2017-9-26 23:59
「人手不足か。まぁ、足りちゃあいねぇかもな、どこぞの誰かのおかげでよ」
「………あぁ、そういえば。お前たちは雀蜂があの…赤いアンプルだったか?の、散布者だと考えているそうじゃあないか」
「ハッ。そういう口ぶりであるところを見ると、やはり違うか」
「なんだと?」
男はオルタの言葉に拍子抜けしたようにぽかんとした表情を浮かべ、すっとんきょうな声をあげた。存外、この雀蜂のボスは意図せぬ感情が顔に出るらしい。
ハッ、と、嘲笑うように笑い返してやると、男ははっと我に帰ったようで、むっすりとした表情を浮かべ、オルタを睨んだ。その手は太もものホルスターのところにあるので、撃たれては面倒だとオルタもさりげなく背中に手を回す。
「…で、UGFクリードの親玉ともあろう人間が、こんなところで何をしているのかね」
「オレに喧嘩を売ってきたところの親玉が一人呑気にしているから殺しに来た」
「!」
さらり、と。
宣戦布告を平然と言ってのけたオルタに、再び男は目を見開く。そしてすぐに声をあげて笑った。
「親玉?オレがか?」
「テメェのことは報告で聞いたことがねぇ、親玉の話も報告で聞いたことがねぇ、そしてテメェはさっき部下に指示をしていた、ならテメェが親玉だろうが」
「ふん、滅茶苦茶な論理だな」
「そうでもなけりゃ、オレの顔を見ただけですぐに皮肉なんざ飛ばしてくるかよ」
「………………」
男は無言でオルタを見、こほん、と咳払いをした。そうして彼が顔をあげたときには、まるで感情が読めない表情になっていた。先程の咳払いは、いい加減自分の言葉に振り回されるのを自身に叱責するためのものだったのだろうか。
オルタは気にせず、足を踏み出した。直ぐ様男は銃を引き抜き、オルタにぴたりと向ける。ビリーはでざーとなんちゃらだの威力が危険だの言っていたが、オルタは気にもとめずにさらに一歩踏み込む。
「…貴様を殺す前にひとつ聞かせろ。やはり違うとはどういうことだ?貴様たちは今日、オレたちを始末するために動くのだろう?」
「へぇ?まだ漏れてやがんのか。まぁそんなことはどうでもいい」
「何?きさま、」
「ヘクトールは3割はテメェらの仕業じゃねぇと言った。なら今回はその3割だったんだろうよ。なぜ外れたのかなぞ興味はないし、謎解きをするつもりもない。そんなことはどうでもいい」
オルタはさらに一歩踏み込む。まもなくオルタの間合いに入る。
男は迷いなく引き金に指をかけ銃を撃った。
「だから、その腹の中身、全部出せ。それで終いだ」
「―!」
オルタは男が発砲するタイミングにあわせ、ぐっ、と低く身体を落とした。それと同時に背中に隠していた自分の主武器―巨大な鉤爪のような、メリケンサック―を装備した右手を腰にかまえ、男の足元めがけて全力で振り下ろした。
「なっ―!?」
ぎりぎりでかわした男は驚愕の声を漏らす。オルタは地面に突き刺さったメリケンサックを乱暴に引き抜いた。ドゴォ、と大きな音がして、一メートル四方ほどの石塊が吹き飛んだ。
「どうにも赤いアンプルはテメェじゃねぇみてぇだな。だがテメェがオレに喧嘩を売ったことには違いねぇ。その落とし前はつけてもらう」
「赤いアンプルよりも報復の方が大事なのか?はっ、呆れたトップだな」
「そっちはテメェのお陰で目星がついたからな。オレがわざわざ探る必要はねぇ」
「………ほう、それは興味深いな。オレとて、してもいない犯罪の濡れ衣を被せられるのはごめんでね。その目星、教えてもらいたいところだな」
オルタは、左手にも同様のメリケンサックを装備し、ひゅっ、と腕を振った。風圧で先程の破壊でできた、小さな欠片が宙を舞う。
「寝言は寝て言え」
「その言葉、そのまま返そうか、狂った王とやら―!」
二人の挑発の言葉を合図に、二人は衝突した。