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この街の太陽は沈まない10


――Episode V <エミヤ>――



┃ 6/27 14:54:58 ┃

「…む、いい時間だな」
その日の天気はどんよりと暗かった。今日のバディであるセイバーと一旦別行動をとり、CPAカルデアス支部にあった通報を元に赤いアンプルの足跡を追っていたエミヤは、広場にあった時計を見てふとそう呟いた。
調査を始めて早くも一週間が経った。支部に来た通報から情報を精査し、現場を検証し、証拠となるものを探す。基本的にそれを延々と繰り返していた。だがアンプルの効果のせいか、一週間が経ってもこれといった情報を得ることができていなかった。
そこでエミヤは、別の手からアプローチをすることにした。セイバーと別行動をとったのもその為だ。別にセイバーに見られて困る、というわけではない。
正確に言うならば、むしろその逆だ。これから向かうところに警察組織の人間が入ることを見られることが困るのだ。セイバーは外交面での業務もあるため、他の六人に比べるとよくも悪くも人目につく。
「………さて」
路地裏で制服である上着を脱ぎ、普段かきあげている髪を乱暴に下ろす。持ってきていた鞄に制服をしまい、代わりにその中のいれていた黒いシャツをインナーの上に羽織る。
そうしてChaFSSメンバーから一般人に装いを変えたエミヤは、目的地に向けて歩き始めた。


「いらっしゃ……げっ」
「仮にも客に向かって、げっ、とはなんだ」
数分後、エミヤの姿はある店にあった。掲げられた看板には「万屋 赤枝」と達筆な字でかかれ、こじんまりとした店内は様々なもので溢れていた。カランカラン、という扉を開けたときの音で奥から顔を覗かせた店員は、客がエミヤであると気が付くと露骨に営業スマイルを崩した。
はっ、とそんな客商売にあるまじき態度を鼻で笑いながら、エミヤは店の扉を閉めた。店員はげんなりした表情のまま、がしがし、と頭をかいた。
「んだよ、何の用だ?というより、客だと?」
「すまないな、今日は“キャスター”の方にようがある、“ランサー”。…買い物をしにな」
「………へぇ?」
“ランサー”とエミヤに呼ばれたその男は、打って変わって表情を変え、面白そうに目を細めた。

彼の名前は“ランサー”。プロトのような役職名ではなく、名前だ。
エミヤは彼とそれなりに長い付き合いであるのだが、彼の本当の名前をいまだに知らない。それだけ昔から、彼は己を“ランサー”と名乗った。
何でも屋を称する万屋赤枝の店員であり、店の名の通り、見合う対価を差し出せば本当になんでも仕事を請け負い、完遂させる男だった。迷子の猫探しでも、密輸品の運搬でも、―人殺しであっても。
“ランサー”が人殺しまですることは滅多になかったが、やったらやったで証拠を残さず、逮捕はできない。最も、逮捕されるような“殺人”をしたこともないといえばないのではあるが、とにかくこの万屋赤枝は、知る者からすればかなりグレーな店であるのだ。

“ランサー”はカウンターで肘をつき、ニヤニヤとエミヤを見ている。
古い付き合いだといったが、どちらかというと腐れ縁のようなもので、決して仲良くはないし、顔をあわせるといい年であるのに二人とも大体喧嘩に発展する。それ故に、エミヤが客としてここを訪れることはまずなかった。
「お前が俺の客になるならまだしも、“キャスター”の客になるたァなぁ」
「……、………」
エミヤが客として彼を訪ねる。それは、彼の力に頼ることを意味したから、ランサーはニヤニヤと楽しそうに笑っていたのだ。
そして先から二人の口にしている“キャスター”という人物は、“ランサー”とは異なるアプローチで商売をしている万屋赤枝のもう一人の店員だ。“ランサー”が何でも屋で表の仕事をしている、と評することができるのなら、“キャスター”は裏の仕事を担っている。
それをChaFSSに属するような人間が訪ねるというのは、なかなかの事件であるとも言えた。だが“ランサー”はその点でエミヤを揶揄ることはせず、親指で自身の後ろ、布で隠された奥の部屋への通路を指差した。
「だが客なら仕方ねぇ、もてなさねぇとな。喧嘩はまた今度だ。…入りな」
「……、失礼する」
ふぅ、と、エミヤは小さく息を吐き出してから、その布を捲って奥の部屋へと足を踏み入れた。
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この街の太陽は沈まない9

| 13:07:18 |

「ボス、入るぜぇ」
ヘクトールはそう言って扉を開いた。
3人に指示を出したヘクトールはその足でUGFクリードの本拠地に戻り、その最奥の部屋で寝るなりなんなりしているであろう自らの主の元へと赴いていた。
このボスは戦闘時以外は寝ていることが多い。そのせいかどうかは分からないが、起きているときの威圧感は凄まじく、耐性のない人間であったら、大人の男であってもその眼光に腰を抜かし、失禁するのも珍しくないほどだ。
「…………」
部屋に入ると、ぎょろり、と赤い目がヘクトールを睨み据える。意外にもその男は起きていて、ほとんど使われることのない執務机の椅子に座っていた。
「あら、起きてたんで?」
「何の用だ」
「仕事を増やしたんでその報告に」
「………なにをだ」
おや、とヘクトールは意外そうに顔をあげる。先述した通り、この男はとことん物事に関心を抱かない。まるで、戦いに生き死ぬことが自らの使命、役割である、とでも言わんばかりに、だ。

そんな彼の名前は、クー・フーリン・オルタ。その暴力的なまでに実直、一辺倒な生きざまから、彼は“狂王”と呼ばれ恐れられている。

そんな一本道に全て振りきれている生き方であるので、彼がヘクトールが勝手に増やした仕事に興味をもつのは今までなかったことだった。自分を見るヘクトールに、チッ、とオルタは舌を打った。
「――とっとと答えろ。報告に来たんだろうが」
「や、まぁ、そうなんですけどね。まぁいいか、ボスはこいつのことをご存知で?」
ヘクトールは射殺さんばかりに睨んでくるオルタに気を取り直して、ぽい、とポケットにいれていたアンプルの破片を放り投げた。オルタは器用にそれを空中でキャッチし、一瞥をくれる。
「知らねぇ」
そしてにべもなくそう言い放つと、それをヘクトールに投げ返した。ヘクトールも知っているとは期待していなかったのか、特に気にすることなくそれを受けとる。
「まぁ、こいつが外部の奴らが流し込んだ麻薬なんだわ」
「………あ?許したってのか?」
ぴくり、とオルタの眉が跳ね上がる。部屋に入ったときから感じていた威圧感がさらに増し、いっそ殺気すら感じてくる。
だがそれに慣れているヘクトールは、にへら、と笑ってそれを受け流した。
「そ。ま、ヤクとしちゃ三流なんですぐに廃れるだろうと思ってたんだが、宛が外れてな。配下の馬鹿どもまで引っ掛かる始末になってきた。―だからここいらで掃除しようと思ってな」
「……………好きにしろ」
へらへらと笑いながら、それでいて物騒な色を目に宿す。
オルタはしばらくそんなヘクトールを睨んだあと、ふっ、と目を伏せてそう言った。そうして許可を下ろすと、そのまま椅子に身体を沈め、動きを止めた。
あぁこりゃ寝るな、と思ったヘクトールは適当に返事を返して、早々に部屋を出た。寝ようとしている時に邪魔をされるのを普通の人間は好まないだろうが、オルタもそれは例外ではない。期限を損ねてしまえば、たとえNo.2のヘクトールであっても首が繋がるか分からない。
「参謀、どうされたんで?」
「手ェ空いてるやついるかい?全員集めろ、大仕事だ」
ヘクトールは、ふぅ、と息を吐き出す。ヘクトールは部屋から出るなり恐る恐る話しかけてきた配下に、そう指示を飛ばして懐のポケットからタバコを取り出した。配下は慌てたようにどたばたと走っていく。
ヘクトールは安物のそれを口にくわえて火を点し、ふぅ、と深く吸い込んだそれを吐き出した。
「………さぁて、俺の予想を外させるたぁ、ただもんじゃねぇな。ちっとは楽しませてくれるといいんだけどねぇ」
そうしてそんな、警戒するような楽しむような言葉をはいて、次の行動を起こすべく踵を返した。

この街の太陽は沈まない8

「それ、また?」
「そう、また」
ヘクトールは、よいせ、とビリーを押し退けて立ち上がる。ビリーは両手を頭の後ろで組んで、ふぅん、と呟く。
「………ヤバイ感じ?」
「ヤバイ感じ」
「仲良しされているのは大変結構なんですけれども、仕事してくれませんこと?」
一見ヘクトールがただ復唱しているような状態だが、確かに話が通じあっている二人のところへ、ぬっ、と人影が射した。カッ、と、高いヒールが音をたてる。
「やぁアン、あとはしたっぱに任せればいいのに、まだいたの?」
「うふ、そのままお返ししますわ、ビリー」
アンと呼ばれたその女性は、にこり、と笑ってそう返した。豊満な肉体を惜しげなく魅せる、それでいてしっかりと隠すところは隠す、絶妙な装いの彼女は、男と死体だけの世界にひどく映えて見えた。
「私たちの仕事は取り締まりですもの、ちゃんと後始末まで面倒を見ませんと。ねぇ、メアリー?」
「そうだね、アン」
ぬっ、と、メアリーと呼ばれた男装の少女が後ろから姿を見せる。顔には大きな傷が入り、背丈も小さく、口元まで隠れる大きな黒い上着をはためかせた。
彼女の名前は、メアリー・リード。アンは、アン・ボニー。必ず二人組で活動するUGFクリードの構成員の一人であり、配下組織の取り締まりを統制する立場の者だった。
女といって侮るなかれ、彼女たちはルールに対して非常にストイックであり、厳密にそれを執行する姿は時として部下の目には残虐なものに見えることもあるという。アンの銃はどこまでも逃亡者を追い、逃がさず、メアリーの振るうカトラス剣はどんな屈強な男も一刀両断にして見せた。だから彼女たちを少しでも知る者は、彼女たちに畏怖の目を向ける。
相変わらず真面目だねぇ、と、ヘクトールは心のなかで呟きながら、折角だからと拾った破片を二人に見せた。
「…あら?それは…」
「やっぱ見たことあるかい?」
「ええ。ここ最近、たまに見かけますわね」
「大体そいつがあるところの奴はおかしくなってるから仕事は楽なもんだけどね」
「………」
「それ、やっぱり気になりますの?」
「んー、気になるというより、もう気にしないでいてはあげられない、って感じかなぁ」
ヘクトールがへら、と笑っていった言葉に、すぅ、と二人の顔から表情が消えた。先になんとなく察していたであろうビリーは、帽子を目深く被る。
ヘクトールは肩を竦めてそれをポケットにしまいこむ。
「…と、いうわけで、お三方暇そうだしこっち動いてもらおうかな」
「まぁ。暇ではありませんのに」
「ただの片付けするのと、君らの仕事を故意に増やしている輩を追うの、どっちがやりたい?」
「……ズルい聞き方をしますのね。そりゃあ勿論後者ですわ。貴方がそう仰るということは、傘下のどこか、というわけではないのでしょう?」
「つまり侵略行為だ。侵略、略奪は僕らの十八番だけど、それをやられるのは我慢ならないね」
「だろう?ビリーは」
「うん、僕もそっちにいくよ。…僕は麻薬は嫌いだからね」
ビリーはにこりと笑いながら―その目はちっとも笑っていなかったが―腰に下げたリボルバーを、とん、とん、と叩く。
異論がないことを確認して、ヘクトールは小さくうなずいた。ぎらり、と奥の見えない彼の名が光る。
「…じゃあ行ってこい。ボスには俺から報告しておく。まぁ興味をもつかは分からんが…。人員は好きに使え」
ヘクトールは端的にそれだけ指示すると、す、と三人の間を抜けて路地裏の奥へと消えていった。

この街の太陽は沈まない7


――Episode U <ヘクトール>――



┃ 20XX/6/20 12:24:54 ┃

「ん〜?」
髭を適当に整え、癖っ毛のある髪の毛をこれまた適当にひっつめ、もうかなり短くなった煙草を口にくわえた男は不快げに呻いた。
だらしなさを感じる頭部に比べて、ピシリと糊のきいたいかにも高そうで上質なスーツを身に纏ったその男は、長い足をよいせと折り曲げてしゃがみこんだ。
「…またこいつか」
そうしてひょいと拾い上げたのは、ガラスの破片。正確にそれを表現するのであれば、赤いアンプルが砕けた欠片、というべきだろう。安っぽい金色の留め具の部分を持って、それを男はぶらぶらと手の中で弄ぶ。

彼の名はヘクトール。
カルデアスの街の闇、裏組織を牛耳るトップ組織、UGFクリード―Under Ground Force Curruid―の参謀を勤める男だった。
つまり、実質No.2だ。

UGFクリードは情報・武器売買と高利貸し、そして下部組織の支配と統制を主な業務としている。麻薬の類いはUGFクリードそのものでは取り扱っていないが、配下組織で扱っているところもあるので、それが行き過ぎたものにならないように―といえば聞こえがいいが、実質は自らの益を損ねることがないように、という理由からだが―取り締まることもしていた。如何せん、大将が自らが頂点にあり、武力をもって支配すること以外に興味を示さないので、麻薬にも関心を持たず、それが取り扱わない理由であったりもした。

ヘクトールは常々勿体ないなぁ、とは思っていたが、提案したところで自分の仕事が増えるだけなので、今はまぁまだいいか、と提案はしないでいた。それでも配下組織の取り締まりはしているので、この街に回っている麻薬がどれだけの量で、どんなものであるかは完全に把握していた。

「…」
そんなヘクトールが知らないものが、今彼の手にある赤いアンプルだった。
今日、ヘクトールは組織の武闘派メンバーと共にある組織を潰していた。その組織は今月の支払いを渋った上にどうにも話が通じず、仕方がないので乗り込んでみれば金はない上に、麻薬でもやったのか、意識がブッ飛んだ連中しかおらず、ならもう使い物にならないね、ということで潰した、という経緯があった。
ヘクトールはボスに放り投げられたその現場の後片付けに同行しており、そこで例のアンプルを見つけたのだった。
ヘクトールが知らない、ということはまずこの街の裏組織が元手であるとは考えにくい。となると、街の外部の組織に持ち込まれた可能性が高い。そしてなにより、最近このアンプルが絡んだ案件で、配下組織のメンバーが使い物にならない自体が増えていた。

外部の組織が麻薬を蔓延させ、あまつさえ配下組織の人間を廃人化させる。
これは、UGFクリードに対する挑発。喧嘩を売っているに等しい行為であった。

ヘクトールとて暇ではないし、ボスも早々のことでは関心を示さない。だから気に止めつつも、しばらく放置していた。一回の効果の強すぎる麻薬は、依存性の強いものに比べてその需要は長く持たない。一発で死の危険のあるドラッグに手を出すのは馬鹿の中の馬鹿くらいだ。
「…ちょっともう、こいつは無視できねぇなぁ……」
だが、赤いアンプルの発見頻度が下がることはなかった。挙げ句の果てに経緯はどうであれ、1つの組織が駄目にされた。
ヘクトールは手の中のそれを見下ろし、苦々しく呟いた。
「おっちゃーん。なにしてんの」
「おっちゃんって言うんじゃありません」
と、その背中へ、ぼすんとぶつかってくる影があった。ひっ、と周囲のしたっぱ構成員から細い悲鳴が漏れ聞こえた。
ボスじゃあるまいし、そんなんで殺すかバァカ、と思いながら、ヘクトールは背中の影を振り返った。黒い帽子を被った金髪の少年がヘクトールを見下ろしていた。
まだ年若い彼の名はビリー・ザ・キッド。普段は料金や借金の取り立てを取り仕切っている武闘派構成員の一人だ。ビリーはヘクトールが持つものに気が付き、おっ、と小さく声をあげた。
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この街の太陽は沈まない6

「うーっす」
「うぃーす」
キャスターがレモンパイを食べ終わる頃に、セイバーを除いた残り二人が本部に姿を見せた。似たような挨拶をしながら、両者は気だるげに中に入ってきた。
前者はバーサーカー。本名、ベオウルフ。狂戦士を意味する役職を司る彼は、現場で戦闘が発生した際には最も生き生きとした様子を見せる。だが普段はどうかと言うと、メンバーのなかでもかなり理性的で落ち着いた性格であった。
後者はライダー。本名はエドワード・ティーチ。重火器の取り扱いに長け、戦車を乗り回すことからその役職を与えられた。本人は前職の船の方が本領が発揮できるらしく、陸ではやる気がでないという理由で、もっぱら重火器の開発に力を入れている。とはいえ、戦車の扱い・開発も凄腕なのは確かだった。
バーサーカーは、ふあぁ、と大きなあくびをし、コキコキと首をならした。
「司令001の発動なんて珍しいなァ。何事だ?」
「あぁ、君たちも来たか。詳細はセイバーが来てからだな。コーヒーでいいかね?」
「おう」
「面倒でござるな〜。本当に全員いるほどの事件なので??」
ふざけた口調でおどけながら、ライダーは隅の席に腰を下ろした。ライダーが仕事に対し不真面目な物言いであるのは常なことだったので、誰も気にする様子は見せず、アーチャーは一人肩を竦めた。
「それも聞いてみないことにはな」
「どうだか調べてみないことには分からねぇがな。が、少なくとも代表はそう思ってる」
「藤丸立香が?これは代表直々の命令なのかしら」
「そうだ」
ランサーの言葉にキャスターが意外そうに言葉を返したとき、扉が開いてセイバーが姿を見せた。6人は一応隊長であるセイバーに対し、各々が適当に敬礼をし、挨拶をした。
セイバーはそれを受けてにこりと笑うと、自分の席についた。あれやこれやと世話を焼いていたアーチャーも、セイバーの分の紅茶を置くと、自分の席に落ち着いた。
全員が座ったのを確認してから、セイバーは口を開いた。
「これから話す任務は我々7名のみが行うものとし、その業務内容は一切を秘匿とする。CPA職員に対してもそれは同じことだ。いいね」
「…ランサーから赤いアンプルが絡んでいると聞いている。事はそんなに深刻なのかね、セイバー」
「あぁ。あの場…ランサーと私が口頭で命を受けた場では詳細は語られなかったが、代表からその後、秘密通信で暗号化された司令書が送られてきた。可能な限り、内部の人間にはその動きを悟られないように動いてほしい、と」
「……そんなことを送ってくるとなると…あの坊やは、内部の犯行を疑っているのかしら?」
くすり、とキャスターがどこか楽しそうに笑う。セイバーは静かに首を振った。
「恐らくだが、彼はそこまで考えてはいないだろう。ただこちらの警備体制の情報が漏れているのではないか、と心配しているようだ。赤いアンプルの広がりが静かなものとはいえ、我々が危険視する前に比較的広い範囲に広がっていること、かつその黒星の影が全く見えないことから、 ChaFSSのみが動き、事の解決に当たるのが一番確実だろう、とのことだ」
「随分とここを買っているのですなぁ、代表殿は。拙者だってキャスター殿と同じく裏切りを疑いますぞぉ」
「その場合、一番怪しいのはテメェだけどな?」
「んんww痛烈ですぞぉww」
「ちょっと真面目な話だからふざけた態度は引っ込めてくれないかな」
「隊長殿が一番キツいの寄越しますぞぉ……」
「だけどよ」
わいのわいのとふざけあうバーサーカーとライダーをセイバーがばっさり一刀両断するのを見ながら、ランサーは背凭れにもたれかかっていた身体を起こした。
「そんな風に言われるってことは、そんなに広まってんのか?あのアンプル」
「…、その通信で添付されていたデータだ」
セイバーはランサーの言葉に小さく頷き、懐から取り出した携帯端末を部屋のモニターに接続した。ぱっ、と表示されたのは、カルデアスの街の地図だ。

そしてその地図にはそれを半ば埋め尽くすほどに、多量の赤い点が打たれていた。

「……」
すっ、と部屋が静かになる。説明されずとも、その赤い点がアンプルが発見されたであろう場所であることは伺えた。
セイバーはパシン、と手を叩いた。
「話は以上だ。アーチャーはアサシンと通信・ネット・回線のあらゆる傍受、検索。CPA内における赤いアンプルの関係者の聴取記録もとっておいて欲しい。ランサーは私とこれから街に出て調査。キャスターはアンプルの内容解析を。これに関してはCPA職員の仕事に参加してほしい。理由だのなんだのは適当にこじつけておいてくれればいい。ライダーとバーサーカーは夜の街の警らを。その為に19時まで休息。それ以後は原則二人ずつ8時間刻みで警ら・通信系の調査・休息を交代だ。他になにか意見は」
セイバーの流れるような指示に、6人は黙って頷いた。セイバーは、にっ、と笑う。
「では、私たちの仕事を始めよう!」
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