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我が征く道は41

ランサーは大きく外回りに攻撃を仕掛ける。だが、バーサーカーはそれを許さず、ランサーの動きに合わせて正面に間合いをとる。
ランサーはそんなバーサーカーの動きに、どこか楽しそうに笑った。そして、もう側面に回ろうとはせずに正面から突っ込んでいった。
どうやら、戦法としてやろうとしてはみたものの、まどろっこしい戦闘は趣味ではなかったようだ。
「(さすが、参戦目的がバトルなだけはある)」
二人は変わらず激しくぶつかり続ける。
少し距離が開いたのち、ランサーは槍先を下に向け、地面を軽くえぐりながら、槍の持ち場所を石突きの方に滑らせ、遠心力による勢いを付随させてバーサーカーに槍をぶつけた。バーサーカーもそれにあわせて斧剣を振り上げて弾く。
直後、振り上げた斧剣をノーモーションで反転させてランサーに斬りかかる。ランサーもそれに合わせて先ほど弾かれた槍を素早く持ち替え、首目掛けて振られたそれを受ける。
互いに弾かれ、また距離があく。肩に乗っていたイリヤスフィールも、戦闘の激しさにバーサーカーの小脇に抱えられていた。
ランサーは、ぐるり、と左手で持った槍を手の内で回転させ、バーサーカーと一太刀斬り結んだが、続いた攻撃を前面で受けた時、その勢いを受け止めきれなかった。
ランサーの身体が斧剣に持ち上げられて軽々と宙に浮く。バーサーカーはそのまま勢いよく斧剣を振り上げ、ランサーを地面へと叩きつけた。
「!」
攻撃の衝撃で、ランサーを中心に地面が深くえぐれヒビが広がる。
だがその攻撃はランサーには通じなかったらしい。きらり、と魔力を帯びた槍が光り、ランサーはそれだけの衝撃を微塵も感じさせない動きで、肩に乗るイリヤスフィール目掛けて槍をつきだし飛び掛かった。槍のきらめきか、あるいはそれにより生じた風の揺らぎか、一瞬早くその攻撃に気が付いたバーサーカーがイリヤスフィールを守るようにイリヤスフィールを抱えた左腕を振り上げ、身体を捻ったため、ランサーの攻撃は外れた。
「(…おーおー、楽しそうなこって…)」
攻撃は外れた。だが、槍に帯びさせた魔力が霧散し、飛び上がった上空でバーサーカーを振り返ったランサーの顔は、ひどく楽しそうに笑っていた。イリヤスフィールを狙った攻撃にしても、さながら“理性のないお前にマスターを気遣う戦闘ができるのかねェ?”とでも言わんばかりの、バーサーカーの力を試すかのような攻撃だった。
理性を失っているはずのバーサーカーにそれが通じたかは分からないが、少なくともイリヤスフィールはそんな簡単な挑発には乗らなかった。その見目には不釣り合いなほどの冷静な目で、ランサーを見つめている。
「なるほどなるほど、バーサーカーなんぞの肩に乗るだけはあるってことか」
くるくる、と空中で何度か回転して離れたところに着地したランサーは、どこか楽しげにそうイリヤスフィールに言った。イリヤスフィールは、そんなランサーの言葉につまらなさげに目を細める。
「そういうあなたは期待外れね。わざわざ結界をあれだけ派手に破壊して乗り込んできたわりにはつまらないわ」
「ハ、ちがいない。うちのマスターの方針でな、今日のオレは、そのバーサーカーの実力を測るためだけに来ているからな」
「…そう。ならその愚かなマスターに言うことね。サーヴァントの使い方が下手すぎる、って」
ゴッ、と音をたて、バーサーカーから勢いよく魔力が吹き出す。イリヤスフィールが供給したのか、あるいは持っていた魔力を発散させたか、魔力を身体中に帯びさせ、突進するかごとくランサーに向かってバーサーカーが飛び出した。
跳躍の勢いで近くの木々すら吹き飛ぶ。ランサーは新幹線並みの速さを初速で出して突っ込んでくるバーサーカーに対し、目を楽しげにかっぴらき、ニッ、と口角をつり上げて笑った。
「いいねェ、そうこなくっちゃなァ!!」
ランサーは砲丸のような勢いのバーサーカーを避けることもせず、正面から突っ込んだ。

我が征く道は40


見てほしいというならばいくらでも見てやろう。
覚えていてほしいというならいくらでも覚えていてやろう。

たとえ歴史に微塵も残らぬものであれど、その刹那の時間に終わらぬ時を持つ自分に出会えたものであるならば、確かにこの記憶に、その存在を留めよう。


―――――


凪子がアインツベルンの森にたどり着き、結界を越えると同時に、森の奥から激しい衝突音が聞こえてきた。
「始まってんな!」
道すがら作ってきたルーン飴を口に放り込み、手近で拾った枝で手慣れたように前方に陣を描く。
「卯の足に鷹の羽根、道は開かれ木々は避け、我が背を押すは天狗が一陣!!」
枝を動かしただけで何もなかった空中に、詠唱と同時に描いた通りの陣が現れる。凪子は少し後ろに下がり、助走をつけた跳躍でその陣に頭から突っ込んだ。

―フォン、と風が鳴るような音がする。瞬間、凪子の体が空を飛ぶ鷹のように勢いよく前方へと射出された。身体にかかる圧を気にもせず、300メートル近く跳躍した凪子は、さながら走り幅跳びの選手のように空中で姿勢を変え、足元から着地した。
殺されなかった勢いで、着地した地点から数メートル滑る。その滑りの勢いも止まろうというところで、凪子は再び跳躍した。
今度は陣を通っていないにも関わらず、その跳躍は兎の跳躍のように力強く、先程ほどではないにしても人間が跳躍できる距離ではない幅で勢いよく進む。前方に立ちふさがるはずの木々が自ずと倒れて凪子を避け、直線的な進行を許していた。
「!」
数分とたたないうちに、凪子は戦闘現場へと到着した。ランサーと、イリヤスフィールを肩に乗せたバーサーカーが睨みあっている。
すでに二人が暴れたあとらしく、森の中であっても開けた場所になっていたので、凪子は少し離れた木の上で観戦することにした。
「(…さぁーて、小聖杯自らが最強と自信満々のバーサーカー、英雄ヘラクレスと、今のところ敵なしかつケルトの大英勇、ランサー、クー・フーリン。二人の力は、どれくらいの差かな?)」
睨みあっていたのもつかの間のことだったようで、凪子が到着した時から少し遅れて勢いよく二人がぶつかった。
ランサーの赤い槍と、バーサーカーの斧剣がぶつかり、勢いよく火花を散らす。ランサーの攻撃は昨晩のセイバーのそれよりも素早いというのに、バーサーカーはその巨体で遅れもとらずに反応している。
「……というか、今さら気がついたけどイリヤちゃんの令呪やべぇな、聖杯なんでもありかよ…」
バーサーカーの肩に乗るイリヤスフィール。バーサーカーが活動しているからか、その身に宿る令呪が凪子の目には簡単に見てとれていた。

イリヤスフィールの小さな身体中を覆う令呪は、数えるのも億劫になるほどだった。
本来マスターに与えられる、サーヴァントを制御する令呪は三画。制御するといっても令呪そのものはただの莫大な魔力を凝縮したものにすぎず、命令の内容や対象サーヴァントによっては効力が薄かったり、サーヴァントが抵抗したりする場合もある。
あくまで令呪は、聖杯戦争において儀式を成功させるため、サーヴァントとの契約を安定させるためのものという役割が制作者の意図としては強いところだろう。そういう点では、イリヤスフィールの令呪はサーヴァントを御するためというよりかは、単に武装、礼装の一種といったところだろうか。

「(………召喚させたサーヴァントは大英勇クラスのバーサーカー、身体には礼装としての令呪、挙げ句の果てにはマスターを兼ねた小聖杯……。てんこ盛り過ぎてお腹いっぱいだわ。アインツベルも酷なことをする。もっとも―それを彼女が受け入れてしまっていることが一番解せないけども)」
しばらく正面から打ち合っていた二人だったが、ランサーはそれは無意味ととったか、少し距離を取り、側面を取ろうと動いた。

我が征く道は39

「…わーぉ……」
バチバチ、と炎がはぜる音がする。
墓地は爆弾でも爆発したのかと思いかねないほど大きく抉れ、露出した地面すら燃えている。墓石は無惨にも砕けたか熔けたかし、形を残すものも少ない。
それだけの火力をもって放たれた攻撃の中に、無傷のバーサーカーが立っていた。
「(…さすがに一回死んだか?アーチャーの爆炎がヤバくて分からなかった。というか…今の攻撃、なーんか似たもの見たことあるな。宝具級のはずだけど、も…)」
下の方では、イリヤスフィールと凛がなにやらあれこれ言い合っている。その内に、イリヤスフィールは凛に背中を向け、姿を消した。
おや、と凪子は意外そうにイリヤスフィールが消えた方を見る。
「(見逃したのかな?まぁ…セイバーはともかく、今のがアーチャーの宝具なのかその一部なのかただの一撃なのか、判断つかないしな。一旦撤退は賢い気もする。それに……)」
「シロウ!」
焦ったようなセイバーの声が下から響く。それにつられて視線を落とせば、そこには背中に爆風の影響か、破片が刺さり、倒れ伏す士郎の姿があった。
それを見て、す、と凪子は目を細める。
「(…それに。あの殺気は“あの少年”に向けられていた。同盟関係にまではなってないんだとしても、そうにしてもこのタイミングでバーサーカーでもなくセイバーでもなく、彼に殺気を向けるってのは妙だ。……アーチャーの素性、探らないとな)」
イリヤスフィールがあっさり退いたのも、その辺りに理由があるのだろう。そう考えた凪子は、もうここで戦闘はないだろう、と判断し、その場から離脱した。

アーチャーの正体。

これを、早々に明らかにする必要が出てきたようだ。



 徹夜で調べものをして、朝方そのまま寝落ちた凪子を起こしたのは、部屋の電話の音だった。
「…………ふぁい、もひもひ…………」
完全に半分寝たまま、それでも凪子は律儀に鳴り響く電話をとった。相手の声がする前に枕元の時計を見れば、昼の12時過ぎ。寝落ちたのは確か10時頃だったから、二時間もせず起こされたことになる。
『随分な挨拶ね。寝てたの?』
「…ちょいと気になることがありましてねぇん……ふあぁ、徹夜のまま寝落ちてた」
電話の相手は―出る前から一人しかいないと思ってはいたのだが―イリヤスフィールだった。イリヤスフィールは徹夜のあげくに寝落ちた、という凪子にあきれたようにため息をつく。だがすぐに、楽しそうにふふん、と言ってきた。
『貴女、昨日ランサーはとりあえず全員と戦うって言ってたでしょ?そのうち私のところにも来るだろうって』
「…?おん。それがどした?」
『……もうっ、にぶちん!』
「ほ?………あっ、まさかランサー来たの?!」
いきなり、むーっ!とむくれている姿が容易に想像できるような声色で、にぶい!と怒られ、凪子はしばらく混乱していたが、少ししてイリヤスフィールの意図を察して思わず飛び起きた。
ふふふん、とまた、楽しそうな、満足げな声が受話器から聞こえてくる。
『観たいなら来るといいわ。どうせ私の本拠地とか知ってるんでしょ?その森にランサーが入ってきたの。誰だか知らないけど、気配消せるのね、最初すぐには分からなかったわ』
「あー…まぁ、出来ないこともないだろなー」
凪子は電話をハンズフリーにし、フルピッチで準備を始める。部屋着にしていたスウェットを脱ぎ捨て、洋服に手をかけた。
「しっかし、昨日はともかく、なんでそう観戦させてくれるの。ありがたいけどさ」
『ん、…まぁなんだっていいじゃない。私が勝つのは決まってるんだもの、見られて困るようなことないわ』
イリヤスフィールは、そう言葉を濁した。
―…なるほど、一種の存在証明みたいなもんかな
凪子は言い澱んだイリヤスフィールの言葉を、そうではないかと考えた。

聖杯戦争に勝ったとしても負けたとしても、“イリヤスフィールという個体”は聖杯戦争で消滅する。

であるならば、自分の生きた印を、確かに自分は生きたのだという証を、残したいと思っても不思議ではないだろう。

我が征く道は38

「私、ランクがどのレベルで分けられてるのかまでは流石に分からんのだけどもさ、どんくらいなら通じるの?君の戦士は」
『ランクでいうならA以上。どういえばいいかしらね、大抵のサーヴァントの宝具くらいかしら』
セイバーとバーサーカーの戦闘の位置が、森の方へと向かう。凪子は枝をしならせながら、軽々と木々を飛び越え、それを追うように移動した。
「ふぅわーぉ。結構高いな〜私でも倒せるかな」
『バーサーカーを殺しきるには手数が必要よ?貴女には難しいんじゃないかしら』
「そうさなぁ、楽に倒すにはサーヴァントという概念に介入するしかないかなぁ」
『…』
「あぁ、死んでもやらないから大丈ー夫」
不意に黙ったイリヤスフィールに、凪子は思い出したように付け足す。だが、イリヤスフィールはそんな凪子の声に、我に帰ったような雰囲気を感じさせた。
『ん、違うわ、そんなこと心配してないもの。凛が来たの。相手してあげないとだから、またね』
「ん、ありがとうね色々と」
キィ、と光って、小脇に抱えた鳥が形を崩し、一本の糸になった。否、糸ではない、それは髪の毛だった。
凪子はそれをつまみ上げ、おぉ、と感心したように声をあげた。
「…すーげぇ、器用だな…。さて、と。じゃあ私はサーヴァント見るかな」
イリヤスフィールと凛のバトルも気にならないと言えば嘘になるが、それよりもサーヴァント戦のが気になった。
セイバーとバーサーカーを目で追えば、二人は墓場で戦っていた。
「成る程。あの子、チビだから小回りがきく。バーサーカーは大振りな攻撃が多いから、遮蔽物があると捉えにくい。…とはいえまぁー遠慮もなく人様の墓を荒らしおってまぁ…そんなんだから人の気持ちがわからないなんて理由で離反されるんだよ、ったく」
バーサーカーの攻撃で墓石が吹き飛び、墓場の地面が抉られる。セイバーは隙を見ては近づき、攻撃を仕掛けているが、その攻撃はせいぜい軽傷になる程度で、相変わらず届いている様子はない。
「はあぁーーっ!!」
その時、セイバーが勝負に出た。バーサーカーの攻撃の一瞬の隙をつき、突き出した剣のインビジブル・エアを瞬間解除し、その魔力を攻撃に乗せて前方に放出した。
その衝撃は凄まじく、バーサーカーの上半身に大きく裂け目が入った。ふっ…と、バーサーカーの目から光が消える。
「セイバー!」
セイバーが勝ったと思ったのか、士郎が駆け寄ってくる。だが。
「(…!?体内の魔力の生成レベルがおかしい…!確かに死んだ、けどまた召喚されているかのよう……間違いない、アイツ生き返ってるやがる!)」
「来てはいけない、シロウ!」
バーサーカーの体内で起こった現象に凪子が思わず身を乗り出した頃、セイバーも異常を察したらしい、自身のマスターを制する。
そして。
「んん!?」
小さな殺気。
それは遠いからか、はたまた狙う相手が別だからか。
セイバーでもそちらには気付いていないようだが、バーサーカーのものでもない、別の者の殺気が放たれている。
「、アーチャーか!でもこの殺気……」

ひゅうっっ、と。

鋭く空を切る音が、夜空に響き渡る。
その殺気に気が付いたのか、たまたまか、はたまた別の理由か。どうやら攻撃が来ることに気が付いたらしい士郎は、ポカンとしているセイバーの手を引き、全速力でその場を離脱した。バーサーカーは攻撃が来ると分かっていても、それが自身を殺すほどのものではないと思っているのか、動かない。
風を切り、勢いよくバーサーカーに迫ったアーチャーの攻撃は、刹那の時を止めたかのように見えた。

その攻撃は直後、バーサーカーを中心に大きな爆炎を起こした。

我が征く道は37

「やっちゃえ、バーサーカー」
歌うように、鈴を転がすような声で、イリヤスフィールはそんな命令を下す。直後、押さえられていた牛が放たれるがごとく、バーサーカーが弾かれたように飛び出した。
その先にいるのは、士郎と凛だ。セイバーはいるが、アーチャーは距離をとって後方支援に回ったか、その場にはいない。
「あらあらまぁまぁ、忙しい夜ね!」
木の影からそれを見やりながら、凪子は呟く。たまたまか、ぱちっ、と、イリヤスフィールと目があった。
凪子は思わず、しー、とでもいうかのように人差し指を唇に当てた。とっさに動いた事だったのだが、それを見たイリヤスフィールは楽しそうに目を細め、同じ動作を返してきた。どうやら観戦許可が降りたらしい。
「…と言っても、こんだけ近くとなれば監督役が見てないとも限らないし、消すだけは消しておくか」
凪子はそうひとり呟き、まだ残っていたルーンの飴を口に放り込んで、バーサーカーのあとを追った。
 道路を破壊しながらバーサーカーとセイバーがぶつかっている。セイバーは細腕にあるまじき腕力でバーサーカーに肉薄しているが、どうにもダメージが入っている様子はない。
「(…随分固いバーサーカーだな…)」
『ヘラクレスよ』
「!」
少し離れた木の上からそれを見ていたとき、不意に凪子の頭に降り立った鳥がそう喋った。驚いて視線を上にやれば、糸のような何かで作られた鳥が止まっていた。イリヤの声がした辺り、どうやら使い魔の類いのようだ。
頭にいられても落ち着かないので、腕を伸ばしてそちらへ移動するように促し、小脇に抱えてやる。
「ヘラクレスなんだぁ。12の試練を乗り越えた大英勇、バーサーカーでの召喚での正体はなんつーかマッスルマックスなお相撲さんみたいだな。でも、私に真名教えちゃっていいの?」
『だって私のバーサーカーは最強だもの』
「あーなるほど?さては全員に教えてるね君??隠す気ないね??自信の度合いが違うか。今までバーサーカーを召喚したマスターは例外なく魔力切れで死んだと聞いていたけど…確かに君なら魔力切れることはなさそうだわ」
ふふん、と、使い魔から嬉しそうなイリヤスフィールの声が聞こえる。誉められて悪い気はしないようだ。恐らく見た目よりかは年高であろうが、その辺りは年相応らしい。
『そうだ、貴女の方は観戦の調子はどうなの?』
「あー…観戦許可くれたお礼に教えようか。今のところ見たのはランサーとキャスター戦。これカウントしていいのか分かんないけど。それからランサーVSライダー戦、ランサーとアーチャー戦、あとランサーセイバー戦」
『ちょっと、ランサーばっかりじゃない!というより、対戦相手みんな健在じゃない』
イリヤの感情を反映してか、使い魔が小さく羽ばたく。凪子はよしよしとその頭を撫でてやった。
「しゃーないじゃない、ランサーのマスターの指示らしいんだよ。全員まず戦うらしいよ?多分そのうち君のとこにも来るよ」
『…そうね。ヘラクレスを倒せるわけないんだけど、来るならお出迎えしてあげないとね。でも貴女凄いのね、今のところ全通よ』
「まじ?やったね〜。じゃあイリヤスフィールは今日が初戦か」
『イリヤでいいわ』
「……りょーかい」
イリヤスフィール、と呼んだとき、僅かにイリヤスフィールの声色が陰りを感じさせた。いわく、小聖杯を彼らは“天の杯”、“ヘブンズフィール”という。少なからずそれが関係しているのだろう、と思った凪子は、理由を訪ねることはなかった。
戦況に目を戻せば、凛が宝石を放ってバーサーカーの動きを止めた直後、遠距離から射たれたのだろう、いくつもの剣のような矢がバーサーカーに襲いかかっていた。
「…ダメだな」
『当然よ』
ぽつり、と呟いた凪子の言葉に、イリヤスフィールは自慢げに返す。
攻撃の衝撃で舞い上がった土煙が収まった頃、そこには無傷のバーサーカーがいた。
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