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神域第三大戦 カオス・ジェネシス63

燃えるような、それでいて見目の年相応にくすんだ赤い色の髪と、同じ色の豊かな髭。
タラニスやルーよりも赤みがかった肌色。すらりとした肉体美を誇る両名と比べて、その肉体は随分とでっぷりしていた。
戦闘衣ではなくゆったりとした丈の短い衣と毛皮の長靴、若草色のローブを身に付けている。
右手に握られた棍棒はその者の身丈よりも遥かに大きいが、軽々と支えられていた。
少し茶色がかった紅い色の目は、驚いたように真ん丸に見開かれている。

その者はぐるぐると棍棒を揺らしながら、どこか落ち着いたように改めて凪子達に視線を向けていた。タラニスを肩に、ルーを左の小脇に抱えていてなお、その挙動には余裕が見えた。豊満な体格とのアンバランスさに違和感を覚えるほどだ。
凪子はすぐに攻撃して来なかった相手に、そ、と槍を僅かに下ろした。
「………で、タラニスよ。お主わざわざ止めたということは、何か言うことがあるのだろう?なんだ、あの人の子らは。人殺しは好かぬぞ儂は」
「…黄色い目の者。あれは、異なる時間から来訪した深遠なる内のもの」
「ほう?!」
肩に担いだタラニスに状況説明を求めたその者は、タラニスの返答に再び目を真ん丸に見開いた。随分ひょうきんな表情を浮かべるものだ。
タラニス、ルー、と戦闘の化身のような神と連続で接触してきた藤丸たちも、様子の異なる反応に拍子抜けしたように彼の者をぽかんと見つめていた。
「あれに我が御霊が価値を見いだし、あれもこちらに交渉を持ちかけた。…癪な話ではありますが、死の視線から助けられましてな」
「ほぉ!きゃつめがおったか!道理でな…しかしまぁ、確かに大した結界じゃ。魔眼の効力も届くまいよ。成程、つまりお主らは借りがあるということだな?だから儂に交渉を聞いてやれ、と」
「…如何にも。ご理解がお早く助かります」
「ふむふむ、左様か。では深遠の!話を聞こうか!」
「はぇっ!?ず、随分あっさり聞いてくれるんですね??この時代の私、バロールの手下になってるんですよね?」
唐突に、迷いなく交渉を受け入れられた凪子は思わず驚きに裏返った声をあげた。驚愕の顔を浮かべているのはヘクトールも同じだった。策略家の彼からしてみれば、拍子抜け以外の何者でもないのだろう。
その者は、はっは、と快活に笑う。
「何、この結界はお主のテリトリーそのもの。押し入った時点で大体の本質は分かっておるわい。きゃつの臭いもしないしな。………ん??おいタラニスよ、深遠のの隣におるのセタ坊ではないか!?」
「ご賢老!!!その話は!!また後程!!!」
「タラニスの野郎が振り回されてやがる…一体何者なんだ……」
相手はことここに至ってようやくクー・フーリンの存在に気がついたらしい、タラニスと似たような反応を示し、タラニスに話を変えるなと取り押さえられていた。
呆然としたようにそう呟いたクー・フーリンに、凪子は意外そうに視線を向ける。凪子は棍棒と現れた巨漢を見て、その正体に気が付いていたからだ。
「なんだ、分からんのか??戦闘になる前に話題になってた奴だよ」
「は………え、まさか、は!?じゃあ、」
「彼が、あのダグザですか!?」
「おお?何だ、知られておるのか。釜も見せとらんのによう分かったな、はっはっは!」
凪子の言葉にクー・フーリンとマシュがすっとんきょうな声をあげ、名を呼ばれたその者、ダグザはそんな二人の反応に声をあげて笑った。

ダグザ。
トゥアハ・デ・ダナーンの最高神にしてダーナ神族の長老ともいうべき存在であり、豊穣と再生を司る神である。
そしてエリンの四秘宝の一つ、無限の食料庫たる大釜を所持するものでもあった。

ケルト神話に置いて、ルーと同等に相当の知名度を誇る神であり、この特異点の原因ではないかと疑っていた神その者が現れたのだ。驚くなという方が無理な話というものだろう。
ダグザは一旦タラニスとルーを床に下ろし、よいせ、と掛け声をかけて棍棒を肩に担ぎ直すと、悠然と凪子の方へと歩み寄ってきた。
「まずはあの二柱を結果的に救ってくれたことには礼を言おう、深遠なる内のものよ」
「は…恐縮です……」
「なんじゃ、随分と萎縮するのう。以前にルーと相対していたときはもっと遠慮がなかったろうに」
「まぁ、その、色々とキャパオーバーなんすよこっちも。ルーはもはや私にとっちゃ顔馴染みに近いですけど、かのダグザにお目にかかれるとは」
「なにが人の世に伝わっとるか知らんが、交渉なんぞ持ちかけるのならもちっと大きく構えたらどうだ」
「じゃあそうするわ」
「切り替え早〜」
自分と交渉をしようというのならそれらしい威厳を見せろ、というダグザに凪子はパチパチと瞬きしたのち、あっさりと開き直ったように口調を崩した。あまりの切り替えの早さにヘクトールは驚き半分呆れ半分といったような声をあげたが、凪子的には半ば自棄に近かったことを彼は知らない。
ダグザは満足げに頷くと、ごん、と棍棒を立てた。凪子も下げていた槍を同様に前に持った。
「…んん?この槍は…」
「ルーは槍が教えてくれたとかなんとか言っていた、貴方も触るか?どうやら私よりこの子の方が説明上手みたいだから」
「ほぉ。では失敬」
ダグザは凪子の申し出に意外そうに目を丸くしたのち、納得したようにそっとその槍に触れた。撫でるように何度か擦り、すぐに小さく頷いて手を離した。
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