スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

我が征く道は71

「うう…辛い……アホみたいに辛い…美味しそうなにおいしてたのに辛い……ばか…あほ……辛い……昨日から連続で商品使うはめになるし…からい……つらい………今日は厄日だ……」
それから少したった頃、お昼時のピークも大分前に過ぎ去り、人気のない中華料理屋に凪子の姿があった。なんとなく匂いに惹かれて入ったものの、予想以上の麻婆豆腐の辛さに嘆いているようだ。
皿に残っている麻婆はまだ半分。おかわりしたライスは五皿目に突入し、そろそろ腹もつらい。だが、出されたものを残すのは凪子の主義に反するため、どうにかしたい。
「…どうりで店に人がいないわけだよな……はぁ……よしっ、がんばるか」
かつて砂漠を生身で横断しなければならないとなったときでも、ここまで決意を固めた顔をしたことはない。
すっ、とれんげをかまえた時、不意に店の扉が開いた。
「ん?」
ちらり、とそちらを見た凪子は、入ってきた客を見て慌てて顔をそらした。
ぬっとした、大きな体躯。黒と紫を基調とした装い。そして、首から下がるのは、十字架。
「(コトミネキレイー!)」
客として入ってきたのは、カソック姿の言峰綺礼、聖杯戦争の監督役だった。慣れたように注文をし、凪子から離れた、視界には入る位置に席を取っていた。
「(いやいやいやカソックのまま来るなよ…)」
そんなことを思いながら、ちらちら視線をそちらへとやる。
言峰を警戒していた凪子は、実は直接言峰を見るのはこれが初めてだった。資料から顔は知っていたため判別はついた。
こんな一介の中華料理屋に訪れるような人間とは思っていなかったので、やや動揺している。
「(………それにしても…)」
凪子は相手に気付かれていないらしいことをいいことに、じぃ、と言峰を見据えた。
長い間生きていたことで培われた審美眼が昇華でもしたのか、凪子の目は一種の千里眼・心眼的スキルを持ち合わせていた。性格といった精神面までは判別できないが、身体の構造や異状は見るだけで大体わかる。
「(…やっぱり……)」
じろじろと無遠慮におっさんを見ている女性という構図は非常に不自然なものだったが、他にほとんど客もいないので気付かれることもない。
凪子はそうやってじぃと見ているうちに、調べてる間に違和感を抱いていたところの答えを得た。
「(…やっぱりあいつ、死んでるな……)」

言峰綺礼は死んでいる。
正確には、心臓が正常に働いてはいない。人間の、いわゆる普通の生命活動は行われていないのだ。
第四次聖杯戦争を調べている中で、なぜ言峰綺礼が「生き残った」のかが凪子には疑問だった。穢れた聖杯が泥を吐き出し、町を破壊したその中心地に彼はいたはずだ。だというのに、なぜ生きていたのか。
その答えは、なんのことはない、生きていなかったのだ。生きていないのに、生きているかのように行動できている。
それだけだった。

「(…おそらく、聖杯が生かしたんだろう。それ以外に理由がないし、大聖杯で見た闇、あれと似たようなものの気配がある。問題は、なぜ聖杯が彼を生かしたか、なんだよな…)」

―確かにオレをちゃあんとした形をもって産み出せたかもなぁ

つい先程あったサーヴァントの言葉が思い出された。
産み出せたかもしれない。聖杯は、その意図は分からないが、おそらくあの泥を産み出したがっている。
そして、そんな聖杯が、生まれでたら最後破壊しかなさないような聖杯が、ある特定の人間を生かしたということは、つまり。

「(…あの男は、生み出すのに有益な人間、役に立つ人間ということか…?)」
そうであるならば、それは。
「(…あいつは、意識的であれ無意識的であれ、泥が生まれでることを望んでいる、ということか……)」
凪子は行き着いた答えに、眉間を寄せた。

我が征く道は70

『アンタの魔力はなんつーか…あれだ、例えるなら、人間が入り込めない山奥に湧く水?』
「急にポエマーになりおった」
『ハハッ、アンタころすぞ?』
「ゴメンナサイ。でも正直、そんな大層なもんじゃないよ?」
『でも今時じゃみねぇ類のものってことは確かだ。だから飛び込んできたんならくっちまおうってな』
ぞぞ、と、脳内のサーヴァントの気配がどんどんと薄れていくのに対して、大聖杯からは何かがしみ出してきているのが分かる。
凪子は、ぴっ、と1本髪の毛を抜いた。指先をかじって血を出し、鞄から取り出したウィッカーマン型の藁人形に両方をいれる。
「あーごめんごめん、無理だわ、あげられない。というわけで、さようならっ!!」
凪子はふっ、とそれに息を吹き掛け、大聖杯の方へと放った。身代わりとして自身の気配をそちらに移したのだ。
そのあと凪子は、脳内のサーヴァントの気配が完全に消えたのを確かめ、全力で入ってきた入り口に向かって走り出した。



 「…っはぁ、はぁ、ぜー……はぁ…っふー……」
今までにない全速力で洞窟を駆け抜け、入り口を飛び出した凪子は、念には念をいれて寺の正面口まで一気に駆け抜けた。さすがに息が上がり、石段にどすんと腰を落とす。
体をマナに慣らしにいったというのに、散々な目に遭った。
「…はー……っんでも、おかげさまで…」
ぐ、と、凪子は左腕を振り上げた。厄介な目にはあったが、マナに慣らすことはできた。左腕をどうにか動かせるようには復帰できたようだ。
「…はー目的は達成できたとはいえ……あれはまずいなーあれはまずいよー…」
一難去ってまた一難とはまさにこのことだ。
神の呪いはひとまず解除できたものの、大聖杯の穢れは凪子の予想を遥かに上回る悪質なものだった。
確実に、今回の聖杯戦争の監督役はアレがどういうものか認識した上でそれを使おうとしている節がある。それはそれで別にいいと思っていたが、さすがに規模が大きすぎる。この世すべての悪レベルともなれば、凪子にだって悪影響を及ぼす。
「…もうちょい可愛いもんだと思ってたんだけどな…なんか、あれを無視するのはちょっと…ってなっちゃうなー…困ったなー……」
はぁ、と、凪子は全速で走ってばくばくと高まる心臓をしずめながら、深々とため息をついた。
「…しかし、アヴェンジャーのサーヴァントか。世の中には面白いサーヴァントもいるまんだね……」
けらけらと笑っていたサーヴァントが思い返される。アレはいったい、誰だったのだろうか。
アンリマユは悪の概念存在であって、実在する生命体ではないはずだ。だが、そうでないものがサーヴァントになれるというのだろうか。それも、イレギュラーなクラスで。
「…かつて、そう望まれた誰かがいた、ということなのかなぁ……人間なにかを悪者にしないと生きてけない奴らだからなぁ…」

もしそうなのだとしたら、それはとても。

「反吐が出るなぁ」
ぽつり、とそう呟き、凪子はよっこらせ、と腰をあげた。藁人形に含ませるために切った指先を、ぺろり、と舐めれば、傷口が塞がる。

アヴェンジャーのサーヴァントとはなんなのか。そして、あのアンリマユは果たして放置していいものなのか。
知っていて手出しをしないというのには、それなりの覚悟が必要となる。凪子にとって、人間は守らなければならない存在では決してない。

だがそれでも、あんなもの、と自分が感じてしまったものでさえ、介入しないという自分ルールに縛って無視をするというのは、どうなのか。

色々な想いが凪子のなかを蠢く。救う義務などない、救ったところで凪子にメリットはない。
だが、それでも。
例えそうだとしても、もしかしたら人の運命を踏みにじるかもしれない行為だとしても。

「…あー!つかれた!飯にいこ!!」
そこまで考えて、考えることが面倒になった凪子は、そう叫んでひとまず食事をとることを決めた。

我が征く道は69

「だぁぁっ、あっぶね!!!」
ずざぁっ、と、砂埃が舞い上がる。大聖杯に飛び込む前、凪子が宝石を放り投げたところに凪子の姿があった。簡単に結界を壊し、凪子を喰おうとした闇から間一髪逃れてきた。

あの放り投げた宝石は、昨夜の折鶴の上位互換技法だった。折鶴レベルでは移動に魔方陣の形成が必要であるのに対し、魔力を含ませた宝石の場合は“転換(コンバート)”の一言の詠唱で移動が可能になる。ただし、転換であるので、宝石と位置交換をする形になる。

視線の持ち主、答えたものはアベンジャーのサーヴァントと名乗った。そんなクラスを凪子は知らない。凪子が危険と感じたのはそちらではなく、彼が名乗った真名、“アンリマユ”の方だ。
『なぁーんで逃げんだよぅ』
「うわついてきた!」
『ひっでぇ!アンタが先に来たんだろー?』
「まさか、“この世全ての悪”がこーんな片田舎に現れてるとは思わんもん!世紀の大衝撃だわ!」

アンリマユ。
それは、この世に存在しうる、全ての悪を意味する概念だ。
パンドラの箱だの、聖櫃アークだのといった、開けたら災厄をもたらすもの、触れたら死ぬものなど、そういった悪の概念存在はこの世に数多く存在するが、アンリマユはその比ではない。むしろ、それら全ての原点言って差し支えないだろう。

彼は“凪子が空想したがゆえにサーヴァントとしての形”をもったと言った。恐らくそれは凪子の問いかけに答えるためでもあったのだろう。
だが、この世全ての悪がサーヴァントなどになったら、一体どんなサーヴァントになるというのだ。アヴェンジャーのサーヴァントとは、一体なんだというのか。

脳内でささやくそのサーヴァントは、凪子の言葉や考えなどどこ吹く風で、鼻唄でも歌っていそうな勢いだった。
『さぁなー。オレはただのサーヴァントの形を模しただけのなにかだもーん。お前が飛び込んできたオカゲで一瞬形を持っただけ。お前が大聖杯から出てった以上その内消える。オレは本来形もないし、ここから出てもいけなァい』
「…なんでそんなもんが冬木の大聖杯にあるのさ」
『さぁ?ハハッ!悪なんてどこにいようが簡単に生まれるもんさぁ』
「……、穢れの影響にしちゃあまぁ随分と大層なもんが産まれたもんだ」
『ふふーん……。まっ、強いていうなら、オレを召喚しようとしたやつがいたから、じゃねぇの?』
「……強いの?キミ」
『冗談!オレにはペーペー撃てるような大層な武器もねぇしろくに戦いだってできっこねぇよ。あ、まぁでもあれだ、人殺しは得意だぜぇ?』
ヒヒヒ、とそれは楽しそうに笑った。
確かに、存在そのものが悪であるなら、人間には近くにいるだけで悪影響だろう。それこそ、前回の聖杯戦争の最後のように。
「…、そうか、前回の聖杯戦争調べてきたときに出てきた“泥”…それはお前か」
『前回か。ンー、あのおっちゃんなら、小聖杯のこともあるし、確かにオレをちゃあんとした形をもって産み出せたかもなぁ。思った以上に拗らせてたもんでダメだったけどな!』
「お前はそこから生まれ出たいのか?」
『悪なんて悪事をなしてなんぼだぜ?少なくとも、喜び好んでこんなとこに閉じ籠っていたい、なんてのはねぇじゃねぇかなー。知らねぇけど』
「ふむ。そう言うってことは、生まれでた場合でも“キミ”はいないのか」
『…………』
サーヴァントは凪子の言葉に笑うだけで、答えない。
恐らく、アンリマユが産み出されたところで、今会話をしている“サーヴァント”は産まれ出ない。それはサーヴァントが人間の道具として編み出された技術である以上、ある意味当然と言えば当然であろう。
サーヴァントとして形をもてる以上、召喚できるのだろうが、恐らくかなり限られた条件になるのだろう。
凪子はそこまで考えて、目を伏せ、地面に落ちていた鞄を拾った。
「……、珍しいといったな、私のこと」
『ン?おう』
「何が珍しい?」
んー、と、脳内のそれは唸った。

我が征く道は68

「…なにもいないか」
緩い坂上になっている場所を登り、大聖杯のふちまで近寄る。大聖杯を覗き込むが、そこにもなにもない。がらんとした、暗闇が広がっているばかりでたる。
だが、視線はまだ感じており、この暗闇から一番視線を感じた。
「…あ?聖杯の破損、そして穢れたという話…穢れってのは正確には大聖杯のものだけと見るべきか。まぁ、確かに小聖杯は毎回作り替えるんだから、壊れたところでって話だったな。そんくらい気付けや私…」
あちゃー、といったように額に手をやった凪子であったが、それに気が付いたところで何も現状は変わっていない。今大事なことはそれではない。
何かが、凪子を見ている。それに変わりはないのだ。
「…、サーヴァントかなーと思ったけど……」
大聖杯のなかには魔力がほとんど貯まっている様子はない。だが、気配は確かにある。

これは、なんだ。

「……」
凪子は鞄から、宝石を取り出した。商品の宝石で、魔術的なことはなにも施していないただの石だ。
「…商品は、使いたくないんだけど、仕方ない。こっちのが気になる」
その宝石を口に含み、唾液に濡れたそれを大聖杯からなるべく離れたところへと放る。ついでに、腰に下げていた鞄もそちらへ放る。
「…さて、いきますか」
凪子はそう言って――大聖杯の中に、飛び込んだ。


瞬く間もなく暗闇に飲まれる。
「…!」
ちっ、と小さく舌打ちをし、原初のルーンを全て用いた結界を自身の回りに展開する。
何もない。何も見えない。だが、飛び込んできたはずの上方にも、何も見えない。

完全な闇。それが広がっていた。

「…答える言葉を持つならば答えてほしい。とりあえず、まぁ、地球上の言葉なら理解できる。私を見ているのは誰だ?」
『…へぇ?アンタ、オレを認識できるのか?』
「こいつ、頭のなかに直接…?!」
『なんか楽しそうだなアンタ』
呆れたような、声のようななにかが凪子の頭に響く。言葉を発せられる口は持たないようだ。
凪子は警戒したまま、辺りを見回した。形も持っていないらしい、それらしいものはどうやっても視認できない。
「お前さんか?私を見てたの」
『別に見てたつもりはないんだけどナー。ただ、ここは魔力の溜め池のようなもんだ、そーんな珍しい魔力を持ってるもんがいたら食いたくなるってもんなんじゃねぇの?知らないけど』
「珍しい?」
『言ったろ?知らねぇって』
ケラケラ、と笑われたような気がした。飛び込んだときから思っていたが、どうにも気分のいいものではない。
「…ふむ。じゃあ君自身のことについて聞こう、“君”は誰だ?」
『オレぇ?オレは本来存在しないもんだ、だけどアンタは“サーヴァントがいる”っつー憶測で飛び込んできた。それが反映されて、サーヴァントとしての形が限定的に作られた、ってェ感じじゃねえの』
「ふむ。つまり、君はサーヴァント?クラスは」
『……オレは存在しねぇんだけどなァ……。ま、もしオレが“存在すると仮定した”場合、こうなるだろうな』
にんまり。
見えないはずなのに、そんな笑顔が見えた気がした。
『―――オレは復讐するもの、“アヴェンジャー”のサーヴァント。名乗るなら、アンリマユ』
「―――!!コンバート!!」
凪子がそう叫び、消えるのと、結界が破壊されたのはほぼ同時だった。

我が征く道は67

翌日。
「ふあぁ…さて、今日はなにしようかな」
帰れされてしまったおかげでぐっすり夜寝た凪子は、朝8時頃に目覚めた。
さぁ、今日はどうしたものか。
「……、これから戦闘が激化してくると思うと、ルーン飴と今のルーン発動じゃちと厳しいものが出てくるな。何より呪いがなー…左腕動かないだけだけどルーンもなーんか微妙なんだよなー。…よし」
たんっ、と凪子はベッドから降りた。そしてクローゼットに掛けておいた、新都で買った新しい服ではなく、冬木に来たときに着ていた服に手をかけた。

体にフィットするような作りのインナーと、麻と綿をあわせた布で作られた上着。そして、昨日辛うじて血がつかなかったコート。これら一式の格好は、一種の礼装でもあった。

効果は様々で、一言で説明するのは難しい。あえて説明するのであれば、すべてのスペックを向上させるもの、とでもいおうか。
要するに、凪子の勝負服な訳である。
「たまーに発症する呪いは熱みたいなもんだからなぁ、魔力の流れを活発にしてやれば解けるのが早くなるはず。でもここのマナにイマイチ合わない…キャスターが吸ってるのもあるんだろうな…というわけで、今日はマナが純粋で強いところに行きますか!」
誰に言うでもなく、凪子はそんな風に宣言する。
凪子はこれから来る観戦に向け、体力を万全にするために、この土地の魔力に身体を慣らしに行くつもりのようだ。
それはつまり、大聖杯が設置されている場所に赴くことを意味した。



 凪子は、大気のマナの流れからその大体の位置を把握していた。それはキャスターの拠点、柳洞寺の地下にある。おそらく律儀に参加しているところから見ても、キャスターはその事には気付いていないだろう。それくらい、霊体にとっては強力な結界が寺に発生しているのだ。
「ま、だから地下にある、って考えられなくもないんだけどね」
地下道を滑らないよう、気を付けながら進む。実のところ凪子も大聖杯を見るのはこれが初めてだ。この土地の魔力に慣れるなら最適か、と思って来てはいるが、小聖杯が破損していることを思うと大聖杯が穢れている可能性がないとは言い切れない。
「………お、着いた、け、どぉ………」
暗い、鍾乳洞のような地下道を進んで、開けたところに出た。大聖杯の設置されている場所に着いたのだ。
だが、凪子の表情は曇っている。
「…マナが汚いと思ってたけど、ここもっと汚いやん…まだサーヴァントが脱落してないからか、聖杯付近のわりにはクリーンだな」
そう言いつつも、念のため聖杯の近くにまで歩み寄る。
「…んー……あんまり気に入らない魔力ではあるが、馴染ませといた方が楽だし、今日はここにいるかぁ。変にキャスターの魔力が混じる地上よりかはマシだ」
凪子はそう言って、大聖杯の根本付近に座り込んだ。
すぅ、と深く息を吸い込み、身体を楽にする。礼装を通して、大気のマナと溶け込むように、“自分”をできるだけ薄くする。
沈み込むように。溶け入るように。微睡みに、落ちていくように―。

 「――――、ん?」
そうやって身体を慣らしていた凪子だったが、ふと視線を感じて目を開けた。大聖杯だけあるのだ、何かしらの防衛が張られていてもおかしくない、と、念のため手にはナイフを持っていた。
鳴らし始めてから30分ほどだろうか。まだ馴染みきってはいないが、視線が気になり、立ち上がる。
というのも、視認する限りにおいて、目を持つものなどいなかったからだ。
「…どーなーたー?」
凪子の声は、広い空洞となっている洞窟にこだまする。返答は、ない。
「……穢れた、聖杯。聖杯戦争は本来七騎。だけど、別にサーヴァントの分類は“七騎に限ると決定されているわけではない”……」
ぽつり、と凪子はそう呟き、背後の大聖杯を見上げた。
視線は変わらずある。だがどこから来ているのかは分からない。強いて言うなら、全方位から感じる。
可能性としては、この異物、大聖杯のみ。
「…ちっと覗いてみるか」
凪子はナイフをしまい、大聖杯の器の縁まで登ってみることにした。
<<prev next>>