神域第三大戦 カオス・ジェネシス127

「…セタ坊、アレから意識を離すなよ」
両者の衝突への緊張が高まるなかで、ふとタラニスがクー・フーリンの耳元に口を寄せ、そう囁いた。クー・フーリンは視線はぼんやりと相手方に向けたまま、意識をタラニスへ向ける。
「…………黒幕の野郎か?」
「お前らも、視線を感じるだろう?どこから見ているかは分からんが、だか確かに見ている」
「…………そうだな」
「あくまで野郎が邪魔をしないのはあの二柱の戦いだけだ。……気を緩めるなよ」
「分かってる」
――視線。
タラニスが指摘したように、おとなしく引き下がったように見えるそれからの、絶え間ない視線を彼らは感じていた。
ローブの向きからでいうのであれば、その視線が彼らの方向を向いているはずはなかった。だというのに、確かに視線は向けられていた。それも、複数方向から。
「…一体どこに本体がいるんだろうね」
「なぁに、全部本体だと思うぞ」
「え?」
「?何か疑問が?」
「…………いいや?」
マーリンはそれを、ローブ体の他に本体が別にあると考えたようだったが、続いたタラニスの言葉にそっと口を閉ざした。
神に人間の当たり前は通用しない。それは当然と言えば当然だが、戦場ではその判断が命取りになりかねない。マーリンは他の二人に、いやぁうっかり、とでも言いたげに肩を竦めてみせ、すぐに表情を引き締めた。
――そうしている間に、両者の宝具の準備は整っているようだった。
「――起きよ、執行の時は来た」
「――閉じる時、閉ざされる時、我が魔眼の開闢の時である」
色と質の異なる魔力が膨れ上がり、接触面が激しい火花を散らす。目に痛いほどのきやびらかな赤を散らすルーの槍と、三色が混じりあって混沌を示すバロールの魔眼。
「ちっ………」
あまりの勢いに、タラニスは小さく舌打ちをして前面に盾代わりの車輪を並べ立てる。クー・フーリンも杖の飾りを光らせ、ウィッカーマンの腕だけを召喚し、魔力の衝突が生んだ暴風を遮る壁とする。
「五条の稲妻に焼かれるがいい……!」
「我が眼に射ぬかれよ、その終わりを我が贄としよう!」
――ルーの詠唱は、以前に凪子に対して放たれた時と変わらない詠唱であった。それは注ぐ魔力の量は桁違いと言えど、特別さは示さないということなのか、あるいはそれだけ本気の一撃をあの時も放っていたということなのか。
真偽のほどは定かではない。

「―――“轟く五星(ブリューナク) ”!!」
「――“悪シキ眼ノバロール(バロール・ドーハスーラ)”!」

朗々とした両者の詠唱が響いた直後、膨大な魔力、魔眼、神器の衝突が、大きな爆発を引き起こした。