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神域第三大戦 カオス・ジェネシス84

「そして何より、今バロールはお前の攻撃しか通らないんだろう?つまり、お前が負けたら自動的に彼女達の死が確定する可能性が非常に高い。なら、放っておけないだろう。それに、敢えて言うがな、ルー。お前がバロールより強いのかどうか、現状お前が勝ってない時点で強いとお前はこっちに証明できてないんだから、信用して命託せるわけもないだろ」
「なっ…!」
『ちょっ…!!』
ロマニとヘクトールがぎょっとしたように声をあげる。凪子が口にした言葉は明らかに挑発的で、悪意すらも感じられた。お前の方が弱いのではないかと暗に言っているのと同じようなものだ。そのようなことを神に言ったらどうなるのか、想像に難くない。
だが、顔を青ざめさせた両者の予想に反し、ルーは、ふっ、と楽しげに笑みを浮かべたのだった。
「貴様は2000年たってもどうしようもないままだな。それが貴様の処世術なのだとしたら、ずいぶん貴様は受け入れられずに生きていったらしい」
「…………。いや、なんだそれ」
「言い方は選べと言いたいところだが、一理はある」
『なぁ!?』
続いたルーの言葉に、ロマニは驚きを露にして声をあげた。煩わしそうにルーに睨まれてもぽかんとしたままであるあたり、相当驚いたらしい。ヘクトールも拍子抜けしたようにルーを見ているし、どうにも彼らの持つ神のイメージからはかけ離れていたようだ。
「事実を否定したところで意味はないだろう。だがそれを言うならば、春風凪子。私より劣る貴様らは、助力として何ができると言うつもりだ?」
「…まず私から提案できるのは、この時代の私の相手だ。お前とバロールの戦いは、相手がバロールだけであることが望ましい。だからアレに邪魔されないように別の場所でこちらが相手をする。なに、アレの目的がカルデアの排除と私の排除であるなら、引き付けもそう難しくないし、お前さんがこちらに任せる道理にもなるだろう」
「…ほう」
凪子はそこまで言ってから、ちら、とクー・フーリンに視線をやった。カルデア側の見解はカルデアから述べよ、ということなのだろう。
クー・フーリンはその視線に小さく頷くとルーに向き直った。
「もう一つはサーヴァントとカルデアの頭脳による戦闘補助だ。ダグザが言うにはバロールは生前と違う性質を持っているんだろう?なら、アンタが知らない要素の分析と解明、サーヴァントでのバロールの妨害とアンタへの支援。それくらいならできる。なぁ、ドクター?」
『う、うん?そうだな…ランクダウンしているとはいえ、英雄王とマーリンがいるというのなら、少なからず可能だろう。こちらも分析に関してならばそれなりに役に立つと断言しましょう』
「成程な」
ルーは端的にそう返した。感情のない瞳からは、そう聞かされたルーが何を考えているのかは読み取れない。
「…………あの、恐れながら」
―面々が息を呑み、ルーの言葉を待って沈黙したところへ、一人、リンドウが声をあげた。室内の視線が一斉にリンドウに向き、一瞬リンドウは肩を跳ねさせたが、それでも臆せずルーのほうへと身体を向けた。
「なんだ、ドルイドよ」
「………、どうか彼らをお加えください、そちらが貴方様にとって吉兆です」
「…戦いの勝敗にではなく、私にか?」
「へっ?」
「その通りでございます」
恭しく述べたリンドウに対し、僅かに意外そうな表情を浮かべたルーの問いに凪子は間の抜けた声をあげたが、リンドウは即座に肯定を返した。ルーが何を聞きたかったのか、何が意外だったのか、申し出をしたリンドウ以外には誰にもわからず複数の視線が揺れて交錯する。
ふ、と凪子が気がつくと、リンドウの組んだ手が僅かに震えていた。それは自身が信仰する神に直接進言するという大それた行いに対する畏れ――というのではないようにみえた。凪子とクー・フーリンの進言には表情を変えなかったルーも、リンドウの言葉に僅かに考え込む様子さえ見せている。
どうやらリンドウの言葉には、言葉以上の意味があるようだった。
「…………そうか。ではドルイドよ、貴様の進言を聞き入れよう」
「っ!!…、我が主神光神ルーよ、感謝いたします」
「…なんかよく分からんけどこっちの提案でオッケーってこと?」
凪子の問い掛けにリンドウから視線を凪子に移したルーは、しぶしぶ、といったように首を縦に振った。
「致し方あるまい。私の戦闘補助とやらの人選に口だしはさせてもらうがな。あっさり負けて奴の眷属化でもされたらいい迷惑だ。それと、確かに深遠のの相手を貴様がやるというのは道理にあっている。精々きっちり尻拭いをしろ。―その代償として、背負わされた命の保証と責任はとってやる。貴様が要求したいのは、要はそういうことだろう、春風凪子」
「…!」
はっ、としたようにマシュが目を見開き、凪子はにやっ、と笑みを浮かべた。凪子の表情にルーは嫌そうに顔をしかめたが、疲れたようにため息をつくだけだった。
「そいつはどうも!さて、それで構わないか?司令塔。藤丸ちゃんたちの命の安全は保証持ってくれるってさ」
『…!まさか貴女は、はじめからそれが狙いで?』 「はじめからーという訳ではないけど、彼女達どうにもほっとけなくて飛び出しちゃうタイプみたいだから。だったら戦場に安全地作るほうがいいでしょ」
「それは……その、すみません」
しょぼ、とした様子を見せる藤丸に、ルーが視線を向けた。見られていることに気がついた藤丸は驚いたようにルーを見る。
ルーは、すぅ、と目を細めた。
「…他者のために自らの危険を厭わず行動できるというのは、ヒトにとって美徳であるのであろうがな。だが時としてそうした態度は、他者を蔑ろにした自己満足に陥りかねない。勇気と無謀が表裏一体であるようにな。……努々それを履き違えないことだ」
「…!」
――それは、果たして藤丸とマシュという人間にだけに向けた言葉であったのか。
ちらり、と凪子が視線を向けた先で、クー・フーリンは膝の上に拳を作っていた。
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