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「おー!ホンマにここの風呂からの月は格別じゃのお!!」
「人がはけるのを待った甲斐がありましねぇアニキ!」
「さぁさぁ月見風呂と洒落込みましょう!」
ガヤガヤと、湯けむりの向こうから現れた気配に、臣は飛び上がって煉鬼に抱きついた。
「れんッ、煉鬼さま!人が…!」
「ん?あぁ、そうだな。
でもここなら見えねぇだろ?」
臣は絶句した。たしかに煉鬼の言った『ここ』は露天風呂の真ん中にデンと置かれている岩の陰になっているため、乱入者からは死角になっている。
だが人が近くにいる状態は変わらないのだ。
「お、お願い…。煉鬼さま」
構わず腰を落とさせようとする手に必死に縋りついて、フルフルと横に首を振る。
その潤んだ目が、どれだけ雄を刺激するのか臣はさっぱりわかっていなかった。
「…わりぃな」
「あっイヤ…ッん、んンーッ!!」
腰を引き寄せられたと思った瞬間、膝を掬われ、待ち構えていた煉鬼の一物の上に落とされる。
慌てて顔を煉鬼の肩に埋めて、声を殺した。
「ん?何か聞こえなかったか?」
「いや?それより飲め飲め!」
はっはっと短く息を切らし、臣はぶるぶる震えながら煉鬼を見る。
「し、信じられない…っ」
「我慢できねぇんだよ。噛みついたって構わねぇから」
そういう問題ではないのだと言おうとしても、出入りし始めたそれに翻弄されて、臣はまた鬼の肩に唇を押しつけた。
「ぁっ…ん、ンぁ…ッ」
しかしどんなに声を忍ばせようとしても、元々ギリギリまで押し上げられていた体は制御できず、臣は己の指を噛む。
「こら、噛むな」
「だって…!声が」
「そういうときはこうするんだったろうが」
震える手を握られて、ハクハクと喘ぐ臣の口を鬼が塞ぐ。
不思議と苦しくはなく、臣も気を紛らわせるように自分から舌を伸ばした。
「ん、っん、…ぅふ、ッ…んぅ」
ちゃぷちゃぷという水の音と、岩の向こうで客たちが談笑する声があまりに対照的で、臣はぐらぐらしそうになる。
「そろそろイくぞ」
「ぁ…、煉鬼さ、ま」
まさか本当に最後まですることになろうとは、と臣は覚悟するように煉鬼に抱きつく力を強くした。
そしていよいよ、という時だった。
「おぉ、こっち側も広いなぁ!」
客の一人が、ひょいとこちらを覗きこんだのだ。
「ひ、ッ」
バチっと目が合う。臣の全身の筋肉がぎゅっと竦み上がった。もちろん秘所も同様で、煉鬼が低く呻く。
「うっ…」
「アッあ、いや、…いやぁあ〜っ…」
中に放たれた衝撃と、自身の限界も相まって、臣もほぼ同時に、男の見ている前で煉鬼の胸に放った。
「あぁあ、あぁっ」
見られてしまった見られてしまったと、同じ言葉がぐるぐると回る。
顔を手で覆って泣きだした臣に対し、煉鬼は平然としていた。
「臣。なぁ、臣。顔をあげろ」
「いや…いやです…。こんな、…こんな。
嫌って言ったのに」
「大丈夫だ。ほら、」
その言葉に促されたかのように、客の男の声が臣の耳に届く。
「アニキアニキ!こっちもなかなか広くていい景色ですよ!」
「こりゃいいのお!こっちで飲みなおそうかい」
煉鬼と臣を見事に無視して、客の男たちはわいわいと飲み始めた。
「え…、…?」
きょとんとそちらを見る臣に、煉鬼が胸を張って答える。
「あいつらには俺らの姿も見えなけりゃ声も聞こえねぇ。そういうまじないをかけたからな。端からお前を他人に見せるつもりなんてねぇよ」
煉鬼を茫然と見て、臣はやがてきゅっと唇を噛んだ。
「ひどい…。
オラは、見られるかもって怖くって…嫌だって何度も言ったのに」
「だから見えねぇって…」
「煉鬼様は知ってても!オラは知らなかった!!」
心の臓がつぶれるのではというくらい緊張したのだ。そして見られたと思ったときの絶望感と恐怖。
以前、妹のタミが寝ていた横で事に及んだこととわけが違う。臣は初めて、煉鬼に憤っていた。
「……抜いてください。煉鬼さま」
「なんだよ…。」
煉鬼も、名を呼ばれて舞い上がっていたとはいえ、少しやりすぎたとは思っている。しかしどうして臣がここまで怒るのかわからず、今まで浮上していた機嫌が急降下した。
ず、とまだ少し熱い煉鬼の一物が抜けていく。
腕をつっぱって煉鬼と距離をおこうとする臣に、いよいよイライラした声を出す。
「離れんな。俺に触ってねぇと姿は隠せねぇ」
「・・・」
嫌々、と顔に書かれているようだ。煉鬼は舌打ちしたい気分になりながら、強がって自力で立とうとする臣を半ば無理やり抱き上げた。
「着物のところまでだ。大人しくしろ」
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