2017-8-31 23:55
ライダーのお陰か、駆けつけたと思われるUGFクリードの構成員は軒並み倒れ付していた。確認はしていないが、ちゃんと殺してはいないだろう。
バーサーカーはヘクトールが追ってくる可能性を見越して、直ぐ様背後に視線を向けながら無線に手を伸ばした。
「ライダー、悪ィが戦車一体こっちに寄越してくれ!」
『あ!?俺の船はお守り用のゆりかごじゃねーですけどぉ?!』
「ぐだぐだ言ってねぇで寄越せ!それどころじゃねーんだよ!!ヘクトールに目ぇつけられてんだ!」
『ぐぬぬ、まことに遺憾でござるが、せっかく手にいれたお宝を奪われるのは癪にさわる…しゃーないですなぁ!』
ライダーはぶつくさと文句を言っていたが、少年の保護用に戦車を一台回すことを了承してくれた。
ライダーの多脚戦車は自律型AIが搭載されており、自動的に動くことができる。今ライダーが一人で複数台を使役できているのもそのためだ。だがそれはそれとして、小さいながらも操縦席もある。
今把握できている限りの、敵の装備による戦闘であるならば、操縦席に攻撃の害が及ぶことはまずないだろう。バーサーカーはそう考え、その操縦席部分に少年を保護しておこうと考えたのだ。
バーサーカーはライダーの了承を確認すると、意識を自分が出てきた穴へと向けた。放置されたものなのだろうか、廃工場近くにあったコンテナの影に隠れ、様子を伺おうとした。
その時だ。
「まぁまぁ、戦車だなんて、随分物々しい装備でいらっしゃってましたのね、ChaFSSの方は」
「ッ!」
不意に上空から、女性の声がした。それと同時に、刺すような殺気を感じ、バーサーカーは直感的に横へ飛びずさった。
直後、バーサーカーは先までいた所の地面の石畳が破裂したように跳ね上がる。
「わっ!?」
「狙撃か…!」
バーサーカーは狙撃主を探そうと、ばっ、と近くの建物の屋上を見上げたが、さすがにそう簡単に見つけさせてはくれないらしい、それらしい人影はなかった。
声の大きさ、方向から大体の場所は絞り込めなくもない。ライダーの戦車が来るまで、どうにか耐えるしかなさそうだ。
バーサーカーはすぐに建物と建物の間に身を隠した。すぐに見つけられるだろうが、隠さないよりかはマシだろう。
「お前、アン・ボニーだな?!」
「まぁ、お分かりになりまして?ヘクトールから貴方と少年を確保するように、と言われておりますの。まぁ、貴方は殺してしまってもいいそうなのですが…間違えて殺してしまっても、悪く思わないでくださいましね?」
「!」
バーサーカーはさっ、とさした影に上方に狙撃主――アンが来たことを察し、すぐに建物の影から飛び出した。
ただの銃弾ではなかったのか、地面にあたったアンの銃弾は派手な爆発を巻き起こした。
「ッ…!」
爆風に弾き飛ばされたバーサーカーは、両手が塞がっているため受け身もとれずに石畳の地面に背中から落ちる。走った鈍い痛みに眉を寄せたが、痛がっている余裕はない。
バーサーカーは衝突で死ななかった勢いを使って後転しながら身体を起こし、先程の攻撃でおおよそつかめたアンが居るであろう場所を見上げた。
その直後、バーサーカーの右肩に鋭い痛みと熱が走った。
「〜〜〜ッ……!!」
「まぁ!声も漏らさないだなんて、タフなお方ですね」
バーサーカーが身体を起こすのを狙い、待っていたのだろう。アンの狙撃がバーサーカーの右肩を貫いていた。
「参ったなオイ…そういうまどろっこしいのは好きじゃねぇんだがな」
バーサーカーは痛みを感じながらも怯むことなく直ぐ様地面を蹴り、別のコンテナの影へと隠れた。ぐっぐっ、と右手で拳を作り、問題なく腕が動かせることを確認する。
「それはごめんあそばせ。こちらも春から悩まされていましてね、今日はそれを解消できる絶好のチャンスですので」
「悩まされていただぁ…?」
アンの言葉に、ぴくり、とバーサーカーは眉を跳ねあげた。今、彼女は何か、妙なことを言わなかったか。
そんなバーサーカーの思考を邪魔するように、バーサーカーが隠れているコンテナが、ガァン、と派手な音を立てた。
「そういうわけですので、手加減できませんの。ごめんあそばせ」
「…っ」
コンテナを壊してバーサーカーをあぶり出すつもりなのか、ガンガンと鈍い音をコンテナが奏でる。そう長くは隠れていられないが、下手に飛び出せばすぐに蜂の巣にされるだろう。
「それは都合がいい。こちらも手を抜かないでいい理由ができたというものだ」
さて、どうしたものか、と思ったとき。
そんなニヒルな声が、廃工場裏の広場に響いた。