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神域第三大戦 カオス・ジェネシス62

「…………まァ、バロールの視線から助けられたのは事実だ。それに免じて、1つ教えてやろう」
「おっ?」
凪子はがばちょと体を起こした。タラニスは、ぴ、と一本指を立てた。
「ここが上塗りされたテクスチャの中ということは、オレとルーが観測できなくなっているはずだ。なら、その内権限を持ってるレベルの奴がここに来る。交渉事はそちらにしろ」
「………それ私敵対勢力と見なされません??」
「さァな。それは知らん」
「ひっでぇの」
凪子は呆れたようにそう言い、だがすぐに表情を引き締めた。
今までのルーとタラニスの反応や現状から見て、敵対勢力と見なされる可能性は高い。タラニスが判断権を持つ、と断言したことは、ルーと同等の神格をもつものだと容易に想像できる。それは、簡単な相手ではない。
「まぁ、マシュ、警戒しときな。藤丸ちゃんの護衛は君が多分最適だ。とりあえずお出迎えの用意はしといた方がいいかな…」
「は、はい!」
「………タラニスよ。個人的に、貴方に聞きたいことがある」
「なんだ」
タラニスの仲間がここに来る、という情報を得た凪子がわちゃわちゃと動き出したのに対し、クー・フーリンは迷った様子を見せながらもそう口を開いていた。凪子はちら、と彼を見たが、準備を優先させたか、すぐに視線をそらしヘクトールと子ギルのもとへと向かった。
クー・フーリンは、じ、とタラニスを見据えた。
「…ルーは……我が父なりし光神は、その、」
「あぁ、そういうことか。お前が死んだ後、アイツがお前に関して言及したのは1つだけだ」
「え、」
「”人間にとっては英雄であっただろう。だが所詮、死に急ぎの親不孝ものでしかない“とな」
「…ッ」
クー・フーリンは、タラニスの言葉に息を呑んだ。タラニスは視線をルーに落とし、ふっ、と薄く笑った。
「ま、我が御霊が果たして親であったのか、親を名乗れる立場であるのかと言うと、また怪しい話だがな。所詮御霊は神で、貴様は半分混じっているとはいえ人間だ。同じようには生きられないし、口出しすることでもない。だがまぁ、わざわざコノートとの戦いの時に手出しをした程度だ。種の保存だなんだの、そういうのを期待はしていなかっただろうが、早死にも確かに望んではいなかったんじゃねぇのか」
「…………………」
「どうせ我らと貴様では価値観が異なる。ルーが貴様の生きざまをどう思うかなんぞを気にするなら、はじめから人として生きる道を選ぶなという話だし、ルーも選ばせなければよかっただけのことだろう。だが、そうさな。それでも気にするというのなら、ルーはお前が“人の英雄であること”は、特段望んでも期待もしていなかったろうよ」
「………………、そう、か」
静かにそう相槌を返したクー・フーリンに、タラニスはニヒルな笑みを浮かべた。その顔は楽しんでいるように見えた。実際楽しんでいるのだろう、顔には「似た者親子過ぎて滑稽すぎる」とでかでかと書いてある。
クック、と喉をならして笑ったタラニスは、ツンツン、と意識を取り戻さないルーの頬をつついた。
「我が御霊は万能ゆえに、情意面は世辞にも器用とは言えないからな。後は本人に聞け、殺されても知らないが」
「………分かった、感謝する」
「あ。おーい、深遠の」
「なにー???こっち頭使って、」
クー・フーリンとの対話を終え、ふ、と上を見上げたタラニスが凪子に話しかけた。遠回しに考えているから話しかけるなと言おうとした凪子に、タラニスは視線を落とし、指を上へと向けた。

「来たぞ」

「へっ」
さらり、と、隣人がお裾分けに来たぞとでも言うような気軽さでそう言ったタラニスに、凪子は思わず間抜けな声をあげる。他のサーヴァント陣にも緊張が走らなかったのは、そのあまりの軽さゆえにだろうか。
「いや、来たって、ここ固有結界―」
固有結界は世界に上塗りしているといっても、だからといって外部から容易く侵入できるようなものではない。
凪子がそう言おうとした瞬間、ピリッ、と乾いた音をさせてタラニスの上方に裂け目が走った。
「ッ!」
その裂け目はみるみるうちに広がり、にゅっ、と巨大な木のようなものがそこから姿を見せた。それはうろうろとさ迷うように揺れを見せた。
「あれは…?」
「まさか!全員離れろ!!!」
「!!」
ぽかん、とそれを見上げたヘクトールに対し、ある1つの可能性が浮かんだ凪子はとっさにそう怒鳴って隣にいたマシュと藤丸を引っ付かんでタラニスから距離をとるように後方へと跳んだ。
タラニスとの戦いの時の前例があるからか、ヘクトールは子ギルを伴って、クー・フーリンも素早く凪子の方へと飛びずさる。直後、その木が動きを止めたと思うと、ブォン、と風を切る音をたてて思いきり振り抜かれた。その勢いに神殿の床が抉れ、砂塵が舞い上がる。
「…ッ!ありゃなんだ、凪子!」
幸い、全員その射程からは離れていたので直撃を食らうことはなかった。クー・フーリンの問い掛けに、凪子は槍を前に構えつついつでも動けるように腰を落とした。
「多分あれはこん棒だ!ハイここでクイズです!ケルトの神でこん棒をもつ有名どころと言えば!?」
「クイズしてる場合か!?」
「どぅわ!?ま、ちょっ、待った、待たれよご賢老!!!」
「ンン!?」
凪子達がわいのわいのとしている内に、砂塵の中から慌てて制するようなタラニスの声が聞こえてきた。そしてタラニスの声に応えるような、もう1つの聞きなれない声がする。
舞い上がっていた砂塵はすぐに晴れて、その正体は明らかになることになる。
「…!?ハァ!!人間!人とな!?なんじゃあ、お主らを世界から見えなくさせるほどの力、誰だろうな〜血気盛んだったら嫌だな〜怖いな〜と思って来たら、人がおる!!」
「いやあの、ご賢老………」
「………稲川某かな??」
「ンッ、待って、考えないようにしてたのに、ンフッ」
「せ、先輩!?」
姿を見せたのは、どこか気の抜ける雰囲気をまとった赤毛の人影であった。
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