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神域第三大戦 カオス・ジェネシス66

「それくらいなら、ルーが目覚めるまでの時間をもらう対価にはならないか?ま、可能であれば情報もいただきたいところだけれど」
「…対価と来たか。ううむ、そうさなァ」
「私はお勧めするけれどね。彼らはカルデアだろう?」
「!?」
唐突に、ダグザと凪子の会話に割り込む声があった。凪子が反射的に槍を構えて声のした方向へ向ければ、空間が歪み、そこから一人の男がひょっこり顔を出した。
ダグザは見知った男であったようで、お、と小さく声をあげた。
「やぁっと来たか。叩いた口の割には遅すぎやしないか?お主」
「いやぁ、むしろ軽々と他人の固有結界に侵入しないでくれたまえ。いくら私でも、夢には容易く入れても固有結界には早々入れないとも…」
「…は?サーヴァント?」
ダグザの言葉にぶつくさと文句を返すその人影に、クー・フーリンがはっとしたように口を開いた。凪子もクー・フーリンの言葉に目を丸くし、人影を改めて見直した。
透視してみれば、確かにそれがサーヴァントだと分かる。フードを被ったその男は、凪子の視線に気がつくと、にこり、と笑みを浮かべた。
「やぁ、こんにちは。私はマーリン。色々な事情があって召喚された、所謂はぐれのサーヴァントというやつだ」
「マーリン…?!マーリンとは、あのアーサー王物語のマーリンですか?!」
名乗りをあげたサーヴァントに、マシュが驚愕の声をあげる。凪子も、その名乗りには眉を潜めた。

アーサー王物語に一度でも触れたことがあれば、誰しもその名には聞き覚えがあるだろう。
マーリン。
アーサー王伝説に登場する宮廷魔術師にして、助言者、予言者。アーサー王の師であり、臣下であり、そして頭痛の種でもあった、伝説の魔術師だ。

その伝説の魔術師が、なぜかひょっこり姿を見せたのだ。驚くなというのが無理な話であろうし、何より凪子には気にかかることがあった。
「待てよ。英霊の座ってのは死者しか招かれない場所で、英霊は死者しかなれないものだろう。マーリン、ってのは、今でも生きて最果ての塔やら何やらにいるんじゃなかったか?夢魔との混血よ」
「おや、詳しいね。そうだとも!私は死んでいないし、英霊の座にもいない。色々な事情があって、と言っただろう?実際、私を英霊の枠に納めるのなら本来キャスタークラスなんだが、ルーラーだしね、今」
「る、ルーラー!?」
「…………そうか、ドルイドか」
「何?」
クラスはルーラーだ、と言われてマシュが目を丸くしているうちに、凪子はある仮説に思い至ったようで至って真剣な面持ちでそう呟いた。クー・フーリンが凪子の言葉に疑問を示せば、凪子は腕を組み、ぴっ、と指をマーリンに向けた。
「魔術師マーリンには、モデルが二人いるとされている。その内の一人が武将あるいはドルイドであるとされているからか、ドルイドの代表例としてマーリンの名が挙げられることがある」
「!そうなの?知らなかった…」
「ドルイドの枠に納められたとするなら、ルーラーのクラスも納得がいく。ドルイドというのは政治的、宗教的指導者であり、祭司でもあるからな。裁判の調停なんかも仕事の内だ、それは裁定者のクラスには妥当だろう」
「!成程…ええと、そうなんですか?マーリンさん」
納得したように頷いたマシュが慌てて確認をとれば、マーリンは楽しそうに何度か頷いた。
「うん、概ね間違いではないかな。正確には、私はこの時代のドルイドの身体を依り代に呼び出されているんだ。所謂疑似サーヴァントというやつだね。いやぁ、急に引っ張り出された感覚があったと思ったら目の前におっかない顔した神がいるんだから、さすがの私も肝が冷えた!一応のマスターを悪く言うのはあれだけれどね」
「おっかない顔…」
「ルーの奴じゃ。このほそっこい男はルーが連れて来おったからな」
「…待たれよご賢老、ということはルーは人間を仲間に率いれていたのか?」
―話を聞くに、マーリンはルーを仮のマスターとして顕現しているはぐれサーヴァントであるらしい。
タラニスも聞かされていなかったのか、驚いたようにダグザへと呼び掛けた。儂もよく知らんもん、と言いたげにダグザは両手をあげた。
凪子はマーリンの言葉に引っ掛かりを覚え、眉間を寄せた。
「…召喚されたら目の前にルーがいた、ってことは、ルーはお前さんが召喚されることを“知っていた”?」
「ん?まぁ…そうなんだろう、彼はすんなり私をサーヴァントにしてしまった。契約を交わした、というわけではないけれどね、英霊システムは人間の作ったものだから、彼にマスターという概念は当て嵌められない。私の依り代のドルイドから言い出したのか、あるいは彼がそうしたのか、私も知らないけれど」
「…………ルーは私を送り込んできた者の正体にも勘づいていた…。そしてサーヴァントを迷いなく従えた………ふぅん…………」
凪子はぶつぶつとそう呟きながら頭を巡らせた。凪子が密かに気になっていたこと、ルーに対して抱いている疑念、そういったものがうまく結び付きそうな気配がしていたのだ。
一方で、クー・フーリンははぁー、とため息をつき、がりがりと頭をかいた。
「…あー、話がややこしくなってきた。なぁ、何故ルーはお前を従えて仮のマスターにすらなっている?」
「だから言ったろう、私も知らないと!貴方も聞いていないのかい、長老?」
「あんまり興味なくてなァ」
「マジかよ…」
ダグザののんびりとした答えに、ヘクトールは信じられないと言いたげに頭を抱えた。
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