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我が征く道は116

その後は特に何か予定もなかったため、凪子は学校へと向かってみることにした。
一昨日、ライダーが脱落したのは穂群原学園だった。もしかしたらなにがしかの痕跡が見つけられるかもしれない、そう判断してのことだった。
「おーおー、若いからかな?一瞬とはいえあの結界が起動したっていうのに元気なもんだねぇ」
気配消しのルーン飴を口に含み、堂々と正門から校内に入る。コンパスでライダーが消えた辺りの時間帯の残留魔力を探りながら、ゆっくりと校内を見て回る。
「(学校かぁ、楽しそうよねぇ…こういうとこ通うとどういう素質が身に付けさせられるのか、ちょっと気になる。まぁ、私が学ぶようなことなんて新しい知見くらいしかないんだけどもさ)」
凪子は心のなかでそんなことを呟きながら、魔力の痕跡を辿っていった。
ライダーは下の方の階で倒されたらしく、その場所はあっさり見つかった。
「(理科室かな)」
凪子は空いていた扉の隙間からこっそり教室の中に入る。教室のなかでは授業が行われていたため、一応、足音をたてないように気を付けながらライダーが消えたであろう位置に移動した。
ライダーが消えたとみられる場所は、少しばかり壁が凹んでいた。その凹みの大きさから見て、恐らくライダーが叩きつけられたことで出来たのだろう。勿論、凹んでいるとはいってもそれは凪子の視界での話であり、証拠隠滅を行う協会の手の者による幻覚が発動していて、一般人の目には普通の壁にしか見えないようになってはいた。
「(……サーヴァントの腕力で叩きつけられたにしちゃあ、浅い凹みだな)」
崩れた壁に手を触れ、凪子はそう感じた。サーヴァント同士の戦闘があったのだとしたら、この程度の損害で済むはずがない。
「(…となると、やっぱり葛木のにーさんの仕業か)」
予想した通りの結末だと凪子は結論付け、つまらなそうに肩を竦めた。
大方、その結界内に巻き込まれたマスターを救うべくあの慎重なキャスターも動かざるを得なかったのだろう。キャスターの魔術や魔力の援護をもってすれば、あの結界内で普通に動くことも、敏捷さではやや他のサーヴァントに劣る状況にあったライダーをあの技で仕留めることも、不可能ではないだろう。
凪子はしばしの間その教室で行われていた授業を見学した後、またこっそりと教室を出ていった。


 「なるほどーいいペアだなぁ、キャスター組」
凪子はそのまま学校の屋上に出て、うーん、と身体を伸ばした。高台にある学校の屋上は風通しがよく、寒くはあるが景色がいい。
「凛ちゃん、どう対処するのかなぁ。稀代の魔女という魔術師と、暗殺を得意とするマスターにアサシンのサーヴァント。長期戦に持ち込まれたら間違いなくキャスターが勝つ。少なくともアーチャー一人じゃあ無理だな。多分、サイバーのマスター辺りを仲間に引き込むんだろうな」
授業が終わったのか、ちらほらと帰路につく生徒の姿が上から見え始めた。恐らくこの生徒の一人も、一昨日本当は何があったのか理解してはいないのだろう。
「これが聖杯戦争か…なるほどね。魔術師っていう連中はどうも、本当に、古今東西自分勝手な奴ばかりだ。知らないことを知ろうとする、得られないものを得ようとする…。気持ちは分からんでもないけど、強欲なことだよ」
凪子はごそごそとポケットを漁り、ルーンを刻んでいないただの飴を取り出して頬張った。
サーヴァント同士の戦いは予想以上に面白く、見ごたえはある。だが、聖杯戦争そのものは、実に気分のいいものでない。
「…そこまでして、根源なんてものは行く価値があるのかねぇ…」
凪子はポツリ、と、そう呟いた。

我が征く道は115

その後銭湯を満喫しちょっとだけ夕飯を奮発した凪子は、満足のうちに眠りについた。
そしてぐっすりと休んだ翌日、凪子は朝早くから冬木の町へと繰り出していた。
今日の目的は、とりあえず本当にライダーが脱落したのかを確認することであった。その為凪子は新都からバスを乗り継ぎ、間桐邸へと向かっていった。
「坂の多い町だよなぁ、この町は…。そしてキャスターの魔力吸収も相変わらず行われてるねぇ。まぁ、新都のビル群の方に比べればまだましかなぁ」
そんなことを言いながらぷらぷらと歩く。あからさまに間桐邸の付近を訪れ、八つ当たりされても困る。あくまでさりげなく、近くから気配を窺うに限る。
凪子は道中で買った大判焼きを頬張りながら、やや険しい坂道を上っていった。

 「………ん?」
そうして間桐邸の近くまで来たとき、凪子は意外そうに間桐邸を見上げた。
間桐邸の周辺や透視した間桐邸の内部のどちらからとも、ライダーの魔力の気配は微塵も感じられない。確かに一昨日脱落したと考えて間違いなさそうだ。
意外なのは、その代わりにうっすらと間桐邸から感じられる魔力の気配であった。それは凪子にとって馴染みがあるというか、昨日会ったばかりというか。
「(…いや、ほんとにうっすらギルガメッシュの気配するな。どういうことだ?)」
じ、とよくよく間桐邸を見つめても、やはりギルガメッシュの魔力の残骸が少しばかりある。今は間桐邸にいないようだが、なにがしかの形で関与したのは間違いないようだ。
うーん、と凪子は頭を捻る。ギルガメッシュはアンリマユの存在を知っていた。であるならば、間桐の娘に起きている異常を知っていても不思議ではないが、だからといってその娘を見に来るような性格には思えない。そもそも、透視した時に見えた娘を見る限りでは、彼女に起きていた異変は今はなりを潜めているようにも見えた。そうならば、様子見をする必要もない。
「(……となると……)」
娘の異変が収まっている以上、間桐の家は関与していないはずだ。間桐が関与しているなら、本来の契約者の娘の方に変化があるはずだからだ。
そうなると、代理マスターをしていた兄の少年の方が某かの形でギルガメッシュに関与したのか。
「(…言峰は監督役。そして破れたマスターは教会に保護を申し出ることもできる。といっても、あの少年に令呪はないんだから狙われることなんてないと思うけど…)」
教会を訪れたせいとも考えられなくはないが、それにしては随分はっきり痕跡が残っている。
「(…間桐の少年、多分だけど聖杯戦争のことよく理解してないで参加していそうなんだよな…それこそセイバーのマスター以上に。ああいう、プライドだけいっちょまえででも事実や本質を知らない馬鹿、っていうやつがこういう騙しあいしつつの戦いでは一番厄介だったりするんだよな…)」
間桐の家からこれ以上、分かりそうなことはない。凪子はそう判断して踵を返し、ついで教会の方向へ足を向けた。
「…利用されたりしてないといいけどなぁ……聖杯戦争そのものが機能しなくなったりでもしたら、観戦する楽しみがなくなるかもしれないじゃないか」
凪子はぼそりとそう呟きながら、間桐邸をあとにした。
 その後教会へ向かってみたが、どうやらギルガメッシュは留守のようだ。訪ねたところで会ってもらえるとも思えないが。
「うーん、真相は分からんか…まぁ、気を付けないとなぁ」
何かが動き出している。狂いだしている、という方が正しいかもしれない。
どちらにせよ、それが一般人に与える影響は、決していいものではないだろう。
「…人を守る気はない。人の為に生きる気もない。だけど…だからといって、傍観者たる神になるつもりもないよ、私は」
それは宣戦布告か、あるいは決意表明か。
凪子はそうぽつりと呟いて教会をあとにした。
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