2017-6-25 23:03
「うーっす」
「うぃーす」
キャスターがレモンパイを食べ終わる頃に、セイバーを除いた残り二人が本部に姿を見せた。似たような挨拶をしながら、両者は気だるげに中に入ってきた。
前者はバーサーカー。本名、ベオウルフ。狂戦士を意味する役職を司る彼は、現場で戦闘が発生した際には最も生き生きとした様子を見せる。だが普段はどうかと言うと、メンバーのなかでもかなり理性的で落ち着いた性格であった。
後者はライダー。本名はエドワード・ティーチ。重火器の取り扱いに長け、戦車を乗り回すことからその役職を与えられた。本人は前職の船の方が本領が発揮できるらしく、陸ではやる気がでないという理由で、もっぱら重火器の開発に力を入れている。とはいえ、戦車の扱い・開発も凄腕なのは確かだった。
バーサーカーは、ふあぁ、と大きなあくびをし、コキコキと首をならした。
「司令001の発動なんて珍しいなァ。何事だ?」
「あぁ、君たちも来たか。詳細はセイバーが来てからだな。コーヒーでいいかね?」
「おう」
「面倒でござるな〜。本当に全員いるほどの事件なので??」
ふざけた口調でおどけながら、ライダーは隅の席に腰を下ろした。ライダーが仕事に対し不真面目な物言いであるのは常なことだったので、誰も気にする様子は見せず、アーチャーは一人肩を竦めた。
「それも聞いてみないことにはな」
「どうだか調べてみないことには分からねぇがな。が、少なくとも代表はそう思ってる」
「藤丸立香が?これは代表直々の命令なのかしら」
「そうだ」
ランサーの言葉にキャスターが意外そうに言葉を返したとき、扉が開いてセイバーが姿を見せた。6人は一応隊長であるセイバーに対し、各々が適当に敬礼をし、挨拶をした。
セイバーはそれを受けてにこりと笑うと、自分の席についた。あれやこれやと世話を焼いていたアーチャーも、セイバーの分の紅茶を置くと、自分の席に落ち着いた。
全員が座ったのを確認してから、セイバーは口を開いた。
「これから話す任務は我々7名のみが行うものとし、その業務内容は一切を秘匿とする。CPA職員に対してもそれは同じことだ。いいね」
「…ランサーから赤いアンプルが絡んでいると聞いている。事はそんなに深刻なのかね、セイバー」
「あぁ。あの場…ランサーと私が口頭で命を受けた場では詳細は語られなかったが、代表からその後、秘密通信で暗号化された司令書が送られてきた。可能な限り、内部の人間にはその動きを悟られないように動いてほしい、と」
「……そんなことを送ってくるとなると…あの坊やは、内部の犯行を疑っているのかしら?」
くすり、とキャスターがどこか楽しそうに笑う。セイバーは静かに首を振った。
「恐らくだが、彼はそこまで考えてはいないだろう。ただこちらの警備体制の情報が漏れているのではないか、と心配しているようだ。赤いアンプルの広がりが静かなものとはいえ、我々が危険視する前に比較的広い範囲に広がっていること、かつその黒星の影が全く見えないことから、 ChaFSSのみが動き、事の解決に当たるのが一番確実だろう、とのことだ」
「随分とここを買っているのですなぁ、代表殿は。拙者だってキャスター殿と同じく裏切りを疑いますぞぉ」
「その場合、一番怪しいのはテメェだけどな?」
「んんww痛烈ですぞぉww」
「ちょっと真面目な話だからふざけた態度は引っ込めてくれないかな」
「隊長殿が一番キツいの寄越しますぞぉ……」
「だけどよ」
わいのわいのとふざけあうバーサーカーとライダーをセイバーがばっさり一刀両断するのを見ながら、ランサーは背凭れにもたれかかっていた身体を起こした。
「そんな風に言われるってことは、そんなに広まってんのか?あのアンプル」
「…、その通信で添付されていたデータだ」
セイバーはランサーの言葉に小さく頷き、懐から取り出した携帯端末を部屋のモニターに接続した。ぱっ、と表示されたのは、カルデアスの街の地図だ。
そしてその地図にはそれを半ば埋め尽くすほどに、多量の赤い点が打たれていた。
「……」
すっ、と部屋が静かになる。説明されずとも、その赤い点がアンプルが発見されたであろう場所であることは伺えた。
セイバーはパシン、と手を叩いた。
「話は以上だ。アーチャーはアサシンと通信・ネット・回線のあらゆる傍受、検索。CPA内における赤いアンプルの関係者の聴取記録もとっておいて欲しい。ランサーは私とこれから街に出て調査。キャスターはアンプルの内容解析を。これに関してはCPA職員の仕事に参加してほしい。理由だのなんだのは適当にこじつけておいてくれればいい。ライダーとバーサーカーは夜の街の警らを。その為に19時まで休息。それ以後は原則二人ずつ8時間刻みで警ら・通信系の調査・休息を交代だ。他になにか意見は」
セイバーの流れるような指示に、6人は黙って頷いた。セイバーは、にっ、と笑う。
「では、私たちの仕事を始めよう!」