スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

謝辞&次回予告

どうもみなさま。


管理人の神田です。
先日、どうにか無事、「我が征く道は」完結とあいなりました。
飛び飛びな更新ながら、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

ひとまずこれで彼女の物語は一旦幕を閉じさせていただきたくおもいます。今後の旅は…いつか描かれる日がくる…かもしれないです。
実に連載をはじめてから1年と1ヶ月を越えてしまいました…いや……随分と長くなってしまい申し訳ありません。

今後の作品も恐らく、大体150前後は余裕でいくのではないかなと…。
もしもっと短編で色々読みたい、いやもっと長編が見たい、等ございましたら、遠慮なくメッセージ、コメント等くださいますと幸いです。

また、こんな話が読みたい、このキャラクターを出してほしい、等のご要望も随時受け付けております。ただし、ネタが思い付かなかった場合は本当に形になるか保証しかねますのはご容赦いただきたく思います。
でも何かしてほしいと言われると大体やってしまう人間なので多分何らかの形にはなるかと思います。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。



さて。
次回作の予告です。

次の連載は、6/20(火)より再開したく思います。
内容は【アウトレイジ礼装ネタパロディ】になる予定です。ホワイトデー礼装のアレです。
どうぞまた、お付き合いくださいませ!

我が征く道は200(終)


【Epilogue】



――――――――――セイバーのサーヴァントの宝具により小聖杯が破壊されたことで聖杯戦争が終結し、一年と少しが過ぎた。


 イギリス、ロンドンの町並みに、肩に引っかけられた、赤いコートが翻る。
腰に巻かれた鞄は歩みに合わせてカチャカチャと音をたて、太ももまであるブーツに包まれた足は、ひとつのアパートメントの前で歩みを止めた。
タンタンと軽やかに階段を登り、目的の部屋の前で部屋番号を確認したその人物は、コンコン、とノッカーを使って扉を叩いた。

「やぁやぁこんにちは、宝石商の凪子さんだよ…ってあら凛ちゃんじゃん!?少年まで」
「何よ、白々しいわね」
「はぁん?凪子さんは宝石買うっていうから来たわけでして?買わないでただ呼び出しただけなら帰るわーいやー帰るわー」
「買うわよ!ちゃんと買うわよ!士郎はついで!!」
「こんなに力強くついで扱いされたのは初めてだな…」
「存在からしてついでみたいな雰囲気出してるから平気平気」
「……………喧嘩なら買うぞ」
「ジョーダンだよ、ちゃんと怒れるんなら成長したってもんだな少年」

春風凪子はそう言って、にや、とした笑みを浮かべた。



 ―聖杯戦争終結後、凪子は少しの間日本に留まった後、凛や士郎などの聖杯戦争関係者と接触をもつことなく日本を立ち去っていた。
「貴女に聞きたいことは山のようにあったっていうのに、すぐいなくなるんだもの。お父様みたいにコネはないし…。どうしてすぐいなくなったの?魔術協会に睨まれているそうだし、そのせい?」
「あーまぁそんな感じそんな感じ。凪子さん、懸賞首なのよこれでも。半世紀に一度あるかないか程度だけどもさ、あんな目立つとこには長居しない方がいいでしょ」
テーブルの向かいに座った凛の言葉に、凪子は適当に言葉を返す。
凪子も一応、関わった以上、最後まで見届けるかと思わないでもなかったのだが、鬼ごっこでわりと疲れてしまい、バトルが見れるわけでもないしなんかもういいや、と飽きてしまって早々に立ち去った、というのが実際のところである。
士郎は盆にのせたティーカップを凪子の前と凛の前に置くと、離れたところで椅子に座った。凪子は凛と、士郎とにそれぞれ視線を向ける。
「ロンドンにいるってことは、二人とも時計塔の学生ってところかな。どう?楽しい?人生、何事も楽しまないとね」
「まぁ、それなりにやってるわ。それより、話、聞いてもいいかしら」
「覚えてる範囲ならね」
凪子はティーカップに手を伸ばし、紅茶を口にした。なんだか過去にも似たようなものを味わった気がする。
凛はテーブルの上にあった手を組んだ。
「そう。…じゃあまず、なんで最後の戦いの時、手を貸してくれたの?士郎から聞いたわ」
「何、ただ別件でギルガメッシュに喧嘩売られたからその仕返し。まぁ野郎はちゃんと倒したんでしょ?お見事お見事」
「…相変わらず軽いわね。本当にそれだけなの?」
「それだけ、でいいんだよ。私はあの戦争では余分な因子だ。あんまり細かいことは気にしなさんな」
「………」
「聖杯戦争といえばさぁ、立ち去る前にアインツベルンの城寄ってランサーの最期見てきたんだけど、あの男のさっぱり具合やばくね??凪子さん人間だったら惚れてたわ」
「な、……もう、本当に軽いわね!色々考えた私がバカみたいじゃない」
凛は凪子の様子に、はぁ、とため息をついて椅子の背もたれに寄りかかった。凪子はそんな凛の様子にカラカラと笑う。
アインツベルン城に立ち寄って記録を回収して見たことも、その最期に感心したのも嘘ではない。嘘は言っていないことは分かるだけに、それが凛には軽く聞こえるのだろう。
それが年季の違いであると分かるには凛はまだまだ若い。少し離れたところであきれた顔をしている士郎もまたしかりだ。

聖杯戦争は二人の勝利で終結した。
それでいいのだ。聖杯戦争は人の戦争だ。


凪子はそのなかに、いなくていい。


凪子は足を組んで、ことり、と首をかしげた。
「まぁそういうわけで、聖杯戦争の思い出話をしたいのなら付き合うけど、そこで私が為したことの意味だとか、そういう面倒な話には付き合う気ないぞ。だってそんなもの、ないからさ、私には。そういう意義だのなんだのいちいち考えて生きるやり方は、1000年くらい前にやめた」
「1000ッ………。……そう。なら、やめるわ。生憎と思い出話も特に結構。そういう口ぶりからすると、貴女の生涯にもあんまりあれこれ言わない方がよさそうね。じゃ、商談にしましょうか」
「よろしい。聞き分けのいい子は大好きだ。いいもん入ってますよん」
凪子は、どん、と机の上に鞄を置いた。



 「少年。自己犠牲主義は少しはましになったか?」
「…なんだよ、それ」
商談は無事に終わり、凛が宝石を片しに別室に行っている間に、凪子は机の上を片付けていた士郎にそう話しかけていた。士郎はむ、としたような表情を浮かべて、凪子の方を振り返った。
凪子は、パチン、と鞄の留め具を止めた。
「いや何。せっかく凛ちゃんが近くにいてくれるんだ、精々自分を大事にすることだ。そういう人間を得られることはまずないぞう?君はただの人なんだから、君がやれることだけをやればいい」
「余計なお世話だ」
「そうだね、余計なお世話だ。でも、君はそうして人の為に生き続けて、結果的に磨耗して、その贖罪として過去の自分を殺そうとした男がいることも忘れちゃいけないよ。君はその男を否定したんだから、同じ道は辿っちゃいけない」
「………、…………」
「でも様子を見ている限りじゃ平気そうだ。まっ、万が一同じ道をたどって死にたくなったら、私を探しにおいで」
「アンタを?」
凪子はばさり、とコートを肩にかけた。
「これでも私は神を殺したことがある。世界の防衛機構に縛られた人間くらい、たぶん殺せるよ?」
「な……。……、それをアイツには言ってやらなかったのか?」
「何、答えは得たって顔してたからね。まぁまたひどい顔してるの見かけた時には、せっかくの縁だ、殺してやるのも吝かではないけど」
「なんだそれ…。……アンタ、一体なんなんだ」
「さぁね?私がなんなのか、その正確な答えは私も持ってない。私はただの凪子さんだよ」
「…なんというか……敵わないな、あんたには」
「おや、敗けを認めるのが早いな」
「負けてるわけじゃない。ただ、俺にはあんたはわからない。それだけだ」
「そうそうその調子」
「なっ、〜〜〜…………」
のらりくらりとかわされて、士郎は悔しそうに凪子をじと目で睨んだが、口では敵わないと察したか、それ以上は何も言わなかった。凪子はちょうどそのタイミングで、がちゃりと扉を開けて戻ってきた凛に、バチン、とウィンクをした。そして、士郎に向かって、ピッ、と指を振る。
「まぁ人生楽しんで生きたまえ!100年生きれば十分さ。その100年でやれることをやれるだけ楽しむのが一番いい。くれぐれも人間はやめちゃだめだよ」
「…ああ、分かってる」
「?急に何よ。まぁ…人間やめる気はさすがにないわ」
「よしよし。さて、凛ちゃん毎度あり!またのご利用をお待ちしてるよ。君は面白いから、その石はまだ持たせたままにしてあげる。そんじゃまた!」
「ええ、またね」
「俺はごめんだ」
「ふはは言うじゃないか。またね」
凪子は二人の返答に満足げに頷くと、別れの口上を述べ、振り返ることなく二人の部屋を後にした。

二人の人生のなかで、もう二、三度は会う機会があるかもしれない。
ないかもしれない。
それはそれで、寂しくはあるが常のことだ、それでいい。

 凪子は特に名残を惜しむこともなくアパートメントを後にした。たまたま見かけたマーケットでピザやら菓子やらを買い、少し離れたところの川岸で凪子は簡単な昼食にありついた。
今日はロンドンにしては天気がいい。
「…………ん?」
ピザを食べ終え、飴を口のなかで転がしていた凪子は、ふ、といつのまにか近くに来ていた犬に気がついた。パッと見、ビーグルに似ている気がするが、犬種が思い付かない。雑種だろうか。
ちょいちょい、と指で手まねくと、簡単にその犬は寄ってきた。見たところ野良犬ようだが、妙に人懐こい。
「なんだ、お前一人か。私も一人だ。どうせ独り身なら、どうだ、一緒に来るか?」
ふ、と凪子は軽い気持ちでそう言ってみた。いつだったか、次に飼うなら犬がいい、と、友人に話したことを思い出したのだ。
本当に軽い提案だったのだが、犬はそんな凪子の言葉に答えるように、わん、と吠えた。凪子は驚いたように目を丸くしたあと、ふは、と小さく吹き出した。
「そうかそうか、なら一緒にいくか!名前はどうしようか…お前名前は?ないか。じゃあ私がつけてやろう。……そうそう、凛ちゃんに会って思い出したけど、日本で食べたスナックが美味しくてな。なんとかムーチョって名前だったんだ。だからお前の名前はむーちょでどうだ。可愛いだろ、むーちょ。いやスペイン語だともっと、って意味だけど、まぁ細かいことは気にするな。…不満なさそうな顔だねお前。よし、じゃあ行こうかむーちょ」
凪子はそう言うと、ごそごそと鞄をあさり、アクセサリー用に買っておいた革紐を取り出した。適当な長さで切って、ちょいちょいと魔術で加工し、首輪を作るとむーちょと名付けた犬の首につけてやった。
その犬は嬉しそうにぶるぶる、と体を震わせると、ぐりぐりと頭を凪子の手のひらに押し付けた。凪子はよしよしとそれを撫でると、よいせ、と立ち上がる。犬は何も言わずとも、尻尾を振りながら、歩き始めた凪子のあとについていった。



赤いコートが町を横切る。

長いブーツが土を踏む。

鞄が静かな音を奏でる。

当たり前の日常、当たり前の風景。
ひっそり紛れ込んだ異端は、一目には異端とは分からない。
だがその者が世界の記録に残ることはこれまでも、これからも、永遠にない。
魔術協会に残った懸賞首も、きっといつかは都市伝説的なまやかしとなって消え去るだろう。

それでも彼女は消え去らない。
どれだけ世界が変わっても、変わらず世界にあり続ける。

――我が征く道は、虚無の道。

そう思ったのは、はるか昔の、未熟な頃。
「――あの詠唱、そろそろ私に合わなくなってきたから変えんとな。何がいいかな」
花束を抱え、墓地とも言いがたい荒れ果てた土地を歩いていた凪子はぽつりと呟いた。記憶に残っている墓の場所に、ぽすん、と花を手向ける。

「…我が、征く道は――――」

凪子はそう呟いて、特に思い付かなかったので、苦笑いを浮かべてフードを深く被った。背後でおとなしく控えていたむーちょを促し、その場所を後にする。


彼女はそうして、歩き続ける。
止まることない時間、終わることない生と向き合いながら、ただひたすらに、歩き続ける。

たまに面白いものを見つけては楽しみ。
痛い目にあってもそれもまた楽しみ。

それこそが彼女の道。
それこそが、彼女の在り方。


一匹の犬をつれ、赤いコートを羽織った影は、そうして今日もまた、人々の影の中へと消えていった。
今日はどんな面白いことを見つけられるかな、と、少女のように胸を踊らせながら、彼女は人々の海へと、潜っていくのだった。






END

我が征く道は199

「……もう話すことはないと思ったんだけどな。ランサーとも意外と話したし、いやはや、世界は狭いねぇ」
「なんだ、存外余裕そうだな。こちらとしては、貴様に泥の意識が向いているうちは楽で助かるのだがね」
「ちゃっかり人を餌にするんじゃないよバカチン。しかし、死んでたら別にあれだけど、少年の固有結界が解けた時に下があのざまだと困るわな」
「全くだ。これでは凛が出てくる場所もないだろう」
「なんだお前、ちゃっかり私に文句言いに来ただけかコノヤロウ」
アーチャーがわざわざ凪子の隣に姿を見せた理由が、どうやら文句をつけにきたらしい、と察した凪子は、うんざりしたようにそう言った。だがすぐに、楽しそうに笑みを浮かべる。
「まぁいいさ。確かにこの泥はなんとかしなきゃいけないからな。まぁ見てろって」
「!」
凪子はそう言って、肩に槍を構えた。なんとなしにそれに目を向けたアーチャーは、ぎょっとしたようにそれを見る。
「君、その槍、」
「そうら、雷に焼かれるがいい!詠唱省略、ブリューナク!!」
凪子はそう言って、簡易な真名解放を行った槍を地面に向かって投げつけた。
簡易発動であっても、ブリューナクの雷は地面を埋め尽くす泥を焼き尽くす程度には十分な火力があった。
派手な音を立てて業火が巻き上がり、泥は一瞬の間に蒸発した。ランサーの槍と同様、空中で動きを止めた凪子の槍は、複雑な軌跡を描いて凪子の手元に帰ってきた。
「ま、ざっとこんなもんさね」
「…それは……ブリューナクの槍か?なぜ君が」
「もらいもんだ。その辺は神話には残ってないからな。さ、心配事はなくなっただろ、燃やされて腹立ったのか攻撃こっちに来たしな……!!」
「!!」
凪子はアーチャーの言葉への返答もそこそこに、勢いよく屋根を蹴って上から降ってきた泥をかわした。
近くにたっていたアーチャーも巻き込まれないように数歩下がり、地面に着地した凪子を見下ろした。凪子はアーチャーに向けて、ぐ、と親指をたてた。
「この泥は任せとけ。そっちの邪魔にならん程度に引き付けるし、埋めつくし始めたら適度に燃やすさ」
「ふん、そうか。悪いが手助けはしないぞ。それほどの余裕はないのでね」
「何言ってんだ小僧、援助が必要なほど老いぼれちゃいないさ。魔力がつきる前にさっさと行きな!」
凪子はそれだけ言うと、にやっ、とアーチャーに笑ってみせ、そのまま勢いよく地面を蹴って山門から階段の方へと飛び出した。注意を引くなら、彼らの戦場である寺の境内よりかは別の場所の方がいいだろうと判断してのことだ。
アーチャーの返事は聞かなかったが、まぁいいだろう。なんだかんだ言って、あちらはあちらでうまくやるはずだ。
凪子は一旦の決着がつくまで、鬼ごっこをしていればそれでいい。
「おわっと!」
鋭い槍のような形をもって降ってきた泥をギリギリでかわす。かわしざまにルーン石を放り、炎を起こして一瞬隙をつくって逃げる。


凪子はそうやって、しばらくの間鬼ごっこを続けた。
泥にはあまり知性はないらしく、面白いくらい簡単に引き付けられた。

「――あ、しまったな。こんな余計な手助けしてたら、決勝戦見逃すじゃん。馬鹿だなぁー、私。…まっ、いいか。結局生きてる世界が違うわけだ、そう都合よく事は進まないか。今まで面白いもん見れただけ、ラッキーだったもんよ」


逃げながら、誰ともなしに凪子は呟き、はは、と声をあげて笑った。

そうだ、この世は必ずしもうまくいくものではない。
それを悪ととるか、良ととるかは、その場次第。
世の中は、自分の都合に合わせて動いてはくれない。
結局は、その移り行く都合に、自分が合わせていくしかないのだ。

凪子が、誰の記憶からも必ず消え、いつかは誰からも忘れ去られるだけだとしても。
人の世界でいきることを選び迎合したように。


「はは!最終回見逃した挙げ句にわけのわからん鬼ごっこか!毎回最後には失敗して空の彼方に星になって消えていく、日本アニメの敵役みたいなオチだな!」

だが、それも。


「まぁ悪かない!そうであればこそ、私の生も、輝くってもんよ!」


凪子はそう言って笑いながら、地面を蹴った。
夜の闇を、赤い影と槍が、裂いていく。

――そんな凪子の鬼ごっこは、寺から一筋の光が立ち上った後に泥が消滅する形で、終わりを迎えた。

我が征く道は198

士郎がギルガメッシュに勝つために最低限必要だったのが、固有結界の展開だった。正直凪子にはそんなことが可能なのか半信半疑だった―なにせ、凪子だって獲得するのに相当数の年月を必要としたのだ―のだが、できてしまった以上、あとはその活躍を期待する他ない。
「ギルガメッシュにはいっぺん痛い目に合わせてやりたかったんだけど…まぁ仕方ない。贅沢は言えないか。それより――」
ぶつぶつと独りでぼやいていた凪子だったが、上空から降ってくるのを感じた悪意に、素早く横に跳躍してそれをかわした。
なんだ、とそれに目をやれば、元いた場所は赤黒い泥でべたりと汚れていた。
「…閉じ込めたから怒ってんのか、聖杯の泥が」
ちっ、と凪子は舌打ちをして空を見上げた。孔からあふれでる泥が、ゆったりと腕の形をもって立ち上っているのが視認できた。
腕の形になったその泥は、凪子目掛けて飛びかかった。
「ッ、」
凪子は跳躍してそれをかわし、落下ざまにためしに槍で斬りかかってみた。ズバ、と音をたてて切り裂けた感触はあったが、構造は泥、液状であるがゆえに簡単に切り離したはずのそれは繋がった。
「この中で鬼ごっこか……!」
面倒だな、と思いながらも、追いすがってくる腕から逃れるべく凪子は地面を蹴った。
腕は途中で二つ三つに分かれ、凪子を捕まえようと手を伸ばしてくる。泥で殺すつもり、というよりかは、捉えようとしてくる動きだ。凪子は意外にも殺意がないその動きに、ルーン石を取り出しながら疑問に思った。
「いつだったか、変なのにお前の魔力美味しそうだな的なこと言われたなそういや…私を食いたいのか、こいつら」
だがすぐに、その理由に思い当たる。いつぞや大聖杯で魔力にならした時に、話しかけられた言葉を思い出したのだ。
今回、全く話しかけられることも人格の気配も感じられないことから、
あの時の彼は全くもっていないようだ。
「人格があれば、鬼ごっこもまだやりがいがあるってもんなんだけどな…!」
凪子は独りぼやきながら、上から降ってきた攻撃を横に飛んで交わす。跳躍の最中に身体を前に回転させ、下からルーン石を投げつける。アンザスのルーンを刻んだそれは、泥にぶつかると同時に爆発を巻き起こした。
「…しっかし、壁を作ってる以上その内地面は泥で埋め尽くされちまうな……」
凪子はタンタンッ、と軽やかに地面を蹴って跳躍し、寺の屋根に飛び乗った。地面を見下ろせば、うぞうぞと泥の腕がさ迷っている。
ちらり、とその位置から背後を振り返れば、孔からは次から次へと泥があふれでてきている。
「うーん、困ったな。小聖杯をぶっ壊せれば話は早いのだけど」
凪子はこめかみに指を当てて目を強化すると、背後にあるであろう小聖杯の位置を探した。
小聖杯とおぼしきものはすぐに見つかった。どう見てもそれは肉の塊で、びくびくと脈打っている様子が見てとれた。
じぃ、とそれに意識を集中させ、中の様子を透視する。二人の人間の気配が見つけられ、はぁ、と凪子はため息をついた。
「…あれ片方凛ちゃんだろうな……ああもう、何やってんだか。壊せるもんも壊せやしない。もうひとつの気配の人間助け出そうとしてんだろうが、どう考えても自殺行為だわ」
「全くだな」
「はぇ?」
凛が中にいる以上、そう簡単に小聖杯は破壊できない。あくまで聖杯戦争内のことに関しては、参戦者の意図を尊重している。であるなら、ここで凛もろとも小聖杯を破壊することはできない。せめて凛が小聖杯に吸収されるなりなんなりして、死んでからでないと凪子には手をだしかねた。
そう思って毒づいていると、誰もいないはずなのに返事が返ってきて、凪子は間抜けな声をあげた。きょろきょろ、と辺りを見回すと、シュイン、と澄んだ音をたてて、凪子の隣に霊体化を解いたアーチャーが姿を現した。

我が征く道は197

空を埋め尽くさん勢いで展開されたギルガメッシュの宝物庫の扉から、一斉に武器が射出された。
凪子は自分目掛けて打ち出されたそれらを、槍を手元で振り回して弾き飛ばす。ついでに身体を捻ってよけたついでに掴んだそれを、ギルガメッシュ目掛けて投げ返す。ギルガメッシュは、ちっ、と小さく舌打ちすると跳躍してそれをかわし、地面へと降り立った。
士郎は強く地面を蹴り、そのギルガメッシュ目掛けて距離をつめようとした。だがギルガメッシュはそんな士郎に気がつくやいなや、扉をさらに展開し、士郎目掛けて武器を放った。士郎はぐ、と立ち止まり、ギルガメッシュが投げたそれを同じものを投影し、同様に放った。
「バカちん。そいつの真似っこじゃあすぐ死ぬぞー」
「、っるさいな、分かってる……!」
同じだけの攻撃を受けているというのに、士郎と比べてのらりくらりと攻撃をいなし、余裕な様子で口出ししてくる凪子に、士郎は苛立ったように言葉を返してきた。意外と負けず嫌いなようだ。
「シロウ!」
口では強がりながらも完全に押されていた士郎のところへ、セイバーが割り込むように前に立ち、ギルガメッシュの攻撃を一閃した。
どうやらアサシンは倒してきたらしい。セイバーは士郎を庇うように立ちふさがり、ギルガメッシュはどこか楽しそうに口元に弧を描いた。凪子は凪子で、アサシンは負けたのかぁとちらりと後方を振り返った。
「(まぁあの様子じゃあ負けるのも仕方ないか)」
「シロウ、ここは私が…」
「いや、セイバー。あいつの相手は俺だ。遠坂の方に行ってくれ」
「!?シロウ!」
「頼む」
セイバーはギルガメッシュを睨みすえ、飛びかからんとした様子であったが、士郎にそれを止められていた。
セイバーは驚いたように士郎を振り返ったが、士郎の顔を見て、ぐ、と言葉を飲み込んだように見えた。
「………わかりました。ご武運を、シロウ」
セイバーは深くは聞かずにそう言うと、高く跳躍して寺の裏手の方へと姿を消した。ギルガメッシュは面白くない、といった顔で士郎をじとりと見た後、すぐに攻撃を再開した。凪子の方への攻撃も再開されたので、凪子は両者の様子を見つつ、攻撃を弾く。
士郎は攻撃をギリギリでかわしながら、すぅ、と息を吸い込んだ。
「――体は剣で出来ている―――!」
「!!」
そうして、士郎が口にした言葉に凪子はわずかに目を見開いた。そしてすぐに、にやっと笑った。

―そのことに気がつけばな

アーチャーが挑発的にいっていた言葉が思い出される。
「血潮は鉄で、心は硝子。幾度の戦場を越えて不敗、ただ一度の敗走もなく、ただ一度の勝利もなし……ッ」
「(いくら同一人物とはいえ、一言一句変わらないとなんか感動を覚えるな)」
「担い手はここに独り。剣の丘で鉄を鍛つ――!」
「(…………………ん?)」
バチバチ、と、火花が弾けるような音を、士郎の魔術回路が立てる。ギルガメッシュの眉間が寄る。
士郎は、ぎっ、と、ギルガメッシュを見据えた。

「――ならば、我が生涯に意味は不要ず―
 ―――この体は、無限の剣で出来ていた―!!」

士郎が、叫ぶように詠唱を終える。士郎の足元から、炎のようなものが士郎とギルガメッシュを囲いこむように地面を走る。
そうして、一際強い光が放たれた後―二人の姿は、凪子の前から消えた。
それとほぼ同じくして、凪子の宝具デメリットも解ける。
「…最後の方、アーチャーの詠唱と違ったな…。あの少年も答えを得たということか、あるいはアーチャーとなる未来はなくなったということか……」
あとは士郎の戦いの結果を待つだけとなった凪子は、その場にたたずんだまま、ぽつり、と呟いた。
<<prev next>>