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神域第三大戦 カオス・ジェネシス74

「全く、余計なことをしてくれたものだ、翁。ただでさえ部外者に関与されたくない話だというのに、よりにもよってこいつとは。全く、ツキに見放されたものだ、我が命運もここに尽きたか」
「おいどういう意味だお前ぇこのやろお」
「そのままの意味だ、深遠なる内のもの。…貴様が自覚をもって来たと言うのなら拒絶のしようもないことだが、そうではない以上、貴様だけはごめんだったと言うのに」
「んだとこのやろう、喧嘩なら買うぞ」
「ハッ、負けた身でよく吠える。本体で出直してから言え」
「はっは〜んこの野郎痛いところをぶすぶすと」
「おい、喧嘩してる場合か!!」
やいのやいのと言い争いを繰り広げ始めた二人―凪子の方がほぼ負けていたが―に、クー・フーリンは思わず声をあげる。クー・フーリンの声にピクリ、とルーは反応し、彼の方へと視線を向けた。
ルーと視線のかち合ったクー・フーリンはビクッ、と肩を跳ねさせたが、しっかりとその目を見返し、逸らすことはしなかった。
「………ふん」
「!」
ルーはその視線に何かを悟ったのか、あるいはそうではないのか、ただ何も言わずに視線をそらした。凪子はそんな二人の様子を見守ったのち、にや、と悪い笑みを浮かべた。
「ま、最悪のタイミングで気絶した自分を呪うんだな。今な、お前さんのその目の呪いをどう解こうかという話をしてたんだ。時間がかかるし罠が潜んでる可能性はあるものの安全な方法か、リスキーだが早く終わる方法か。どっちがい?」
「やらない選択肢はないのか、貴様」
「今のところそれを選ぼうとしてんのはお前だけだな。……真面目な話、その呪いは解いておいた方がいい。真面目な戦いの時に無粋な邪魔はされたくないだろ」
「貴様が失敗して死ぬよりかはマシな気がするが、そこは自信があると胸を張れるのか?」
ルーはごろんと首を預けていた岩場に顔を投げ出し、真面目な凪子の言葉にどこかせせら笑うように、だがどこか楽しそうにも笑いながらそう問うた。仮にも自分の命がかかっている話だというのに、随分と余裕を感じさせる。
凪子は、ケッ、と顔をしかめつつ毒づいた。だがすぐに、挑戦的に口元を歪めてつり上げてみせる。
「お前はすーぐ私を試すようなことを言う。そういうこと言われるとな、私は期待を裏切りたくてたまらなくなるんだ」
「そうか、それは結構。なら後者でやれ」
「あら。リスキーな方でいいの?言っとくけど多少の痛みは確実にあるし、それに動かないでもらわないといけないんだけど」
「なんだ、期待を裏切るんじゃなかったのか?」
「ほっほぉ〜〜こいつぅ〜いい度胸してんじゃねぇの」
「………………」
互いに相手を煽りないながら、なんだかんだと和気藹々と会話を交わす二人にクー・フーリンはげんなりとしたように脱力し、同様に呆れたように頭を抱えていたダグザと目が合うと、互いに肩を竦めあった。突如子供の喧嘩のような様相を見せつけてくる二人に、一体どういう顔をすればいいのか、互いに分からないようだった。
「さて、それはともかくそうと決まったなら早い方がいい。キャスター、鞄から針出してくれ、鍼灸用の」
「は?鞄って…うぉっ!」
それ故に不意に凪子に話を振られたクー・フーリンは咄嗟に反応できず、胡座をかいた足の上に、唐突に降ってきた鞄をもろに受け止める羽目になった。
素足の足に鞄の中の宝石でもヒットしたのか、じんわりとした痛みを覚えつつ、早く早くと急かす凪子に彼は慌てて鞄の中を漁った。
「おま、どんだけ拡張してんだ鞄の中身…!おい、これか?」
「そうそれ。後小皿とアパタイト取って」
「アパタイト??」
「あー……隅っこに青いピルケースみたいな箱あるだろ、取って」
「人使いが荒いなおい」
鍼灸針を手渡すと次々に指示を飛ばしてくる凪子に、探しはしつつもさすがに分からないものは尋ねた。凪子の鞄の中身は宝石だらけであったので石の一種だろうとは予想できても、クー・フーリンは宝石魔術を使うわけでもなし、さすがにそれがどれかは分からなかったのだ。
凪子も指示してからその事実に気がついたか、具体的な指示に訂正してきた。クー・フーリンは言われた通りにサイドポケットに入っていた小皿と、鞄の底の方にあった青いケースを取り出して凪子に渡した。
凪子は手早くケースを開けて、緑と黄金の色の混じったような小さな石を取り出すと、小皿の上にのせてパチンと指をならした。直後、ボッ、と小さな破裂音をさせて石の上に青い炎が点り、見ているうちに石が熔けていった。
「左目閉じろ。ちっと熱いぞ」
「くどい」
いつの間にか凪子とルーの顔からはふざけた態度が消えていた。凪子は左手でルーの顔を押さえつけ、何本か針を口にくわえると、溶けたそれを針の先につけてルーの顔にたてた。
口に持っていた他の針も同様に、するすると素早くルーの顔にさしていく。等間隔でスパイラルに10本の針を刺し終えた凪子は、残りの一本で針の竜頭に再び溶けた石をつけ、その溶石で針を繋げた。
「…」
右目でその様子を見ていたルーだったが、やがて右目も閉じた。凪子は万一動かれたときにすぐ押さえつけられるように、ルーの上に跨がった。
「始めるぞ。いいと言うまで息を止めてろ」
ルーは凪子の言葉に黙ったまま、だが素直に息を止めた。
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