スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

カルデアの善き人々―塔―24

ここに眠るのは、世界から選ばれたマスター適正者たち。自分よりも世界に必要とされた人間たち。

その人間たちの命を、自分が握っている。
自分のミス1つで、彼らの命は無くなるのだ。


だからこそ。
「失敗なんて許さない」と。
「お前ごときに自分の人生を終わらせられるなどごめんだ」と。


などと。
そう責め立てる声が、目が、手が、自分にかけられている、自分に向けれている、自分に伸ばされている。耳を犯し、目を焼き、首を絞める。

「………は、」

そう、自分は勝手に感じていたのだ。
皆眠っていて、自分をみることも、自分と話すことも、自分に触れることもできないというのに。

「………自信がないにも…自虐にも程があるだろう、俺」
乾いた笑いが口からこぼれる。
あぁなんだ。結局、これは自分だけに出来ない仕事だなどと言い聞かせながら、自分の存在証明だと思っておきながら、そうしておきながら、この仕事を重荷に感じていたのか。
彼はゆったりと、身体を起こした。ぐるぐると首を回し、再び壁に身体を預ける。一番手近にあったカプセルに手を伸ばし、そっ、と触れた。
「…………話すことの出来ない君たちと話すことが、憩いの時間であったことは、嘘じゃないんだ、いや、それはそれでどうなんだって感じかもしれないけど……」
つつ、と手を滑らせれば、表面にうっすらとついていた霜が掌に吸い付き、体温を奪いながら水滴になる。ひり、と痛むそれを気に止めずに、彼は拳を握りしめた。
「………あぁ、でも、俺は怖い…怖かったんだ。君たちを死なせることが…。だって俺は、きっと君たちよりも価値がない。世界にとって必要じゃない。だから君たちが死んで俺が生き残るなんてことが、俺の存在が君たちの死を招くなんてことがあっちゃあいけないんだ。だって、そうだろう?価値のないものより、価値のあるものが残るべきだ」
贖罪のように、言い訳のように。そんな整理もついていない言葉の羅列が口からこぼれる。
「……だから。だから本当は君たちの世話なんて……そんな大事なことなんて、俺は背負いたくなかったんだ……。……ははっ、無責任な餓鬼かよ…」
彼は自嘲気味に声をあげて笑い、ごつん、と額をコフィンに当てた。

頭では理解している。
きっと自分がもっと力のない者だったとしても、この仕事は自分に任されたろうことを。
確かに多少の信頼はあったとしても、選択肢のない問題であったのだろうことを。

それだけカルデアには人材がない。人がいない。

自分の無力さを、言い訳にすることは許されない。

「…………………」
彼は、固く目を閉じた。
自覚してしまったら、目の前に並ぶコフィンがとたんに恐ろしいものに思えてくる。
「…でも」
ーーー俺はあんたを殺してでも仕事をするだけだ!!
啖呵を切ったあの言葉だって、嘘ではない。確かに、嘘ではないのだ。
「………でも、それでも、俺は………」

怖くても。
辛くても。
重すぎても。
それでも、自分が彼らを、背負うのだと。

彼は目を開き、ぐ、と顔をあげた。
<<prev next>>