2017-5-30 22:42
「(なんだあれ...鍵?)」
「これは貴様程度に使うようなものではないが、我もそう貴様程度に割いている時間はないのでな」
ギルガメッシュはそう言いながら、手に持ったそれを中空に差し出し、ぐるり、と半回転させた。
直後、魔術回路のような赤い線が上空へと立ち上ぼり、展開した。
「(...!?アレからあいつがさっきまで展開してた倉の扉と同じものを感じる。そんで魔力量はいっきに増大してる...まさか、鍵か?)」
何が出てくるのか全く予想がつかないために、凪子は腰を低く落とし、いつでも動けるように構えた。
上空に広く広がっていった魔術回路は一定の範囲まで広がるとその動きを止め、そうしてまたギルガメッシュの手元に収束していった。回路がなにかを編み上げ、それが剣のようななにかをギルガメッシュの手に形作った。
金色の柄に、黒い地に赤い色で模様の刻まれた筒のようなものが、三連につらなった形をしていた。剣というには、物理的に切り刻めそうな形ではない。鈍器というには、ギルガメッシュが鍵までつけてしまいこんでいるというのが妙だ。
「起きよ、エア」
凛、とした静かな声が、音の消えた森に響き渡った。
直後、3つの筒がそれぞれ互い違いになるように回転を始め、とてつもない速さで魔力を貯め始めた。
充填されていく魔力量は、並大抵の宝具の比ではない。凪子は思い当たった可能性に、はっ、と目を見開いた。
「!!その魔力量...対城宝具、何てレベルじゃないな。対界宝具か!?」
「ほう、さすが理解だけは早いな、誉めてやろう。貴様は人ではない、対城宝具であろうと容易く生き残るだろう。であるなら、最大の力をもって貴様を葬ってやろう」
「そんなものこんな街の近くで...。......ああそういうことかい...!」
森のなかとはいえ、町までの距離はそう離れていないこの場所で対界宝具など撃たれたら、背後にある冬木の町は簡単に巻き込まれ、消滅するだろう。
それを指摘しようとしたところで、凪子はギルガメッシュの言葉を思いだし、忌々しげに毒づいた。
ニタリ、とした嫌らしい笑みをギルガメッシュは浮かべる。
「避けても構わんぞ?貴様は瞬間移動ができるようであるからな。精々、背後の町が火の海とかすだけであろうよ」
「......ッ」
「時間はやらん」
ギルガメッシュはそう言うなり、持っていたそれを凪子に向けて降り下ろした。
「エヌマ―――エリシュ!!」
真名解放。
同時に、大地を、そして空をも裂く攻撃が、勢いよく凪子に迫ってきた。
「チッ!!」
―凪子には、ルーの槍、固有結界、そしてそれ以外にもうひとつ、宝具がある。それを展開すればたとえ対界宝具であろうと防いでみせる自信が凪子にはあったが、今それを展開するだけの余裕はもはやない。
だが。
対界宝具ならばすぐ出せる。
「―――ザ・ラスト」
凪子の詠唱と共に、手のなかにあった槍がその姿を変える。金属味のあるフォルムをしていたそれは、凪子の手元からメキメキと音をたてて、木製の杖に変わっていく。
「詠唱省略、ルーン応用、 Time Set」
それと同じくして、凪子は後方に手にしていたルーン石を全て放り、時間を止めた壁を広範囲に展開する。対界宝具となると防げないが、物理的な衝撃波程度なら止められる。
「ン......?」
ギルガメッシュは凪子の行動にわずかに眉間を寄せたが、それもまた遅かった。
対界宝具を防ぐためには。
こちらもまた対界宝具をぶつけてやればいい。
当事者である両者の身と、周囲への被害は免れないが。
凪子は完全に形をかえた杖状の槍を、からだの前で両手で持った。
「…これは森一番のイチイの木。
―ケルトハル・ルイン 」
そして静かに、その真名を解放した。