2016-12-25 22:52
「………………」
凪子の顔から表情が消え失せる。そして、ふっ、と目を細めた。
その表情のあまりの冷たさに、ギルガメッシュはわずかに目を見開いた。
こうした表情を、かつてよく見たのを覚えている。
「…ほぉ。貴様でもそういう顔ができるのだな」
「え?あ、は、何?そんな変な顔してた?」
思わずそう言えば、ぱっ、と凪子は普段の、無害そうな、どこにでもありそうな普遍的な、ぽかんとした表情に戻った。
無意識だったらしいそれに、ギルガメッシュはにやと笑い、腕を組んだ。
「神々が浮かべるような顔をしていた。自らに関与してきた不敬に、傲慢にも怒りを覚える顔だ」
「………マジ?うわ〜、マジで?やぁっだっもぉ〜神様と大喧嘩した人に言われるとガチでキッッツ」
「親子喧嘩のようなノリで言うでないわ」
ギルガメッシュの、神のようであったという言葉に、凪子は露骨に表情をしかめ、頭を抱えた。神殺しをしただけはあるのか、神のようだと言われるのは不快であるらしい。
その実力も、身体も、強大であり不滅であるというのなら、そしてその在り方をもつのであるなら、信仰さえあれば生き続ける神と似たようなものではないか。
ギルガメッシュはそう思わないでもなかったのだが、指摘したところで意味もないし、そのようなことをするのも、また凪子を神のようだと口にするのも、どうにも性に合わない。
なので、特にそれ以上は言わないことにした。その代わり、頭を抱えて座り込んだ凪子を蹴り飛ばす。
「で、今度は何事だ」
「うっわ蹴ったよこの人。あー…汚染するだけじゃ飽きたらず、私の魔力を使ってなんかこの世界に召喚したっぽい。勝手に人のもん使いやがって!人の金で焼き肉は食いたいが食わせるのはごめんだ!!」
「何を言っとるんだ貴様は」
そろそろ突っ込みをするのにも飽きてきた。そんな風にうんざりした顔を浮かべたギルガメッシュに、凪子は外に出るように促した。
凪子とギルガメッシュが神殿の上部から外に出ると、遠く離れたところで、あれは海沿いの辺りだろうか、赤い巨人が辺りを蹂躙している様子が見えた。
「おーおー。“ここは破壊していい”という思い込みがあるから好き勝手やってくれる。人間らしいねぇ。ふははまるでナチスのようだ」
「放っておいていいのか?あれはその内貴様の霊基にも影響を及ぼすだろう」
「まぁね。でもね、英雄王。この世界が固有結界としては異例なのはすでに知っているでしょう?で、あるなら、その在り方も異様なんだよ」
「…」
「設定があって、初めてこの世界は意味を持つ。色を持つ。時を持つ。…命を、持つ。命を持ったが最後、停止しない限り、“彼ら”は私の記憶の範疇を越えていく。それはとても、人間らしく、生物らしく」
「……。……、!」
ずず、と地響きが響き、大地が揺れる。それに辺りを見渡せば、大地から様々な何かが吹き出るように姿を見せた。
白い竜のようなもの。猿のようなもの。鳥のようなもの。
先ほど倒した獣を巨大にしたようなもの。巨人のようなもの。蜘蛛のようなもの。
そして取り分け目立つのが、南の方から姿を見せた黒い固まりのような生物と、海から姿を見せた青い巨人。
「生命体は、たとえ敵対していたものでも、自らを滅ぼしかねない共通の脅威があると団結する。あの青い巨人はお前さんの味方側、黒いのはラスボスだ」
「我の味方になりうるものどもと、我の敵であるものどもが集結したと?」
「そら、そこを見てごらん」
「!」
凪子の言葉にギルガメッシュが神殿の入り口を見下ろせば、キレイが走っていくのが見えた。
「あれは私の世界を犯すもの。つまり、世界を破壊するものだ。彼も世界を守るために自らができることをしに行った」
「…ずいぶんとまぁ……」
「面白かろ?…まぁでも、逆を言えば、共通の脅威が現れない限り、人間は絶対に団結できない、ともいえるんだけどね」
そう言う凪子の表情は、どこか達観したような、遠くを見るような目をしていた。