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暴漢らに襲われ、そして煉鬼に助けられてから3日ほど経過した。
昨日までは蹴られたところが熱を持って臣はウンウン唸っていたのだが、今朝はずいぶんよくなったように思う。
「煉鬼さま、もうオラ大丈夫ですから…」
身を起こしてそういうと、煉鬼は少々荒っぽく臣を再び布団に押し込めた。
「うるせぇ。てめぇは大人しくしてろ」
今は人間の姿をしている鬼、煉鬼はまた臣が何か言う前にふすまを開いて出て行く。
お手玉をして遊んでいたタミは、うふふっと笑った。
「煉鬼おにいちゃん、もっとやさしく言ってくれたらいいのにねぇ」
煉鬼が臣のけがを心配して、彼のかわりに宿の仕事を請け負ってくれているのだ。「お前が治らなきゃ、旅が再開できねぇだろうが」と呆れたように何度も言わているのだが、言われれば言われるほど、なんだかとてもむず痒い気のする臣である。
「タミはあの時のこと、覚えてるかい?」
神社で男たちから救ってくれた一切を、臣はよく覚えていない。痛みで意識がほとんどなかったのだ。
どんなようすだったのだろう。もしかしてタミは鬼の姿になった煉鬼を見てしまったのかなと思いながら聞くと、タミはふるふると首を横に振った。
「離れてろって言われたから、たてものの中に入ってたの。
そうしたら誰かが「もう出ていいぞ」って言ったから、おそとに出たの。
もう煉鬼おにいちゃんと、おにいちゃんしかいなかったよ」
「ふぅん…、え?誰かって?」
タミも自分で言っていて「あれ?」と言う顔をしている。兄妹そろってきょとんとしていると、ふいに窓がすっと開いた。
「邪魔するぞ」
「「わっ」」
同じように驚くふたりに、突然現れた男はもともと細いらしい目をさらに細める。
ここは2階だ。煉鬼なら軽々だが普通の人間ではなかなか出来ない登場の仕方である。
「あ、貴方は?」
無意識のうちに妹を背中にかばいながら、部屋についと入ってきた男に尋ねた。着流しの上に黄色の薄衣をはおった男は、慌てて身を起こす臣に近づく。怖い雰囲気は感じないけれど、煉鬼を呼んだ方がいいだろうか、どうしようかとおろおろする臣に、男は手をかざすと体に触れずにスーっと動かした。
「なるほど。鬼の番いか」
「!!」
どうしてそのことを?とびっくりした臣の耳にドダダダと階段を駆け上がる音が届く。
「てめぇ俺の嫁に何しやがった!!!」
髪を逆立てんばかりの勢いでやってきのは煉鬼。
ほっとする臣を挟んだ向かいで、細い眼の男はクスクスと笑う。
「そこな娘の願いを叶えたまでよ」
「あぁん!?」
ガラの悪い声を出す煉鬼に、ちょっと騒ぎすぎではと臣がヒヤヒヤしていると、タミが「あっ」と声をあげた。
「出ていいぞって言ったおにいちゃんの声だ!」
え?と臣も煉鬼もタミを振り返る。タミはそうだよね!とキラキラした目で男を見上げ、男はにっこりと笑いながら「そうぞ」と返す。
「ど、どういう…?願いって?」
「どうかおにいちゃんが助かりますようにとな。その娘が我が社(やしろ)で祈っておったのよ」
そこで煉鬼がぐいと臣を抱きよせながら、低く言った。
「お前、狐だな」
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し、し、新キャラを出してしまったぉ!!