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神域第三大戦 カオス・ジェネシス77

「………制御から遠退いた…とか言っていた。この星の最後の希望だの、侵略を許すなだの、助力に感謝するだの…似たようなこと、お前も言っていたな。私は何かに支配されているのか」
静かにそう尋ねた凪子の声は、しかし確かに怒りが込められていた。ピリピリとした怒気が空気を伝わり静電気のように他の面々の肌を撫でた。
ルーはそんな凪子の覇気を気にも止めずに身を起こした。
「恐らく今の貴様はかなり離れているだろう。あぁ、この時の貴様との言い分けが必要か、貴様は貴様の名で、こちらの貴様は私の呼称で呼ぶぞ。春風凪子、過去に時折記憶が飛んだ経験はあるか?」
「覚えていられるかそんなこと。あったかもしれないけど、到底思い出せない」
「まぁそれはいい。だが、深遠のがバロールに戦いを挑んだのは、恐らく貴様自身の意図するところではない」
「なんだと?」
凪子は眉をつり上げる。怒気がさらに鋭いものになったのをクー・フーリンは肌で感じながら、だといってかけるべき言葉も思い付かず、ルーの言葉を待つしかなかった。
「バロールと深遠のの戦闘を一瞬見かけたが、違和感があった。貴様が過去にタラニスを殺そうとした理由は、友の死を厭うて、だったか」
「……そうだよ」
「それは願いだろう。叶えるべき目的、力任せの祈りだ。だがそうした感情を深遠のからは感じなかった…というより、別人に見えた。故に、貴様ではない…深遠のではない、何かがいるのだろうと」
「…………それはそうだな。私に話しかけてきたそれは…なんというか、とてもメタな話し振りだった」
凪子は会話を交わすうちに落ち着いてきたのか、張りつめた空気も徐々に和らいできた。ルーは、ちゃぷ、と水を揺らしつつも腕を組んだ。
「それは貴様の存在に違和感を感じていた私にとっては証明になった。では問題は、“何が”いるのかということだ。貴様が今言った、アラヤとガイア。その概念が、根拠になった」
「待て、私が抑止力だとでも?すでに星自身と、恐らく後発だろうが人類の抑止力がいる。いったい私はなんの抑止力だってんだ?」
「いいや、お前はもっと自由な存在だ。的確な言葉が思い付かないが…アラヤとガイアに分かれていることを思うのならば恐らくその両者の調停者としての役割はあるだろうな。星にとっての守護者でもあるのであろうし、おそらく加害者でもある」
「はい??」
凪子はルーの言葉に目を丸くしてすっとんきょうな声をあげた。

今、ルーはなんと言った。二つの抑止力の調停者であり、星に対する守護者であり、加害者。それは、あまりにも。

「まるでこいつが星の支配者であるような口振りではないか…?!」
凪子の覚えた驚きは、クー・フーリンによって言葉にされた。クー・フーリンの声に、ルーはすぅ、と目を細めて凪子だけを見据える。情報が飲み込みきれない凪子はぽかんとルーを見返すしかない。
「それは恐らくあまり正しい表現ではないな。貴様という存在はあまりに空虚だ。明らかに存在しているのに、あまりに存在していない。そうだな……こう言うのがより近いだろう。貴様は、“星自身にもっとも近しいもの”だ」
「…星自身に近い……?」
「この星に抑止力という概念が存在する以上、そこには星の生存意思が存在するということだ。つまり、この星には意思がある。貴様は恐らく、その意思そのものであったのだろうよ。今回、深遠のの肉体を操っているは、星の意志だ」
「ちょ、ちょっと待って、思考が追い付かない」
凪子はふらふらと手をあげ、制するように掌をルーに向ける。ルーは現実逃避は許さないと言わんばかりに、その手を掴んでばしゃりと水の中に下ろす。
「星と共にあるもの、それが貴様だ。星の意思の代弁者、そして執行者、と言ったところだろう。制御から遠退いた、と言ったのは、恐らく星の意思に上塗りする形で貴様の意思が存在し、春風凪子、貴様の場合は星が貴様の意思を優先しているということだろう」
「ちょっと待ってくれ!スケールがでかすぎないか?私はこの2000年、自分勝手に生きてきたぞ!何かを代行した覚えも、代弁した覚えもない!」
「それだけのことが今まで起きていなかっただけだとしたら?そうした代行者であるというのなら、今回貴様の肉体を改造し、時間遡行を行った人間達のもとへ送り込んだ存在の説明はつくのではないか?」
「!!」
ルーの言葉に、凪子は大きく息を呑んだ。

凪子の肉体から意識だけを取りだし、サーヴァントの構造に落とし込んで召喚する。確かにそれだけの芸当が人間の魔術師にできるはずもないだろう。だがそれが星がやったというのならば、サーヴァントを自動的に召喚することも可能である星がした、というのであれば、あるいは。

凪子は視線をさ迷わせた。
「…なぜ、なぜそんなものがいる」
「さぁな。そこまでは分からんが…この星の外にも、我ら神というような存在がいるはずだ。そうした外界からの攻撃を受けた場合、抑止力とやらは機能するのだろうが、あくまでそれは“抑止”の力で受け身でしかない。能動的な攻勢機能があってしかるべきだと考えたのではないか。貴様という存在がここに来たのは、深遠のがバロールに敗北した後だ。星は攻勢の手駒を失ったことになる。平行世界からの助力というのは、恐らくそういうことだろう」
「……攻勢の手駒…」
「…………ではルーよ。こやつは…」
ダグザの言葉にルーは小さく頷いた。

「こいつは、原初からの存在にして星自身と同義である存在。星の生存意志と破滅意志をどちらも担い、代弁・代行するものだ。生命体…いや、神という存在とすら、別次元に存在するものだ」

「…………そんなラノベじゃないんだから………」
凪子の口から呆然とした言葉が漏れる。だが、意外にもダグザが肯定するように何度か頷いた。
「…そうさな。そうであるならばこやつがルーらを守った結界にも説明がつく。お主は固有結界の示す己の本質として、全てがあるが何もない、只の記憶と記録の世界だと道中語っておったが。あれは記憶でも記録でもなく、星を内包しているということなのではないか?」
「!!」
「…星と同義であるもの…星を内包するもの、だからこそ固有結界が世界そのもの、星そのものになるということか…?!」
クー・フーリンはダグザの言葉に呆然としたように叫んだ。
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