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神域第三大戦 カオス・ジェネシス76

ルーは首を戻し、じと、と凪子を見据えた。
「で?わざわざこの呪いを解いたということは、また何ぞの要求があるのだろう。奴との戦いに同行させろ、というのは容認しかねるぞ」
「あら。相変わらず察しがいいな」
「そこまでして同行を求めるのは…殺されても困るということか?」
ルーの言葉に、凪子はザブン、と泉に身体を戻した。
「殺していいのかも正直分からない、と。原因の特定と排除がこちらの目的だ。何らかの異常を巻き起こした元凶…ここではまず間違いなく、バロールを復活させたものが元凶だ。それを排除する上でバロールの生存が必要であるならば、少なくともそれまではバロールに生きていてもらわないといけない」
「おい、凪子、」
「改めて、こいつの察しのよさ…推察力と洞察力は化け物級だ。そんなのに対して器用に嘘つけるやつ、ランサーくらいしかいないだろ」
「…成程な。バロールの復活は単なる蘇生ではなく、何か別の陰謀が影にあるということか。薄々そんな気はしていたが……それも、人間が未来から時間を遡行してまで解決しなければならないことか」
「まぁた一人なんか納得してやがる」
ぶつぶつと何かを呟くルーに、凪子はつんつんとルーの鼻をつついた。ルーは鬱陶しそうにその手を払い、僅かに身体を起こした。
「………それで、原因の特定に協力しろ、と?」
「…そうさな。特定するにしろしないにしろ、バロールに近寄らないことには話にならない。お前の協力を得られるのなら、これほど頼もしいことはないな」
「はっきりしない言い方だな。…深遠なる内のもの、貴様は知らないことが多すぎる」
ぐい、とルーが身を乗りだし、凪子の顔をがしりと掴んで引き寄せた。そう来ると予想していなかった凪子はあっさりと捕まり、水飛沫をたててバランスを少し崩しながらも、驚いたようにその目を見返した。
鋭い視線をルーは凪子に向けた。
「無知は時として罪だぞ。貴様が少なからずあの人間の命に責任を覚えるというのならば殊更だ、貴様はまず知ることから始めるべきだ」
「お、おおうん、久方ぶりに説教受けたぁん…」
凪子は思わぬルーの強い言葉にたじたじと腰を引いた。ルーは、ぺっ、と凪子を掴んでいた手を離すと、凪子に向かいに座るように指差した。
なにやら話すことがあるらしい。凪子も思わず素直にいずまいを正した。
「…何を知れと??」
「此度の件。いくつか確認しておきたいことがある。貴様は未来から来たのか、平行世界から来たのか?」
「…それは確認しないといえないことだが……後者の可能性の方が高い、かな」
「………そうか。神を縛る鎖を持った童は貴様らがつれてきたのではない仲間であったようだが、あれはなんだ」
「サーヴァントの説明はいらないな?よし、あれは現地サーヴァント、はぐれサーヴァントっていうもんで、特異点の現地でしばしば自然的に召喚されているらしい。おそらく人理の守護を目的とするアラヤ、という集合無意識が喚んだものだと考えられる」
「アラヤ…………」
ルーは口元に手を添えて、ぽつり、と小さく呟いた。凪子は小さくうなずく。
「この星には抑止力というものが存在してな。星の存続のために力を振るうのがガイア、人類の存続のために力を振るうのがアラヤだ、と言われている。いかんせん集合無意識だからな、実存を観察するのは難しい」
「……いや、いい。大体合点がいった、ならばこちらも貴様に話しても構わないだろう」
「………?何を?」
ルーは口から手を離すと、すぅ、と目を細め、凪子を見つめた。いやに真剣な空気を出したルーに、凪子はふ、と表情を消した。

「貴様の正体についてだ、春風凪子」

「―――――っ」
ルーの言葉に、凪子は息を呑んで硬直した。これにはダグザも驚きの表情を浮かべている。クー・フーリンには何がそこまで驚くことだったのかと実感は持ち得なかったが、それが異常な事態であることは察せられた。
しばしば凪子は硬直したのち、ぞわり、と毛を逆立たせた。直後、凪子はルーに勢いよく掴みかかった。勢いよく水が波打つ。
「お前………知ってたのか…知ってて黙ってたのか!?」
「おい、深遠の!」
「いや、知らない。これから語るのは全て推測だ。だが貴様の言葉で私は語ることを許す程度には確信を持った」
「……ッ」
凪子はルーの言葉に、ぎり、と歯軋りし、やや乱暴にルーから手を離し、ざぶざぶと水をかきわけルーから距離をとった。ルーは掴みかかられた時に水を浴び、崩れた前髪をかきあげ、ふむ、と小さく呟いた。
「その様子を見るに、貴様は全く手がかりが掴めなかったということか。恐らくそれは貴様の不手際ではなく、そうなるように意図されていたのだろう」
「…………は、だから私には分からずともお前には分かるって?」
「私とて貴様の経験と今の話がなければ確信できぬ話だ」
「…………そうかよ。…で、なんでそんな話を今するんだ」
「貴様、この時代の貴様には会っただろう。その時、バロールの支配以外に、何か、みなかったか」
「…!…………あぁ」
「今回の件、妙にあれが出張っている。だというのにあれが貴様に何も語らぬ、というのはいささか腹が立つ。だから貴様も知っておけ、あくまで推測の域は出ないがな」
「………………」
凪子はしばらくルーを見据えたのち、ざぶん、と腰を下ろした。
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