スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

神域第三大戦 カオス・ジェネシス88

『………それも試したと?』
「だってそれが一番確実に死に至るじゃない?生命体は」
「…確かに、生きていることに嫌気がさして色々試したとおっしゃっていましたが……」
「自傷は真っ先にやったんだけど、まぁーなにもかも無駄だった。だから四肢もいで心臓抉り出したくらいじゃ死なない死なない」
カラカラと凪子は笑いながらそう言うが、周りの者にとっては笑い事ではない。だが、空気など読まないと言うように、『それは笑い事であるのだ』と言い聞かせるかのように凪子は明るい笑みを崩さない。
その表情のまま鞄からバインダーと紙を取り出した凪子は、バインダーにくっつけてあったボールペンでさらさらと人形を描いた。ぐりぐり、と四肢と心臓部、つまり“深遠の”に埋め込まれていた宝石の部分を塗り潰し、とんとんと叩いて見せる。
「恐らく私の意識を制御しているのがあの要石だろうから、一旦隔離さえしてしまえば支配から逃れることは可能かもしれない」
『…。うん、まぁセオリー通りでいくならそうだね。だが攻撃すると呪いが発動するような代物なら、直接ではなく間接的とはいえ、切除するような行いには反応するんじゃないかな?』
「!ダ・ヴィンチちゃん、」
何事もないように、凪子に特に言及することもなく話に乗ったダ・ヴィンチをマシュは責めるように声をあげたが、たしなめるように首を振られ、眉尻を下げながらも大人しく押し黙った。
「まぁ、その時はその時だ。万一発生してもいいように、切り落としは私がやる」
「呪いというのは、どの程度の?」
「前回は片腕と片目の使用不能。麻痺状態に近いかな」
「他には?」
「分からん。あるかもしれないしないかもしれない」
「……そうか。効果があるかは分からないが、護符程度なら私が作成しよう」
リンドウの問いかけに凪子は淡々と答え、リンドウも淡々と話を進める。
死にたくて自傷行為に及んだ、などと聞かされればリンドウは動揺を見せようなものだったが、彼はなにも言わずに作戦会議に参加していた。予想していた範疇のことなのか、すぐに問い詰めはしないということなのか。
マシュと藤丸はリンドウを気にしつつも、凪子とダ・ヴィンチのやり取りを聞いていた。
「遠距離攻撃も呪いの対象だった以上、俺の宝具も早々には使えない。どう足留めするかがキーになりそうだな」
「凪子さんの言うとおり誘き出せるなら、トラップを用意しておくのは?」
『それが一番確実かな。トラップでの攻撃の場合、呪いの対象はどこにいくと思う?』
「んー、作成者かな…無いという可能性もあるか?」
「…じゃ、一応その用意は俺がしよう。お嬢ちゃんはマスターの防衛に専念してもらった方がよさそうだ」
「分かりました、お任せください」
とんとん拍子に話は進んでいく。防衛のマシュ、広範囲攻撃のヘクトール、なんでもござれの凪子と来れば、役割分担ははっきりしているからだろう。
『君に聞くのは失礼かもしれないが、この時代の君は、どれくらい強い?』
ずばり切り込んできたダ・ヴィンチに、凪子は苦笑いを浮かべる。自分の記憶での当時の自己評価と、今見た当時の自分というものはやはり解離のあるものだったのだろう。
「獣だな、ありゃ。策を労して戦うということをしない」
『ほう?なら、失礼だが、脅威ではない?』
「過大評価をするつもりはないけど、危険なレベルではない、なんてことはない。人間がいくら知恵があっても生身じゃ犬にも勝つのが難しいのと同じさ。獣には獣の危険性がある」
「………確かに君の戦い方は…なんというか……雑、だよね………」
「っ…………」
ダ・ヴィンチに対する凪子の返答に思い当たるところがあったのか、気まずそうに目をそらしながらも評価を口にしたリンドウの言葉に、ヘクトールが思わず吹き出し顔をそらした。ぷるぷるとその肩は笑いをこらえるのに震えている。
凪子も否定はできないのか、あー、と小さく唸って天をあおいだ。
「死なないことは分かっているし、痛みを気にするということもしないから、刺したり斬ったりしたところで全く気に止めないのよねー…それが少し厄介かな」
「…確かにウィッカーマンの手に捕まったとき、力業でこじ開けて出てきてたよね……あんなことしたら腕折れちゃうんじゃ」
「折れてたと思うよぉ、でも別にすぐ治るし…っていう感覚なんだよね。……だから、これなら怯むだろう、って攻撃をしても怯まないとか、警戒して間をとるだろうとか、そういう策略戦が恐らく効かない」
『……成程、確かにそれで死にもしないから大した損傷にもならない、となると、対策のたてようがある意味ないから難しいというのはあるのかもしれないな』
「まぁ要はお馬鹿だ。馬鹿だから複雑な策略は逆に意味をなさない。罠にはめても力づくで突破してくるだろうから、スピードが肝心だと思う。動きを止めて、即落とす。罠から抜けたら関節を狙って攻撃して動きを止めて、やっぱり落とす。そんなところじゃなかろうか」
『成程ね、じゃあシンプルにそれでいこう!罠はそちらで簡単に作れそうなものを考えてみようじゃないか』
ダ・ヴィンチは深く何度か頷き、そう言った。

神域第三大戦 カオス・ジェネシス87

「私にはその機会がないから想像も難しいんだけどさ、最期の時は穏やかであるのが望ましいもんなんじゃないの?文学作品とか見てると」
「!」
「とするとつまり君は、私が穏やかに死ねるように黙っていよう、と?君の行方が知れない状態で、私が穏やかに死ねるとでも思っているのか?」
「うぇっ?」
もそもそと鞄の中身を整理しながら話していた凪子は、静かなリンドウの声に驚いたように顔をあげた。驚いた凪子の反応にリンドウは顔をしかめ、はぁ、と呆れたようにため息をついた。
そして直後、ぎろりと凪子を睨み据えると、持っていた杖で思いきり凪子の頭部を殴打した。キャンッ、と凪子は悲鳴をあげて頭を抱え込む。
「いったいがな!!」
「……死を悟った間の時間を想像することすら難しいと言った君に理解してほしいと願うことがおこがましく、間違っているのかもしれない、が!!君は…ッ、私がそんな、薄情な人間か、あるいは、淡白な人間だと思っていたのかい」
「へ??薄情?淡白??何が??」
怒っているよな、悲しんでいるような、自分にあきれているような、色々な感情が入り交じった表情で切々とそう訴えたリンドウに、凪子は混乱から目を白黒とさせた。
凪子はリンドウをこれ以上ないお人好しだとは思っても、薄情だとか淡白だとか思ったことはなかったからだ。
「その…リンドウさんは、凪子さんの安否が分からない状態で穏やかに死ねるほど、つまり安否が分からないことが不安や心配であることはない、というような人間ではない、と仰りたいのではないでしょうか」
「ほ?」
「淡白、ってのも、それはそれって割りきれるようなタイプじゃないってことじゃないかな…」
「ま、つまり、無事を確認しないことには死んでも死にきれない、あんたのことをそんだけ大事に思ってる、ってことさ。あんたには伝わってなかったっぽいけどな?」
「えっ、あ、そういう!?そういう感じ!!」
凪子は三者三様の言葉に合点が言ったというようにぽんと手を叩いた。それから、つまり自分の発言がひどく無神経だったことに気が付き、再びポンと手を叩いた。
うろうろと手をさ迷わせたのち、凪子はリンドウの頭に手を置くとわしわしとリンドウの頭を撫でた。
「や、ごめん、そういう意図はなかったわ」
「………………いや、私も君に求めすぎた、すまない。とにかく、私は…この時代の君がちゃんと無事であることを確認しないことには、後悔を残して死ぬことになる。それは少し……嫌なんだ」
「…………そ、そうか。そうか……まぁ、うん、分かった。ちゃんとお前が死ぬ前に元に戻してつれてくる。…うん、私もお前の死に目に間に合わないのは、嫌だしな」
「!」
リンドウは凪子の言葉にはっと目を見開かせ、しばし凪子を見つめたのち、ふにゃ、と柔らかく笑んだ。そんな二人の様子に、マシュと藤丸にも安堵の表情が浮かんでいる。
「ぃよっし!話が脱線した、すまん。作戦会議といこうか」
「おお。しかし、どこにいるかも分からん相手だ、どう捕まえる?」
ぱっ、と凪子はリンドウから手を離すと、話題を切り替えた。待ってました、とヘクトールが壁に凭れていた身体を起こし、さっそく問いかける。
ふむ、と凪子は顎に手を当てた。
「ルーがバロールとどう対峙するか、にもよるが、バロールと一緒にいる可能性が高いだろうな。だったら深遠のを補足次第、捕まえて転移魔術で移動するのが手っ取り早いか」
『転移魔術?』
「お前さんらのレイシフトと構造は似たようなもんだ。別の場所にあるものと位相を交換したり、地面に書いた魔法陣を入り口と出口みたいに設定したり。あれだ、某ゲームの土管みたいな感じにだな」
「あぁなるほど」
「えっ分かるんですか先輩」
「それで転移先にヘクトールと藤丸ちゃん、マシュには待機しててもらって、移送後に叩く」
ざっくりとした立案に、ふむ、とヘクトールとダ・ヴィンチは二人とも小さく唸った。少しして、ヘクトールが発言の許可を求めるかのように手をあげた。
「だがあの宝石はどうする?攻撃で破壊するのは難しいんじゃねぇのか?」
『バロール直々の呪いが付与されているという要石のことかい?』
「あぁ、あれな。考えたんだけど…抉っちゃえばいいかなって」
「えぐっ………」
凪子がさらりと口にした言葉に、マシュと藤丸がピタリ、と固まったように動きを止めた。凪子がそちらを見れば二人の顔は青ざめている。
そんな二人の様子を察してか、ダ・ヴィンチが待った、と声をかけてくる。
『話によればそれは心臓部と四肢に埋め込まれているのだろう?四肢は、まぁ、ともかくとして、心臓部はそういうわけにはいかないだろう』
「いや…」
『リンドウ?』
凪子が何かを言う前にリンドウが否定の言葉を返したので、ダ・ヴィンチは驚いたようにリンドウを見た。リンドウはその視線に、疲れたように両手をあげる。
「彼女はそれくらいで死なないよ。大体、中身が人間と同じなのかも怪しいものだし」
「あー…いや、一応内部構造は形は一緒だから心臓はあるぞ」
「っ、なら、」
「心臓ごと抉り出したとしても死なないから気にするなって〜」
「いくらなんでもそれは…」
「死なないの。確かなの。やったことあるんだから」
「!?」
さすがに核を取り出すようなことをしてしまえば死ぬのではないか。
そういう不安を見せるマシュ達に凪子が言い放った言葉は、その場の一気に凍りつかせた。

神域第三大戦 カオス・ジェネシス86

「貴方が思うようになさればいいですよ、キャスター。あの御方とは、それがちょうどよいです」
「…?ちょうどいい、ってのは……」
「慣れない思いやりをしてみたり、考えを読もうとしたりすると、あなた方は裏目に出る。そう占いに出ています」
「つまり自己中で殴りあった方がいいと」
「…君はもう少し表現を選ぼうね??」
リンドウのアドバイスにクー・フーリンは驚いたように目を見開いた。やいのやいのと面前でじゃれ会う凪子とリンドウのことは目にも入っていないように、そのまま虚空を見つめている。
「きゃ、キャスター?」
恐る恐る話しかけた藤丸にびくり、と肩を跳ねさせ、藤丸に視線を向けたあと、彼はへにゃ、と呆れたような笑みを浮かべた。その呆れは自分に向けたものか、それともルーに向けたものか。
「そうだな!知ったこっちゃねぇってもんだ!…俺はルーの方に行きたい。構わねぇか、マスター」
「うん、いいよ」
「は、おいおい、もうちょっと迷ったらどうなんでぇ。…ありがとよ」
「……。よし、じゃあそういうことで。なら一旦、お互い作戦会議と行こうか」
切り替えの早さは戦士ゆえか、生来の帰来ゆえか。リンドウの言葉にあっさりと覚悟を決めたクー・フーリンに凪子は僅かに驚きつつも、それならそれでいいかと自分も話を先へ進めた。異論はなかったようで、面々が頷きで同意を返してくる。
ひょっこり、と、ホログラムのロマニの後ろからダ・ヴィンチが顔を覗かせた。
『こちらとしてはそのバロールの情報をできる限り得ておきたいところなんだが、いただけるかな?』
「あー。この通信機、マイク複数あったりする?」
「あ、予備のものなら、一応」
「じゃあこれこうしてー…音声魔力で接続してー…売り物にならない石を土台にしてー……それから色々して、あちちんぷいぷい」
ルーが戻ってしまった以上、ルー側の打ち合わせは泉でやることになるだろう。だが通信機は泉のある洞窟の魔力密度に耐えられない可能性が高い。
そこで凪子は、ダ・ヴィンチからの打ち合わせに同席したい、という打診に答えるべく、通信機の予備のパーツをマシュから貰い受けた。鞄から売り物にならない端切れのような石の欠片と土台とする木の板、魔術加工用の水銀を取り出すと、手早くマイクに細工を施す。
時間にして凡そ3分、クッキング番組もかくやというスピードで目的のものを組み上げた凪子は、テレレレッテレー、と自分で効果音を口にしながらそれを掲げあげた。
「はい、マイクをあの泉に耐えられるくらいの強度にしたし、石を介して同じように通信が作用してホログラム照射されるようにしたよ。サファイアで目がわりのものも作ったから、そっちの画面には分割で映ってんじゃないかな」
『わ!!まさにその通りだが…いや君、薄々思っていたがとんでもなく器用だな!?』
凪子の言うとおり、破片のなかでも一番大きい石が瞬いたと思うと、逆円錐の形にホログラムが投影され、そこにダ・ヴィンチの姿が浮かび上がった。同行している面々はもはやこの程度で驚きはしないのか、半ば感心したように、半ばもはやいっそ気味が悪いとでもいうように凪子と即席通信機に目をやっていた。
ふふん、と凪子は鼻をならす。誉められるのは嫌いではない。
「そらまぁ、基礎を覚えたら後は応用やるしかないから器用にもなりますよ。悪い気分ではないがな!さて、それでそっちはそっちで通信して打ち合わせてくれ、OK?」
『あぁ助かる。じゃあ対バロールの打ち合わせには私が、深遠の、の打ち合わせはロマニに任せるとするね』
「よし、それじゃあまた後で!戦いは嫌だけど頑張ろうか!」
「それじゃ、行ってくる」
「いってら〜」
カルデア側との役割分担も簡潔に済ませると、簡易通信機を手に、ルーの戦闘補助に加わるとしたサーヴァント3名は姿を消した。
家に残されたのはリンドウと凪子、ヘクトール、藤丸、マシュとなった。ヘクトールらからは少し離れたところに座っていた凪子は、一旦3人の近くに移動して座り直した。
「よし、じゃあまずはアレのおさらいから行こうか。リンドウにもばれちゃったことだし」
「!!あの…隠しておきたかった、ことだったのでしょうか」
ばれた、という言葉にマシュが恐る恐るといったように問う。話してしまったのはクー・フーリンではあるが、止めなかったという意味で同罪だ、とでも言いたいのだろうか。
凪子はそんなマシュの視線に気が付くと慌てて手を振った。
「ん?いや、責めてないよ!?まぁ確かに話す気はなかったけど、その気持ちも話してなかったし、占われたらばれた話だし。それにそんなみっともない話ばらされて困るのこの時代の私だしな!はっはっは」
「……凪子さんて、怒ってるのか怒ってないのか、よくわかんない人ですね」
「ま、マスター…」
怒っている、と思われていたのだろう。意外そうに、そして困ったように正直な言葉を口にした藤丸にヘクトールは脱力していたが、凪子はコロコロと楽しそうに笑った。
「ふふん、よく言われる、よくわからんて。まぁでもそんなもんでしょ、他人って理解できないもんだし」
「その、リンドウさんを巻き込みたくないだろう、と思っていたので…」
「…まぁ、うん、そりゃあ」
マシュの言葉に、リンドウからじとりとした視線を向けられているのを感じながら、凪子は曖昧に言葉を紡いだ。

神域第三大戦 カオス・ジェネシス85

「…さて。他に異論は?」
ルーは特別クー・フーリンのことを振り返ることはなく、静かにそう問うた。凪子はひらり、と手を振った。
「私はない。ドクターロマン、そちらは?」
『………それが今は最善か。分かりました、異論はありません』
「結構。では人選が決まり次第伝えるがいい」
ルーはそうあっさりと言うと、立ち上がり様に姿を消した。恐らくタラニスとダグザの元へ戻ったのだろうが、何の詠唱もモーションもなく転移を行われてしまうのは、これから相手取ろうとしているものの脅威を見せつけられていようで、なんとも居心地が悪い。
通信先でロマニは止めていた息を吐き出すかのように長々とため息をつき、頭を抱えていた。彼からしてみればこんなに頭の痛い事態はないだろう。
「ドクター……」
『…いいや、分かっているとも。ただ、これだけは守ってくれ。藤丸くんとマシュは、絶対に戦闘補助の方にいかないように。サーヴァントの魔力援助に不安は出るが、今回はあまりに危険すぎるから許可できない。この時代の春風君とやらの撃退が終わっても、だ』
「…それは……」
「そこは心配しなくても、ルーが拒否するだろうし、いざとなったら私が閉じ込めてでも止めるから安心しとけ。魔力供給に関してもなんか考える」
『…そうか』
ロマニは凪子の言葉に困ったように笑った。あまり凪子が信用されていないのか、あるいは藤丸たちの行動力を信用しているのか。
凪子はわざとらしく肩を竦めて見せた。
「ま、ロマニ・アーキマンが散々言ったように、ここは人理とは現状関わりのない特異点。だから君らもそう無理すんな、ここは背負う必要のないところだ」
「!凪子さん……」
「背負うことがデフォルトになって鈍ってんのか知らんけど、君らが全部背負わなきゃいけない、なんてことはない。大体、もしもその原因が人間なのだとしても、星レベルの異常の責任を人間だけが背負わなければならない、という考え自体が私にしてみりゃおこがましいな」
「っ!」
ぎらり、と瞳を光らせて述べた凪子の言葉に藤丸とマシュだけでなく、子ギルやヘクトールも僅かに身動ぎをした。それだけ威圧させる迫力が、凪子の言葉にはあったのだ。
凪子はすぐに、にへら、と、垣間見せた殺意などなかったかのように脱力した笑みを浮かべた。
「確かにしでかしたことの尻拭いはするべきとは思わなくもないけどね?逆に、その点に関していうならこの特異点で起きていることは恐らくそのどれもが人間由来のことじゃあない。だったら責任を負うべきは君らじゃない、だろ?」
「…………それは、そうなのかもしれません、が………」
「まぁ君らが責任云々関係なく勝手に何かをしたい、と言うならそれは自由意思だからとやかくも言わないけども。いや、言わないといいつつ、今回の事に関しては止めるけどね??私のせいにされたくないし?…さっきルーも言ってたろ、あんまりその優男を心配させてやりなさんな」
「…………うん、ごめん、ドクター」
藤丸は真っ直ぐに自分を見つめる凪子の視線を正面から見返し、少し考える様子を見せたのち、素直にそう言ってロマニに頭を下げていた。ロマニはその様子に少しだけ安心した様子を見せる。
凪子は一旦決着がついた、と判断すると、パン、と手を叩いた。
「じゃあ人選しようかぁ。とりあえずこの時代の私…ルーに合わせて深遠のと呼ぼうか。深遠のの相手は私とマシュ、藤丸ちゃん。伏兵がいたときにマシュだけだと危ないから、藤丸ちゃんは私と一緒においで。正直こっちはそれだけでもいいけど、どうする?」
凪子の言葉に真っ先に手をあげたのはマーリンだ。マーリンは緩く持っていた杖を振ってみせる。
「私は元々彼側だからね。パスが弱くて離れると魔力供給に困難が生じる、んだったかな?なら私はそのサポートをしようじゃないか。キャスターじゃないから限りはあるけどね」
『…キャスターじゃないマーリンなんて、何の役に立つんだい?』
「手厳しいなぁ!ドルイドとして召喚されているようなものだから、補正はあるんだ。まぁ任せてくれたまえ」
「光神には切られてしまいましたけど、バロールには確かそうした武器の逸話はありませんよね。では僕も戦闘補助に。天の鎖の本領を見せて差し上げますよ」
『そうだね、それは向いてると思うよ』
続いて子ギルも声をあげた。確かに二人は戦闘補助としては適任だろう、と久方ぶりにダ・ヴィンチが口を開いた。
残るはクー・フーリンとヘクトールだ。両者は顔を見合わせ、ヘクトールは、にっ、と笑った。
「じゃ、オジサンはマスターの方に行こうかね。万が一ってことがあるとも限らない、全員補助に回って全滅しちまったら、マスターを守備に問題が出る」
「お前さんはどうする?まぁ…ルーが同行を許すかなっていうのはあるけど」
「………………………」
「そういえばタラニスもルーもキャスターのクー・フーリンに変な反応してたけど…」
残るはクー・フーリン一人。凪子が呟いた言葉にクー・フーリンはきゅ、と拳を握りしめ、沈黙した。今ルーと彼の間には気まずい空気がある。そうしたギクシャクしたものが命がけの場にあるというのは、望ましいことではない。
クー・フーリンにもそれは分かっているのだろう、だからすぐに答えが出せない。悩む様子を見せるクー・フーリンに、意外にもリンドウがぽん、とその肩に触れた。

神域第三大戦 カオス・ジェネシス84

「そして何より、今バロールはお前の攻撃しか通らないんだろう?つまり、お前が負けたら自動的に彼女達の死が確定する可能性が非常に高い。なら、放っておけないだろう。それに、敢えて言うがな、ルー。お前がバロールより強いのかどうか、現状お前が勝ってない時点で強いとお前はこっちに証明できてないんだから、信用して命託せるわけもないだろ」
「なっ…!」
『ちょっ…!!』
ロマニとヘクトールがぎょっとしたように声をあげる。凪子が口にした言葉は明らかに挑発的で、悪意すらも感じられた。お前の方が弱いのではないかと暗に言っているのと同じようなものだ。そのようなことを神に言ったらどうなるのか、想像に難くない。
だが、顔を青ざめさせた両者の予想に反し、ルーは、ふっ、と楽しげに笑みを浮かべたのだった。
「貴様は2000年たってもどうしようもないままだな。それが貴様の処世術なのだとしたら、ずいぶん貴様は受け入れられずに生きていったらしい」
「…………。いや、なんだそれ」
「言い方は選べと言いたいところだが、一理はある」
『なぁ!?』
続いたルーの言葉に、ロマニは驚きを露にして声をあげた。煩わしそうにルーに睨まれてもぽかんとしたままであるあたり、相当驚いたらしい。ヘクトールも拍子抜けしたようにルーを見ているし、どうにも彼らの持つ神のイメージからはかけ離れていたようだ。
「事実を否定したところで意味はないだろう。だがそれを言うならば、春風凪子。私より劣る貴様らは、助力として何ができると言うつもりだ?」
「…まず私から提案できるのは、この時代の私の相手だ。お前とバロールの戦いは、相手がバロールだけであることが望ましい。だからアレに邪魔されないように別の場所でこちらが相手をする。なに、アレの目的がカルデアの排除と私の排除であるなら、引き付けもそう難しくないし、お前さんがこちらに任せる道理にもなるだろう」
「…ほう」
凪子はそこまで言ってから、ちら、とクー・フーリンに視線をやった。カルデア側の見解はカルデアから述べよ、ということなのだろう。
クー・フーリンはその視線に小さく頷くとルーに向き直った。
「もう一つはサーヴァントとカルデアの頭脳による戦闘補助だ。ダグザが言うにはバロールは生前と違う性質を持っているんだろう?なら、アンタが知らない要素の分析と解明、サーヴァントでのバロールの妨害とアンタへの支援。それくらいならできる。なぁ、ドクター?」
『う、うん?そうだな…ランクダウンしているとはいえ、英雄王とマーリンがいるというのなら、少なからず可能だろう。こちらも分析に関してならばそれなりに役に立つと断言しましょう』
「成程な」
ルーは端的にそう返した。感情のない瞳からは、そう聞かされたルーが何を考えているのかは読み取れない。
「…………あの、恐れながら」
―面々が息を呑み、ルーの言葉を待って沈黙したところへ、一人、リンドウが声をあげた。室内の視線が一斉にリンドウに向き、一瞬リンドウは肩を跳ねさせたが、それでも臆せずルーのほうへと身体を向けた。
「なんだ、ドルイドよ」
「………、どうか彼らをお加えください、そちらが貴方様にとって吉兆です」
「…戦いの勝敗にではなく、私にか?」
「へっ?」
「その通りでございます」
恭しく述べたリンドウに対し、僅かに意外そうな表情を浮かべたルーの問いに凪子は間の抜けた声をあげたが、リンドウは即座に肯定を返した。ルーが何を聞きたかったのか、何が意外だったのか、申し出をしたリンドウ以外には誰にもわからず複数の視線が揺れて交錯する。
ふ、と凪子が気がつくと、リンドウの組んだ手が僅かに震えていた。それは自身が信仰する神に直接進言するという大それた行いに対する畏れ――というのではないようにみえた。凪子とクー・フーリンの進言には表情を変えなかったルーも、リンドウの言葉に僅かに考え込む様子さえ見せている。
どうやらリンドウの言葉には、言葉以上の意味があるようだった。
「…………そうか。ではドルイドよ、貴様の進言を聞き入れよう」
「っ!!…、我が主神光神ルーよ、感謝いたします」
「…なんかよく分からんけどこっちの提案でオッケーってこと?」
凪子の問い掛けにリンドウから視線を凪子に移したルーは、しぶしぶ、といったように首を縦に振った。
「致し方あるまい。私の戦闘補助とやらの人選に口だしはさせてもらうがな。あっさり負けて奴の眷属化でもされたらいい迷惑だ。それと、確かに深遠のの相手を貴様がやるというのは道理にあっている。精々きっちり尻拭いをしろ。―その代償として、背負わされた命の保証と責任はとってやる。貴様が要求したいのは、要はそういうことだろう、春風凪子」
「…!」
はっ、としたようにマシュが目を見開き、凪子はにやっ、と笑みを浮かべた。凪子の表情にルーは嫌そうに顔をしかめたが、疲れたようにため息をつくだけだった。
「そいつはどうも!さて、それで構わないか?司令塔。藤丸ちゃんたちの命の安全は保証持ってくれるってさ」
『…!まさか貴女は、はじめからそれが狙いで?』 「はじめからーという訳ではないけど、彼女達どうにもほっとけなくて飛び出しちゃうタイプみたいだから。だったら戦場に安全地作るほうがいいでしょ」
「それは……その、すみません」
しょぼ、とした様子を見せる藤丸に、ルーが視線を向けた。見られていることに気がついた藤丸は驚いたようにルーを見る。
ルーは、すぅ、と目を細めた。
「…他者のために自らの危険を厭わず行動できるというのは、ヒトにとって美徳であるのであろうがな。だが時としてそうした態度は、他者を蔑ろにした自己満足に陥りかねない。勇気と無謀が表裏一体であるようにな。……努々それを履き違えないことだ」
「…!」
――それは、果たして藤丸とマシュという人間にだけに向けた言葉であったのか。
ちらり、と凪子が視線を向けた先で、クー・フーリンは膝の上に拳を作っていた。
<<prev next>>