スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

この街の太陽は沈まない109

メイヴはそう言うと、応接室のソファーに座るよう促した。じとり、と睨み据えてやれば、ころころと珠を転がすように笑う。
「長話よ?もしクーちゃんに危害を与えようと私が考えている…なんて思っているのなら、クーちゃんの膝の上で話しても構わなくてよ??」
「向かいに座れ」
むしろそうさせて?とでも言いたげに目を煌めかせたメイヴにオルタはにべもなく言い放つと、どっかりとソファーの真ん中に座った。メイヴは残念そうにしながらもその向かいに座り、ヘクトールとフェルグス、両者の護衛はそのすぐ後ろに陣取った。ヘクトールは威嚇もかねてなのか、移動しなにジャケットを脱いで右腕の技巧を見えるようにし、ソファーの背にジャケットを投げおいた。
「…最初から話すべきね。あの赤いアンプル…髄液の開発をCPAの技術顧問だったレオナルド・ダ・ヴィンチに持ちかけられたのは、去年の10月のことよ」
「……CPAの前代表が急死、その息子の藤丸立香に変わった頃か」
ヘクトールがぼそりと呟いた言葉に、その通りと言わんばかりにメイヴが微笑む。
レオナルド・ダ・ヴィンチといえば、稀代の天才と名高い人物であると聞く。若くしてCPAの役員に名を連ねていることがそれを指し示しているのだろう。
ヘクトールは、ふぅん、とつまらなそうに言葉を吐く。
「…ま、CPAが黒幕である以上、首謀者の中にいるとは思っていたがな。んで?なんでその話を受けたんで?」
「半ば脅迫だったのよ。スパイがいたみたいでね、裏側の取引相手の顧客名簿、盗られちゃってたのよ」
「……ハッ。間抜けだな」
ヘクトールに代わり一蹴したオルタに、ぷぅ、とメイヴは頬を膨らませる。不覚をとった自覚はあるらしい。
メイヴはくるくる、と指で胸元まで垂れている髪を弄ぶ。
「私としては、表向きの顧客より裏の顧客の方が大事だし、私経由で足がついたとなったら、勿論命はないでしょう?クーちゃんに殺されるのも悪くないんだけれど…まだクーちゃんを私のものにしていないのに死ねないから」
「長生きしたところでその機会はねぇよ」
「あん、いけず」
「で?」
脱線しそうになった話を強引に引き戻す。
「とりあえず、表向きは従うことにしたわ。ただし完成したあとは特別協力はしないし、“製薬会社として”成すべきことはやらせてもらう、という条件はとりつけた。製薬会社がワクチン作らないのは不自然だし、向こうとしてもいたずらに街の人間を死なせたい訳じゃあない。開発元なら確実なワクチンを作れる、という思索はあったんでしょうね、そこはすんなり認めたわ」
「…ってことは、向こうはお嬢がワクチンを作ることまで全て折り込み済みだった、ってことか…。で?あの天才は、その開発の動機は何か喋ったのか?」
ヘクトールが渋い顔で呟き、質問を始めた。
確かヘクトールが三者会議で出した結論では、MEADも踊らされており、ワクチン開発は意趣返しだったのではないか、というものだったはずだ。成る程そこまで可愛いげのあるレベルの話ではなかったらしい。オルタはフン、と鼻をならし小さく笑った。
メイヴはオルタの嘲笑は気にせず、うーん、と小さく唸る。
「はっきりとは言わなかったけど、“光は光らないと意味がない”と言っていたわ。まぁ、このところCPAが活躍するようなことはなくて、予算を減らすことが検討されてたみたいな噂もあるし、要するにCPAの活躍劇を上演したかったんでしょうね。あぁそれと、口には出さなかったけれど、舞台に出す標的としてクーちゃんの組織を狙っていたのは確かだと思うわ」
「それはどんな根拠で?」
「女のカン、なんて言えたらかっこいいのだけれど、生憎とCPAに潜り込ませたスパイからの報告よ。アンプルがなるべく市民の手には渡らないように流行らせる場所を設定していたのだけれど、それ、クーちゃんの縄張りだったから」
「そのスパイはご無事?」
「CPAにアンプルの実験体にされてたわ」
「…そうですかい」
はぁ、と背後のヘクトールが呆れたようにため息をついたのが聞こえてくる。聞いた限りでは、CPAはぽんぽん下手人やスパイを始末している。裏組織も顔真っ青なレベルな所業だ、正義の組織が聞いてあきれるといったものだ。
オルタはこきり、と軽く首を動かした。
「で」
「契約は交わされたわけだから、ちゃんと開発したわ。研究主任のパラケルススが責任者よ、成分とかの細かい話に興味があるなら彼を呼ぶけれど、いるかしら?それと、ウチに潜ませられていたスパイに関しては、クーちゃんが来てくれたあのパーティーの日、あの日に突き止めて始末した」
「どうでもいい」
「あぁ、そうそう、そういえば聞かなきゃならねぇことがあった」
メイヴの話がパーティーに来たところで、ヘクトールが思い出したように手を叩いた。

この街の太陽は沈まない108

――Episode ??-3 <クー・フーリン・オルタ>――



┃ 7/17 11:45:07 ┃



 「クーちゃん!!」
案内された応接室に入るなり、飛び付いてきたピンク色の固まりをあえて甘んじて受け止めた。立っている状態で彼女に相対するとき、普段は避けるなり止めるなりするのだが、今日は逃げられるわけにはいかない。
メイヴもすぐにオルタの異変に気が付いたのだろう、すぐにがばりと顔をあげた。
「…………………」
「よォ」
「…アハ、もしかして、バレちゃったのかしら?」
「へぇ?」
「ッ、」
あっさりと認めるかのような言葉を口にしたメイヴに、オルタは口角を釣り上げた。咄嗟に下がろうとしたメイヴの腰を掴んで引き止め、反対の手で髪を掴むと強制的に顔を上に向かせた。髪が引っ張られて痛んだのだろう、メイヴの顔がわずかに歪む。
「オルタ…」
「そう警戒すんな。早々殺しゃしねぇよ、フェルグス」
メイヴの発言に戸惑っているのだろう、メイヴに敵意を見せるオルタを攻撃するべきなのか、それをメイヴが甘んじていて受けているのであれば今は静観するべきなのか、決めあぐねているらしいボディーガードのフェルグスにオルタは軽く言葉を投げ掛けた。
殺さない保証はしていないが、このタイミングでMEADの社長が死んだとなればCPAに格好の餌を与えることになることは火を見るよりも明らかだ。そんなことをするほど馬鹿ではない。
「やー、どーもどーも」
ひょっこり、という音があうような様子でヘクトールが応接室に入ってきた。そのまま彼はさっさと扉を閉じ、出口を塞ぐように扉の前にたった。
「お嬢、さっきのお言葉の意味は?」
「……うふ。私の首を折らないの、クーちゃん?分かっているのなら、貴方に許されるとは到底思えないのだけれど」
メイヴはまだはっきりと明言しなかったが、普段のように笑いながら、だがどこか殊勝な面持ちでオルタを見上げている。オルタは嘲笑うように、はッ、と鼻をならした。
「自覚があるなら大人しく吐くことだな」
「今回のことでウチはそれなりの損害が出てるんですよねェ。オマケにCPAにはぎっちり目をつけられてるみたいで?ボスがそこで止まってんのは、お嬢のせいでCPAに尻尾を見せることになるのは癪だからですよ」
オルタの言葉に続き、ヘクトールが辛辣な言葉を吐く。オブラートに包んで何もわからなくなるような言い回しをする男にしては、珍しくストレートな言葉だ。
メイヴは僅かに目を伏せた後、にこり、と笑った。
「……そう。クーちゃんなら、全面戦争するかと思ったのだけれど」
「させてぇのか?」
「そうね、とても見てみたくはあるわ」
「てめぇにやらされる戦争はやらねぇ」
「…!そう、そうね。私が甘かったみたいね、今回の勝負は私の敗けだわ。なら敗者らしく、話してあげるわ」

この街の太陽は沈まない107

「まぁ、あの二人あんまり仲良さそうには見えないですしね」
ばり、と、どこから持ってきたのか菓子パンの袋を破りながら、アサシンがそう言い放つ。遠慮のない言い方だが、確かに、手を取り合って協力し合う、というような間柄には見えない。
あー、と、濁った声でバーサーカーが呻く。
「なんだ、じゃあ信用はできねぇってオチか?」
「全てを鵜呑みにはできない、ということさ。天草殿がどの段階から知っていたのかは分からないことだが…少なくとも、今回のようなレベルで彼らが協力することは、今後ないだろうことは確か、かな」
「そうだな…何らかの同意はあったにせよ、あの二人が騙されたのもまた確かなんだろ?」
セイバーの言葉に続き、首をかしげつつそう尋ねたランサーの言葉にキャスターが頷く。
「そうね。あの二人が女史に不満があるのは事実でしょう」
「ならそこを信用するしかねぇんでしょうなぁ。信頼は簡単に壊れますが不満は早々変わりませんからなぁ!」
「さすが海賊、下衆いことをいいますね」
「あふん、手厳しい」
ライダーとアサシンの茶番を見ながらセイバーはくすりと笑い、現段階でこれ以上の結論は出せないと考えたか、ぽん、と手を叩いた。
「一先ず、今回の情報は見つからないように保管しておくことにしよう。ここで考えても今はもう結論がでないだろうからね。場を改めてまた考えようか。キャスター、管理を頼んでも?」
「えぇ、任して」
「ランサー、他になにか思い出したことがあったらすぐに教えてくれ」
「承知した」
「よし。……じゃあ、昨日の始末書を書くとしようか!!我々としての作戦は成功しているが、表向きの作戦は大失敗だからね!」
ええぇー!!と、悲痛な悲鳴が司令室に響き渡った。



「スカサハ警備部長」
代表の藤丸と別れた彼女に、話しかける人影があった。表情の読めない顔で振り返ったスカサハに、その人影は苦笑めいた笑みを浮かべる。
「今回の事件はお疲れさま。思ったよりも派手な事件になってしまったね」
「…そうですね」
「最後が失敗に終わってしまったのが残念だ。相当頭の回る男のようだね、女王蜂は」
「裏世界の掃除屋などと名乗るほどですからな。世渡りは相当巧みであろうよ。で、何用かな?………ダ・ヴィンチ女史」
名を呼ばれた人影―レオナルド・ダ・ヴィンチはにっこりと笑みを浮かべた。

人のいい笑顔だ。
話を聞いていなければ、彼女を黒幕と疑うのは難しい。

そんなことを無表情の裏で考えながら、彼女の笑みに返すようにスカサハは肩をすくめた。
「ChaFSSが失敗するとはなぁ。アマゾネス宅配の押しの強さには参ったものよ」
「そうだねぇ、まさか彼らが失敗するとは思わなかったよ」
「どうだ、この際人員を増やしてみてはどうだ?」
「ははっ、そうだねぇ、それも悪くもないかもね。予算をどう確保したものかなぁ」
「なんてな。どうせこれだけの事件は早々起こるまいよ。なにせ黒幕である雀蜂は尻尾を巻いて逃げてしまったのだからなぁ、黒幕が動かなければしばらくは平和よ」
世間話でもするかのように近況の話をしながら、さりげなく、黒幕、という言葉を強調して、スカサハは目を細めて笑った。
ダ・ヴィンチは一瞬きょとんとした後、そうだね、と同意を返して笑う。
「…黒幕か。スカサハ警備部長、君は、今回の事件、どう思う?」
「気に食わんな。結局メイヴのやつが儲けて終わり、というオチになりそうではないか。全く、抜け目のないやつよなぁ」
「……………」
「ん?なんだ、聞きたいことは違ったか?」
「いいや?そんなことはないよ。時間をとらせたね、すまない。我々は本部に戻るよ、報告書の方、よろしくね」
ダ・ヴィンチはさわやかな笑顔でそう言うと踵を返し、スカサハの前から去っていった。
「…………ちっ。抜け目のないやつよの」
揺さぶりは何度かかけた。だが揺らいだ気配を微塵も見せなかったダ・ヴィンチにスカサハは小さく舌打ちし、同様に踵を返した。
続きを読む

この街の太陽は沈まない106



ーー聴取は手早く終わった。
口封じされてしまった以上、聞き取ることもそう多くはなかった。
3人が取調室から出ると、天草の方もちょうど終わっていたようで、キャスターは難しい顔で端末をにらみ、アーチャーが渋い顔をして眉間を揉んでいた。
「あぁ、そちらも終わったかね」
「若いうちからそんなに眉間を寄せていると皺がとれなくなるよ、アーチャー」
「ご忠告痛み入るよ」
はぁ、と、アーチャーはため息をついてひらひらと手を振った。天草が、出てきたダンテスを見て薄く笑う。
「貴方の方も、告白はすみましたか」
「………ふん。不快な言い回しをするな」
「それは失礼しました」
「それで?今後、彼らはどうするつもりかしら、セイバー?」
キャスターはそんなやり取りに耳を貸していない様子だったが、ふ、と顔をあげてセイバーにそう問うた。セイバーは、ふむ、と顎に手を添え、少しの間黙りこむ。
「…そうだね。正直、女史が全ての元凶であるならば、もう君たちを利用することはないだろうと思う」
「!」
「…!」
そうして開かれたセイバーの言葉に、二人は僅かに驚いたようにセイバーを見た。ダンテスの方がやや早く、納得したように小さく頷く。
これだけ徹底的に口封じをした彼女が、彼らを殺すことはしなかった。それは殺す方がリスキーであるが故に、だ。ただでさえリスキーな人員を再び使うような真似を、彼女がすることはないだろう。
「…だから、あなた方は代表をお守りすることに専念してくださった方がいいだろう。肉体的にも、精神的にも」
「…そう、ですね。分かりました」
「それと、あなた方だけで報復に動くことは避けられた方がいい」
「……、………そうですか」
報復はやめておけ、という言葉に、天草だけがわずかに反応を見せた。一瞬のことではあったが、彼の表情から色が消えた。
少なからず報復することを考えていたのかもしれないが、それが困難な道であることはさすがに分かっていたのだろう。
「では、また何かあれば、ひとまずあなた方にお知らせしましょう」
「そうしていただけると助かります」
「それでは失礼します。では、行きましょうか」
天草はそう言うとダンテスを促し、深々とセイバーらに向けて頭を下げると、司令室を出ていった。



 「どこまで信じる?」
2つの足音が遠ざかり、聞こえなくなったところで開口一番そう言ったのはセイバーだった。概ねメンバーはその言葉が来るであろうことは予想できていた。ランサーも、その例外ではない。
「…そうさなァ。個人的な感覚としては、エドモン・ダンテス、あいつが嘘を言っている気配はなかったな。ま、死んじまってるからな、確認しようもねぇが」
「彼が嘘をついていない、というのは私も同意するところだ。彼は少なくとも…そうだね、藤丸代表絡みであれば信用していいと思う」
「そっちはどうだったんだ?なんか難しい顔してたけどよ」
ダンテスの今回の言葉に関しては嘘はないだろう、というのがランサーとセイバーの共通見解であった。聴取が早く終わったのも、素直な供述であったから、というのが理由のひとつでもあったからだ。勿論全面的に信用できるかと問われれば、藤丸のために悪事に手を染めることを厭わない辺り、信用はできない。あくまで信用できるのは、藤丸が関わる事柄に関する言葉だけ、ではある。
ひとまずそれはさておき、と心のなかで呟きながら、ランサーは天草の方について、聴取担当の二人に話を振った。アーチャーとキャスターは思わず顔を見合わせる。
「…今回に関して、彼は藤丸が彼女の動きに気付かないよう、動くことが仕事であったようだ」
「…そうね…それに関しては恐らく間違いないでしょうね。……あとはそうね、彼個人は少し、胡散臭くはあるわね」
「自分のために、といっていた言葉の真意に関しては?」
「女史はアンプルのことに関しては明かしていなかったようでね、あくまで彼らはこの事件に乗じて、としか説明されていなかったようだ。そして彼一人は、こちらに犠牲は出ることはない、ただ藤丸の目をそらしてくれればいい、としか言われていなかったようでね、片割れが手を汚したことも事が済むまで知らなかったそうだ。ま、どこまで本当かは図りかねるがね」
アーチャーはそういって肩をすくめた。

この街の太陽は沈まない105

「…被疑者死亡でも送検できなくはない。今後のために一応、分かる範囲のことを教えていただいてもいいかな?」
「…承知した。可能な限り答えよう」
「あぁ、一つだけ念のため。我々が掴めている証拠は現状、ランサーの証言だけだ。だから君の話を聞いても、すぐに告発することはない、ということは約束するよ」
ダンテスはセイバーの言葉に目を見開き、はっ、と、自嘲気味に笑い声をあげる。よくよく見ると、随分やつれた様子だ。初めて会ったときも血色の悪い男だと思ってはいたが、それに輪をかけて顔色がよくない。
視線を合わせようとしなかったことからみても、気にしていた、ということなのだろうか。
「(…気にされると俺の未熟さが際立つからやめてほしいんだけどな……)」
「………それはそれは。…いや、この場で皮肉は失礼だな。気遣い、感謝する」
「ではアーチャー、キャスター。天草殿の聴取は君たちに任せる。ランサーは僕と」
「りょーかい」「承知した」「分かったわ」
セイバーは腰をあげ、ダンテスとランサーを別室に促した。どうやら別々に話を聞くつもりであるらしい。セイバーに指示を受けた三者は三様に返答し、ランサーは移動する二人の後ろについて隣接している取調室へと入った。

 「天草四郎のことを疑っているのか?」
「あん?」
取調室に移動したあと、ダンテスは開口一番そんなことを尋ねてきた。意図がはかりかねてランサーは首をかしげたが、セイバーは薄く笑う。
「深い意味はないよ。藤丸代表の会議が終わるまでに話を終わらせないといけないだろう?なら、別々に聞いた方が早い」
「あぁ、そういう…」
「…ただ、そうだね。彼は自らのために協力した、と言った。そこは君と彼の間にも温度差があるのではないか、と、思ったのは確かだ」
ダンテスは深く椅子に腰かけ腕を組むと、深々と息を吐き出した。それから手を口元に添え、しばし考え込む様子を見せたが、すぐにいずまいを正した。
「…そうだな。奴は、真の意味での人々の救済と平穏を祈り、願っている。だから奴としては、多少味方を欺くこととなっても犠牲を少なく、UGFクリードの組織を潰せるというのであれば、よいと考えたと言うことだろう。だが実際は、女史の口封じの数があまりに多かった。だがらこうして白状することにしたんだろうさ」
「救済、ねぇ………」
「自分のために、というのはそういうことだろう。奴の考えているスケールは、立香がどうとか、そういうレベルではない、というだけだ」
「成る程。確かにこの街には、とりわけ裏組織が多いからね」
セイバーは納得したようにうなずきながら、手元の端末にタッチペンを滑らせる。ランサーは記録机にある椅子を引っ張り、背もたれを前に抱えるようにして座りながら、頬杖をついた。
「アイツのためっていうのは、恐喝でもされたのか?」
「協力しなければ彼の命や立場が危ういーーなどといった脅しをされたわけではない。いや…むしろ、そういった圧力は常日頃からある」
「……!」
ランサーはダンテスの言葉に僅かに目を見開き、ちっ、と小さく舌打ちをする。藤丸は若い。対して、幹部勢は老齢の人間が多い。
年若い代表が受ける仕打ちなど、容易に想像できる。
「CPA本部には老害も多いからねぇ」
「さらりと言うなセイバーよぉ」
「それに近頃、立香がやつれ始めていた。それを和らげるためにも、藤丸の有用性を示すことが急務ではあったのだ、オレとしてはな」
「そこでなんでChaFSSを選んだんだ?」
「ChaFSS隊員の平均年齢は20代後半と、CPAの全ての組織のなかで最も若い。若き力が老齢よりも優秀なのだと、証明すると女史は言っていた」
「……成る程。人質にとられながらも生還したのが一番若いランサーである、というのも、狙ってのことかい?」
「その通りだ」
「……気に食わねぇなァ」
ちっ、とランサーは再び舌打ちをこぼす。まんまと利用された自分が実に情けない。
「…では、本題に入ろうか。ランサー、記録を頼む」
「おう」
ランサーはセイバーから端末を受けとると、じゃっ、と椅子を滑らせ、記録机へと移動した。
<<prev next>>