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我が征く道は188

「(なんだあれ...鍵?)」
「これは貴様程度に使うようなものではないが、我もそう貴様程度に割いている時間はないのでな」
ギルガメッシュはそう言いながら、手に持ったそれを中空に差し出し、ぐるり、と半回転させた。
直後、魔術回路のような赤い線が上空へと立ち上ぼり、展開した。
「(...!?アレからあいつがさっきまで展開してた倉の扉と同じものを感じる。そんで魔力量はいっきに増大してる...まさか、鍵か?)」
何が出てくるのか全く予想がつかないために、凪子は腰を低く落とし、いつでも動けるように構えた。
上空に広く広がっていった魔術回路は一定の範囲まで広がるとその動きを止め、そうしてまたギルガメッシュの手元に収束していった。回路がなにかを編み上げ、それが剣のようななにかをギルガメッシュの手に形作った。
金色の柄に、黒い地に赤い色で模様の刻まれた筒のようなものが、三連につらなった形をしていた。剣というには、物理的に切り刻めそうな形ではない。鈍器というには、ギルガメッシュが鍵までつけてしまいこんでいるというのが妙だ。

「起きよ、エア」

凛、とした静かな声が、音の消えた森に響き渡った。
直後、3つの筒がそれぞれ互い違いになるように回転を始め、とてつもない速さで魔力を貯め始めた。
充填されていく魔力量は、並大抵の宝具の比ではない。凪子は思い当たった可能性に、はっ、と目を見開いた。
「!!その魔力量...対城宝具、何てレベルじゃないな。対界宝具か!?」
「ほう、さすが理解だけは早いな、誉めてやろう。貴様は人ではない、対城宝具であろうと容易く生き残るだろう。であるなら、最大の力をもって貴様を葬ってやろう」
「そんなものこんな街の近くで...。......ああそういうことかい...!」
森のなかとはいえ、町までの距離はそう離れていないこの場所で対界宝具など撃たれたら、背後にある冬木の町は簡単に巻き込まれ、消滅するだろう。
それを指摘しようとしたところで、凪子はギルガメッシュの言葉を思いだし、忌々しげに毒づいた。
ニタリ、とした嫌らしい笑みをギルガメッシュは浮かべる。
「避けても構わんぞ?貴様は瞬間移動ができるようであるからな。精々、背後の町が火の海とかすだけであろうよ」
「......ッ」
「時間はやらん」
ギルガメッシュはそう言うなり、持っていたそれを凪子に向けて降り下ろした。

「エヌマ―――エリシュ!!」

真名解放。
同時に、大地を、そして空をも裂く攻撃が、勢いよく凪子に迫ってきた。
「チッ!!」

―凪子には、ルーの槍、固有結界、そしてそれ以外にもうひとつ、宝具がある。それを展開すればたとえ対界宝具であろうと防いでみせる自信が凪子にはあったが、今それを展開するだけの余裕はもはやない。

だが。

対界宝具ならばすぐ出せる。


「―――ザ・ラスト」
凪子の詠唱と共に、手のなかにあった槍がその姿を変える。金属味のあるフォルムをしていたそれは、凪子の手元からメキメキと音をたてて、木製の杖に変わっていく。
「詠唱省略、ルーン応用、 Time Set」
それと同じくして、凪子は後方に手にしていたルーン石を全て放り、時間を止めた壁を広範囲に展開する。対界宝具となると防げないが、物理的な衝撃波程度なら止められる。
「ン......?」
ギルガメッシュは凪子の行動にわずかに眉間を寄せたが、それもまた遅かった。

対界宝具を防ぐためには。
こちらもまた対界宝具をぶつけてやればいい。
当事者である両者の身と、周囲への被害は免れないが。

凪子は完全に形をかえた杖状の槍を、からだの前で両手で持った。

「…これは森一番のイチイの木。
  ―ケルトハル・ルイン   」

そして静かに、その真名を解放した。

我が征く道は187

――ギルガメッシュまでの距離、残り20メートルほど。

凪子は弾き損ねた武器で裂かれた身体の傷を即座に治癒しながら、勢いよく地面を踏み込む。
ギルガメッシュはガンガン距離を詰めてくる凪子に焦ることなく、淡々と扉を展開しひたすら雨のように攻撃を降らせてくる。だが、選び出される武器は、先程からその質量が大きいものになっているように思われた。
「(…………ッ)」
ひときわ巨大な斧を弾いたとき、びりりと腕がしびれた。下手な鉄砲数打ちゃ当たるから、レベルをあげて物理で殴る戦法も加えてきたらしい。確かに質量の大きい武器を弾くときの方が、槍を回す腕への負担は大きい。
「(…、このまま突っ込んでも、ギルガメッシュの間合いまで、腕もたないな)」
凪子は即座にそう判断すると、その場で足を止めた。変わらず槍を回転させながら武器を弾きつつ、足元にルーン石をいくつか転がし落とす。
そうして凪子は、ダン、とその石を勢いよく踏みつけた。
「蜜を溢せし赤い花 土に帰りし乾き花弁
 鳥は天上駆け巡り 孔雀の羽は地に堕ちる!
 Time alter――Out vision!!」
四節の詠唱と、二節のキーワード。
凪子の魔術によりルーン石から魔法陣が展開し、ギルガメッシュと凪子の間、その範囲の武器の動きがピタリ、と止まった。
新たに放った武器もピタリと止まってしまったのを見て、ギルガメッシュは、チッ、と小さく舌打ちする。
「空間を固定するとは猪口才な」
「なんとでも」
凪子はそう返すと再び勢いよく地面を蹴った。空中に幾多もある武器の間を縫うように走りながら、一気にギルガメッシュとの距離を詰める。

残り、10メートル。

「フン」
ギルガメッシュは手元に扉を展開し、そこからスッと差し出された剣の柄を掴み、引き抜いた。そのままそれをぐるりと回して構え、間合いに飛び込んできた凪子の槍をそれで受け止めた。
ガァン、と鈍い音が辺りに響き渡り、ギチギチと鈍い音をたてて鍔競り合う。凪子の槍を受けて壊れない辺り、それなりにランクの高い武器であるらしい。
「アーチャーなら、弓でも使ったらどうさね!」
「ハッ、吠えよるわ!」
一度、二度、三度、四度。
互いに振り上げる武器がぶつかり合い、火花を散らす。鉄砲玉のように武器を飛ばしているばかりのギルガメッシュであったが、肉弾戦もそれなりに心得があるらしい。凪子の殺すつもりの攻撃を、余裕をもって弾いてくる。
凪子は自分の間合いをキープしたまま、ギルガメッシュの心臓や喉、鳩尾などの急所をめがけて的確に槍を突きだす。ギルガメッシュはそれを軽々といなしながら踏み込み、凪子を自分の間合いに引き込むとその首めがけて横振りに剣を振り抜いた。
凪子は首をのけぞらせ、その攻撃をかわす。その仰け反りの勢いのまま凪子はバック転し、回す足でギルガメッシュの剣を彼の手から弾き飛ばした。
「――――!」
ピクリ、とギルガメッシュの額に青筋が浮かぶ。凪子はギルガメッシュが次の武器を取り出すよりも早く、着地した低い位置から急所めがけて槍を突きだした。
ギルガメッシュは後方に向けて跳躍することでその攻撃を交わし、蹴られた手首をぶるぶる、と小さく振った。距離を開けられたので、再び空間固定の魔術を使えるように凪子は槍を持っていない左手の指の間に、ルーン石を挟み、構えた。
「――――フン、よかろう。不死の化け物、単純な数では潰れぬらしい」
「!」
ギルガメッシュはそう言うと、固定されて止まっていた武器を全て消し、手元に武器とも塊ともつかぬ、謎の物体を取り出した。

我が征く道は186

「…間引くってお前」
近くの木々が全てギルガメッシュの攻撃で折られてしまったので、凪子はそれら避けながらギルガメッシュの正面に出た。否、引きずり出された。
表情が引き締まった凪子に、ハッ、とギルガメッシュは嘲笑うように笑う。
「この世には不要な人間が多すぎる。であるならば、まずは間引かねばであろう?」
「…お前、死人の分際でまた王様になろうってか?」
「今の我は生身を得ている。であるならば、王としての務めを果たすべきであろう」
「…………お前、本当にギルガメッシュか?」
「何?」
ギルガメッシュの言葉に少し黙った後、疑うように口にした凪子に、ギルガメッシュは眉間を寄せた。
凪子はじろり、とギルガメッシュを見据え、くるくると槍を回す。
「お前に会ってからとりあえずこの国にあったギルガメッシュ叙事詩は読んだんだよ。よく覚えてなかったからな。…サーヴァントは全盛期で召喚されるとはいえ……今のお前、親友を失う前の暴君時代よりクソな事言ってる自覚、あるか?」
「…………」
スッ、とギルガメッシュの顔から表情から消える。先程までの余裕げで、嘲笑うような態度だったものが、殺意を隠さないものになる。
凪子は遠慮のない殺意を浴びながらも、臆することなく笑みを浮かべた。
「今のお前に、王としての資質なんざ感じん。理性は保っているみたいだけど…お前、あの泥におかされて少なからず変質してるぞ」
「………ハッ、何をいうかと思えば。我があの程度の泥に犯されなぞするものか。貴様が精々一部しか残っていない書物なんぞから勝手に抱いた印象を、我に期待するのが間違いというものよ」
「…ま、自覚ないならとやかく言うつもりはないけどさ。しかしそうか、人間の間引きか…お前の口調からして、全世界やるつもりみたいだしな」
「人でない身でありながら人間のなかで生きる貴様には、傍観できるようなことではないであろう?」
「まぁ…否定はできないね」
「で、あるならば」
―ズゥン、と低い音をたてて、幾数もの扉が口を開く。その扉から、大小様々な武器が顔を覗かせる。
「貴様にはここで消えてもらわねばな。何、跡形もなく消してしまえば、不死のその身も消滅するであろうよ」
「どうかなぁ。死の概念がこの身にはどうやらないみたいだし」
「ないと確定はしていないのであろう。ならば試してみるまでよ」
「………ッ」
ギルガメッシュはそう言うと同時にあげていた手を凪子めがけて振り下ろし、扉からは一切に武器が射出された。
「(…正規の参加者じゃあないんだ。私を殺すつもりなら――ここで殺すか)」
凪子はすぅ、と目を細めると、勢いよく地面を蹴った。

――槍を身体の前で回転させ、正面から襲い掛かってくる武器をことごとく弾く。ランクの高い武器であれど、凪子の槍は神造兵器、同じ神造兵器相当でなければ傷1つつかない。
凪子は勝負をつけるつもりで、ギルガメッシュに向かって迷いなく一直線に駆ける。
「フン」
くんっ、とギルガメッシュが手首を曲げる。直後、弾かれて後方に突き刺さった武器たちが浮かび上がり、背後から凪子に迫った。
凪子はそれをちらりと見て確認すると、上着のポケットから取り出したルーン石を後ろにぽいと放った。石は地面に落ち、それを基点として模様を描く。それぞれが陣を作り上げると、その陣から魔力で編まれた盾がはえそびえ、ギルガメッシュの攻撃を弾いた。

我が征く道は185

しばらく廃屋で凪子は休息をとり、アインツベルンの城にあった防衛魔術にこっそり接続し、人が森に立ち入ったら目覚ましがなるようにセットしておいた。
そうして仕掛けた目覚ましにより目を覚ますと、凪子は意気揚々と城へと向かった。


だが、その前に邪魔が入った。


「……!!」
凪子は、上空から降ってきた剣や槍を横っ飛びに飛んで避けた。
見覚えのある攻撃に凪子は、チッ、と盛大に舌打ちをした。
「何の用だギルガメッシュ。今アンタに構ってる暇ないんだけど」
ギルガメッシュが、何故か城の方から姿を見せた。戦闘の形跡はないはずなのだが、どういうことだろうか。
だが、凪子の言葉に答えず攻撃を再度仕掛けてきたギルガメッシュに、凪子は考えることを一旦やめた。
「っ、」
ランサーと共に来たときより、攻撃が激しく遠慮がない。なるほどあの時はやる気がなかった様に見えたのはあながち間違いではなかったらしい。
凪子は木の影に商売道具のつまった鞄を逃げ様に隠し、構っている暇もないのですぐに槍を取り出した。
木々の隙間を器用によけて、ギルガメッシュの武器が迫る。凪子は狭い木々のなかで、こちらも器用に槍を振り回しながら攻撃を弾き、避ける。
「(…あのヤロォ……城に行かせないつもりか。くそったれ、やる気がある分普通に強い)」
太い木の陰に隠れ、ギルガメッシュの動きの様子を見守る。よくよく見れば、バーサーカー戦の時と違ってちゃんと鎧を装備していて、顔も笑みすら浮かべていない。
「おーいギルガメッシュ。真面目な話、なんで足止めする」
「……………」
「…ハッ。人語を話す口すら無くしたか」
「……驕るなよ雑種。貴様にかける言葉などないというだけだ」
「あぁそう―」
凪子は、勢いよく地面を蹴って、森の上空へと飛び出した。ライドのルーンを空中に固定し、それを蹴ってギルガメッシュの声から特定した場所めがけて跳躍する。
本来、あれだけの声で場所を特定するのは困難だ。だが、アインツベルンの防衛魔術に接続し、森の全容を掴める状態にあった凪子にはそう難しいものではなかった。
木々を避けさせながら、ギルガメッシュの真上に凪子は姿を見せる。
「ッ!!」
「―かいっ!!!」
直前で気がつき、ハッとしたように上を見上げたギルガメッシュの顔めがけて、殺すつもりで槍を叩き下ろす。
ギルガメッシュはギリギリでそれをかわし、忌々しげに舌打ちをしながら宝物庫の扉を展開する。
凪子は再び木々の間に姿を紛らせ、攻撃をかわした。
「理由によってはそちらの都合に合わせることもできるけど??理由は教えていただけない??」
「それは貴様にとって出来ない相談だろうよ」
「何?」
「我はな、雑種。大聖杯を使って人間を間引くつもりでいるからな」

「…………は」
ギルガメッシュの口から出た言葉に、思わず反応が遅れる。その一瞬の隙をつき、ギルガメッシュの攻撃が隠れていた木ごと凪子を貫く。
「、ちっ」
凪子は胴体に突き刺さったそれを肉が引きちぎれるのも構わず引き抜き、再び木々の間を駆け抜け、攻撃をかわした。

我が征く道は184

「……しかし、身体は剣でできている、ねぇ。それは比喩表現?」
「いいや、オレの起源がそうであるというだけの話だ」
「きげん」
「…………知らんとは言わせんぞ」
「いや知らん」
「な………」
アーチャーは目を見開き、そしてまた呆れたようにため息をついた。なにやらやけに呆れられるような気がする、と凪子は思いながら、ふぅむ、と顎に手を当てた。
「…ふむ、少しは真面目に座学を勉強するかな。知らん言葉がこの年になってもボンボンでてきやがる」
「どうせ暇なら覚えておけ。問答対決にでも持ち込まれたら勝ち目がなくなるぞ」
「そういうのは大体物理で殴ってきたけど…まぁ確かに、魔術は日々進化してるだろうからねぇ。久々に勉学に励むのも悪くないかな、適当に化けて時計塔かアトラス院にでも…」
アーチャーはぶつぶつと呟く凪子を見て、薄く目を細めた。
「……全く、つくづく君は大した者だな。2000年以上生きておきながら磨耗せず、新しいものを吸収することに拒否感がない」
「……………そんな風に誉められたの初めてだわ」
「そうかね」
「まぁそもそも、正体明かして普通に話せる人間がまずいなかったしな」
「…………君は己の生まれを恨むことはないのかね」
凪子はアーチャーの言葉に、目を伏せた。しばらく黙って、静かに目を開く。
その表情はずいぶんと大人びて見え、そしてどこか寂しそうにも見えた。
「昔はあったよ。どうやったら死ねるか試したこともあった、多分。……でもほら、私自分の種族がなんなのかも親がなんなのかも知らないから、憎みようもなかったのよね。何を憎めばいい?誰の、何のせいなのかも何も知らないのに」
「……………」
「自己嫌悪が終わったあと、憎むという行為をするには、憎む対象がいないとすることもできない。…割と虚無だよ、あれは。あの時期が一番生涯でヤバイ時期だった。時々思い出したように自己嫌悪がぶり返す。大抵の人間はそれで自殺するなり狂うなりして楽になれるんだろうが、前者はもちろん、なんでか狂うこともできなかった。精神の死と認識されるのか、復活しちゃうんだよね」
「………それは………」
「そんな時期が…100年とかそこらあった。割と初期のはずだ。ま、そんでそれを打破するために色々諦めて、自分ルールを作って、自分の形を安定して保つために秩序を造った。人間世界に入れる見てくれだったから、人間の知識は割と参考になったよ。……私が君を応援するのはまぁ、そういうことがあったからだな。人間の身で、あんなもんは経験するもんじゃない」
凪子はそう言って腰をあげた。地面に置いておいた鞄を持ち上げ、腰の金具に装着する。
そうしてフードをかぶり、座ったままのアーチャーを見下ろした。
「それじゃあまた明日。近くにちっちゃい納屋みたいのあったから、私はそこで始まるまで待機する。君が嫌ではなければ」
「………どうせセイバーもついてくるだろう、精々見つからないようにしていることだな」
「んふ、それは遠回しにOKってことだな。それじゃ、また。健闘を祈るよ」
凪子はそう言うと、アーチャーの言葉を待たずに城からでた。気がつけば、夜はすっかり明けて、明るくなっていた。
凪子は、ふぁあ、とあくびをすると、森のなかに以前見つけた廃墟に向けて足を進めた。
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