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この街の太陽は沈まない55

ライダーのお陰か、駆けつけたと思われるUGFクリードの構成員は軒並み倒れ付していた。確認はしていないが、ちゃんと殺してはいないだろう。
バーサーカーはヘクトールが追ってくる可能性を見越して、直ぐ様背後に視線を向けながら無線に手を伸ばした。
「ライダー、悪ィが戦車一体こっちに寄越してくれ!」
『あ!?俺の船はお守り用のゆりかごじゃねーですけどぉ?!』
「ぐだぐだ言ってねぇで寄越せ!それどころじゃねーんだよ!!ヘクトールに目ぇつけられてんだ!」
『ぐぬぬ、まことに遺憾でござるが、せっかく手にいれたお宝を奪われるのは癪にさわる…しゃーないですなぁ!』
ライダーはぶつくさと文句を言っていたが、少年の保護用に戦車を一台回すことを了承してくれた。

ライダーの多脚戦車は自律型AIが搭載されており、自動的に動くことができる。今ライダーが一人で複数台を使役できているのもそのためだ。だがそれはそれとして、小さいながらも操縦席もある。
今把握できている限りの、敵の装備による戦闘であるならば、操縦席に攻撃の害が及ぶことはまずないだろう。バーサーカーはそう考え、その操縦席部分に少年を保護しておこうと考えたのだ。

バーサーカーはライダーの了承を確認すると、意識を自分が出てきた穴へと向けた。放置されたものなのだろうか、廃工場近くにあったコンテナの影に隠れ、様子を伺おうとした。
その時だ。

「まぁまぁ、戦車だなんて、随分物々しい装備でいらっしゃってましたのね、ChaFSSの方は」

「ッ!」
不意に上空から、女性の声がした。それと同時に、刺すような殺気を感じ、バーサーカーは直感的に横へ飛びずさった。
直後、バーサーカーは先までいた所の地面の石畳が破裂したように跳ね上がる。
「わっ!?」
「狙撃か…!」
バーサーカーは狙撃主を探そうと、ばっ、と近くの建物の屋上を見上げたが、さすがにそう簡単に見つけさせてはくれないらしい、それらしい人影はなかった。
声の大きさ、方向から大体の場所は絞り込めなくもない。ライダーの戦車が来るまで、どうにか耐えるしかなさそうだ。
バーサーカーはすぐに建物と建物の間に身を隠した。すぐに見つけられるだろうが、隠さないよりかはマシだろう。
「お前、アン・ボニーだな?!」
「まぁ、お分かりになりまして?ヘクトールから貴方と少年を確保するように、と言われておりますの。まぁ、貴方は殺してしまってもいいそうなのですが…間違えて殺してしまっても、悪く思わないでくださいましね?」
「!」
バーサーカーはさっ、とさした影に上方に狙撃主――アンが来たことを察し、すぐに建物の影から飛び出した。
ただの銃弾ではなかったのか、地面にあたったアンの銃弾は派手な爆発を巻き起こした。
「ッ…!」
爆風に弾き飛ばされたバーサーカーは、両手が塞がっているため受け身もとれずに石畳の地面に背中から落ちる。走った鈍い痛みに眉を寄せたが、痛がっている余裕はない。
バーサーカーは衝突で死ななかった勢いを使って後転しながら身体を起こし、先程の攻撃でおおよそつかめたアンが居るであろう場所を見上げた。

その直後、バーサーカーの右肩に鋭い痛みと熱が走った。

「〜〜〜ッ……!!」
「まぁ!声も漏らさないだなんて、タフなお方ですね」
バーサーカーが身体を起こすのを狙い、待っていたのだろう。アンの狙撃がバーサーカーの右肩を貫いていた。
「参ったなオイ…そういうまどろっこしいのは好きじゃねぇんだがな」
バーサーカーは痛みを感じながらも怯むことなく直ぐ様地面を蹴り、別のコンテナの影へと隠れた。ぐっぐっ、と右手で拳を作り、問題なく腕が動かせることを確認する。
「それはごめんあそばせ。こちらも春から悩まされていましてね、今日はそれを解消できる絶好のチャンスですので」
「悩まされていただぁ…?」
アンの言葉に、ぴくり、とバーサーカーは眉を跳ねあげた。今、彼女は何か、妙なことを言わなかったか。
そんなバーサーカーの思考を邪魔するように、バーサーカーが隠れているコンテナが、ガァン、と派手な音を立てた。
「そういうわけですので、手加減できませんの。ごめんあそばせ」
「…っ」
コンテナを壊してバーサーカーをあぶり出すつもりなのか、ガンガンと鈍い音をコンテナが奏でる。そう長くは隠れていられないが、下手に飛び出せばすぐに蜂の巣にされるだろう。

「それは都合がいい。こちらも手を抜かないでいい理由ができたというものだ」

さて、どうしたものか、と思ったとき。
そんなニヒルな声が、廃工場裏の広場に響いた。

この街の太陽は沈まない54

「まぁ、こちらも分からねぇことがある。というわけで、その坊や、こっちにくれない?狂戦士くん?」
バーサーカーは内心で舌打ちをする。そうではないかと思ってはいたが、ヘクトールには面割れしていたらしい。バーサーカーは右腕に抱えた少年が万一にも流れ弾に当たらないよう、自身の身体の影に入るように体勢を変えながら、挑発的に笑って見せた。
「ハッ、誰が渡すか。それにしてもヘクトール、テメェの面を直接見る機会があるとは思わなかったぜ?お前さんが現場に来て、挙げ句に嵌められるなんざ、明日は槍でも降るのか?」
「やだなぁ、嵌められたのはそちらさんも、じゃないのかい?オジサンとしては、この状況は鴨が葱を武器に殴り込んできた程度でね、想定外というわけのことでもないからねぇ」
ヘクトールはそう言いながらごそごそと懐を探り、小さなナイフを取り出す。それを右手でぽんぽんと放りあげながら、バーサーカーの方をみた。
「そういえば君、なんでハンドガン抜かなかったの?あぁ、利き手が埋まってるからかい?」
「ハッ、利き手は関係ねぇよ。元より飛び道具は不得手なもんでな」
「ふーん、まぁ、そんな感じはあるよねぇ。バーサーカーとはよく言ったもんだ、ナイフでやる殺しの方がお好きかい?」
殺し、という文言に、びくりと少年が反応したのが分かった。ちぃ、と、バーサーカーは小さく毒づく。ヘクトールのようなタイプを相手にするのは苦手だ。
「好きか嫌いかじゃねぇ、守るべきためだ。その為ならば身も汚す。身も心も綺麗で汚れも痛みも知らないまま、人を、街を守れるなんて、甘いこと考えてねぇからな。テメェらUGFクリードみたいな組織がいるなら尚更だ」
「お!言ってくれるねぇ。うちはそんなにカタギ相手の仕事はしてないんだけどなぁ、嫌われたもんだね」
「ケッ、あんな物騒なもん流行らせといてよく言うぜ」
「あんな物騒なもん。………なるほど、道理でここのところ付きまとってたわけか」
「あ?」
ふっ、と、不意にヘクトールの表情が変わる。なにか自分はそんな変なことを言っただろうか、と思ったバーサーカーだったが、すぐに1つの可能性が頭に浮かんだ。

赤いアンプルを流している犯人を、ChaFSSでは暫定でUGFクリードによるものとして動いていた。その裏、ないしは背後に別組織がいることは間違いのないこととはいえ、UGFクリードが大きく関与していることは確かだろうと。

ヘクトールの反応を見る限り、その前提が覆る可能性がある。

「成る程成る程、それは興味深いね。じゃ、坊やだけでなく、君にも話を聞かせてもらいたくなってきたね」
「!」
だが、バーサーカーに考える猶予をヘクトールは与えてくれなさそうだ。
ヘクトールから出た言葉から自らも捕らえようとヘクトールが決めたであろうことを泣かば確信に近い形で察したバーサーカーは、ナイフをランタンに突き立てて消した。
「逃がすかよ」
先程までの会話より、1オクターブは低く聞こえるヘクトールの声に、バーサーカーは直ぐ様横方向へと飛び出した。
直後、大きく風を切る音をさせながら、先程までバーサーカーがいたところにナイフが文字通り“衝突”したかのように突き刺さったのが感覚で分かった。直撃すれば、砲撃を食らったのと同等のダメージを食らいそうだ。
「チィ…!」
「おっ、お兄さん、」
「心配すんな、敗けやしねぇよ。だが、ちょいとしっかり掴まってろ!」
怯えたような、それでいてしっかりとしている声の少年に少しばかり感心しながら、バーサーカーは工場の奥へと移動した。
そしてそれとほぼ同じタイミングで、背後の壁が派手な音を立てて吹き飛んだ。
「おせぇじゃねぇか…!」
ライダーの砲撃だ。おちゃらけてはいるが、重火器の扱いに関してはプロ級の腕をもつ男なだけはある、壁は崩壊することなく、それでいてバーサーカーでも余裕で抜け出せそうな程度の穴が壁に空いていた。
「ッ、」
バーサーカーは穴から差し込む光めがけて勢いよく地面を蹴った。何が飛んでくるか―ヘクトールが何を投げてくるか―分からないので、身を低く屈め、懐に少年を抱き抱えながら、直線にならないよう蛇行しながら光を目指す。外からはライダーが廃工場の外で待機していたUGFクリード構成員の対処をしてくれているのか、時折破裂音が聞こえてくる。
ガンガンと近くにヘクトールが投擲したであろうものが衝突する音が数度聞こえたが、それらに命中することなくバーサーカーは穴まで到達し、外へと飛び出した。

この街の太陽は沈まない53

「は、はい。言われました」
「その指示をされたのはいつだ?だれかはわかるか?」
「昨日です。昨日の、夜に。誰かは…機械の音声みたいだったので、男の人なのか女の人なのかも……」
「(…昨日。なら、今回の作戦決行が決まった後……?)」
「あの……?」
「、よく分かった、ありがとな。すぐにこっから出してやる。セイバー!」
バーサーカーは一旦ベルトを外すと自身の制服を脱ぎ、ばさりと頭から少年にかけた。インナー姿で、再び腰に装備を吊るしたベルトを回す。その作業をしながら、バーサーカーは無線に呼び掛けた。
『私だ、どうなった?』
「子どもを確保。被害者だった、保護する。…家族を人質にとられて、ヘクトールに取引を持ちかけ足止めするよう指示されてた。誰にされたかは不明だ」
『!…そうか。つまり取引はガセか。取引相手が存在しないのなら、取引をやめたい相手からのリーク、という可能性は消えたな』
「それからもうひとつ!…指示したやつは俺たちが来るのを知っていた。俺たちに少年を守らせる気だった」
『なんだと!?』
『それがリークしてきた奴の仕業だとすると…なにがしてぇんだそいつは!!』
混乱したようなアーチャーと、苛立ったようなライダーの声が聞こえてくる。困惑するのはバーサーカーも同じだった。

UGFクリードが嵌められたのは確かだ。恐らくそれは襲撃してきた雀蜂という集団の仕業なのだろうと考えられた。
では、その為にわざわざ裏世界と無縁らしい少年を使い、挙げ句の果てにこの現場にChaFSSを誘き寄せたことに、一体何の意味があるのか。

それがさっぱり見えてこないのだ。
『…よく分かった、ありがとうバーサーカー。少年を保護、そこから出てくれ。アーチャー、戦闘準備。君は作戦通り、徹底援助。ライダー、バーサーカーのいる工場の裏手に砲撃で穴を開けてくれ、確かそちらに出口はなかったはずだ。少年をつれて銃撃戦の中を抜けるのはリスクが高い。その後は砲弾を威嚇用のものに切り替え、こちらの合図を待て』
そこへ、鋭くセイバーの指示が飛び込んできた。冷静な声に三人の頭も一息に冷える。
そうだ、今は現状をどうにかしなければならない。
『最初の予定での逮捕は無理だろう。なので、この場にいる全員、傷害罪・傷害致死罪・現場助勢罪 ・暴行罪 ・凶器準備集合及び結集罪、まぁそんなところで拘束する!全員どこかには当てはまるだろう!』
『さ、最後だけ雑だなセイバー!?』
一人、アーチャーだけは突っ込みをいれる余裕もあったようだ。
バーサーカーはセイバーの指示に短く了承の言葉を返すと、被された制服の下からおどおどと顔を覗かせていた少年をひょいと抱えあげた。
「じきに壁に穴が開く。それまでもう少し我慢できるか、坊主?」
「は、はいっ」


「その子を逃がすわけにはいかないなぁ」


ぞくっ、と、不気味なほどの寒気がバーサーカーを襲う。バーサーカーは少年を片腕で抱き上げたまま、反対の手で腰に装備していたサバイバルナイフを引き抜き、声のした方へとそれを向けた。
「…ヘクトール!」
「面倒なんだけどねぇ…オジサンもういい歳なんだぜ?」
どこかおどけたようにそう言いながら、ナイフを向けられたヘクトールはくわえていたタバコを放り投げた。そこそこ銃撃戦が表では繰り広げられているはずだが、目立った損傷もなさそうだ。
抱えた腕のなかで、びくり、と少年が身体を震わせたのがわかった。
「なぁんでChaFSSがいるのかは知らねぇが…なに?その坊や、君たちの仲間かなんか?いやぁ、さっさと殺しておくべきだったかなぁ?」
「………………」
飄々としながら、それでいて隙を見せないヘクトールに、バーサーカーは無言で返した。ChaFSSの手の者でないであろうことなど、ヘクトールはとっくに察しているはずだからだ。
ヘクトールはバーサーカーのその態度からそれを感じたのか、にや、と笑みを浮かべた。

この街の太陽は沈まない52

「!ChaFSS…ッ?」
とびおりたバーサーカーにいち早く気が付いたのはヘクトールだった。さすがに部下に押し込められたか、西の壁沿いに彼が身を潜めていた直線上にバーサーカーが飛び降りたからだろう。
バーサーカーはヘクトールを一瞥すると、身を低く屈めた状態から勢いよく地面を蹴った。その正体がなんであれ、まずは子どもの身柄の確保が最優先だ。
『バーサーカー、今はそれどころでは…ッ!』
「ガキが利用されたんじゃなく、UGFクリードを嵌めた組織の人間なら、なにか分かるかも知れねぇだろ!すぐに確保する!」
アーチャーの言葉に怒鳴るように返答し、バーサーカーは混乱のなかを器用に駆け抜けていく。雀蜂とやらがどうかは知らないが、UGFクリードの構成員はそれどころではないようで、突如現れ乱入しているバーサーカーに反応を示してくることはなかった。
「…っと!」
障害物を乗り越え、滑り込むように工場に残された器具の下を抜けた。そうしてそのまま駆け抜け、ヘクトールが対峙していた辺りに到達する。
ヘクトールと子どもがいたところはちょうど工場の構図としては仕切りのある、境目のところだったらしい。横開きのシャッターは、開放されたまま長い間動かされた気配はない。
子どもはさらに奥に逃げたようで、その姿はない。工場の奥は窓のない構造になっているようで、そのせいで暗くなっていたようだった。
「……」
バーサーカーは迷いなくその暗闇に踏み込み、慎重に辺りの様子をうかがう。手前側では激しい銃撃戦が続いている、モタモタしている暇はない。
バーサーカーは腰に装備していたハンドガンを引き抜いた。ハンドガンに装備していたタクティカルライトを、懐中電灯がわりに使うためだ。また、もしも子どもがUGFクリードを嵌めた組織の一員であるのなら、このような危険を任されるほどだ、手練れである可能性もある。それを考慮し、バーサーカーはハンドガンをいつでも撃てる状態にして構えながらライトをつけた。
「ひっ!」
「!」
ライトをあちこちに向けながら、どうやら事務作業スペースになっていたらしい、机が散乱しているスペースをずかずかと歩き回っていると、存外すぐにそんな悲鳴が耳に届いた。
反射的にそちらにライトを―つまり、銃口を―向けると、机のしたに隠れていたらしい少年が面白いくらいに高い悲鳴をあげて身体を跳ねさせた。
バーサーカーはその様子を見て、少年は何らかの組織の人間ではないと判断し、すぐに銃口をあげ、怯えさせないようにホルスターにしまった。それはそれでライトが切れて暗くなってしまうので、ベルトにつけていた小型のランタンを灯して両者の間に置き、少年の視線に合わせるように腰を低く屈めた。
「怯えなくていい、ChaFSSのモンだ」
「カフ…ス?ほ、ほんとに来た…!」
「ン…?」
傷だらけで強面であることは自覚しているが、なるべく怖がらせないように笑みを浮かべて話しかけると、少年は思いがけない反応を返してきた。バーサーカーがChaFSSの名前を出した途端、ほっとしたように表情をほころばせ、安心したように身体を脱力させた。
相当緊張していたのか、そのまま倒れ込んできた少年の身体を慌てて支える。
「す、すみません…!」
慌てて少年は身体を起こす。先ほどヘクトールと対峙していたとは思えないくらいその身体は震えていた。
「お前さん、ただの子どもだろう?こんなところで何をしていた?さっき、髭のおっさんと話していたろう、あれは何故だ?」
「あ……それは……」
「あー安心しろ、怒っちゃいねぇよ。ただ、今あっちでやべぇことになってるのは分かるな?」
「は、はい」
「俺たちは別の目的でここに来ていたんだが、あいつらはどっちも犯罪集団でな。できればとっちめたい。その為にも、お前さんがなぜここにいて関与していたのか、理由を知りたい」
「わ…わかりました」
少年は一つ一つ丁寧に述べたバーサーカーの言葉ですぐに理解したか、バーサーカーの言葉に頷いた。
「…家に帰ったら弟たちがいなかった。そしたら、急に電話が鳴って……弟たちを無事に返してほしかったら、仕事を手伝ってほしいって」
「脅されたのか?」
バーサーカーは思わず眉間を寄せた。少年は慌てて両手を振る。
「いや、そんな雰囲気じゃなくて、いや、結果的にそうなのかもしれない…ですけど……」
「…とにかくお前に、そう指示してきた奴がいたんだな。それでここに来たのか?」
「は、はい。時間が指示されていて、ここにこの人が来るだろうからその人に取引を持ちかけてくれ、って」
そう言って少年はポケットから折り畳まれた写真を差し出した。それを受けとると、それは盗撮されたらしいヘクトールの写真だった。
「それで、そのあとちょっと危ないことになるかもしれないけれど、すぐにChaFSSが来るから心配しなくていい、そこまでやってくれれば弟たちは返すって……」
「ChaFSSが来る、そう言われたのか?」
バーサーカーは少年の言葉に僅かに目を見開いた。

この街の太陽は沈まない51

「化けもんだなありゃ」
思わず苦笑と共に言葉が漏れた。ヘクトールの技巧について話には聞いていたが、あんな投擲をして右腕を痛めやしないものなのだろうか、と、思わずそんな心配すらしてしまう。
現実逃避的にそんなこと考えていたバーサーカーははっと我にかえると、ペシペシ、と頬を叩き、状況を改めて確認した。

戦闘ヘリは完全に炎上しており、中にいた人物は恐らくもう助からないであろうことが簡単に察せられた。燃え尽きる前にと手早く機体を確認したが、特にこれといったロゴや所属が書かれている様子はなく、どの組織のヘリコプターであるのかは判断がつかなかった。

「!あれは…」
そんな炎上するヘリコプターの背後に、ゆらと人影が揺れたのが見えた。それを確認すると同時に、不気味なヘルメットを被った集団が勢いよく廃工場へと突入してきた。
「んだありゃ!?」
見たことのない集団にバーサーカーは慌てて身体を反転させ、廃工場内の集団へと目を向ける。
怒号飛び交うUGFクリードに対し、そのヘルメット集団は無言のまま、統制された動きを見せた。
「(ありゃ軍隊の動きだ、だがどこだ?!)」
「出やがったな!」
「ぶっ殺してやる!!」
バーサーカーには覚えのない組織であったが、どうやらUGFクリードには覚えがあるらしい、直ぐ様、両者の間で銃撃戦が始まった。
「バーサーカー!」
「セイバー!どうなってやがる、なんだこいつらは!?」
予想外の銃撃戦が始まってしまったことでChaFSSの作戦も変更せざるをえない。そこで司令官たるセイバーも、内部に入ってきたようだ。重心を低くして走り寄ってきたセイバーに、バーサーカーは混乱と疑問をそのままぶつけた。
セイバーは僅かに二階から顔を覗かせ、忙しなく視線を動かしながら、階下の様子を観察した。
「…噂程度に聞いたことはある。黒いヘルメット集団にリーダー格の黄色いヘルメット……。まさか、裏組織潰しの、雀蜂、ではないのか?」
「雀蜂ぃ?なんだそりゃ?」
『私も聞いたことがある。定住したところを持たず、自らの信念に基づき、裏組織を道場破り的に破壊していく組織があると。そのカラーリングと狂暴さからか、雀蜂を呼称していると』
無線から、二人の会話を聞いていたらしいアーチャーの声が聞こえてきた。裏組織潰しの組織となれば、裏組織であるUGFクリードが身に覚えがある、というのは納得の行く答えではある。
『それより、どうする、この現状。取り引きはこの様子では行われそうにない、UGFクリードの逮捕は無理だぞ』
『それどころか、戦闘ヘリが来るなんざ、UGFクリードの取り引きの話自体、UGFクリードを誘きだす罠だった可能性が高いんじゃねぇのか?』
連続して、アーチャーと、神妙なライダーの声が飛び込んでくる。
そう、アンプルの取引が行われるはずだったのだ。それが雀蜂による罠であるのならそれはそれで説明はつく。
だが。
「…確かにUGFクリードは罠に嵌められた可能性が高い。だが、それを我々にリークする理由はなんだ?」
セイバーの言葉が、その場の四人全員が抱えた疑問を現していた。

そう、なぜそれを、謎の人物はChaFSSに流したのか。その人物は、ChaFSSに何をやらせたいのか。

それがいよいよ分からなくなってきた。ふーむ、と、大きくライダーがため息をつく。
『そいつが分かりませんなぁ。誰が、何の目的でリークしてきたのか……。もしかして、ChaFSSもどさくさに紛れて潰すつもりだったとか?』
『一体誰が?』
「…そうだ、子ども」
バーサーカーは三人の話を聞いていて、はっ、とあることを思い出した。
これが、罠なら罠でいい。だが、これが罠であるのならば、この場には何もいないはずだ。誰もいないところに誘い込み、外からヘリで爆撃する。それが計画であったのだとするならば、この場にはUGFクリードの人間しかいないはずだ。だが、確かに取引をしようとした人物がいた。
「子ども?」
ぽつり、とバーサーカーが呟いた言葉に、セイバーが眉を潜めた。バーサーカーは、がばり、と光学迷彩を脱ぎ捨てた。動きにくくて仕方がない。
「あぁ、さっき、確かに取引をしようとしていた奴がいた、それもガキだ!もしこれが罠なら、そのガキは雀蜂に利用され―捨て駒にされた可能性がある!!」
「!バーサーカー!」
バーサーカーはそう言うなり、隠れていた場所から飛び降りた。
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