最近になって、マ○ベル映画を見ています。楽しいですね〜
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そわそわしながら待っていると、しばらくしてそろりそろりとエンが戻ってきました。ティカルが真っ先に駆け寄っていきます。
「ずっと心配そうだったよ空豚くん」
「ごめんな。空豚」
「ぴぃ!」
臣という人の言葉に、エンがにっこり笑って頭を撫でてきたので、ティカルも嬉しくなって大きな声で鳴きました。
「あなたの世界にも、人とは違う何かがいるんだってね」
「はい。今はほとんどいないらしいんですが…」
エンはみんなの輪の中に入って座り込み、話し始めました。
「俺の世界には、魔王という悪の親玉みたいなヤツがいて、悪事の全ては魔王が取り仕切っていたんだそうです。
二百年ほど前に滅ぼされたので、今はいません…。
でもそれなら世界が平和なのかというと、そうじゃない。山賊にも出会うし、凶悪な事件も起こってる。
聞いた話だと、魔王は悪意のよどみから生まれるそうです。滅ぼされてもまた人の悪意のよどみから魔王は生まれるんだって。俺は、それがいつなのか、見たいんです」
「それって…?」
唯一の女性が尋ねます。
「…魔王が生まれる瞬間を」
「不思議…。エンさんが言うと魔王が怖い人に思えないんだもの」
「そうですか?」
「うん。魔王が生まれたら、すぐ倒してやるぞー!って言ってるようには見えなかったわ」
ふふ、と笑いながら、「ね」と臣に同意を求めます。
「そうだね。オラ達に似てるのかも。煉鬼様やシロウくんは普通の人からしたらとっても怖い存在だけど、深く知っていた今では意味なく怖がることはないから」
「怖がられたら困るな。なんたって今は、その鬼の嫁だ」
臣は頬を染めて、煉鬼の膝をペチと叩きました。
ティカルは自分なりに考えてみて、もしかして魔王という人も、煉鬼のように悪い人ではなかったのかも、と思いました。
「納得するまで、見極めろ。
大事なことなんだろ?お前にとって」
煉鬼の言葉に、エンは顔を上げると大きく頷きます。
そしてふと、ティカルを見ると、そのお腹を両手で掴みました。
「ありがとう。行って来ます」
「ピ?」
エンは何を言っているのかしら?と思っていたら、ティカルの足元がぐにゃりとなりました。いつもの、あの吸い込まれる闇の沼です。わたわたしていると視界の端で、はじめにエンとやりあったトウジという青年がぱっと動きました。
「履物を忘れてるぞ!気をつけてな!」
「ありがとう!」
ヒュッと投げられた靴を片手で受けとって、エンが笑います。トウジも気の合う友人に向けるようにニヤっと笑いました。
皆もようやく、エンとティカルがどこかに行ってしまうのだと理解して、口々に「気をつけて」「また来てね」と言っています。それに大きな声で返して、エンはティカルの足元にできた闇の中に吸い込まれていったのでした。
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