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神域第三大戦 カオス・ジェネシス82

「それで、君たちはこれからどうするんだい」
「………ルーとの交渉がまず、だな。お、特に異常なく起動したっぽいよ」
「!ではカルデアに通信を…」
通信機をマシュに託し、凪子は一度立ち上がると気だるげに肩を回した。リンドウと凪子は戻ってくるまでに何か会話を交わしていたのか、互いにあまり視線を合わせていない。話したとのだとすれば間違いなく内容は先程のことだろう、と考えたクー・フーリンは若干の気まずさを覚えつつ、凪子に視線をやった。
「しかし、ルーとどう交渉する?」
「タラニスに提案したのと同じだ。この時代の私の相手。バロール相手は現状ルーにしか出来ない以上、援助に徹底した方が現実味があるってもんだろ?まぁ他に案があるなら是非言ってほしいのだけど」
「…まァ、それが妥当だよな」
『!藤丸くん、マシュ!よかった、無事だったか!』
少しの雑音をさせた後に、無事通信は復旧したようで、通信機からホッとしたようなロマニの声が響いた。リンドウはわずかに目を丸くさせて通信機を見、ホログラムで浮かび上がるロマニの姿に気が付くとぱちくりと瞬いて、そっと凪子の後ろへと移動してきた。
流石に驚いたようだ。無言で移動してきて凪子を盾にするリンドウに凪子は一瞬ポカンとしたのち、小さく吹き出して楽しそうに肩を揺らしていた。
『?その人は…例の、協力を得られたドルイド?』
「あ、はい、そうです。リンドウさんです」
「……………………どうも、リンドウです」
『へぇ、なかなか利発そうな顔だ。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ、どうぞよろしく』
少し遅れて、ダ・ヴィンチも姿を見せる。リンドウはもう驚くまい、とでも言いたげに首を横に振ると、そっと凪子の横に立った。
『…それで、どうなった?』
「ええとですね――」

―――――

『……………成程…』
これまでの経緯と、レイシフト先が異なることを聞かされたロマニは、眉間を寄せて頭を抱える様子を見せた。あまりに情報過多な話だ、混乱するなという方が無理な話であろう。マシュと藤丸が話している間に腰を下ろしていた凪子は話の長さに僅かに船をこいでいる始末だ。
ダ・ヴィンチは通信先で、ふむ、と興味深そうに呟いていた。カタカタ、とキーボードを叩く音も聞こえてくる。
『うーん、こちらの観測ではそこはイングランドで間違いないんだけどな』
「えっ、そうなのですか?」
『凪子クンの計測が間違っているってことは?』
「一応、さっき暇してたときにももう一度見たけど、ここはアイルランドだったよ。どうにもルー達の話を聞いていると、ここはどうやら過去の特異点というより、平行世界の別事象って感じの方が強い。位置が異なる、というのなら、違う世界だという可能性は高いんじゃないか?虚数空間も通ってることだし」
うとうととしていた凪子だったが、ダ・ヴィンチからの問いかけにはつらつらと、淀みなく答えを返した。平行世界、という言葉を出した凪子に、通信先でロマニとダ・ヴィンチが顔を見合わせているのが見える。
「確かに考えにくいことだが、特異点に時間遡行するのが可能な時点で、平行世界に跳んでいても不思議ではないだろ。過去であることに違いはないし」
『……ふむ、まぁ確かにそうだね。よし、そちらはこちらでも調べておこう。それで、光神ルーと交渉できるんだっけ?いやぁすごいことになってるな、今回は!』
『楽しんでいる場合じゃないよレオナルド……。位相の違いは現時点で何とも言えないから暫定的に特異点だとするが、そちらの特異点の原因はそのバロールで間違いないかい?』
「まず間違いないと思うぜ。現地に召喚されたサーヴァントも集まってることだし」
「………そうだな」
レイシフト先の座標が異なった事態に関しては、双方の観測に異常がないという奇妙な事態になっているようだ。なぜ座標が異なっているのか、それが何を示すのかは、現段階では判断できない。
そう、早々に結論を下した司令塔の二人は、特異点化の原因について話題をすぐに変えた。その問いにはヘクトールとクー・フーリンが答えを返す。クー・フーリンは凪子とルーの会話を聞いていたのでだから世界の抑止力に近いものが敵対しているらしいことを知っているはずだが、凪子が黙ったまま語ろうとしないからか、その事を口にはせず端的に肯定を送るのみだった。
『そうか…よりにもよって、神が…』
『神による特異点化…というのは予想外だったな。そもそもこの特異点は人理定礎に影響するほどではない微少な特異点だったはずだ、だというのに起きている事態のスケールが大きすぎる』
「春風はこの異変が聖杯によるものではないんじゃねぇかって言ってたけどな。各特異点にある聖杯は、所詮人間の被造物だ。だから神をどうこうできるほどの力はねぇだろうと」
『それは確かに一理あるな。人理がどうこうなるような特異点ではないから驚異と見なされなかった…と考えれば、筋は通るな』
ヘクトールとダ・ヴィンチが推測と憶測を語り合う。ダ・ヴィンチはヘクトールの返答に何度か頷き、そして困ったように笑って見せた。
『…しかし、そうか。そうなると、こちらとしては早々に君達を回収したいところだな』
「…えっ?!」
「なんで?!」
そうして次いだ言葉に、マシュと藤丸が驚いたように声をあげた。

神域第三大戦 カオス・ジェネシス81

「…………ってぇ、訳なんだが……」
―一通りにあったことを全て話したクー・フーリンは、むっつりと黙り込んでしまったリンドウに恐る恐るといったように顔を覗き込んだ。リンドウはしばらく無表情のまま黙り込んでいたが、ひたり、と顔に手を当てると、はぁーー、と長いため息をひとつついた。
「…………この時代の彼女の居場所が分かったのは僥倖だ」
そうしてぽつり、と呟いてから、どこか吹っ切れたようにリンドウは顔をあげた。ぎくしゃくとしているクー・フーリンに、柔らかく微笑みかける。
「話してくれたことに感謝します、キャスター」
「…お、おう」
「未来の彼女だけでなく、この時代の彼女まで巻き込まれているとなれば、私も無関係ではいられない。私にできることならば全て手助けしよう」
「…!もう十分に助けていただいています、でも………ありがとうございます」
マシュはどこか戸惑いながらもそう謝辞を口にした。どこかその言葉には、親近感を感じさせた。
それに気が付いたかどうかは分からないが、リンドウはニコ、と笑うと、パシンと手を叩いた。
「では手始めに、カルデアなるものとの連絡手段の回復だね。この、ツウシンキ、というのは魔力が芳醇なところに持っていくと壊れてしまうようなものかな?」
「あー……どうだろうな、壊れるかもしれん」
「…成程。じゃあ、彼女にはちょっと我慢してもらおうか」
「我慢?」
「少し待っていてくれ」
リンドウはてきぱきと状況確認を済ませると、素早く奥の部屋へと姿を消してしまった。残された面子がポカンとしているうちに、リンドウは小瓶を手にすぐに戻ってきた。
「彼女なら分かる可能性高いんだよね。なら、連れてこよう」
「あ、いやだが、治るまで出てくるなって…」
「だから、治ればいいんだ。少し待っててくれ」
リンドウは小瓶に入った液体を揺らして見せて、悪戯っぽく笑うと家を出ていった。


少ししてから、酷く不貞腐れた表情を浮かべた凪子を引き連れてリンドウが戻ってきた。クー・フーリンは意外そうにリンドウを見上げる。
「よかったのか?連れてきちまって」
「良薬は口に苦しって言葉知ってるかぁい…」
「へ?」
「何、回復促進の霊薬を飲んでもらったんだ。退屈そうにしていたしね、ちょうどよかったろう」
楽しそうにそう言うリンドウに、べ、と凪子は苦虫を噛み潰したかのような表情で舌を突きだした。相当霊薬が不味かったようだ、表情はなかなかもとに戻る気配を見せない。
「…で?通信機が呪われたって?」
凪子は不機嫌そうにしながらも、そうまでして早々に連れ出された理由は理解していたらしい、早々に通信機の前に座り込むと、てしてしと通信機を叩いた。藤丸ははっとしたように、凪子の言葉に何度か頷いた。
「それに、通信も繋がらないんだ」
「あー…まぁ、奴さんはこれを口と耳と見なして、発声器官に侵入した構図になるんだろうな。これでいうところの出力装置とスピーカーか」
「じゃあ、その辺のパーツをどうにかすればいいってこと?」
「まぁ物凄くざっくり言うとね」
凪子は今まで度々してきたように掌で通信機を透視しつつ、リンドウを振り返る。
「これが発していたのは長時間聞かないと発生しない呪いなんだよな、リンドウ?」
「あぁ」
「遠隔操作か、あるいは一度付与したら自動反応するものか…ま、電源切ったら切れる呪いだ、直接バロールとは繋がっちゃいないとは思うぜ」
「まぁそうだよな。なら、あの宝石の呪いと同程度か、多少雑に弾いたところでしっぺ返しが来る心配はないな」
凪子が尋ねんとしていた事を察したか、クー・フーリンが呪いの種別について推測を述べた。呪いの強さや形式は、解除するときに大いに関係するものだ。クー・フーリンのそうした言葉に凪子は満足げに何度か頷くと、リンドウがおいたリースをそのままに自分の髪の毛を数本、引き抜いた。
「えーっとたしか固有結界で作ったやつがまだ残ってたはず…」
凪子は腰に巻いていた鞄を後ろ手に漁り、結界内で生成し、小瓶にいれて保存していた青灰色の液体を取り出した。髪の毛を小瓶の液体に浸し、たっぷりと含ませる。小瓶から取り出して軽く振るうと液体はすぐに緩く硬化し、凪子はその髪の毛をリンドウのリースへと編み込んだ。
ちょうどリースを一巡する程度に髪の毛を編み込むと、ふぅ、と息をついて人差し指をリースに当てた。
「Pain, pain, go away, don't come back another day」
リズミカルにそう詠唱を唱えると、青灰色になった髪の毛がキラリと光り、ポンッ、と軽い音を立ててはぜた。破裂に合わせて薄い紫煙が上がったが、それはすぐに消えた。
ふぅ、と凪子が小さく息を吐き出す。
「ん、これで大丈夫なはず」
「おお…!」
「手慣れてんな。呪術師で生計たてる方が向いてんじゃねぇの?」
「嫌だよめんどくさい。必要に迫られて覚えただけだし、呪いってなげーんだもん」
凪子はパンパンと軽く手を払いながら、クー・フーリンの軽口に肩を竦めた。その口ぶりは軽かったが実に嫌そうであったので、辟易しているというのは本音のところなのだろう。
それを察したか、リンドウは一瞬複雑な表情を浮かべたが、すぐに頭を振ると凪子に向き直った。
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