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神域第三大戦 カオス・ジェネシス65

「それでもすぐに色好い返事をもらえない理由をお尋ねしても?」
黙っていたヘクトールが、不意にそう口にした。確かにダグザの反応は、提案が受け入れられる余地がありそうな雰囲気を感じる。
ダグザは僅かに意外そうにヘクトールを見たのち、ううむ、とまた唸り声をあげた。
「ふむ、そうさなァ。確かに断る特別な理由はない。が、受け入れる理由も特にない!」
「!!」
ヘクトールはダグザから返ってきた言葉に目を丸くした。凪子は薄々予想していたのか、してやられた、というような表情を浮かべている。
ダグザはわざとらしく目を丸くし、大仰に肩を竦めた。
「いや何、言葉にしちゃあいないが、ルーはきゃつの復活を己が殺し損なった責任として抱え込んでおる。故に、門外漢に関与されるのはひどく厭うじゃろう」
「しかし…!」
「ほ?ハッハァ、血気盛んな子供じゃの。だが分かろう、お主らが役目を放棄できぬようにルーめは責任を放棄できん。お主らを引き入れたとして、それでお主らの一人でも命を落とせば、さぁ…ルーめの責任感はどうなる?死なぬと確約できるのか?」
「……それは………」
思わず声をあげたマシュに、だがダグザは静かに諭した。
理由はない、というが、それは恐らく正しくはない。ただダグザにとって、相手側にいる凪子の相手をしなくてすむメリットを取るよりも、ルーがさらに責任を抱え込んでしまう可能性というデメリットを回避する方が優勢であるようだ。
凪子は、チッ、と小さく舌打ちをする。
「そうだな。アイツ、その辺不器用だし、なんならそれでも出来てしまうだけの力を持ってるからな。神様らしくないほど背負い込むよな」
「…っ」
「ま、それぐらいでなければ神々を率いるなどという面倒ごと、おっと、荒事を為すことなぞ出来んわい。儂もやったからよく分かる、ありゃあ〜二度としたくないわ〜」
「訂正後の方が酷くなってません表現??」
不意に気の抜けた空気を挿し込んでくるダグザに突っ込みを入れつつ、うーん、と凪子も小さく唸った。
「じゃあつまり、戦いの同盟についてはルーがうんと言わない限りは約束できないと」
「そうじゃな。期待をさせてすまないが」
「…正直、ルーがそこまで人間の命を重く見てるとは思わなかったな」
凪子はポツリ、と呟くように言った。タラニスが言っていた、クー・フーリンの人としても早すぎる死を悼んだような発言といい、今のダグザの人の死すらも責任として抱え込むととれる発言といい、ルーは神としてはあり得ないほど人の命を抱えるように凪子には思えたのだ。それはヘクトールも同じだったのか、凪子には見えていないが後方で何度か大きく頷いた。
ダグザはそんな凪子とヘクトールの反応に、困ったように笑う。
「はは。アレはな、神以外の有限の命は等しく尊ぶ。奴は万能ではあるが、自らが及ばぬもの、異なるものへの敬意は有しておる。故に不器用すぎる程に、関わったものの死は重く受け止める」
「同位体みたいな存在のタラニスは後年めっちゃ人間に生け贄を捧げさせたことだけ伝わってますけど。残忍な神様三銃士みたいな感じで」
「うっせ」
「うーむ、タラニスにそういう命を軽視する姿勢を全部持ってかれていってしまったのかもな!がはは!!」
「ご賢老……………」
突然話が飛び火し、あっけらかんとダグザにも肯定されたタラニスはげんなりしたようにそっぽを向いた。
くっく、と笑いながら、ダグザは不意に目を細めた。
「…そうさな、あれが当たりが強かったのはこの世の理、道理から大きく外れているように見えたお主くらいよ、深遠なる内のもの」
「………“見えた”?それはどういう……まるで外れていないとでも言いたげな台詞だが。最期の方ではあいつの態度が軟化したことに関係あるのか?」
「なんだ、軟化するのか?つくづく甘い奴じゃのぉ〜まぁそうでもなければその槍をお主に渡したりしまいか。まぁ機会でもあればルーに聞けばよかろう。答えるかどうかは分からんがな、あれは確かなこと以外は口にしたがらんからのぉ。さて、話は逸れたが、交渉はここまででよいかな?」
「!それは、」
何やらダグザは意味深なことを凪子に伝えたが、唐突に交渉を切り上げようとしてくるものだから、クー・フーリンは思わず待ったの声をあげた。だがじ、と見つめられれば、次の言葉を用意していなかったのか思わずたじろぎ、口を閉ざした。
そうしたクー・フーリンの様子に、気になる言葉を言われ惑った凪子だったが一旦その言葉を頭から放り出すようにぶんぶんと頭を降り、ぴ、と手をあげた。
「待った。じゃあルーが起きるまで付き合ってくれ。タラニスにルーの左目のスパイラルは死の呪いだと聞いた、解除まではできずとも、軽減させることは出来るかもしれない」
「ほう?」
ダグザは興味深そうに凪子の顔を覗き込んできた。要は凪子は、ルーが目を覚まして交渉が可能になるまでダグザとタラニスを拘束する代わりに、ルーの受けた呪いの軽減を申し出た形になるからだ。
凪子は、にっ、と挑発的に笑う。
「この近くに老い先短い私の友人のドルイドが管理する森がある。リンドウという名のドルイドで、太陽信仰を持っているから、ルーの神体にも好影響なはずだ」
「ほう…」
「それと、貴方が来た少し後から、この結界に対して世界からの抵抗が加わるようになった。貴方が言ってた言葉からして、バロールは理由は分からんが今は撤退したんだろう。なら移動の時が来たということになる、この結界もそう長くは展開できない。タラニスの神体の崩壊だって、どうにかしないといけない問題だろう?リンドウの森の堅牢さは折り紙つきだ、次の拠点としてなかなかいい立地だと思うよ?」
「んまぁ〜弱味につけこむのが巧みなやっじゃなぁお主……」
ダグザはどこか嫌そうにそう言いながらも、明確な否定と反対の言葉は口にしなかった。
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