2017-2-3 09:22
その後銭湯を満喫しちょっとだけ夕飯を奮発した凪子は、満足のうちに眠りについた。
そしてぐっすりと休んだ翌日、凪子は朝早くから冬木の町へと繰り出していた。
今日の目的は、とりあえず本当にライダーが脱落したのかを確認することであった。その為凪子は新都からバスを乗り継ぎ、間桐邸へと向かっていった。
「坂の多い町だよなぁ、この町は…。そしてキャスターの魔力吸収も相変わらず行われてるねぇ。まぁ、新都のビル群の方に比べればまだましかなぁ」
そんなことを言いながらぷらぷらと歩く。あからさまに間桐邸の付近を訪れ、八つ当たりされても困る。あくまでさりげなく、近くから気配を窺うに限る。
凪子は道中で買った大判焼きを頬張りながら、やや険しい坂道を上っていった。
「………ん?」
そうして間桐邸の近くまで来たとき、凪子は意外そうに間桐邸を見上げた。
間桐邸の周辺や透視した間桐邸の内部のどちらからとも、ライダーの魔力の気配は微塵も感じられない。確かに一昨日脱落したと考えて間違いなさそうだ。
意外なのは、その代わりにうっすらと間桐邸から感じられる魔力の気配であった。それは凪子にとって馴染みがあるというか、昨日会ったばかりというか。
「(…いや、ほんとにうっすらギルガメッシュの気配するな。どういうことだ?)」
じ、とよくよく間桐邸を見つめても、やはりギルガメッシュの魔力の残骸が少しばかりある。今は間桐邸にいないようだが、なにがしかの形で関与したのは間違いないようだ。
うーん、と凪子は頭を捻る。ギルガメッシュはアンリマユの存在を知っていた。であるならば、間桐の娘に起きている異常を知っていても不思議ではないが、だからといってその娘を見に来るような性格には思えない。そもそも、透視した時に見えた娘を見る限りでは、彼女に起きていた異変は今はなりを潜めているようにも見えた。そうならば、様子見をする必要もない。
「(……となると……)」
娘の異変が収まっている以上、間桐の家は関与していないはずだ。間桐が関与しているなら、本来の契約者の娘の方に変化があるはずだからだ。
そうなると、代理マスターをしていた兄の少年の方が某かの形でギルガメッシュに関与したのか。
「(…言峰は監督役。そして破れたマスターは教会に保護を申し出ることもできる。といっても、あの少年に令呪はないんだから狙われることなんてないと思うけど…)」
教会を訪れたせいとも考えられなくはないが、それにしては随分はっきり痕跡が残っている。
「(…間桐の少年、多分だけど聖杯戦争のことよく理解してないで参加していそうなんだよな…それこそセイバーのマスター以上に。ああいう、プライドだけいっちょまえででも事実や本質を知らない馬鹿、っていうやつがこういう騙しあいしつつの戦いでは一番厄介だったりするんだよな…)」
間桐の家からこれ以上、分かりそうなことはない。凪子はそう判断して踵を返し、ついで教会の方向へ足を向けた。
「…利用されたりしてないといいけどなぁ……聖杯戦争そのものが機能しなくなったりでもしたら、観戦する楽しみがなくなるかもしれないじゃないか」
凪子はぼそりとそう呟きながら、間桐邸をあとにした。
その後教会へ向かってみたが、どうやらギルガメッシュは留守のようだ。訪ねたところで会ってもらえるとも思えないが。
「うーん、真相は分からんか…まぁ、気を付けないとなぁ」
何かが動き出している。狂いだしている、という方が正しいかもしれない。
どちらにせよ、それが一般人に与える影響は、決していいものではないだろう。
「…人を守る気はない。人の為に生きる気もない。だけど…だからといって、傍観者たる神になるつもりもないよ、私は」
それは宣戦布告か、あるいは決意表明か。
凪子はそうぽつりと呟いて教会をあとにした。