スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

子豚な王子様13


ティカルがぽっかりと目をあけると、湯殿係の使用人がほっとした様子で自分を覗きこんでいるのがみえました。

「王様!ティカルが目を覚ましました!ありがとうございます」

そう彼がいうと、少し離れたところから「あぁ」と返事があります。視線をやると、もう湯殿からあがって服を着ている最中のプラムがそこにいました。

「あ、僕…」

「王様が湯船から引き上げてくださったんだよ?よくお礼を言いなさい」

彼も、もちろんティカルが王子だなんて知りません。しかしティカルは仕事を教えてくれる使用人仲間が、自分に敬語を使わないのは慣れていたので、素直に「はい」と言って起き上がりました。

「プラム王、助けていただきありがとうございました」

「・・・あぁ」

むしろ驚いたのはプラムです。ティカルを使用人にとして扱うようにしたのは自分ですが、こんなに何の抵抗もなく使用人から指図を受けているティカルを不思議そうに見ました。

プラムの視線を受けて、ティカルはもじもじと、何かを言いたそうに見返します。

「俺に何か用か」

「…!
あ、あの、戦いのことなんですが」

ティカルの冒頭の言葉でプラムは援軍のことを聞きたいのだなと、はじめに思いました。
もうすぐ、ティカルの国に援軍を送るのです。援軍と引き換えに連れてこられたのですから、気になるのもしかたないだろうと。

しかしティカルが続けたのは、援軍を送る日にちだとか、規模だとかの話ではありませんでした。

「た、戦いをやめることは出来ないですか?」

「それは、援軍を送るなということか?」

少し冷えた声が出ました。ティカルは必死に言葉を探して探して、どうにか「戦いになるなら援軍は欲しいです」と言います。
プラムはティカルが何を言いたいのかわかりませんでしたが、自分が何か言ってしまうと、ティカルはそちらに気を取られてしまうようでしたので、少し黙って聞いてみることにしました。
するとティカルは、子供のようにキラキラした目で言ったのです。

「お隣の国が、水に困らないようには出来ないですか?

そうしたら、お野菜も果物も実って、戦いもなくなると、思うんです」

「…はぁ」

プラムは思わずため息をつきました。ティカルが名案だという顔をするので、一瞬反応が遅れたほどでした。
返事をする元気もないプラムに、様子を伺っていた湯殿係の使用人がティカルの肩を叩きます。

「ティカル。戦いを仕掛けてきた国には、雨が降らないんでしょう?天の恵みは僕らにはどうしようもないよ」

ティカルが世間知らずのお坊っちゃんということは彼も知っていましたので、優しく諭すように言います。
プラムも心の中で同意して、これだから戦いに慣れていない国はと、がっかりしていました。

しかしそう言われたティカルはさらりと、「雨は降るよ」と言ったのです。

「…ではあの国は嘘をついているということか?」

ただの略奪のためだろうかと思い、プラムが尋ねると、ティカルは説明し始めました。

「ううん。あの国には確かに雨が降っていないんだと思う。
でも、僕の国とお隣の間には大きな山があって、そこにはよく雨雲がかかってるのを見るんだ。

僕の国にはその山から流れてくる川が国中に広がってるけど、向こうの国には今はないみたい。
だから雨が降っても、水が一気に流れてしまって、干からびちゃうんじゃないかなって思うんだ」

「ティ、カル…?」

使用人仲間が、びっくりした顔をしています。第一にプラムに敬語を使わずに話していることもありましたが、言っていることがまともだったこともびっくりだったのです。

同じようにプラムも驚いていました。

「今はないみたいってどういう意味だ」

ティカルは少し興奮しているのか、小さく「ブヒ」と鼻を鳴らしました。

「古い地図と新しい地図を見比べてみたら、昔はあった川や湖がなくなってるの。
お城の横に、大きな川を作ったらからだと思う」

「そうか…。大きな川は大量の水がいるからな。それに流れも速い。

その地図は持ってきていないのか?」

そういうとティカルは見る見る内にシュンとしてしまいました。

「あの…、写したのがあったんだけど…、
ちょっと、いろいろあって、破れ、ちゃって…」

ティカルの脳裏に、あの会議の日が思い出されます。ティカルは我を忘れたあの時に、大臣だけではなく、大事に丸めて持っていた地図までも、ボロボロにしてしまっていたのです。

そうです。ティカルがプラムに話したことは、元々、あの会議の日に、父王に話したかった「戦いを避けることができるかもしれない方法」だったのでした。

プラムはじっとティカルを見つめました。
ティカルも、こんなふうに自分の意見を長くお話しすることはありませんでしたから、ドキドキしながらプラムを見ます。
使用人仲間は、途中から話が難しくなって混乱した顔をしていました。

しばらく考えていたプラムが静かにティカルに言います。

「大体でいい。その地図を描けるか」

「…!

ブヒうん!大丈夫、覚えてるよ!」

鼻が鳴ってしまうのと、「うん」が同時になってしまいましたが、プラムは少しも気にした様子はなく、「ではあとで俺の部屋に来い」とティカルを誘ったのでした。



11/9〜11/23


トントン子様
→お返事が遅れてすみませんでした。全部のお話を、それも繰り返し読んでくださってありがとうございます!とても幸せです〜。
そして無事に本日、番外編も完結しました。お時間があるときにでも是非よろしくお願いします。


毒虫の姫君を読んで、目が、目がぁぁあ!〜」様
→大佐!ティッシュどうぞぉお〜!!しかし書いた者としては、嬉しいお言葉です。読んでいただきありがとうございました!



認めるフリして認めないとは......〜」様
→ユーヤの言動は、確かに冷静さを欠いていましたね。無事に完結しましたので、あぁちょっと暴走ぎみの人なんだなぁと温かい目で見ていただけると嬉しいです。御感想ありがとうございました!



初めて孕の小説を読んだときナニコレ…怖っ(-"-;)と思って〜」様
→あぁどうぞ!ティッシュどうぞ!!お気にいってくださりとても嬉しいです。孕ページの一番上が毒虫なので、引くよなぁとは思っているんですが、そこを踏まえてチャレンジしてくださり本当に感謝しています。応援ありがとうございます〜

お兄さん話 完結〜


結婚式はどこいった?という状態ですが、チュヤとお兄さんのお話完結しました。
お読みくださったかた、ありがとうございます!!

ガインとロウの出番が少なかったのが残念!

子豚な王子様12



*****

ティカルは、「ちょっと遠い地域から来て社会見学中の金持ちの息子」だと、使用人の皆には浸透していました。
隣の国の王子だなんて、存在が遠すぎて考えもしないようです。
また、ティカルの鼻も、「遠いところではそんなビョーキもあるんだなぁ。大変だったな」と特に気にせずに受け入れてくれました。

ある日は庭木の剪定、ある日は厨房でおいもの皮むき、またある時は廊下を拭いたり窓を磨いたり、王子をしていたら一生知らずにいたような日々。
手の皮が剥けてヒリヒリしましたが、ティカルは子豚の姿から鼻以外は人間に戻れたときのように、新鮮な気持ちで毎日を送っていました。


プラムの国にきてしばらく経った日のことです。ティカルはツツムにあるお願いをしました。

「ねぇツツム。お願いがあるんだ。

プラム王の一番近くに行ける仕事って、ないかな?」


ツツムは一瞬、とうとう使用人の仕事が嫌になって、王様に相談したくなったのかと思いましたが、ティカルの瞳には憂欝そうな光はありません。
不思議に思いながらも、ツツムはティカルの願いを叶えてあげようと思いました。

「いい仕事があるぜ。今度紹介してやるよ」

そして数日後にツツムはあるところにティカルを連れて行きました。

扉をあけた瞬間、ティカルの顔に温かい空気があたりました。ビクっと肩が揺れましたが、ツツムは気付かずに自信満々な様子でティカルを手招きます。

「王の背中を流す仕事だ。ぴったりだろ?」

そう、ツツムが紹介してくれた仕事は、湯殿で王の体を洗う仕事だったのです。王は機嫌がいいときは使用人とも話をする人だと聞いていたので、まさにうってつけと思ったのでした。

しかし、ティカルのもっとも苦手なものがそこにありました。
そう、お風呂です。子豚の姿のときにファファに連れていかれて溺れてからというもの、ティカルは湯船とそこから立ち昇る湯気が苦手でした。

本当は近付くのも怖いのですが、ツツムがせっかく紹介してくれた仕事です。それにプラムとどうしても話したいことがあるティカルはごくっと唾を飲み込んで湯殿に足を踏み入れました。

もわもわと湯気があたりを覆っています。息が苦しい気がして、鼻を隠している布を時々もちあげて呼吸しなければ倒れてしまいそうです。
ツツムとバトンタッチした湯殿の使用人は少し心配そうにしていましたが、そうしているうちにプラムが湯殿にやってきてしまいました。

「…おまえ」

プラムは湯気の中でも、ティカルのことが分かったようです。しばらく見つめていましたが、諦めたように決められた椅子に座りました。
ティカルは、自分から図々しく話しかけるのはいけないと思って、プラムの逞しい体の右側を、もうひとりの使用人の真似をして丁寧に洗います。

「…」

プラムも、ティカルがきっと何か訴えたくてここに来たのだろうと察していましたが、湯船に浸かるまでは黙って様子をみることにしました。ティカルの洗い方がおっかなびっくりすぎて、くすぐったくて、口を開くと笑ってしまいそうになるのを堪えているという理由もありましたが。

息苦しさを我慢して、ようやく洗い終わった後は、しばらくプラムには座っていてもらって、床を掃除します。
片付けそこなった石鹸や、残った泡で滑ったりしたら大変だからです。

「ティカル、そこの石鹸を取ってください」

「石鹸…、はい、どうぞ!」 

このとき、洗い終わった達成感でティカルは大変、気が緩んでいました。だから石鹸を拾い、頭を勢いよくあげてしまったのです。

「う…っ」

クラリと視界が揺れました。なんとティカルは湯気だけで湯あたりのような状態になっていたのです。
しっかりしなきゃ、とティカルは石鹸を持った片手を持ち上げました。しかしティカルが石鹸を差し出していた相手は使用人仲間ではなく、広々とした湯船のほう。どっちがどっちかもわからなくなっていたのです。

湯船に近付いたことで、余計に熱い湯気に当てられてしまい、ティカルはなんとそのまま、湯船に落ちてしまいました。

「ティカル!ティカル!」

使用人仲間は、しばらくポカンとしていましたが、ティカルがなかなか顔をあげないので、慌てて必死に呼びかけます。助けたいのは山々ですが、しかしこの湯船は、王族以外は掃除の時しか入ってはいけないのです。

「・・・」

おろおろする使用人の横で、プラムが仕方なさそうに立ち上がり、湯船に足を入れました。ザブザブとお湯を掻きわけ、うつ伏せのティカルの胴体に腕を回し、引きあげてあげます。

なんとなくそのとき、プラムはひどく懐かしい気持ちに襲われたのでした。


11/1〜11/9


獣王シリーズさいこ〜♪←勝手に略してごめんなさい。〜」様
→シリーズで気に入ってくださりありがとうございます!ときどき読み返していただけるなんて嬉しいです!



マヤとイギュの話ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))〜」様
→実は猫の日に犬の日が11月1日だと知って、「よし覚えてたら書こう」と考えていたんです。楽しんでもらえて嬉しいです。つづきは考えついたら書きますが、期待せずに待って頂けると助かります!



いつも楽しく拝見しています!日記連載のティカル王子が〜」様
→可哀想ですよね〜。どうしましょう。ティカルは前向きに頑張れる子なので、引き続き応援していただけると嬉しいです!



サプライズというよりゎはめられた、て感じですね(*´艸`*)w」様 
→読み返してみると、あらほんとだわ(笑)ってなりました。殿下の絡め手一本ですね。



ティカル君の不幸はまだ続くのですか?もしかしたらプラム王に〜」様
→おお、豚の丸焼きはさすがに考えていませんでした。それにしちゃうと終わっちゃうので、たぶんないと思います。でもバッドエンドとしては面白いですね!



どれもこれも面白くて読みやすくて大好きです!特に竜の話は〜」様
→お褒め頂きありがとうございます!翼竜と水竜のお話ですね。楽しんでいただけて嬉しいです!
前の記事へ 次の記事へ
アーカイブ
カレンダー
<< 2014年11月 >>
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30
プロフィール