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ちょっと話はそれるのだけれど改元だ

当ブログのお越しの皆様。

こんばんは、管理人です。
ブログ更新が相変わらず滞っていて申し訳ありません。多分、8月が過ぎたら少しペースは回復するんじゃないかな…と思います。
やらねばならぬことが多すぎて、現状息抜きでやるのがこのブログの執筆…というような状況になってしまっており…。
まぁ、長い目で付き合ってくださいますと幸いです。
1週間に一回は最低でも更新していくと思いますので、はい…。


さて、それはそれとして。
改元ですね。それも譲位による、崩御でない改元。
さんざんニュースやテレビでも話題になっていることだと思うので詳細は省きますが、いやぁ、改元ですね。
こうして記事をしたためている30分後にはもう違う改元となっている、と思うと、年越しそば的にそばをゆで始めてしまう気持ちも分かるような気がします。

それにしても、生きているうちに数世紀ぶりの上皇誕生に立ち会う機会があるとは思ってみませんでした。
上皇といいますとついつい院政の時代が頭をよぎりますが、今は関係のない話ですね。
かつて改元のおりに和歌集が作られたように、平成の終わりには平成の歌をまとめた歌合戦が開催されているとは、と比較して語られているかたもいました。

そう思うと、人間変わっているようで、変わっていない部分があるのかもしれないなぁ、という気分になってきますね。
あれですね、ユングのいう普遍的無意識ってやつでしょうか。
最近頭にいれた知識を使いたくなってしまうのはなんでしょうね、子どもなんですかね。

まぁ、何が言いたいかといいますと。
死ぬまでにもう一度経験するか分からない「改元」という行事に、平成の最後の日に昨日や明日と変わらぬ勉強だけで終わる日にするのはもったいないなぁ、と思い、折角なのでネットの海に瓶レターを流すがごとく、思ったことをブログにこうして雑談としてしたためさせていただいている次第です。


え?それより本編更新しろ??
すみません、明日には更新します。

元号はいらないんじゃないか、という話もありますね。
まぁ、一理はあるのでしょう。別に何か役に立つのか何かに必須なのかといいますと判子ぐらい微妙なところですしね。
ただ、伝統と歴史というものは利便性だけで消してしまうのは惜しいものではあるのではないかなぁ、と個人的には思う次第です。
悪しき伝統は変えてしかるべきとも思いますけどもね。こう、合理性だけで決めちゃうのは寂しいよね、というか。

新元号は「令和」ですね。
そして元号にしては初の日本の古典文学からの出典。今までの中国の古典文学からの引用から進化した、ともいえるのでしょうか。
そういう意味では、元号も確かに変化を迎えているのかな、とも思えますね。

人間なにかと変化していくもの。
いかにその変化を受け止めて、ポジティブに捉えられるか、楽しめるか、それが大事なのかなぁ、なんて、思ったりもします。


では、雑談もこのあたりにして。
平成の間、本ブログをご愛読くださりありがとうございました。
令和になりましても、更新のある限り、緩く、のんびりと、お付き合いいただけますと幸いです。


それではみなさま、良い夜を。


平成31年4月30日
神田來
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神域第三大戦 カオス・ジェネシス120

「………あ、あの、その………」
「………。ん、私に何か言いたいことあるのか」
ぴょんぴょんと片足で跳ねながら凪子が足を拾いに言ったところで、おずおずとマシュが深遠のに話しかけた。自分に話しかけてくると思わなかったのか、ワンテンポ遅れて深遠のは顔をあげた。
その表情は無表情で、何を考えているのかは読み取れない。
「あぁお前、まだ名前ないだろ。とりあえずこっちではルーの呼称に乗っ取って深遠のって呼んでるから、そう呼ばれたらお前のことだからな」
マシュが呼び掛けに迷った素振りを見せたことに目敏く気がついていた凪子はさりげなくそう言った。ぐるり、と深遠のは首を回して凪子を振り返る。
「しんえんの…???……というより、ルーってのは、あの光神のことか」
「そう。今共同陣営………味方になってる」
「カミサマなんて大嫌いだ。なんで味方なんてしてるんだ。お前、本当に私か?」
「まぁ疑う気持ちは分かる、それだけ嫌いだったしな。でもまぁ、色々あるのよ」
「いろいろ」
「んー、まぁマシュの話が終わったら話してやるよ、話しかけたのはマシュが先だろ」
「ましゅ」
二、三言葉を交わしたのち、深遠のはマシュに向き直った。じ、とマシュを見つめたのち、胡散臭そうに目を細める。
「……お前、人か?」
「!」
「まぁ、神じゃないならなんでもいいや。何」
「……その、リンドウさんのことです。リンドウさんは……もう…」
「………………」
すっ、と。ただでさえなかった深遠のの表情がさらに消えたように感じられた。深遠のはじろ、とマシュを見据えた後、ぷいとそっぽを向いた。
聞きたくない、とでも言いたげな態度だ。
「…あなたは、凪子さんと一緒に行くのではなくて、私たちと一緒に戻った方が、」
「急になに?」
「え?」
「ぽっと出のお前になんの関係があるの」
「………それは………」
あまりに鋭い棘のある深遠のの言葉にマシュは驚いたのちに、返答に言い淀む。
困っているらしいマシュの様子に、足をつけ終えた凪子は鞄から石の原石を取り出しながら視線をそちらへ向けた。
「なんか当たり前のように話しかけてくるから答えちゃったけどさ、お前らそもそも何なのさ?そこの同じ顔の奴がどうやら私自身らしい、というのは本当らしいと分かるけど、お前たちは何??あの死神となんで敵対してんのか知らないし興味もないから説明とか要らないけど」
「え、ええっと……」
「というか、あいつ巻き込んでないだろうな?」
「悪い、巻き込まれに来たから巻き込んでる」
「あ゛ぁ゛!?」
ずけずけと飛ばされる言葉にマシュが戸惑っているうちに、かけられた問いに代わりに凪子が答える。リンドウを巻き込んだ、と答えるその言葉に、深遠のの敵意は凪子に向いた。
強く睨み付ける視線に、何やら片手で工作している凪子は視線だけ向け返す。
「……おまえ、私なんだろう」
「私らが思ってるより、あいつも私らのこと思ってくれてたってこった。…この時代の私…つまりお前だ、お前の安否が分からん内には死んでも死にきれないとか言われたら、断れんだろう」
「……………ぐぬ」
「…それに、そもそも私が喚び出されてんのはお前がバロール負けたからだ。そこんところは実力不足を諦めろ。心配せんでも、リンドウに害は及ばないように手は打ってある」
「…………………チッ。あいつみたいな言い回ししやがって」
「へへー」
「…………順応性が高いんだか低いんだか…」
ぎすぎすとしたマシュとの会話とは一転して、兄弟のように凪子と会話を交わす深遠のに、ヘクトールはどこか疲れたように呟いた。
見知らぬ人間が親密に話しかけてくることよりも、未来の自分だと名乗る自分と同じ顔のなにかの方がよほど警戒するべきものだろうに。どうやら深遠のはそうではないらしい。
そうこうしている内に、宝石と鞄に入っていたトラップを作ったときのあまりの木材やらなんやらで義手のような物を凪子は作り上げた。肩との接触面にあたる部分に球体間接のように丸い宝石を取り付けると凪子はおもむろにそれを肩の傷口に突っ込んだ。
「わっ…」
ぐちゅり、と、鈍い音をたてて肉に沈んだ様子に、藤丸は痛みを想像してしまったのか、ひきつった声をあげる。凪子はグリグリと押し付けてそれを安定させると満足げに頷き、パチン、と指をならした。
それが魔術のトリガーだったのか、宝石を軸として魔法陣が展開すると、木で出来た簡素な義手は肉をもち、あっという間に普通の腕と遜色ない様子に形作られた。器用なものだ。
「…よし、まぁこんなもんだろ。で、マシュはお前さんがリベンジに行く前にリンドウに会っといた方がいいんじゃない?と心配してくれてるわけだが、どうする?」
「…あいつのところには、全て終わらせてから行く」
「と、いうわけだ」
「でも、凪子さん…!」
「そう心配せんでも今日中に決着はつく。バロールとの戦いは持久戦じゃないんだからさ。だとしたら、私の時より早く終わるくらいだぜ」
「…………っ!」
―別れの時間は私よりもある。
暗にそう言った凪子に、マシュはくしゃりと顔を歪めた。凪子は困ったように肩を竦めながら、バロールの領地のある方向へと視線を向ける。
「……それに、それなりの時間が経過しているのに向こうから何の音沙汰もない、ってのが気になる。緊急通信も入ってないってことは膠着状態にあるってことだ。なら、あんまり芳しくないだろ。戦力はあるに越したことはない」
「…っ。分かりました…」
「あの…っ気を付けて!必要があればすぐに行くから、」
「カルデアスタッフの心労のためにも、そんな事態がないことを祈るけれどもね!よっしゃ、お前さん、動けるな?」
「当たり前だ」
「なら行くぞ、ついてこい。ヘクトール!帰路はくれぐれも気を付けてな!!」
「はいよ」
簡素に今後の確認と別れを告げた凪子は、深遠のについてくるように指示をすると、ルーと合流するべく勢い良く地面を蹴って走り出した。
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神域第三大戦 カオス・ジェネシス119

深遠のは声をあげたヘクトールに、きょとんと視線を向ける。その顔は凪子と全く同じだが、随分と幼さを感じさせる。
「誰」
「そ、そこから!?」
「前に一度会ったのは覚えてるか?」
「…………んー、なんとなく」
深遠のは凪子の言葉にぼんやりとした言葉を返す。支配されていた期間のことは一切覚えていない、というわけでもないらしい。
「とりあえず、彼らはカルデア。目的は何でか生き返ってるバロールという、異変の原因追求と解決だ」
「……そうだ、バロール殺しにいったんだ私は、あいつまだ生きてるのか」
「生きてて今ルーと交戦中。あ、ちなみに詳細は省くが結論だけ言うと、バロールが生きようが死のうがリンドウは死ぬ」
「!!!」
「凪子さん!!」
凪子が遠慮なしに投げた言葉に深遠のは限界まで瞳を見開いて凪子を睨み、マシュは慌てたように声をあげた。凪子がリンドウに対しどう思っているのか、全く分からないということはないとマシュは、いや彼女たちは理解していた。だからこそ、凪子の言葉はあまりに配慮を欠いた言葉に聞こえたのだろう。事実、深遠のからは先程の“外敵”に向けられていたのと同様の殺気が放たれている。
だが凪子はそんな深遠のの視線も、マシュの言葉も、気にする様子は見せなかった。
「お前のは悪足掻きだ。運命だとか、そういうんじゃなくてな。人間の身体はもたないのよ。私らと違って」
「………っ……………」
「本来ならウン百年かけて気付いたことだが、敢えて言葉にしようか、今お前と敵対している暇はないからな。人間の時間は有限で、肉体がもたないんだ。だからな、死を司る神様殺しても、無意味なんだ」
どこから出したのか、凪子は煙草を口にくわえていた。凪子が喫煙したことなど今までなかったので、藤丸は僅かにたじろいでいたが、凪子は気にせず自家製の煙草に火をつけた。
「……………………いやだ」
「嫌だろうな。認められないだろうな。さっきも言った通り、私も認めるのにウン百年かかった。……だけど、“人間の”リンドウはその肉体の限界を越えられない。お前がリンドウが人間じゃなくなっても良い、っていうなら、方法はなくはないけど」
「!おい凪子、それは、」
「でもお前、それも嫌だろ。だって、リンドウは、人間であることに誇りを持ってるもんな。…そんで私らは、そんなリンドウを踏みにじれない程度にはリンドウのこと、大事だし、好きなんだよなぁ」
「……………………」
深遠のは何も言わない。だが、向けられていた殺気はしゅるしゅると風船なしぼむように弱くなっていく。
凪子の言葉は深遠のに向けているようで、その実自分にも向けられているように感じられた。その声音はどこか他人事のように冷たいが、自虐的な悲観の色も混じっていた。

そうだ。
今の凪子ならば、2000年分の知恵を得ている凪子ならば、リンドウを死なぬものに作り変えてしまうことも不可能ではないのだ。あの時叶わなかった、かつて叶わなかったリンドウを死なせたくないという願いを叶えることが、今の凪子には出来る。

だが凪子はその道を塞いだ。それは我が儘だからだ。
ーー君は神々によって運命に捉われていない。この世界に捉われることがない。そうであるならば、君に我々の絶望と、それ故に我々が得ることのできる“限りある栄光”を理解できることはないーー
もう薄れかけた記憶の中で、彼はそれを残念そうに、だがどこかで誇らしそうに、凪子に告げていた。彼は人間であることに意味を見いだし、誇りを持ち、そうして死んでいったのだ。為すべきことをなし、果たすべきことを果たして死んだのだ。
深遠のは答えないが、恐らく彼女も塞ぐだろうことを凪子は予見していた。

だって、そんなリンドウが凪子は好きなのだ。大事なのだ。きっと、愛しているのだ。その愛が博愛か情愛か何てのは、性なぞないようなものである凪子にとってはどうでも良い。

「………………私は、馬鹿だ」
「ほん?」
「なのに妙にお前の言葉は入る。認めたくないのに認めてしまう。なんだお前」
ドサッ、と、深遠のは腰をおとして座り込んだ。ぐしゃり、と前髪を手で覆い、その表情はうかがえない。
ふぅ、と、凪子は煙を吐き出した。
「まぁ私は老けたお前だからな。自分がどういう言葉なら納得してしまうか、何てのは大体分かる」
「……大体分かる。お前の言葉は、大体分かる。リンドウが…望んでないのも分かる。……でも」
「でも」
「……………寂しくないのか」
「寂しいよ」
間髪いれずに返された肯定の言葉には、マシュや藤丸の方が驚いた表情を浮かべていた。凪子は再び、煙草を口にくわえて軽く噛む。
「けど、寂しく思うことにも飽きた」
「…………………」
「その辺はお前が追々経験して乗り越えていくことだ。とりあえず、乗り越えはするから安心しとけ。乗り越えられなかったところで逃げる場所もないけど」
「…………」
「そういう訳で、私はこれから足と腕を治したらルーと合流する。お前はどうする?そうは言ってもとりあえずちゃんと殺してみる?死神」
「…………、バロールには勝手に身体を使われた恨みがある、弁償はしてもらいに行く。お前らが殺さないなら殺す」
「了解。じゃ、ヘクトール、藤丸ちゃんらつれて先にリンドウの森に戻っててくれ。そこのが安全だ」
「………あぁ………」
ヘクトールは深遠のと凪子を代わる代わる見ながら、思ったよりも重い話になった会話の内容に曖昧に答を返すばかりだった。
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神域第三大戦 カオス・ジェネシス118

「…………なっ…………」
――次いで漏れた声は、支配主の最後の驚愕の声だった。
ばちり、と開かれた深遠のの瞳は橙色に光り、捻られた腕をさらに捻り、ヘクトールの槍の刃で無理矢理左手をねじきった。千切れた掌にあった要石が身体から離れ、霧散する。
「最後の要石が…!」
そう呟いた藤丸の声は僅かに震えていた。最後の要石の破壊は深遠のによるものと見なされたらしく、凪子の腕同様に緑色の紋章が走り、左腕は石化したかと思えばもろく崩れ落ちた。凪子と違うのは、その左腕が一瞬で蘇生したことだ。たとえ呪いによる破壊であろうと、一切の阻害はない、ということらしい。
「…それはそれで………」
「…う、ああ、あ、ああああガアアアアアアッッ!!」
ポツリ、と呟いたヘクトールの言葉は、ぐ、と身体を屈め、そうして何かを開放するかのように叫びあげた深遠のの声にかき消された。狼の遠吠えのように顔をのけぞらせ、空に向かって吼える深遠のの姿に、思わずヘクトールは凪子を抱えたまま後ずさった。
「あだっ」
ヘクトールはそのままマシュの後ろに凪子を投げ入れると、万が一に備えてマシュの隣で槍を構えた。それだけの気迫がそこにはあったのだ。投げ入れられた凪子は衝撃に間の抜けた声をあげるばかりで、目の前で獣のごとく咆哮している自分の姿には何も感じていないかのようだ。
「だ、大丈夫ですか?!凪子さんも、えっと、」
「あーいってェ……足はともかく腕どうっすっかな……粘土かなんかで作るか……ん?あぁ、別に平気でしょ、私もあっちも」
ぶつぶつと呟きながら自分の身体の様子を伺っていた凪子は、慌てた藤丸の声に少し遅れて気がつき、そして呑気にそう返した。とてもそうとは思えないヘクトールとマシュは思わず一瞬、凪子を振り返る。
「し、しかし…!」
「言ったろ、神様大キライだって。あれの正体がなんであれ、神様だと名乗ったんなら神様と見なすしかないじゃん?なら、嫌いなものだ。バロールは言わずもがな」
「や、あの、」
「だからね、多分もう大丈夫よ」
「アアアアア、うぅらぁぁあああっ!!出てけっ!!!!」
もう大丈夫、そう凪子が言った直後に、吼えていた深遠のはそう高らかに叫び捨て、頭突きでもするかのように、己の頭を投げ飛ばすがごとく、仰け反らせていた身体を勢いよく振り下ろした。
その振り下ろしには多少の魔力も含まれていたのか、衝撃波が三重に広がり、その衝撃波に地面がはぜた辺りで半透明の靄のようなものが深遠のの身体から飛び出した。
『なっ…馬鹿な……!!』
その靄からは、信じられない、と言いたげな声が響く。どうやら先程まで深遠のの肉体を乗っ取っていた外なる神が追い出されたらしい。バロールの支配から逃れるための要石の破壊が、もう一つ身体に宿っていた神格を追い出す手助けとなったことには、どうやら気が付いてはいないようだ。
ぎょん、と音がしそうな勢いで再び身体を起こした深遠のは、自分を乗っ取っていたものの姿を見止めると、ぐ、と拳を作った。直後、橙色の魔力が拳にまとわりつき、渦を作る。
「死にさらせ、くそボケがっ!!!!」
『なぁっ!?』
深遠のは憎しみのこもった声でそう吐き捨てると、凄まじい勢いで地面を蹴り、一息に靄との間合いを詰めるとその跳躍の勢いのまま拳を振り抜いた。即座に攻撃に転じると思っていなかったのか、半透明で実体のない自分に攻撃が通ると思っていなかったのか、靄はもろにその攻撃をくらい、そのまま空中に霧散して消えた。
恐らく本体ではないのだろう。仮にもバロールを復活させたのだ、さすがにそこまで弱い相手でははずだ。
「………はぁ…………」
今まで自分達が相対していた敵が分離したと思えば、瞬く間に片方を消滅させられてしまったので、ヘクトールは槍を構えたままぽかんとした間の抜けた声をあげるしかなかった。その声に藤丸とマシュははっと我に変える。
「………か、勝ったんでしょうか?」
「あのエイリアンは一先ずあれの中からいなくなったし、バロールの支配も要石は破壊したからもう逃れてる。というか、3個壊した時点で弾ける程度にはなってたはずだ」
「…………頃合いってのはまさか、支配に抗って身体を取り戻せる頃合いってことか?…だから左手も、」
「そういうこった」
あれやこれやと凪子達が言い合っているうちに、振り抜いた腕をそのままに止まっていた深遠のはようやく身体を起こした。ぱっぱっ、と身体についた土やら何やらを払い、ボサボサになった髪の毛も気持ち程度に整える。
そうして凪子達を振り返った深遠のの瞳は、凪子と同じ、黄金色をしていた。
「……あの…………」
じ、と見つめるばかりで何も言わない深遠のに、恐る恐るといった様子で藤丸が声をかけた。深遠のは藤丸を見、マシュを見、ヘクトールを見、そしてヘクトールの肩を借りて身体を起こした凪子を見、僅かに驚いたように目を見開いた。
「………………なんかめっちゃ似てる奴がおる」
「おお、似てるも何も2000年後のお前だからな」
「ふーん」
「ふーんて…」
驚きもせずに凪子の言葉を聞く深遠のに、ヘクトールは思わずぼやく。深遠のはぼりぼり、と頭をかきながら、じっ、と凪子を見た。
「…………まぁ、お前が私ならちょっと聞いてみたいんだけどさ」
「おぉん?」
「この格好、趣味悪いと思わない??」
「めっちゃ悪い!!」
「だよなぁ!」
「開口一番聞くことそれか!?」
ついに、ヘクトールは突っ込んだ。
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神域第三大戦 カオス・ジェネシス117

「…………!」
「おまっ…!」
凪子の顔は苛立ちに、ヘクトールの顔は焦りに歪む。かつて泉でリンドウにもがれた腕よろしく、魔術を酷使しすぎた影響だろうか。
片足をなくしたことでバランスを崩してよろめいた凪子を、後ろにいたままだったヘクトールが慌てて支えた。凪子の脇にそれぞれ腕を通し、そのまま凪子の腕を自分の腕に引っ掻けるようにして持ち上げながら、ヘクトールは槍を構え直す。凪子を抱き抱えているような状況だ。
そんなヘクトールを見た相手は目を丸くしたあと、声をあげて笑いだした。
「は、はは、正気かい!?いやぁ、仮にも六つの特異点を越えてきたカルデアだ、さぞ面白い戦略を見せてくれるのだろうと期待していたけれど、まさかそんな方向にいくとはね!」
「……っ」
「なぁ、聞かせておくれよ、槍の戦士。君はどうしてわざわざ、足手まといを抱え込むような真似を??」
倒れた凪子を後ろにおいやるでもなく、見捨てるでもなく、敢えて正面に抱え込んだ選択が相手には大層滑稽な選択に見えたようだ。ヘクトールも多少、そうした自覚はあるのか、自嘲気味な笑みをへらりと浮かべた。
「さぁて、ねェ。マスターの悪癖が移ったかね」
「ヘク………ランサー、」
「ま、なぁんて、マスターのせいにするのはおいといて。存外俺は、こいつの吐く言葉は信用してるってことさ」
「!」
「言葉?……あぁ、頃合いという奴かい??確かに、わざわざあんな風に言い出すほどだ、何かこの現状を打破することが起きると言いたいのだろうよ。僕だってそう思う。だけれど、それがはったりでないと?」
「そこんところを判断するのは俺さ」
嘲笑うように、追い詰めるように重なる相手の言葉に、しかしヘクトールはのらりくらりとそれをかわす。
お前の言うことなぞ、これっぽっちも自分の考えを揺るがすようなものではない。
暗にそう語るヘクトールに、相手はつまらなそうに肩を竦めた。
「…ま、カルデアの始末はついでと言えばついでだったんだけど。死に急ぐなら仕方ないよねぇ?」
「(…………ついで……)」
「――――それじゃあ、さようなら」
「…っ」
ぞわり、と殺気を纏わせた相手に、僅かにヘクトールがたじろいだとき。

凪子が待っていた、頃合いの時が来た。

「…ランサー、槍放して私に寄越せ!」
「!?」
凪子が真っ直ぐに相手を見据えながら、そして持っていた自分の槍を手放して放った言葉に、ヘクトールは一瞬躊躇いを見せたのちに、凪子に槍を手渡した。そのままヘクトールはフリーになった両腕で凪子をしっかりと抱き抱えた。己が足になる、という事なのだろう。
そんな二人のように相手は鼻をならし、真っ直ぐに突っ込んで来る。凪子はヘクトールの槍をしっかりと握ると、だが緩やかに穂先を相手へ向けるのみだった。
「凪子さ――――」
言葉のわりに消極的な動きしか見せない凪子に、マシュが焦った声をあげたときだ。
手刀を真っ直ぐにヘクトールの首へと向けた相手の攻撃は――

――そのまま、自然な動きで真っ直ぐ槍の穂先へと突き刺さった。

「…………は?」
少し遅れて、槍に手を貫かれた、いや、槍に手を“貫かせた”相手が困惑の声をあげた。要石と肉との間でギチギチと槍は鈍い音をたてる。
その光景は、まるで自殺するかのように自ら手を槍に突き立てたようにしか見えなかった。その様には、ヘクトールでさえ戸惑った様子を浮かべている。
そうなることが分かっていた凪子はぐるりと槍を回して相手の腕をねじあげ、その隙に片方の手を相手の胸元へと突き立てた。
「っ!」
「心臓、もらった!!」
びちゃり、と鈍い音を立てて、心臓に到達する形で埋まり込んでいた要石を引き抜いた。心臓が抜かれたことで相手の身体が大きく揺らぎ、要石も砕け散った。
それと同時に要石を引き抜いた左腕に緑色の亀裂が走り、呪いが発動すると同時に弾けとんだ。
「づうぅっ…!」
「おい、一体何が!なんであいつは、」
「……なんだ、何が起きた?身体が勝手に動いた…!?」
腕が爆散した痛みにさすがに眉間を寄せた凪子の耳に、混乱した様子のヘクトールと相手の声が飛び込んできた。とりわけ、完全に支配しているはずの身体が勝手に動いたことに、相手は大層混乱しているようだ。
凪子はもげた腕の傷口をひとまず手で押さえながら、億劫そうに相手へと目をやった。
「………そう、お前は知らんだろうし、今とルーと私の様子を見てると分からんだろうけどね」
「!?」
「その時分の、私はな」

「神様って奴が、大っ嫌いなんだ…!」

―――その言葉は、乗っ取られているはずの深遠のの口から漏れた。
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