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神域第三大戦 カオス・ジェネシス132

「触れられたくない、って?」
怒涛の勢いで迫る触手を全て切り刻んだ凪子は、攻撃が止んだ合間にニヤリと笑ってそう問いかけた。ローブは不愉快そうに大きく震え、なお一層の触手を吐き出した。無尽蔵であるのか、触手の放出に従って衰えていく様子は一切見られない。“神”を名乗るだけのことはある、ということであるらしい。
ただ、それでもどうやら“樹”が目的であるだけでなく弱みでもあるらしい、とその場にいた面子が悟った時だ。

ルーに投げ飛ばされ、空を切って飛んできたバロールが樹に衝突し、あっさりとその樹はぼっきり折れてしまった。

「…………あ、あれま」
予想外の展開と結末にその場にいた一同は固まり、マーリンの口からは間の抜けた声が漏れる。ローブもまさか、それで折れてしまうと思っていなかったのだろう、呆然として浮かんでいる。
衝突して折った原因であるバロールは一切の興味がないようで、折れた樹には目もくれずに追撃を仕掛けてきたルーの槍を掴んで受け止め、そのまま振り回して地面へと叩きつけようとしていた。ルーは槍を回転させて槍を引き抜き、振り回された勢いを利用しながら体勢を整え、タラニスの近くへ着地した。
「ぐっ……、ッハァ、手を抜いているつもりはないんだがな…」
「ハッ……は……まだ死なんか、このクソジジイ…!」
肝心の二柱は折れた樹に一切の興味を示さず、互いに肩で息をし罵倒を飛ばし合いながら様子を伺い合っている。どちらかといえばバロールの方がダメージが大きいのだろうか、しっかりと立っているルーに対し、バロールは身体を起こしてはいるものの立ち上がる気配は見せない。そしてあまりにも当たり前に樹に対して気にしないものだから、気にする方がおかしいのではないかと錯覚すら覚えてしまう。
「な、な、な……!」
その錯覚は相手も同じだったのか、ややあってから憮然とした声をあげた。ぶるぶると怒りにかその身を震わせ、凪子たちに目もくれずにその場を離れ、バロールの前に立ちふさがる。バロールは視界に入ったそれを苛立たしげに見上げ、はぁ、とため息をついた。
「どういうつもりだ、バロール。これはもはや裏切りに値するぞ」
「……ま、表面的にはそうともいえるかもな」
「表面的だと?何を言っている」
「……――やれやれ、仮の器で来るから“その程度の目しか持てない”。本体で来なかった貴様の落ち度を恨むことだな」
「は―――」
ぞぶり、と。
鈍い音がして、ローブからべちゃりと肉片が零れ落ちた。
「−ッ!?」
『…!通信がやっと回復した!そっちの状況はどうなってる?!』
『クー・フーリン、ギル君、マーリン!』
『ルーさんとタラニスさん、ダクザさんもご無事ですか!?』
「うおお一斉に喋るなびっくりしたァ!!」
目の前で次から次へと変わる展開に加え、突然の通信の回復についに凪子は飛び上がった。サーヴァント陣もそれぞれわずかに驚いた様子は見せていたが、彼等はそれよりも目の前の出来事を注視しているようで、「余裕があるならお前に任せた」と言わんばかりの視線を凪子に向けるのみであった。
凪子はうへぇ、と思いながらも、視線をそちらへ向けたまま落ちていた通信機を拾い上げた。ローブ姿も唖然としているのか、自らから落ちた肉片を見下ろしているように見えた。
「あー凪子さんです、とりあえずダクザ翁以外は生存確認してますドウゾー」
『!ダグザ神は…』
「知らん、どっか行った!死んだの?」
「死んではいないらしいということしか我々も分からないな」
「だ、そうです!あと今ちょっと色々と急展開中」
『何が起きた!?』
「…貴、様……?」
「――バロール・ドーハスーラ」
ローブが盾となり誰の目にも入らなかったが、バロールが再び宝具を展開し、びしりとローブに亀裂が走った。
「何故…ッ!?蘇生主である僕を殺してしまえばお前も死ぬはず…ッ!?」
「ああ、それについてならもう移譲した。だからお前の仮体が死んだところで支障はない」
「が……ッ」
バロールの魔眼の力は、外なる神を自称するものに対しても有効であったらしい。ひび割れは加速度的に増え、端の方からもろく崩れ始めている。それであっても即死はしないというのは、相手の強さを示しているのかもしれない。
「約定を裏切るつもりはない。それは蘇生の対価だからな。だが、俺と貴様の間で交わされた約定は樹の生育だけだ。だがな、俺に明かさずに“それを使って貴様が為すつもりでいたこと”に関しては守る義理はないだろう?貴様はそれを俺に明かさなかったし俺もそれに承諾はしていない」
「きッ…様……!」
「俺が考えなしに貴様の甘言に乗るような、程度の低い存在だと驕った。それが貴様の敗因だ、侵略したいならもう2000年くらい修行してくることだな。貴様が俺につないだ縁ごと殺しつくしてくれる!」
「が、ぁああアアアーッ!!」
――そうして鈍い悲鳴をあげながら、ローブは瓦解してしまった。同時に、凪子たちを包んでいた視線の気配も一息に消え去る。ローブが消えたことで見えたバロールは魔眼の方の目をぱちりと瞬かせ、ハァ、と小さくため息をついていた。
「……私らの方でちょっかい出してきた変なのいたろ、アレがバロールに殺されたっぽいよ」
『外なる神と名乗っていた、アレかい?味方だったのでは?』
「…バロールの口ぶりを見るに、どうやらお互い相手を騙し合っていたみたいな感はあるけど」
「騙していたとは心外だな、代弁者。あれが事実を語らず、そして俺様を見下し、驕った、その報いを受けただけのことさ」
ひとまず起きていることを通信で伝えた凪子とカルデアの会話に、疲れたようにバロールが口を挟んだ。声をかけてはきたがバロールの視線はルーに向けられており、またルーも臨戦体勢の構えを解かずにバロールと向き合っていた。
とはいえ、ルーとしてもバロールの行動には疑問を持っているのだろう、話し出したバロールに攻撃を仕掛けることはなく、じっと様子をうかがっているようだった。ならば、と凪子もバロールに視線を向け、口を開いた。
「語る気があるならもうちょっと詳しいとこ聞いても?」
「この時代の貴様よろしく、大概軽い口のきき方だな。まぁいい、どうやら此度の戦いも俺の負けのようだしな」
「!!」
バロールがそう言ったのと同時に彼の魔眼に亀裂が走り、パリン、と透明な音を立てて魔眼が砕け散った。
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