは、やった野郎の顔は見てねぇ、ってことだな」
「………面目ない」
「ふむ、興味深いな」
「!?」
そこへ、不意に女王蜂が会話に入ってきた。やはり聞いていたらしい。ラーマは驚いたように声のした方を見、オルタも同様に視線をそちらにやった。
「なにがだ」
「何、ここはオレが隠れ家にしていた廃墟でな」
「何!?」
「………アンタが誰だかは知らねぇが、アンタの隠れ家にわざわざ運んできて、帰ってくる少し前に本人たちは逃げた、ってことは…」
ぽつり、とランサーが呟いた。くっく、と、喉の奥で笑うような声が聞こえる。
「オレもまた嵌められた、ということだな。今回の真犯人はよほど頭が回ると見える」
「真犯人だぁ?」
「………チッ。赤いアンプルをばらまいたのもそいつらの仕業、というわけか」
「?!」
「??どういうことだボス?」
状況をのみ込めていないらしい二人が思わず互いを見合っている。確かに、彼らがさらわれたことで今回の事件は大きく動いている、現状がわからなくて当然だろう。
「………ふむ。妙な事件だとは思っていたが…」
「一人納得してんじゃねぇぞ、女王蜂」
「女王蜂…!?つまり彼が、雀蜂の?!」
「スズメバチ?…アンタが言ってた組織か」
「……………オイ、話したのかてめぇ」
オルタはじとり、とラーマを睨み付けた。

この街の太陽は沈まない77


――
――――


「…………っはぁ、」
オルタは物陰に隠れ、首もとにしたたった汗をぬぐいながらそう息を吐き出した。
あれからどれほど戦闘を続けただろうか。女王蜂が本気を出し始めてからお互い熱が入りすぎた。あの特殊な弾はその後も何発か撃たれ、その度にいくつかは欠片が身体に刺さった。それらはすべて除去してはいるが、それについていたなにがしかのダメージがじわじわと蓄積されていた。
「…はあっ、しぶとい男だな……!」
少し離れたところから女王蜂が毒づいているのが聞こえる。疲労やダメージが蓄積しているのは相手も同じなようだ。
「(…にしてもここどこだ……)」
オルタは女王蜂のぼやきには耳もくれず、ふと思い出したように辺りを見回した。女王蜂との戦闘に伴い、最初に女王蜂と衝突したところからずいぶん移動したようだ。
「(…廃工場が近いな。特にヘクトールから連絡はねぇし、ま、あいつはあいつで計画通り進んでんだろ)」
ついでに携帯端末も確認するが、特にメールなり電話なり入っていなかった。いまヘクトールが相手取っているのは組織戦だ、それに関しては自分がおらずとも大方どうにかなろう。
オルタは携帯端末を懐にしまうと、隠れていた場所から勢いよく飛び出した。それを待っていたのだろう、すぐさま女王蜂は銃を撃ってきた。左に右に、三角を描くように不規則な動きをしてそれを避け、狙いがつけられる前に思い切り地面を蹴り、飛びかかる。
「ちぃっ!!」
女王蜂は盛大に舌打ちをして、オルタの攻撃を正面で受け止めた。その衝突の勢いを女王蜂は支えきれず、二人は揉んどりうって女王蜂の背後にあった空き家の中へと転がり込んだ。
「…っ」
「げほっ…全く、やってくれる」
空き家はずいぶん昔から廃墟となっていたらしい、埃まみれの室内に飛び込んだせいで、二人の周りにもうもうと埃が舞い上がった。オルタはそれに顔をしかめ、女王蜂も腹立たしげに身体についた埃を払った。
「………?」
拳を構え直したところで、ふ、とオルタはあることに気がついた。そしてそれは女王蜂も同じだったろうで、彼もいぶかしげに顔をしかめ、銃口の1つをオルタに向けたまま、きょろきょろと様子をうかがう仕草を見せた。
「………誰だ」
オルタの喉から低い声が漏れる。
そう、自分達以外に人の気配がするのだ。肝試しでもしにきた一般人でもいるのだろうか。通報されでもしたら面倒だ、もしそうであるならば排除せねばなるまい。
「……そこか!」
「!」
気配の居所を先に突き止めたのは女王蜂だった。女王蜂は迷うことなく反対の銃口をそちらに向け、数発、発砲した。わずかに驚きもしたが、どうやら見られて困るのは向こうも同じのようだ。
――わずかに沈黙がその場に流れる。

その直後。

「っ!?」
女王蜂が撃った、真っ暗な部屋から勢いよく影が飛び出してきた。それは迷うことなくまっすぐ女王蜂へと飛びかかる。女王蜂は咄嗟に後ろに跳躍してかわし、その影は二人のちょうど真ん中でぴたりとその動きを止めた。
「!!」
オルタはその影の正体を見て、わずかに目を見開いた。
わずかにぼさぼさしている青い髪に、嫌というほど見覚えのある制服。

――そういえばオルタ、プロトのこと覚えてるか?あいつ、念願かなってChaFSSのランサー枠に収まったみてぇだぜ。どっかで盛大に喧嘩する日が来るかもな?

頭によぎるのは、少し前に、情報屋をしている“兄弟”に言われた言葉。
「ChaFSS…!?」
驚いたのは女王蜂も同じなようで、その銃口はオルタに向けるべきか、飛び出てきたChaFSS隊員に向けるべきか一瞬迷った。
「そうだ!てめぇ、この街では私闘は原則禁止だ!!お縄につきなァ!!」
ChaFSS隊員――それは、ランサーだった。ランサーはそう言い切るなり、再び女王蜂へと飛びかかっていった。

この街の太陽は沈まない76

オルタは今までよりも激しく女王蜂を攻めた。洗いざらい吐いてもらうためにも殺すつもりはなかったが、5体を満足に残してやるつもりもなかった。
まどろっこしいことは嫌いだ。だがこの女王蜂は随分としぶとそうだ。多少痛みを与えた程度では口を割らないだろう。まぁ、一、二本腕やら足やらもいだところで、口が軽くなるともあまり思えないのではあるが。
「フッ――」
女王蜂はしずかに息を吐き出すと、勢いよく地面を蹴った。その動きを見て、ぼんやり思考していた頭を現実に叩き戻す。銃剣で攻撃してくる女王蜂の斬撃をメリケンサックで受け、流し、時折反撃する。なるほど、本気になったというだけはあるのか、先程よりも激しく攻めに転じている。
「ッ、」
首元を刃がかすめた。皮膚が切れることはなかったが、着ていたワイシャツの襟がすぱりと裂ける。オルタは楽しそうに表情を歪めると、女王蜂の顔めがけて勢いよく足を振り上げた。
女王蜂は横に顔をのけぞらせてかわし、オルタの膝裏めがけて銃剣を振り抜いた。オルタは素早く足を振り下ろし、女王蜂の銃剣を持つ手に踵を叩き落とした。
「チッ、」
女王蜂は腹立たしげに顔を歪めたが、銃剣を取りこぼすことはなかった。オルタは振り下ろした足を女王蜂の腕に引っ掻けると、その足の筋力だけで身体を持ち上げ、反対の足で女王蜂の胸元を思い切り蹴り飛ばした。
「っ、」
女王蜂はわずかに後ろへと下がり、オルタは蹴った反動で落ちた身体を、横にぐるりと回転させてうまいこと着地した。
女王蜂はその着地したオルタめがけ、引き金を引いた。弾は、なぜかオルタの足元に着弾する。
「?」
オルタは思わず、その銃弾を見下ろした。わざと外されたような気がする。
「――トレース、オン!」
「!?」
それは、女王蜂の罠だった。
女王蜂の言葉が合図だったのか、きらり、と銃弾が光ったかと思うと、その銃弾が爆発した。オルタは咄嗟に両腕で顔と胸元を庇ったが、銃弾の破片だろうか、小さな鉄片が身体の至るところに突き刺さった。
「言っただろう、本気を出すと」
ふふん、と、どこか得意気な空気さえ感じる声色が降ってくる。銃弾に毒でも塗ってあったのか、じくじくと妙な痛みかたをする。
オルタはちっ、と舌打ちすると、ポケットから小型ナイフを取り出し、腕に刺さった鉄片を回りの肉ごと抉りとった。
「ほう?」
女王蜂は意外そうに、だが感心したようにオルタを見た。
鉄片が小さいお陰で、抉ったところで大した傷ではない。オルタは同じ要領で手早く全ての鉄片を取り除いた。その間も女王蜂は攻撃してきていたが、ところどころで隠れながら除去作業を行った。
「(……ま、この程度なら大丈夫だろ)」
傷口の様子を見、べろりと舐めて腕を降る。じくじく痛みはするが、大したことではないだろう。何よりあれは鉄の弾だ。そう多く毒を含ませることはできないだろう。
オルタは銃撃の合間をぬって、隠れていた場所から勢いよく飛び出した。ついでに、懐からもうひとつの武器を取り出す。
ぴたり、と銃口を自分に向けた女王蜂に向けて、オルタは抜き取ったばかりのそれを思い切り投げつけた。
「っ!?」
オルタが投げつけたのは、槍の穂先のようなデザインの刃だ。オルタの武器はメリケンサックだけでなく、実は槍を使うこともあった。最も、最近はメリケンサックが切れたときに使うくらいで滅多に使うことはないので、部下であっても知っている人間は限られるだろう。
オルタはその槍の、まさに穂先だけを投擲武器として使ったのだ。手榴弾などではなく刃を投げてくるとは思わなかったのか、女王蜂はわずかに驚いたようにそれを見、あわてて避けた。その際に身体のバランスが大きく崩れる。
オルタはそれめがけて勢いよく飛びかかった。だが女王蜂も器用にその攻撃を受け止め、巴投げの要領でオルタを蹴り飛ばした。

この街の太陽は沈まない75




「―クァァァァァアッ!!」
―――オルタは咆哮しながらメリケンサックを叩きつける。男―雀蜂のボスは女王蜂というそうなので、女王蜂と呼ぶことにしよう―女王蜂は、紙一重でそれをかわしていく。ギリギリオルタの方が速いのか、時折女王蜂の身体を刃がかすめていく。
「ちぃ、今日は狂暴な連中とよく会うな!」
女王蜂はそう毒づきながら、すばやく後ろへと後退しつつ、壁を蹴って跳躍し、オルタの頭上を越えていく。オルタはそれを目で追いつつ身体を捻り、自分の攻撃で誕生した瓦礫を蹴りあげ、まるでバッターがボールを撃つかのごとく、メリケンサックの刃でその瓦礫を打ち、振り抜いた。
「!」
女王蜂は上体を仰け反らせ、それを間一髪避けた。そのまま男は手をつくと足を振り上げ、くるりと回って立ち直した。
そして起き上がると同時に銃口をオルタに向け、発砲した。オルタはその攻撃を予測していたので別の瓦礫を放り投げ、盾のかわりにした。そしてその盾が機能している間に大きく遠回りをして走りながら、女王蜂との距離を一気に詰めた。
「オラァ!」
オルタはそのまま息をつくまもなく拳を腰にかまえ、正拳突きの構えで拳を振り抜いた。メリケンサックは男の顔を掠め、壁へと叩きたけられた。
女王蜂はすぐ側で破壊されたことにより生じた衝撃波に目を細めながら、銃剣の剣でオルタへと斬りかかった。
オルタは片方の銃剣は反対の手のメリケンサックで受け止め、もう片方の攻撃は後ろへ跳躍してかわした。女王蜂はそんなオルタを追撃するようにすばやく発砲するが、それをオルタは素早く横にとんでギリギリでかわしていく。
オルタは銃撃が追ってくるのを走って避けながら曲がり角で物陰へと転がり込んだ。
「…チッ」
女王蜂は、オルタをあぶり出すようにガンガンと角を遠慮なく撃ってくる。耳障りな音にオルタは舌打ちをしながら、ちらり、と腕時計を見下ろした。
そう長く戦闘していたつもりはなかったが、すでに五時間近くたっていたらしい。それほど戦いに自分が集中していたことに驚きつつも、道理で息が上がってきたはずだとずいぶん他人事のように納得をする。
長時間の戦闘で刃こぼれしていたらしい、メリケンサックの刃をスペアのものに変え、ぐ、と拳をつくってちゃんと固定されているのを確かめる。相変わらず撃たれ続けているところを見て、撃ちながら女王蜂がじわじわ近付いてきていることをわずかに聞こえる音から察する。
「!」
オルタは懐から手榴弾を取り出すとピンを引き抜き、女王蜂がいるだろうと薄々目安をつけた位置めがけてそれを放り投げた。目安はドンピシャだったのだろう、一瞬銃撃が止み、オルタはその隙に飛び出した。
「貴様、」
女王蜂は驚いたようにオルタを見た。自分が手榴弾を投げた、その着地点に飛び出してくるとは思わなかったのだろう。
その驚きで、一瞬女王蜂の反応が遅れる。オルタはその隙をついて思い切り女王蜂を蹴り飛ばし、降ってきた手榴弾はさらに上空へと弾き飛ばした。
「言っただろう、腹の中身すべて見せてもらうとな。そう楽に死なせやしねぇよ」
上空で手榴弾がはぜ、欠片や火花がぱらぱらと落ちてくるなか、オルタはニヤリと笑ってそう言った。蹴り飛ばされた衝撃で地面を転がったのだろう、えぐれた地面に尻餅をつく形で身体を起こしていた女王蜂は、しかし、オルタの言葉に笑みで返してきた。
「フン、いってくれる」
女王蜂はさしてダメージを受けていないのか、軽々と身体を起こし、マガジンを装填し直す。今までの戦闘で交換していたマガジンとは、少しことなるようにも見えた。
「このまま貴様に拘束されてやるわけにもいかないのでね。本気でいくとしよう」
「あ?今までも本気だったろうが」
「本気なものか。奥の手はそう易々と見せるものではないからな。おっと、貴様はそういったものすら持たない主義が?それは失礼した」
「……は、口は達者だな。なら、多少乱雑にしても壊れねぇな―!」
いちいち嫌みが多いやつだ、と思いながらオルタは勢いよく地面を蹴った。
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この街の太陽は沈まない74

「人手不足か。まぁ、足りちゃあいねぇかもな、どこぞの誰かのおかげでよ」
「………あぁ、そういえば。お前たちは雀蜂があの…赤いアンプルだったか?の、散布者だと考えているそうじゃあないか」
「ハッ。そういう口ぶりであるところを見ると、やはり違うか」
「なんだと?」
男はオルタの言葉に拍子抜けしたようにぽかんとした表情を浮かべ、すっとんきょうな声をあげた。存外、この雀蜂のボスは意図せぬ感情が顔に出るらしい。
ハッ、と、嘲笑うように笑い返してやると、男ははっと我に帰ったようで、むっすりとした表情を浮かべ、オルタを睨んだ。その手は太もものホルスターのところにあるので、撃たれては面倒だとオルタもさりげなく背中に手を回す。
「…で、UGFクリードの親玉ともあろう人間が、こんなところで何をしているのかね」
「オレに喧嘩を売ってきたところの親玉が一人呑気にしているから殺しに来た」
「!」
さらり、と。
宣戦布告を平然と言ってのけたオルタに、再び男は目を見開く。そしてすぐに声をあげて笑った。
「親玉?オレがか?」
「テメェのことは報告で聞いたことがねぇ、親玉の話も報告で聞いたことがねぇ、そしてテメェはさっき部下に指示をしていた、ならテメェが親玉だろうが」
「ふん、滅茶苦茶な論理だな」
「そうでもなけりゃ、オレの顔を見ただけですぐに皮肉なんざ飛ばしてくるかよ」
「………………」
男は無言でオルタを見、こほん、と咳払いをした。そうして彼が顔をあげたときには、まるで感情が読めない表情になっていた。先程の咳払いは、いい加減自分の言葉に振り回されるのを自身に叱責するためのものだったのだろうか。
オルタは気にせず、足を踏み出した。直ぐ様男は銃を引き抜き、オルタにぴたりと向ける。ビリーはでざーとなんちゃらだの威力が危険だの言っていたが、オルタは気にもとめずにさらに一歩踏み込む。
「…貴様を殺す前にひとつ聞かせろ。やはり違うとはどういうことだ?貴様たちは今日、オレたちを始末するために動くのだろう?」
「へぇ?まだ漏れてやがんのか。まぁそんなことはどうでもいい」
「何?きさま、」

「ヘクトールは3割はテメェらの仕業じゃねぇと言った。なら今回はその3割だったんだろうよ。なぜ外れたのかなぞ興味はないし、謎解きをするつもりもない。そんなことはどうでもいい」

オルタはさらに一歩踏み込む。まもなくオルタの間合いに入る。
男は迷いなく引き金に指をかけ銃を撃った。

「だから、その腹の中身、全部出せ。それで終いだ」

「―!」
オルタは男が発砲するタイミングにあわせ、ぐっ、と低く身体を落とした。それと同時に背中に隠していた自分の主武器―巨大な鉤爪のような、メリケンサック―を装備した右手を腰にかまえ、男の足元めがけて全力で振り下ろした。
「なっ―!?」
ぎりぎりでかわした男は驚愕の声を漏らす。オルタは地面に突き刺さったメリケンサックを乱暴に引き抜いた。ドゴォ、と大きな音がして、一メートル四方ほどの石塊が吹き飛んだ。
「どうにも赤いアンプルはテメェじゃねぇみてぇだな。だがテメェがオレに喧嘩を売ったことには違いねぇ。その落とし前はつけてもらう」
「赤いアンプルよりも報復の方が大事なのか?はっ、呆れたトップだな」
「そっちはテメェのお陰で目星がついたからな。オレがわざわざ探る必要はねぇ」
「………ほう、それは興味深いな。オレとて、してもいない犯罪の濡れ衣を被せられるのはごめんでね。その目星、教えてもらいたいところだな」
オルタは、左手にも同様のメリケンサックを装備し、ひゅっ、と腕を振った。風圧で先程の破壊でできた、小さな欠片が宙を舞う。
「寝言は寝て言え」
「その言葉、そのまま返そうか、狂った王とやら―!」
二人の挑発の言葉を合図に、二人は衝突した。
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