子豚な王子様45

お久しぶりです。寒くなってきましたね!

*****


ティカルは必死に走っていました。
誰かが自分を追いかけているとわかった途端に逃げたので、あまり相手をみていなかったティカルですが、一瞬だけキラリと光るものを見た気がしました。牙のようです。
そして「おいしそう」という呟きは間違いなく聞こえたのでした。

今は後ろのほうからは何も聞こえません。「はっはっ」という荒い息遣いと四本足の足音だけです。
食べられるのだけは困るので必死に走るのですが、足の長さが違うのか、ティカルが四本足での全力疾走に慣れていないせいか、あっという間に追いつかれそうになりました。

もう今にもおしりにガブリといかれそうです。

「ピギー!」

心の中では「やめてー!」と言ったのですが、残念ながら子豚の鳴き声でした。
しかし、それきり相手の気配が後ろからふっと消えたのです。

「ブヒっ?」

おかしな様子に振り向こうとして、それまでの勢いが殺せずに転んでしまったティカルは、ひっくり返ったまま後ろを見ました。
すると後ろには、茶色の子犬を抱えた、大きな男の人が立っていたのです。

「裸のウリボウか?珍しいな」

「ととさま!おいしそうです!」

またもおいしそうと言われて、すぐに逃げなくては思うのですが、しゃべってる!というびっくりのほうが勝ってしまい、ティカルはぼんやりと大きな男の人と、子犬を見ていました。

「あーでも、身が少なそうだぞ?」

その言葉にようやく我に返って、ティカルは咄嗟に「食べないで!」と一鳴きしてみました。犬の言葉がわかるのなら、子豚の言葉もわかるかもと思ったのです。
しかし残念ながら、何か訴えているとはわかるようですが、ティカルの言葉までは伝わっていないようでした。

「普通の獣ではなさそうだな
あぁ、トウジとシロウが相手してるヤツの連れか」

トウジトシロウというのが何なのかやはりわかりませんでしたが、相手しているヤツというのがエンだということは察せられました。コクコクと頷いてみせます。
男の人は、ティカルを興味深そうに見て、「ふーん」と言うとティカルの首根っこをひょいと掴みあげました。たいていここを持たれるとグエっとなるのですが、それを感じないくらいに大きな手なので、指がぐるりと首をまわってくっついているのではとティカルは思いました。

「邪魔をすると怒るだろうが、まぁいいか」

そういって男の人はターンと地を蹴って飛び上がりました。唐突にそのへんの木よりも高く飛び上がったので、ティカルはびっくりして声も出ません。反対の腕に抱えられている子犬はというと、
「たかーい!ととさますごーい!」と言って楽しそうです。

そしてほんのひとっ跳びでさっきティカルが追いかけられ始めた場所に戻ってきました。
高く飛んだ衝撃でフラフラしながらも、ティカルはエンを探しますが、ぱっと見だれもいません。

「どっちか、やられちまったか?」

男の人の言葉にぎょっとしていると、川の反対側から「おーい」と声が聞こえました。
暗かったのでよく見えませんが、エンです。そして隣にはさきほどの青年がいました。耳の生えた人もいます。
もっと殺伐としているかと思ったのですが、そうではないようです。
むしろ互いに肩を貸し合って、仲が良さそうです。

ティカルと子犬を抱えている男の人も不思議そうに「なんだありゃあ」と言いながら、膝をちょっと曲げました。

はっとしても遅く、そしてどうしようもないのですが、ティカルはまたもひとっ跳びを食らってしまったのでした。


*****

メールお返事29/11/05

りり様
→はじめまして!繰り返し読んでいただいて嬉しいです。お褒め頂き本当にありがとうございます!

ライオンのオスの番、素晴らしいですね!恥ずかしながら知りませんで、検索しちゃいました。すごく仲良さそうで幸せな気持ちになりました〜。たまらん〜!教えてくれてありがとうございました。

ジクと豆の木の大男さんと竪琴の妖精コトの話は、いままで考えたことがなかったので、思いついたら書くかもしれないですが、期待しないでいただけると嬉しいです。
またのお越しをお待ちしております!

子豚な王子様44



「うわぁっ」

「ブヒ!」

ドスンと尻餅をついて、エンは「イテテ」と腰を摩り、お腹をつかまれていた手を離されたティカルもコロコロと草の上を転がりました。

「すまん空豚。おぉ、今度は濡れなかったぞ」

隣を見ると大きな川が流れていました。なんとなくうれしくなるエンです。
ティカルもようやく起き上がって、エンに近づきました。

「ここはどこだろうなぁ」

無意識に魔の雰囲気とやらを感じようとしているのでしょうか。エンは遠くを眺めてじっとしています。今はそっとしておいてあげようかしらと、ティカルは近くを散策してみることにしました。

キョロキョロしてみますが、民家は近くにないようです。お互いに見える範囲なら大丈夫だろうと思った矢先でした。
エンの目の前に、風のように、見たことのない服を着た青年が現れたのです。

「何者だ」

「え!俺はただの旅人…っ」

「人なわけがあるか。何しにきたかしらないが、すぐに立ち去れ」

どこから出てきたのだろうと驚くエンを他所に、青年は人差し指と中指をそろえて、唇にあてると何かをボソリと呟きました。

するとまたも風のように青年の横に男の人が現れたではありませんか。こちらもヒラヒラした謎の服を着ています。さらに狐のような黄色い大きな尖った耳が頭についていました。

「いや、悪いことをしようってわけじゃ…ッ」

「ピギー!!!」

「!?
空豚?!」

ハっと辺りを見回すと、必死に駆けていくピンク色の塊と、その後ろを追う、茶色の塊が見えました。しかし追いかけようとしましたが、目の前の二人が通せんぼするのです。

「仲間なんだ!助けに行かせてくれ!!」


*****

当サイトは日本語がNoBorderです(笑)

子豚な王子様43



「・・・ふう」

どんよりと重い目頭を押さえて、プラムは無意識にため息をつきました。

「休憩なさいますか」

側近のオクがすぐに気づき、お茶の手配をさせます。
ティカルがいなくなってしまった元の世界でも、数ヶ月の時が流れていました。
ティカルの首飾りを作った魔法使いに会い、ティカルがおそらく生きているということに、とても安堵したプラムでしたが、それでも確証のある話ではありませんし、こちらに帰ってくる方法もまだわかっていません。
ですのでプラムは王としての仕事を続けるかたわらで、夜の女王のことや呪いだとかの古い文献を読んだり、詳しい人に話をきいたりしていたのでした。

「なかなか、手がかりはありませんね」

「あぁ、ニータの力は魔の者特有の術なのかもしれないな…」

そうなると魔の者しかティカルを連れ戻せないのかもしれません。しかしそれは先代の王が、強い軍隊と引き換えに夜の女王と結婚すると約束したことと同じことを繰り返すということです。
大きな見返りを求められた時にどうするか。そもそも魔の者がどこにいるかもわからない状況ではあまり有効な手立てではありませんでした。

焦る気持ちを抑えるように、ゆっくりとお茶を飲んだプラムは、仕事に戻ろうと腰を上げました。

「王、手紙が届いています」

「あぁ、先に読む」

まだ目がしょぼしょぼしますが、政務の書類よりは手紙の字のほうが大きい気がしたので手紙を読むことにしました。いままで座っていたソファにまた座りなおし、丁寧に封を切ります。

いくつか手紙の中に、ファファからの手紙が入っていました。ティカルの弟である彼は、魔法使いのおじいさんと一緒に国に帰りましたが、彼なりにティカルを助けたいと思っているらしく、定期的に手紙を送ってくるのです。
今回の手紙は、なんとティカルに子豚になる呪いをかけた張本人、森の奥でひっそりと薬を作っている女の人に頼み込んで、占いをしてもらったとの内容でした。

この世界にはいないティカルの未来を占うのはむずかしかったため、プラムのことを占ってもらったそうです。

「田舎が吉、か・・・」

ぼそりと呟くと、あまり興味なさそうに次の手紙に手をつけました。呪いで散々な目にあっている彼ですが、実のところ占いはあまり信じていなかったのです。
しかし次の手紙を読んで、プラムは「むむ」と唸りました。

その手紙は、プラムの古い知り合いで、小さい頃に見聞を広めるために、しばらく滞在していた農家の人からでした。
大事な人を突然失って、失意の中でも気丈にがんばっていると噂の王様を心配して、「たまには遊びにおいで」と手紙をくれたのです。そしてその人の家はとても田舎なのでした。

手紙を持つ手が、じんと暖かくなったことで、いままで手が冷たかったのだとプラムは気づき、苦笑しました。

「王様?」

手紙を読んでクスクス笑っているプラムを、不思議そうにオクが見ます。子豚を神様の使い、もしくは天使として崇める信仰の彼も、率先してティカルを呼び戻す策を手伝ってくれています。つまり二人ともずっと働き詰めでした。

「行ってみるか」


*****

子豚な王子様42


「空豚、ちょっと歩いてみるか?」

「ぴい・・・」

ハルとカイの家を出て、しばらく歩いた頃、夕焼けを見ながらエンがそういいました。
これまでの経験から、ティカルの足元が違う世界の入り口になっているようだと気づいたのです。

ティカルにもエンのその考えがなんとなくわかって、恐る恐る歩いてみます。
そのまま近くにある村に向かって歩いてみましたが、違う世界に行くかもしれないと思いながら歩くと不思議と何も起こらないのでした。

「何も起こらないな…」

「ぶひぃ」

なんだか自分のせいなような気がしてしょんぼりしてしまうティカルです。
耳が垂れてしまったのを見て、エンは吹き出してクスクス笑います。

「しかたない。ヲーンとかいう虫に気をつけながら歩こう」

エンとティカルはキョロキョロしながら歩いたのでした。

***


「しまったなぁ。本当に何も起こらずに夜になってしまったぞ」

夜空を見上げて、エンは頭を掻きました。
今のところヲーンは出てきていませんが、さすがに野宿をするのは怖すぎます。村はまだ先のようです。

焦りそうになる心を落ち着かせようとエンは大きく息を吸って、「あれ?」という顔をしました。不思議そうな顔をするエンを見上げて、ティカルは首を傾げます。

しばらく考え込んでいたエンは、ようやく合点がいった顔をして「夜が違うんだなぁ」と言いました。

「ピぎ?」

「どうやらこの世界には、魔王という存在自体がない。

俺は魔王はいなくても魔族のいる世界で生まれたから、夜になると魔の雰囲気を無意識に感じていたんだろうな」

なんだか変な感じだ。と呟くエンの横で、ティカルは「夜」「魔」と聞いて、夜の女王ニータのことを思い出していました。そして自然とプラムのことも。

「ぴぃ…」

プラムはどうしているのでしょう。元気にしているのでしょうか?
もう夜が嫌いでなくなっているといいなと、ティカルは思いました。


そのときです。あのブニっとした感触がティカルの足を襲いました。

「ブヒー!!」

「うぉ!来たか!」

三回目ともなると、エンは無理にティカルを引っ張ろうとせず、ティカルのお腹をしっかり握ってはぐれないようにします。
沼のようになった地面に吸い込まれながら、やはり本能的に小さな4本の足をジタバタさせながら、ティカルはぼんやり思いました。

プラムのことを考えると違う世界にいくのかな?
少しずつ、近づいているといいな。と。


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