2016-6-15 20:19
「…わーぉ……」
バチバチ、と炎がはぜる音がする。
墓地は爆弾でも爆発したのかと思いかねないほど大きく抉れ、露出した地面すら燃えている。墓石は無惨にも砕けたか熔けたかし、形を残すものも少ない。
それだけの火力をもって放たれた攻撃の中に、無傷のバーサーカーが立っていた。
「(…さすがに一回死んだか?アーチャーの爆炎がヤバくて分からなかった。というか…今の攻撃、なーんか似たもの見たことあるな。宝具級のはずだけど、も…)」
下の方では、イリヤスフィールと凛がなにやらあれこれ言い合っている。その内に、イリヤスフィールは凛に背中を向け、姿を消した。
おや、と凪子は意外そうにイリヤスフィールが消えた方を見る。
「(見逃したのかな?まぁ…セイバーはともかく、今のがアーチャーの宝具なのかその一部なのかただの一撃なのか、判断つかないしな。一旦撤退は賢い気もする。それに……)」
「シロウ!」
焦ったようなセイバーの声が下から響く。それにつられて視線を落とせば、そこには背中に爆風の影響か、破片が刺さり、倒れ伏す士郎の姿があった。
それを見て、す、と凪子は目を細める。
「(…それに。あの殺気は“あの少年”に向けられていた。同盟関係にまではなってないんだとしても、そうにしてもこのタイミングでバーサーカーでもなくセイバーでもなく、彼に殺気を向けるってのは妙だ。……アーチャーの素性、探らないとな)」
イリヤスフィールがあっさり退いたのも、その辺りに理由があるのだろう。そう考えた凪子は、もうここで戦闘はないだろう、と判断し、その場から離脱した。
アーチャーの正体。
これを、早々に明らかにする必要が出てきたようだ。
徹夜で調べものをして、朝方そのまま寝落ちた凪子を起こしたのは、部屋の電話の音だった。
「…………ふぁい、もひもひ…………」
完全に半分寝たまま、それでも凪子は律儀に鳴り響く電話をとった。相手の声がする前に枕元の時計を見れば、昼の12時過ぎ。寝落ちたのは確か10時頃だったから、二時間もせず起こされたことになる。
『随分な挨拶ね。寝てたの?』
「…ちょいと気になることがありましてねぇん……ふあぁ、徹夜のまま寝落ちてた」
電話の相手は―出る前から一人しかいないと思ってはいたのだが―イリヤスフィールだった。イリヤスフィールは徹夜のあげくに寝落ちた、という凪子にあきれたようにため息をつく。だがすぐに、楽しそうにふふん、と言ってきた。
『貴女、昨日ランサーはとりあえず全員と戦うって言ってたでしょ?そのうち私のところにも来るだろうって』
「…?おん。それがどした?」
『……もうっ、にぶちん!』
「ほ?………あっ、まさかランサー来たの?!」
いきなり、むーっ!とむくれている姿が容易に想像できるような声色で、にぶい!と怒られ、凪子はしばらく混乱していたが、少ししてイリヤスフィールの意図を察して思わず飛び起きた。
ふふふん、とまた、楽しそうな、満足げな声が受話器から聞こえてくる。
『観たいなら来るといいわ。どうせ私の本拠地とか知ってるんでしょ?その森にランサーが入ってきたの。誰だか知らないけど、気配消せるのね、最初すぐには分からなかったわ』
「あー…まぁ、出来ないこともないだろなー」
凪子は電話をハンズフリーにし、フルピッチで準備を始める。部屋着にしていたスウェットを脱ぎ捨て、洋服に手をかけた。
「しっかし、昨日はともかく、なんでそう観戦させてくれるの。ありがたいけどさ」
『ん、…まぁなんだっていいじゃない。私が勝つのは決まってるんだもの、見られて困るようなことないわ』
イリヤスフィールは、そう言葉を濁した。
―…なるほど、一種の存在証明みたいなもんかな
凪子は言い澱んだイリヤスフィールの言葉を、そうではないかと考えた。
聖杯戦争に勝ったとしても負けたとしても、“イリヤスフィールという個体”は聖杯戦争で消滅する。
であるならば、自分の生きた印を、確かに自分は生きたのだという証を、残したいと思っても不思議ではないだろう。