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神域第三大戦 カオス・ジェネシス70

「私が召喚されたのは、今から2週間ほど前のことだ。先にも言ったように、召喚された時に光神ルーがいたが、彼が私を召喚した訳じゃあない」
「英霊召喚システムが当てはめられない、と仰っていましたね。つまりマスター適正がない、と?」
「人間の魔術回路と神のそれとは構造が大きく異なるからね。まぁ、あちらさんが応用して利用することはいくらでも可能だとは思うけれど」
「じゃあこの土地に喚ばれた、ということですか?」
マシュの問いかけに、うーん、とマーリンはうなる。
「私の寄り代となっているドルイドが大きく影響していることは事実だろうが、肝心のこのドルイドとは全然意思疏通ができない!光神ルーもその辺りのことは語らないが、色々承知はしているようでね、“貴様もこの星に生きる生命であるのなら、この星のため力を尽くせ”と言われて、協力している次第だ」
「…星のため、と来ましたか。しかし、あなたがそんな殊勝なタイプだとは思いませんでしたよ」
星のために力を使えというルーの言葉に従っている、と述べたマーリンに、子ギルはからかうようにそう言った。マーリンは心外だ、といった表情を浮かべつつも、本音は違うのか、いたずらっぽく笑う。
「まぁね、別に星のために働けと言われて、はいそうですかと働くタイプではないよ、私は。正直、あの光神に私程度の、それも本来よりもランクダウンしているような私の力がいるとはあまり思えなかったしね」
「…では、それでも従うに足る理由が他にあった、と?」
「理由があった、というより、疑問があった。そしてあの光神は、私がそれを口にもしていないのに、“特段戦力としての期待はしていない。ついてくるも来ないも好きにするがいい。だが、疑問の答えを知りたいならついてこい”と言った。だからついていってみたのさ」
「…疑問というのは?」
「何故、英霊の座に登録されていない私なのか?」
「!」
子ギルの問いにそう答えたマーリンに、マシュと藤丸ははっと息を呑んだ。
彼の召喚はイレギュラー中のイレギュラー。本来召喚できないものを、クラスをねじ曲げてでも召喚したのは誰であり、何の意図があるというのだろうか。
マーリンの言葉に、子ギルも僅かに表情を固くする。
「君だってそうだ、幼いギルガメッシュ王よ。何故本来の霊基でなく、そんな姿で喚ばれた?」
「…それは僕も知りません。現地で召喚されたサーヴァントは現状僕と貴方の二人、そのどちらもイレギュラーな召喚というのは、確かに引っ掛かりますね」
「今回の特異点はレイシフトもイレギュラーでした。イレギュラーなことばかり起きている…??」
「…あっ、そうだ、カルデアに通信!」
「あっ、そうですね!それを忘れていました!」
疑念にその場の空気が重くなったとき、はっ、と藤丸が思い出したような声をあげ、マシュもそれに同調しその場の意識が分散した。慌てて通信機を取り出し操作し始めた二人を横目に、子ギルはちらり、とマーリンを見た。
「…全く不明なんですか?」
「予測もできていないのか、という意味かな?うーん…恥ずかしながら、分からない。光神は知っているようだけれど、まだ教えてくれていなくてね」
「ふうん…」
「あれ、通じない…?」
「えっ?」

―――――

 「……!温泉か?」
「そうねぇ、温泉だな。リンドウがここの地脈元気にさせ過ぎちゃったのよね」
「いやぁ、復旧させたら思いの外熱を持ったというだけなんだけどね…」
一方のルー一行は、リンドウの家からそう離れていない、森の中にある洞窟の中へと到着していた。岩場にある洞窟で、少し下ったところに温かい湧き水の沸いている場所があった。
膝をつき、湯に手をつけたダグザは、ほぉ、と感心したように声をあげた。
「ははぁ、成程確かに大した地脈だ」
「そこのくびれたところに頭を支えるようにして、身体を泉に沈めてください。お二方はどちらも生命力が低下しています、まずはそれを回復させましょう」
「そうだな」
ダグザはリンドウの提案に素直に頷き、そっと両者を泉へと浸した。トプン、と音をたてて静かに二つの神体は泉に沈み、僅かに眉間の寄っていたタラニスの表情はそれだけで和らいだように見えた。両者の間に腰を下ろしたダグザは、ふう、と息を吐き出し、その頭にそっとそれぞれ手を添えていた。
その様子を確認したリンドウは凪子を振り返り、じとり、とした目を凪子に向けた。
「?な、何?」
何故そんな目で見られるのか分からない凪子がきょとんとしていると、リンドウはにこり、と笑い、前触れなく凪子の腰元に足を当てると―

―凪子を、泉へ向けて蹴り飛ばした。
「ぶっ!?」
「はっ!?」
予想していなかった凪子は簡単に派手な水しぶきをあげて泉へと転げ落ち、突然の暴挙にクー・フーリンはすっとんきょうに声をあげた。
ざばり、と身体を起こした凪子は髪から水を滴らせながらぽかんとリンドウを見上げた。
「え、な、え、なに、なんなん、」
「……君、自分が普段と違う身体だということを忘れていないかい?」
「え、えええ、なに、なにをそんなに怒ってるの」
「………分からないなら、いいだろう。右腕を」
「なぁにぃ…??」
落とされた理由が分からない凪子は、自分の知らない友の様子に動揺しているようで、不機嫌を露にしながら右腕を差し出せと言ったリンドウに恐る恐ると腕を出した。
リンドウは凪子の腕を取ると、何度か撫でたのちに、二の腕のある一ヶ所に指を添えた。
そして。
「ふんっ!」
「な、ぁ、だァ―――ッ!!!」
ぐ、とリンドウが軽く力を籠めれば。
ぐしゃり、と。緩く押し固めた砂を握り潰したときのように、凪子の腕が脆く崩れ、千切れ落ちた。
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