神域第三大戦 カオス・ジェネシス128

「チィッ…!」
強烈な爆風に、吹き飛ばされぬよう耐えるのが精一杯だ。盾代わりの車輪と腕は大きく震えているが、辛うじて耐えている。
「ルーは…!?」
衝突地には膨大な魔力が渦巻いており、様子はとてもではないが伺えない。双方の軽々とした詠唱が産み出したとは思えない、混沌とした様相がそこにはあった。
「来たぞ!」
「!!」
ルーの安否を気にかけていたクー・フーリンだったが、直後に飛んできたタラニスの言葉に咄嗟に視線を上にあげた。あの不気味なローブか、宙を舞っている。本来なら顔が覗くだろうローブの口は日に照らされていても真っ黒で中は見えず、そこから勢いよく、軟体動物の触手のようなものが飛び出した。
いくつも飛び出したその触手は四者をそれぞれ狙い、降り落ちてくる。クー・フーリンは他二人に目配せで合図を交わすと、マーリンはタラニスの専制守備に、自分と子ギルは攻勢防御へと出た。
「アンザス!」
「ゲートオブバビロン!」
互いに攻撃を繰り出し、触手を撃ち落とす。タラニスも鎌に魔力を込め、斬撃を飛ばして撃ち漏らされた触手を撃ち落としていく。
「!」
「ガラではないんだけれどね!」
撃ち落とした先、本体とおぼしきローブ姿はまっすぐタラニス目掛け降ってきた。狙いはタラニスだということのようだ。それを察したマーリンもそう毒づきながら杖を振り回し、前面に結晶状の結界を複数展開する。
ローブとの衝突で簡単にその結界は消滅したが、両者との間を開く時間は稼いだ。マーリンはタラニスの前面に結界を展開しつつ、タラニスの目配せに僅かに後ろに下がった。タラニスは、ぐり、と首を回しつつ、相手を見据える。
「……答えはしないと思うが一応聞いておくか。貴様は何だ?」
「確かに、君程度に名乗る名前は持ち得ていないな。…だけれど、随分命を持っている様子を見るに、死神に転身しているようだ。神において複数の属性を有していることは何も珍しくないけれど、転身なんてしているということは君は随分不器用らしい」
ローブは流暢に話し始めた。バロールと対峙しているときは大層機嫌が悪そうだったが、今はずいぶん機嫌が良いように見える。とはいえども、言っている言葉はタラニスをどこか見下しているのだろうことが伺えるものだった。
「………………………」
タラニスは表情を変えず、それらしい反応も見せず、じっと相手を見つめている。その反応が気に入ったのか、ローブ姿は愉快そうに身体を揺らした。
「………ふふ。そうだな、興が乗ったから少しだけ教えてあげよう。僕はこの星の外より来たるものだ。何事も、準備は大切だからね」
「……この星の外……天上の星々から来たとでも?」
「さぁて、どこだろうね」
「まぁどこだっていい。わざわざこんなところまで、それも死んだヤロウを甦らせてまで、何を準備しに来たんだ?」
「それを明かしてしまうのは種明かしというやつだ、面白くないだろう?何事も――」
不意に言葉が切れた、と同時に。
吹いた風と共にローブ姿がかき消え、間を開けることなくそのローブがタラニスの背後に現れた。
「!」
「――暴かれる時が最高に楽しい、だろう?」
繰り出された貫き手は辛うじてかわしたタラニスは、身体を回し様にローブを蹴り、距離をとった。相手も当たるとは思っていなかったのか、ヒラヒラと貫こうとしていた手を振り、そっと人差し指をタラニスへと向けた。
「…ねぇ、“雷神”タラニス?」
「!!」
雷神、と口にされた言葉が波紋をもって広がった。すぐにその意図を察したタラニスは僅かに目を見開き、忌々しげにその顔を歪めた。
「……“死神”だ」
「いいや、“雷神”だ。だって、“君は僕の知る死神とは違う”」
確認するように死神だとタラニスが言葉にし、それに返した言葉で突如、地面の魔法陣が震え、大きく火花を散らした。
「なんだ!?」
突然のことにクー・フーリンも思わず声をあげる。魔法陣は拒絶反応を起こしたかのようにバチバチと鈍い音をたてて火花を散らし続けている。
一体何が起きているのかと地面に視線を向けたとき、クー・フーリンは不意にタラニスの言っていた言葉を思い出した。

―その能力の強さは、他生物からの“信仰”に大きく左右されるのさ

「……存在を否定して無効化しようとしてやがんのか…!」
クー・フーリンはたどり着いた答えに思わずそう毒づいた。