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神域第三大戦 カオス・ジェネシス64

「左様か。けったいなこともあるものよのう」
驚いたことに、ダグザもルーと同じように槍から情報を得ることができるらしい。こればかりは神の叡知というものなのだろうか。
凪子は、それでいて特に何も言ってこないダグザを訝しげに見上げた。立派な体格なダグザは、ルーやタラニスよりもはるかに大きいのだ。
「………、貴方は今、タラニスのお仲間のようなもんでしょう」
「ん?では問うが、アレは殺されたことを気にしたか?」
「………笑い飛ばしてましたけど」
「ならば儂がどうこう言う話ではなかろうよ。根本的に我らは介入されたこと以外に関しては不干渉だ。それくらいが“ちょうどいい”。お主も感覚としては分かっておるのではないか?」
「……………まぁ、そうね、否定はせんわ」
凪子は少し考えたのち、簡素にそう答えた。分かっているだろう、という言い回しからして、今の状況が凪子にとって“首を突っ込みすぎ”であることを見透かされている気がしたのだ。
ダグザは別名としてルアド・ロエサとも呼ばれ、それは知に富む偉大なる者、大いなる知恵の権力者という意味をもつという。こちらが多くを語らずとも、彼の神には簡単に把握されてしまうということなのだろう。
「して、交渉とは?」
「……彼女は藤丸立香。この時代よりざっと2000年ほど後の存在で、今彼女の時代の世界が焼却され、滅亡の危機に瀕している。その危機を回避するために彼女は時を越え、特異点と称される、過去の異常を正している。過去の異常を起こしているのが、世界を焼却した者の手によって各時代に送られた聖杯によるものであり、それを回収することが必要だからだ。この時代に来たのは、その活動の一貫だ」
「聖杯とな。いやはや、人の身に余ることじゃな」
ダグザはざっくりとした凪子の説明に、疑問を呈すことなく相槌を打った。化け物じみた理解力だ、と思いながらも、凪子は緊張した面持ちの藤丸を横目に話を続けた。
「ここでの異常は、ダグザ。あなた方とバロールの間に起きている戦争だ。私の記憶にそんなものはないからな。故に、彼女が元の世界に戻るため、世界を元に戻すためにはバロールを倒し、異常を起こしている原因を特定し、回収ないし破壊しなければならない」
「まるで此度の原因は聖杯ではない、といいたげだのう」
「下手人は所詮、人だ。聖杯も、人の身に余るものではあるが神をどうこうできるような代物ではない。事実、彼女が赴いた過去の特異点の異常は全て人間レベルの話だ。ここは色々と特殊なようでな、それを解説し出すと長くなるが…」
「まぁそれは今はよかろう。それで、きゃつを倒すために、同様に敵対している此方と手を結びたい、といったところか?」
「如何にも」
あっさりと理解を見せるダグザに、凪子もあっさりと言葉を返す。ダグザは、ううむ、と小さく唸る。難しい表情を浮かべている。
「……深遠の、お主はまだしも、人の身でどうこう出来る相手ではないぞ、あれは。そこらにいる人にあらざる者共であってもよ」
「だが戦わなければならない。彼女の手に余るというなら私だけでやる、多分その為に私は飛ばされたし、喚ばれた」
「っ、凪子さん!」
咎めるような藤丸の声に、凪子は深々とため息をついた。
どうあがいても彼女は“必要な犠牲”というものを聞き入れてくれないし、相容れられないらしい。
「君は私をここに連れてくることが役目だった、そう思え。適材適所ってものがあるんだ、あんまり頭悪いこと言わないで」
「でも…!」
「ははァ、ルーのような娘っ子じゃな。お主のような合理的な思考派には合わぬだろうな、だっははは!」
目の前で言い争いを始めた二人を厭うことなく、ダグザは楽しそうに笑い声をあげる。はぁ、と凪子はこの陽気な神にもため息をついた。
「笑い事じゃねぇんですよ、どんだけ肝を冷やしてると…ただでさえ有限の命の感覚掴みづらいのに……」
「はは、まぁ喧嘩はまた後にするがよい。いつの時代も喧騒は付き物であるし、お主らはぶつかり合うのがよかろうよ。だが今は、儂との交渉の時間だ。あとに回してくれるかの、お嬢ちゃん」
「え、あ、はい……すみません」
「しかし、断ったとてどうせ敵対することに代わりはないのだろう?して?お主らは儂に何を望み、何を為す?」
藤丸を宥めた後に、ダグザは本題を切り出してきた。凪子は、すぅ、と深く息を吸い込んだ。
「互いに、倒すための助力を。バロールはルーにしか倒せないとタラニスに聞いた。だから、そっちの私をこっちで受け持とうと提案していたところだ」
「成程。確かに、あれはルーにとっては厄介であるし、神ではないゆえにお主ら人間の方が相手がしやすいというのはあるかもしれんな」
「…神ゆえに、厄介と?」
「あれはきゃつがルーのために作り替えている、そりゃあ儂らには有利なように作られているってぇ訳よ。故にこそ人間対策はしとらんし、お主の尻拭いをせいということもできるわけじゃな」
「む…」
「何れにせよ、きゃつはルーにしか倒せぬ。お主らが倒さねばならぬという意思を持とうが持つまいが、そればかりはどうしようもない。だからお主の“助力”という提案は、実に分相応な提案だ」
「……そりゃどうも」
凪子はダグザのはっきりとしない返答の連続に、小さく言葉を返した。
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