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神域第三大戦 カオス・ジェネシス73

「……………」
凪子は、すぅ、と深く息を吸い込むとそっとルーの顔に左手で触れた。まがりなりにも神に作用するような呪いだ、素手で触るのは憚られたために、手袋のある左手の装束に軽く防御魔術を施してから触れたのだ。
そのまま、手を媒介として、ルーの“中”を透視する。スキャンするといった方が分かりやすいだろうか。スパイラルの模様をなぞるように指を這わせ、それがどう作用しているのかの把握を試みたのだ。
「………………」
「解呪に関しては儂もルーも然程得意ではなくてな」
「万能と詠われるアンタ方でもか?」
ダグザの言葉に意外そうにそう言ったクー・フーリンに、ダグザは肩を竦めた。
「万能というのは結局、全てのものに大体対応できる器用さ、というだけじゃからな。何か一つに極めたものに比ぶれば劣る部分も当然ある。それに何より、呪いなぞまず食らわんからな!!」
「経験がないってのは確かに、いくら頭よくても初見で対処できないものはある」
「そういうことか…」
「……ああ、成程そういう感じか」
ダグザとクー・フーリンの会話に合いの手を挟みつつ、診断していた凪子はぽつりとそう呟いた。ダグザとクー・フーリンの視線が同時に凪子を見る。
「お主に解けるものか?」
ダグザは、端的にそう尋ねた。出来るのか、出来ないのか、その事実だけを答えろと物語る。
凪子は眉間に親指を当て、ぐりぐりともんだ。
「…出来ないことはない、だな。人間なら厳しいし、リスクがないわけでもない」
「ほう?」
「これは徐々に侵食していくタイプの呪いで、時間と共に呪いが心臓…核を目指していって、到達したら核が破裂するタイプの呪いだ。術者を特定したくないときとか、呪いをかけてから死ぬまで間を開けたいとき、じわじわ殺したい時とかにこの手の呪いはよく見るな。ルー自身の抵抗力が強いのか、幸いこの呪いはまだ首の中腹で留まっているし、脳の方にも到達してない」
「成程。して、どう解除すると?」
「リスクが少ないやり方は解呪の術式を打ち込むこと。蟻の巣に水をいれて水没させる、みたいなイメージだな。ただ、上塗りで消そうとする形だから、本体にその術式の影響が残らないように弱度のものしかできず、複数繰り返す必要があるし、術式を組むのが少し難しいな。もう一つは引きずり出す方法。呪いの根が張っていっている状態だから、根っこごと引きずり出す訳だな。こっちは一度に呪いを引き抜いてしまうから一回ですむが、引きずり出すときに周辺を傷つける危険性はある」
凪子は淡々と解説をしながらも、今度はルーの心臓部に手を触れていた。ダグザの言っていた“種”を探しているようだ。
ダグザは凪子の言葉に目を細め、思案しているようだった。クー・フーリンはその様子を見、凪子に試験を向けた。
「お前だったらどっちをとる」
「一応どっちも出来るから、早く終わらせたいかどうかだ。……と、普段なら言うんだが、如何せん魔神の呪いだ。ちょっかいを出したときの防衛機構くらいついていそうだ。それを考えると、一回で勝負をつけた方がいいとは思う」
「放置はできねぇのか?」
「ルーの抵抗力が強いから緩やかではあるけど、いずれこの呪いは心臓に到達する。それに、緩い理由の一つがバロールから離れているから、という可能性もある。そうだった場合、戦闘状態になったら早まって戦闘中に心臓に到達する可能性がある、あんまりオススメはしない」
「…………ッ、」
淡々と、だがごまかしもせずに端的に事実を告げる凪子に、クー・フーリンは僅かに眉間を寄せた。リスクがある、だがやらないわけにはいかない、そういう状況にルーは置かれているということだ。
「…種見つかんないな………どこだ…………っとぉ!?」
一方の凪子はそんなクー・フーリンは気にも止めずにルーの身体をぺたぺたと触っていたが、唐突にその腕を掴まれ、裏返った声をあげた。
ざばり、と音をたてて水しぶきをあげなが水面まで凪子の腕を持ち上げたのは、ルーの手だった。
「………ダグザ翁が許したのだろうが、少しは遠慮しろ、深遠なる内のもの」
ゆっくりとその瞳が開かれる。ルーは気だるそうに、だがしっかりとした声で凪子に苦言を呈した。
意識を取り戻したようだ。寝起きに近い状況であるというのに的確な現状把握をするルーに、凪子はどこか柔らかく笑んだ。
「おはよぉ。調子はどうだ?お前さんと、タラニスのボディにはよかろうと、ダグザの許可を得て連れてきたんだ」
「…そうだろうな。何が目的だ」
「話が早すぎない??理解よすぎませんぬ??」
「この泉は人工のものだろう。部外者を巻き込むつもりはない、出ていく」
「そう心配せんでも、ここはお前を信仰する、そしてあと10日で死ぬドルイドの所有する場所だ。信仰に応えるのは神の務めだろう?大人しく入ってろ」
「…………………」
身体を起こし泉から出ていこうとしたルーを、凪子はそのまま押し戻した。ルーはムッとしたように凪子を見たが、凪子はそれを上回る有無を言わせぬ視線で睨み付け、力を緩めることはなかった。
ルーは信仰の話を持ち出されたからか、或いは他に思うことでもあったのか、しぶしぶと身体を戻した。はぁ、とため息をついたあと、首を伸ばしてダグザを恨めしげに見上げた。
「そう拗ねてくれるな。お主らがアレに助けられてしまったのは事実だろう、ならば譲歩もせんとじゃろうて」
「…チッ。呪いを見るのを許したのもそれか?」
「それもあるが、単純に対処できるのならするべきだというだけじゃ。お主は耐えられようがな、それは確かに死の呪いなのだ。恥知らずにも二度目の生にしがみついた惨めなきゃつの為に、その命を散らすことはなかろうて」
「…………どうだかな」
死したはずの、本来ならばあり得ない復活を果たしたようなバロールの為に死ぬことはない。そう言うダグザに、だがルーは曖昧にそう答えるだけだった。
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