今週の更新はお休みします〜
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ファファは大変困っていました。
「ファファ〜、うえぇ、ブヒッ、えぇ〜ん」
「兄さんとにかく落ち着いてよ。ね?
何があったのか話してくれないと僕もさすがにわかんないよ」
いそいそと出かけていったティカルが、それほど時間もたたないうちにやってきて、いきなり大泣きし始めたのです。
ファファは根気強くティカルを慰めました。頼られる、ということがあまりなかった彼は、実はちょっと嬉しかったりもしていました。
「どうしたのさ。プラム王のところに行ったの?」
少し落ち着いたころにそう尋ねると、またティカルの目がうるうるしたので、プラムのところで何かあったのだろうなと推察できました。
もしかして、昼間さんざんティカルが心配していたように、朝の挨拶がなかったから怒っていたのでしょうか。
しかしこの泣き方はそうは見えません。
そしてようやくティカルの涙が止まったころでした。
「ぼ、く、プラムのことが好きなんだ…っ」
「・・・・・・うん、」
見ていればわかるよと言いたかったファファですが、大告白をしたような顔をするティカルを前に、さすがにその言葉を飲み込みました。
「でも、プラムは…、
さっき、プラムの部屋で、
プラムぅ…」
感情が高ぶってうまく話せないティカルに、ファファはゆっくり話しかけます。
「落ち着いて兄さん。プラム王の部屋で何があったの?」
「…女の人と、キスしてたんだ。その女の人が、そう遠くない未来に夫婦になるんだって言ってた…」
ぽつりぽつりと目を伏せながら話したティカルを、ファファは驚いた目で見つめました。
「許嫁がいたってこと?昨日、あんなに兄さんのことを受け入れるとか、心の美しさを知ってるとか言いながら?
…っ許せない!」
ファファはかっと頭に血が上りました。ファファだって、かっこいいプラムが子供のころから大好きでしたが、昨日の二人の親密さを見せつけられて、自分に入る余地はないと諦めたのです。ティカルと仲良くやるのはかまわないと思いましたが、他の女の人とよろしくやっているというのであれば、話は違います。
「直接聞いてくる!」
若い男女がキスだけで終わるはずがないとファファはわかっていましたが、かまうものかと思いました。ティカルはまだそこまで性知識がないので考えが至っていないようです。
そのときでした。
「やめておきなさい」
ティカルとファファは同時に声がしたほうを見ました。するといつの間に来たのでしょうか、王の側近オクがいたのです。
「どいてよ。僕はプラム王に話があるんだ」
カッカと怒っているファファに対して、オクは冷静でした。
「どきません。貴方まで呪われてしまいますよ」
「…呪われる?」
呪いという言葉に反応したのはティカルでした。涙にぬれた目を見て、オクは少し申し訳なさそうな顔をしましたが、「いざとなったら王に話す許可をもらっていたのでお話ししましょう」と言いました。
「プラム様のお父様がまだ王をしていたころの話です。
この国は作物が育ちにくいので、宝石や木炭などの資源を売って他国から食糧を買っていました。
しかしこのまま交易を続けていたら、いつかそれらが尽きてしまったときに国が滅びてしまうことに気付いたのです。
そうなると他の国に攻めていくしかありませんが、当時この国には強い軍隊がありませんでした。
そんなときに王の前に現れたのが、ニータ様です。
ニータ様は、夜の女王と呼ばれています。強い魔力を持っていて、闇を支配しており暗い時間ならばどんなことも把握できます。
毎夜悩む王のところにやってきた夜の女王は、強い軍隊を作るための指導者を提供しようと持ちかけました。
しかし女王はそのかわり、結婚がしたいと言いました。魔力を持っていても、いつもひとりで退屈だからと。
前王は悩みましたが、彼のお妃様はその数年前に亡くなっていましたし、結婚は今すぐでなくていいとニータ様が言うので、自分の身ひとつで済むのならと、その提案を了承したのです。そしてこの国は女王がくれた指導者により軍隊を強化し、戦闘路線に切り替えました。
ところが知っての通り、前王は病で亡くなってしまいました。
ニータ様は約束を違えることは許さないとおっしゃって、唯一の子であるプラム様を指名したのです。
そして現在は、王の仕事が落ち着くまで、結婚を待たせている状態なのです」
「じゃあ、昨日のカーテンって…」
ファファがはっと気付いたようにいうと、オクは頷きました。昨夜、詳しく言えば夕方ですが、泣くティカルを優しく抱きしめるプラムのために、この側近はささっとカーテンを引いたのでした。
つまりあれは、夜の女王ニータに見せないためだったのです。
「はい。しかしプラム様はニータ様に、夜はカーテンを閉めないと約束していらっしゃるので、今夜はそのことを聞くために予告なくやって来たのでしょう」
「あの…」
それまで黙って聞いていたティカルがおずおずとオクに話しかけました。
はい、と返事をする彼に、ティカルは勇気を出して尋ねます。
「プラムは、その、ニータという人のことを、愛しているの?」
「…すみません。それは私には答えられません。ニータ様は夜しか活動できませんから、明るいうちであれば、プラム様の本心が聞けるはずです」
「わかりました…。ありがとう」
ティカルは困った顔で頷きました。
「ファファ王子も、ニータ様を怒らせることのないよう気をつけなさい。あの方が怒ると日の光が浴びれなくなると言われています」
じろっと睨まれて、しぶしぶファファも「わかったよ」と返事しました。
ティカルはそっと窓の外を見ました。もともと暗い部屋は嫌いなのですが、夜空が怖いと思ったのは初めてでした。
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