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神域第三大戦 カオス・ジェネシス67

ダグザは面々の反応に、だがにやりと笑った。
「あれが何を思い、何を考えているのかなんぞ、然程重要ではないからのぉ。何せあやつは、外部に言わねばならぬことは全て言う者だからな。ルーめが話さぬと言うなら、まだ話すべきではないことか、どうでもよいことだ。気にするようなことではない」
「……大した信頼関係だな」
驚いたように凪子がそう言えば、ダグザははっは、と声をあげて笑う。
「そうでもなければ、儂がアレの下に付くことなどあるまいよ。そうであろう?」
「………まぁ、確かに」
凪子はダグザの言葉に僅かに目を伏せた。
ダグザは本来、トゥアハ・デ・ダナーンの最高神にあたる神だ。一方で、ルーはトゥアハ・デ・ダナーンの神族の一柱にすぎない。どちらも万能を誇り、四秘宝をそれぞれ所有しもする神ではあるが、ダグザの持つ棍棒は生と死の両方を持つ代物であり、その点からも本来ならばダグザがルーよりも上位の存在であることは伺い知れる。
だが、ルーとバロールの因縁の象徴であり、二人が対立したモイ・トゥラ第二の戦いにおいては、ダグザはルーの下についているように伺い知れる描写がある。
なぜダグザがルーの指示下にあったのかを凪子は知るよしもないし、きちんと調べたこともないが、この信頼関係が何かしら影響しているのだろうことは想像がついた。
「…っと、さて、話がそれたな。そちらのサーヴァントはこちらの申し出を歓迎しているようだけれど?どうする?」
「あぁ、そういえばそんな話じゃったな。おい、ええと、なんであったか」
「もしかしてもう名前忘れたのかい?!今名乗ったのに!?マーリンだってば!」
「あぁそうだそうだ。で、マーリンとやら。何故勧めた?」
凪子は一旦思考を止め、話を交渉へと戻した。ダグザも同様に思い出したようで、話を勧めたマーリンへと話を振った。名前を忘れられていたマーリンはげんなりしたようにダグザを見たが、肩を竦めた。
「なんてことはない、私はカルデアの活躍をずっと塔から見ていた。このマスターは素養がいい。運に恵まれる素養を持っているし、彼女の人間らしさが往々にして好転へと導いていた」
「ハン。お主が儂に受け入れを勧めるように、か?」
「おっと、そこまで考えていたわけではないのだけれどな。…それに余計なお世話かもしれないが、彼ら二柱の対処は事実、急を要するんじゃあないか?今我がマスターは特定の拠点を持たない身だ、一時的とはいえそれも提供してくれるというんだ、マスターが起きるまでなら破格の提案では?」
「む……」
「拠点がない?タラニスはトゥアハ・デ・ダナーンが揃っている訳じゃない、とは言っていたが、拠点もないとはどういうことだ?」
ダグザは凪子の追求に、面倒なことがばれたとでも言いたげな視線を凪子に向けたのち、ぼりぼりと頭をかいた。
「別にいないんじゃありゃせん。だが先にも言ったように、ルーしか相手が出来ないから、そもそもルーが助力を許さんかった。儂はそれを無視して助力しているだけだな。拠点もないのではなく、あの呪いのせいで戻れんというだけじゃ」
「ちょっと待て、単純に普通にヤバイ状況だろう!巻き込みたくないだのなんだの言ってる場合か!?アホかあいつは?!」
「な、凪子さん!?」
次々に明らかになるルーの状況に、凪子は思わずそう叫んだ。面前と罵倒したに近い凪子の言葉にマシュがぎょっとしたように叫ぶ。
ぴくり、とダグザが眉をあげ、不意に笑みを消した。
「…相変わらず遠慮がないのう貴様は。一体どの目線で語っとるんじゃ、お主は」
明らかに低くなった声色に、英霊であっても肩を跳ねさせた。
ダグザはずっと、“陽気なおじさん”という表現が似合うような朗らかさを見せていた。それが消え失せたとたん、こんなにも恐ろしく豹変するものであろうか。
畏怖という言葉をこれ以上なく体現するダグザを、しかし、凪子は怯みもせずに見返した。
「ルーは私の行く先を案じ、彼の象徴ともいえる槍を私にたくした。そんな風に“私を見た”存在は…それが出来た、そんな危篤な存在はな、私の生において我が友とルーくらいしかいないんだよお生憎様にな!」
「!!」
「神だの人間だの、私にとっちゃ等しく他者、異なる存在だ。その危機をうれうことに貴賤はない!尊厳を尊び優先するのはある種大事なことだし、私もそれで人間を見殺しにしたことは何度もある……。だけど悪いが、今バロールを唯一相手取れると分かったルーにプライドを理由に死なれるのは困るし、その為に私にできることをするために私はここにいる」
ダグザは凪子の一喝に、ぱちぱち、と瞬きを繰り返した。威勢よく言い返されると思っていなかったのか、驚きに満ちている。
「…………なんじゃお主、ルーを友とでも呼ぶつもりか?」
「そのつもりはないよ。ルーだってその気はないだろう。あれだ、腐れ縁ってやつが妥当だろ」
「………何故そこまでする?お主のいうように、お主は人間とも神とも関わりがない。お主をその状態にした正体とやらは儂には予想がつかんが、お主がそこまでする理由はなんじゃ?」
また、理由か。
凪子はそう思いながらも藤丸を見、ルーを見、そしてダグザを見て目を細めた。
「……別に。ただ…寂しいだろ、預かり知らないところで皆いなくなるのは」
「…!」
「それが顔馴染みならなおのことだ。私をカルデアに送り込んだのが誰かは知らないが、それでも私が積極的に関与することを私に許せる言い訳をくれた事には感謝している。なら、とことん関与してやると思っているだけだ」
「………孤独なやつじゃな、お主は」
ダグザはそう、タラニスと同じことを口にした。凪子は自嘲気味に肩をすくめる。
「どうしても理由がほしいというなら、ルーがこの槍を私にくれた恩返しをできないままルーには消えられたからな。その恩返しということにでもすればいいだろう、誰も死なせたくないというのも私がどうにかする。だから、」
「分かった分かった、儂の敗けだ。いいだろうお主の提案を受け入れる」
「!」
はぁー、とダグザはため息をつきながら、だが確かに了承の言葉を口にした。
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