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神域第三大戦 カオス・ジェネシス85

「…さて。他に異論は?」
ルーは特別クー・フーリンのことを振り返ることはなく、静かにそう問うた。凪子はひらり、と手を振った。
「私はない。ドクターロマン、そちらは?」
『………それが今は最善か。分かりました、異論はありません』
「結構。では人選が決まり次第伝えるがいい」
ルーはそうあっさりと言うと、立ち上がり様に姿を消した。恐らくタラニスとダグザの元へ戻ったのだろうが、何の詠唱もモーションもなく転移を行われてしまうのは、これから相手取ろうとしているものの脅威を見せつけられていようで、なんとも居心地が悪い。
通信先でロマニは止めていた息を吐き出すかのように長々とため息をつき、頭を抱えていた。彼からしてみればこんなに頭の痛い事態はないだろう。
「ドクター……」
『…いいや、分かっているとも。ただ、これだけは守ってくれ。藤丸くんとマシュは、絶対に戦闘補助の方にいかないように。サーヴァントの魔力援助に不安は出るが、今回はあまりに危険すぎるから許可できない。この時代の春風君とやらの撃退が終わっても、だ』
「…それは……」
「そこは心配しなくても、ルーが拒否するだろうし、いざとなったら私が閉じ込めてでも止めるから安心しとけ。魔力供給に関してもなんか考える」
『…そうか』
ロマニは凪子の言葉に困ったように笑った。あまり凪子が信用されていないのか、あるいは藤丸たちの行動力を信用しているのか。
凪子はわざとらしく肩を竦めて見せた。
「ま、ロマニ・アーキマンが散々言ったように、ここは人理とは現状関わりのない特異点。だから君らもそう無理すんな、ここは背負う必要のないところだ」
「!凪子さん……」
「背負うことがデフォルトになって鈍ってんのか知らんけど、君らが全部背負わなきゃいけない、なんてことはない。大体、もしもその原因が人間なのだとしても、星レベルの異常の責任を人間だけが背負わなければならない、という考え自体が私にしてみりゃおこがましいな」
「っ!」
ぎらり、と瞳を光らせて述べた凪子の言葉に藤丸とマシュだけでなく、子ギルやヘクトールも僅かに身動ぎをした。それだけ威圧させる迫力が、凪子の言葉にはあったのだ。
凪子はすぐに、にへら、と、垣間見せた殺意などなかったかのように脱力した笑みを浮かべた。
「確かにしでかしたことの尻拭いはするべきとは思わなくもないけどね?逆に、その点に関していうならこの特異点で起きていることは恐らくそのどれもが人間由来のことじゃあない。だったら責任を負うべきは君らじゃない、だろ?」
「…………それは、そうなのかもしれません、が………」
「まぁ君らが責任云々関係なく勝手に何かをしたい、と言うならそれは自由意思だからとやかくも言わないけども。いや、言わないといいつつ、今回の事に関しては止めるけどね??私のせいにされたくないし?…さっきルーも言ってたろ、あんまりその優男を心配させてやりなさんな」
「…………うん、ごめん、ドクター」
藤丸は真っ直ぐに自分を見つめる凪子の視線を正面から見返し、少し考える様子を見せたのち、素直にそう言ってロマニに頭を下げていた。ロマニはその様子に少しだけ安心した様子を見せる。
凪子は一旦決着がついた、と判断すると、パン、と手を叩いた。
「じゃあ人選しようかぁ。とりあえずこの時代の私…ルーに合わせて深遠のと呼ぼうか。深遠のの相手は私とマシュ、藤丸ちゃん。伏兵がいたときにマシュだけだと危ないから、藤丸ちゃんは私と一緒においで。正直こっちはそれだけでもいいけど、どうする?」
凪子の言葉に真っ先に手をあげたのはマーリンだ。マーリンは緩く持っていた杖を振ってみせる。
「私は元々彼側だからね。パスが弱くて離れると魔力供給に困難が生じる、んだったかな?なら私はそのサポートをしようじゃないか。キャスターじゃないから限りはあるけどね」
『…キャスターじゃないマーリンなんて、何の役に立つんだい?』
「手厳しいなぁ!ドルイドとして召喚されているようなものだから、補正はあるんだ。まぁ任せてくれたまえ」
「光神には切られてしまいましたけど、バロールには確かそうした武器の逸話はありませんよね。では僕も戦闘補助に。天の鎖の本領を見せて差し上げますよ」
『そうだね、それは向いてると思うよ』
続いて子ギルも声をあげた。確かに二人は戦闘補助としては適任だろう、と久方ぶりにダ・ヴィンチが口を開いた。
残るはクー・フーリンとヘクトールだ。両者は顔を見合わせ、ヘクトールは、にっ、と笑った。
「じゃ、オジサンはマスターの方に行こうかね。万が一ってことがあるとも限らない、全員補助に回って全滅しちまったら、マスターを守備に問題が出る」
「お前さんはどうする?まぁ…ルーが同行を許すかなっていうのはあるけど」
「………………………」
「そういえばタラニスもルーもキャスターのクー・フーリンに変な反応してたけど…」
残るはクー・フーリン一人。凪子が呟いた言葉にクー・フーリンはきゅ、と拳を握りしめ、沈黙した。今ルーと彼の間には気まずい空気がある。そうしたギクシャクしたものが命がけの場にあるというのは、望ましいことではない。
クー・フーリンにもそれは分かっているのだろう、だからすぐに答えが出せない。悩む様子を見せるクー・フーリンに、意外にもリンドウがぽん、とその肩に触れた。
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