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神域第三大戦 カオス・ジェネシス87

「私にはその機会がないから想像も難しいんだけどさ、最期の時は穏やかであるのが望ましいもんなんじゃないの?文学作品とか見てると」
「!」
「とするとつまり君は、私が穏やかに死ねるように黙っていよう、と?君の行方が知れない状態で、私が穏やかに死ねるとでも思っているのか?」
「うぇっ?」
もそもそと鞄の中身を整理しながら話していた凪子は、静かなリンドウの声に驚いたように顔をあげた。驚いた凪子の反応にリンドウは顔をしかめ、はぁ、と呆れたようにため息をついた。
そして直後、ぎろりと凪子を睨み据えると、持っていた杖で思いきり凪子の頭部を殴打した。キャンッ、と凪子は悲鳴をあげて頭を抱え込む。
「いったいがな!!」
「……死を悟った間の時間を想像することすら難しいと言った君に理解してほしいと願うことがおこがましく、間違っているのかもしれない、が!!君は…ッ、私がそんな、薄情な人間か、あるいは、淡白な人間だと思っていたのかい」
「へ??薄情?淡白??何が??」
怒っているよな、悲しんでいるような、自分にあきれているような、色々な感情が入り交じった表情で切々とそう訴えたリンドウに、凪子は混乱から目を白黒とさせた。
凪子はリンドウをこれ以上ないお人好しだとは思っても、薄情だとか淡白だとか思ったことはなかったからだ。
「その…リンドウさんは、凪子さんの安否が分からない状態で穏やかに死ねるほど、つまり安否が分からないことが不安や心配であることはない、というような人間ではない、と仰りたいのではないでしょうか」
「ほ?」
「淡白、ってのも、それはそれって割りきれるようなタイプじゃないってことじゃないかな…」
「ま、つまり、無事を確認しないことには死んでも死にきれない、あんたのことをそんだけ大事に思ってる、ってことさ。あんたには伝わってなかったっぽいけどな?」
「えっ、あ、そういう!?そういう感じ!!」
凪子は三者三様の言葉に合点が言ったというようにぽんと手を叩いた。それから、つまり自分の発言がひどく無神経だったことに気が付き、再びポンと手を叩いた。
うろうろと手をさ迷わせたのち、凪子はリンドウの頭に手を置くとわしわしとリンドウの頭を撫でた。
「や、ごめん、そういう意図はなかったわ」
「………………いや、私も君に求めすぎた、すまない。とにかく、私は…この時代の君がちゃんと無事であることを確認しないことには、後悔を残して死ぬことになる。それは少し……嫌なんだ」
「…………そ、そうか。そうか……まぁ、うん、分かった。ちゃんとお前が死ぬ前に元に戻してつれてくる。…うん、私もお前の死に目に間に合わないのは、嫌だしな」
「!」
リンドウは凪子の言葉にはっと目を見開かせ、しばし凪子を見つめたのち、ふにゃ、と柔らかく笑んだ。そんな二人の様子に、マシュと藤丸にも安堵の表情が浮かんでいる。
「ぃよっし!話が脱線した、すまん。作戦会議といこうか」
「おお。しかし、どこにいるかも分からん相手だ、どう捕まえる?」
ぱっ、と凪子はリンドウから手を離すと、話題を切り替えた。待ってました、とヘクトールが壁に凭れていた身体を起こし、さっそく問いかける。
ふむ、と凪子は顎に手を当てた。
「ルーがバロールとどう対峙するか、にもよるが、バロールと一緒にいる可能性が高いだろうな。だったら深遠のを補足次第、捕まえて転移魔術で移動するのが手っ取り早いか」
『転移魔術?』
「お前さんらのレイシフトと構造は似たようなもんだ。別の場所にあるものと位相を交換したり、地面に書いた魔法陣を入り口と出口みたいに設定したり。あれだ、某ゲームの土管みたいな感じにだな」
「あぁなるほど」
「えっ分かるんですか先輩」
「それで転移先にヘクトールと藤丸ちゃん、マシュには待機しててもらって、移送後に叩く」
ざっくりとした立案に、ふむ、とヘクトールとダ・ヴィンチは二人とも小さく唸った。少しして、ヘクトールが発言の許可を求めるかのように手をあげた。
「だがあの宝石はどうする?攻撃で破壊するのは難しいんじゃねぇのか?」
『バロール直々の呪いが付与されているという要石のことかい?』
「あぁ、あれな。考えたんだけど…抉っちゃえばいいかなって」
「えぐっ………」
凪子がさらりと口にした言葉に、マシュと藤丸がピタリ、と固まったように動きを止めた。凪子がそちらを見れば二人の顔は青ざめている。
そんな二人の様子を察してか、ダ・ヴィンチが待った、と声をかけてくる。
『話によればそれは心臓部と四肢に埋め込まれているのだろう?四肢は、まぁ、ともかくとして、心臓部はそういうわけにはいかないだろう』
「いや…」
『リンドウ?』
凪子が何かを言う前にリンドウが否定の言葉を返したので、ダ・ヴィンチは驚いたようにリンドウを見た。リンドウはその視線に、疲れたように両手をあげる。
「彼女はそれくらいで死なないよ。大体、中身が人間と同じなのかも怪しいものだし」
「あー…いや、一応内部構造は形は一緒だから心臓はあるぞ」
「っ、なら、」
「心臓ごと抉り出したとしても死なないから気にするなって〜」
「いくらなんでもそれは…」
「死なないの。確かなの。やったことあるんだから」
「!?」
さすがに核を取り出すようなことをしてしまえば死ぬのではないか。
そういう不安を見せるマシュ達に凪子が言い放った言葉は、その場の一気に凍りつかせた。
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