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鬼と私の、エロ道中23

*****


初めは煉鬼が臣の手を引いて露天風呂への廊下を歩いていたが、いつしかそれが早足になり、そしてとうとう今は煉鬼が臣を姫抱きにして後少しの道のりを疾走していた。
不思議と足音はしないので、宙に浮くまじないをかけているのか音を消しているのかどちらかだろうと臣は思う。
やっぱり気を使ってくれているのだなとくすぐったい気持になった。

到着する。久しぶりの露天風呂は無人だった。
脱衣所を通り過ぎ、煉鬼は臣を抱えたまま湯船へ向かう。

「あっ、煉鬼さま。着物…」

「あとでどうにかする」

控えめに臣が申し出るが、煉鬼は答えながらもうすでにザブンと着衣のまま浸かってしまった。
本当はいけないことなのだけど、今日だけはと臣もそれ以上言わずに、煉鬼が促すまま腿をまたぐ。

「んっ…」

「勃ってるな」

袷(あわせ)を開きながら、煉鬼がベロリと胸を舐めた。恥ずかしそうに、臣は煉鬼の頭を掻き抱く。
裾(すそ)のほうはゆらゆらと浮いて、尻の後ろに尾びれのように広がっている。そして水面の下ではほとんど丸出しの尻が煉鬼に揉みしだかれていた。

「ぁあっ、煉鬼さま。お湯が…」

「待ってろ。すぐに何も考えられなくしてやる」

「れん鬼、さ…ぁあっ、れん、っさま」

言葉を忘れたように臣は鬼の名前を呼んだ。煉鬼は舌舐めずりをしながら片手で尻たぶを引き上げ、片手で穴を掻きまわす。
しばらくすると、いよいよ我慢できなくなりヘタリと煉鬼の腿の上に座り込む青年の顎を鬼が甘く噛んだ。

「自分で挿れてみるか?」

「え…?あ、そんな」

そう恥じらいながらも、鬼の助けを借りて落ちた腰をどうにか持ち上げる。
口をもごもごするので、煉鬼が口付けてやると臣は嬉しそうに答えてきた。

指が出て行ったそこに、凶暴な形のそれが宛がわれる。

「んぁ…あっ、あぁ…ッれん…、あぁア!」

すっかり腰が立たなくなってしまっているのか、もしくは自ら受け入れたのか、煉鬼が支えてやっていた腕の力を緩めると、あっというまに飲みこんでしまった。

「あっぁあ、あっ…ッ」

カクカクと腰が揺れている。思わず煉鬼は自分の額を触ってみたが、やはりそこから角は生えていなかった。
角を生やしていれば鬼の気に当てられて人間は正気を失ってしまうが、今日の臣はそうではないのだ。

何か腰にぐっと来るものがあって、煉鬼は細い背を思わず抱きしめた。

「ひぁっ、煉鬼、さまっ、あぅっ、も、いやぁ…」

ぐっしょりと濡れた煉鬼の着物を、臣の震える手がしっかと掴んでくる。痛いほどの快感に、臣はほろほろと泣いた。

「あぁ、すぐイかせてやる」

臣の足を担ぐと、煉鬼は風呂が波が立つほどに腰を打ちつけはじめた。

「あぁんっ…煉、ッき…、あァ、あっ」

「イキな…臣…」

耳介に直接吹きこまれ、ビクビクと体をすくませた臣は、ぐったりと煉鬼に凭れた。
極めた臣と同じくして、彼の中に放った煉鬼も、少し息を弾ませながら浮かせていた腰を落ち着ける。

「おい、おい…大丈夫か」

「ん…っ、熱いです…煉鬼さま」

逆上せる一歩手前らしい。頭をふらつかせる臣を急に動かさないよう注意して、煉鬼は風呂の縁に座らせた。
張り付く着物も脱がせながら、すっかり蹴られた痕も消えた肌を眺める。
臣は恥ずかしそうに膝を摺りあわせた。

「そ、な…見ないで、」

まったく、だからそういう風情がそそるのだと、煉鬼は心中で苦笑し、持ち主同様くったりしているそれをぺろりと舐める。

「んっ、ん…」

きゅっと唇を噛むので、それを止めさせようと指を添えると、気を紛らわしたいのか、はむはむと噛んできた。

「……」

病み上がりだが、明日も明後日も自分が働くからまぁいいか、と煉鬼は考えて、今度は裸で臣に覆いかぶさった。


*****

(追記)サイトで、改めて更新することにしました。続きはリンクの「薇仕掛け」のNovel〜孕〜からご覧ください。

鬼と私の、エロ道中22

*****


「お前、狐だな」

そう言われた男は、別段驚いた様子もなく、逆に「今気付いたのか」と笑いだしそうな気配だった。
こいつとは馬が合わない気がすると、煉鬼がイライラしていると、隣の臣が小さく「あれ?」と声をあげる。

「どうした臣」

臣はごそごそと自分の胸や腹などを触って、ぐいぐい肩を引き寄せる煉鬼を見上げた。

「痛くないです。どこも…」

はぁ?と顔に出して、それから声にも出そうとしてしかし煉鬼はその原因が分かったため「はぁ?」とは言わなかった。顔をあげて狐を見る。

狐は先ほど、煉鬼の「臣に何かしましたか?」の問いに「こちらの娘さんの願いを叶えてあげましたよ」と答えた。
そして娘、つまりタミの願いは「どうかお兄様が助かりますように」であった。

「お前が治したのか」

「我の得意とするところだったのでな」

タミはもうすっかりこの狐が悪い者ではないと思っているようで、にじにじ近づいて黄色の薄衣を貸してもらってキャッキャと喜んでいる。こちらは妙に馬が合うようで、狐は微笑ましそうにタミを見ている。

「お主、名前は?」

「タミっ」

「そうか。我はシロウ」

「シロウおにいちゃん?」

シロウと名乗った狐は満足そうに頷いた。

「ふむ、タミはどこかへ行く途中なのか?」

「あのねっ都に行くんだよ!」

サクサクと会話が進む中、完全に煉鬼と臣は置いてけぼりでポカンと二人を見ている。顔はどちらかというとちょっとずる賢そうな、決して善良とは言えない、一曲ありそうな顔なのだが、タミの願いを叶えてくれたあたり、そう悪い狐ではないのかもしれないと臣は思った。

するとくるりと狐がこちらを向き、都に何をしに行くのだ?と言われ、臣はギクリとしながら小声で「遠い親戚の家に行きます」と説明する。狐はじっと臣を見て、ちょっと笑うと「なるほど」と頷いた。

「では道中気をつけてな。タミ、いっぱい食べてよく眠り、おおきゅうなるのだぞ」

「はいっシロウおにいちゃんまたねー!」

またね、と言われてますます嬉しそうに撫で撫でとタミの頭を撫でると、シロウと名乗った狐は腰かけていた窓からそのまま後ろへ倒れて行く。するとあっというまにその姿が消えていなくなった。

「何だったんだ一体…」

「でも、体を治してもらえてよかったですね」

開けっぱなしの窓を閉めながら臣がそういうと、煉鬼はどうしてか不機嫌そうに「けっ」と言って、放り出してきた仕事の続きに戻ると足音高く出て行く。臣が慌てて「もう大丈夫だ」と言おうとしたが、その前に「お前は来るな」と釘を刺されてしまい、タミと顔を見合わせた。
怪我が治ったことは喜ばしいはずなのに、煉鬼は自分には出来なかった臣の治療を他人に一瞬でやられてしまったことで、おもしろくなかったらしい。しかし臣はそのことに気付かず「煉鬼様、どうしたんだろう」と首を傾げた。


***


夜になり、煉鬼は「あと数日ここで働けばしばらくの旅費が出来る」と言って、早々と布団に入ってしまった。
シロウおにいちゃんにまた会いたいなぁと言っていたタミも寝静まり、臣はほとんど暗闇の部屋で一人眠れずに布団にくるまる。

しばらくそうして、外で鳴く虫が一度止み、もう一度リーリーと言いだしたのをきっかけに臣は起きて隣で寝ている煉鬼の肩を揺すった。

「…どうした」

本来、人間が必要とするほどに鬼は睡眠を必要としない。むしろ夜のほうが本領を発揮できる時間でもあるが、ずっと起きていても仕方なしと横になっている程度なので、煉鬼はすぐに目を開けた。
暗がりの中、臣からは煉鬼の顔がぼんやりとしか見えていなかったが、何か訴えるように切なく自分を見る臣の顔は煉鬼にははっきりと見えていた。

「・・・」

無言で肩に置かれていた手を引き、布団に招き入れる。向かい合って、臣はゆっくりと煉鬼の腰あたりの着物を掴んだ。

「どうした」

「…ちゃんと、言ってなかったから」

あ?と煉鬼が見下ろすと、臣は煉鬼の鎖骨に額を預けてボソボソ話す。

「声や姿が消えるまじないのこと、考えてみれば煉鬼様はずっとまじないをかけてくれてたんだって、気付いたんです…。そんなこと考えもしないで、ごめんなさい…」

「・・・」

おずおずと臣の腕が、腰の横から背中のほうへ回り、きゅっと抱きついてくる。臣からそういうことをするのはおそらく初めてのことだった。

「それから、助けてくれてありがとうございました。
ちゃんとは覚えてないけど、オラ、本当に嬉しかった…」

触れている体温がどんどん上がってきているのを煉鬼も、そして臣自身も気付いていた。煉鬼はずっと黙っている。
すると黙ったまま煉鬼はバサリと布団を跳ねのけて体を起こした。背をぐいっと押されて臣も起きる。


「行くか」

そろそろ目も慣れてきて、臣にも煉鬼の、少し何かを我慢したような顔が見えた。

「風呂」

かあぁ、と首が熱くなる。こういうときに限って煉鬼は無理やり連れて行ったりしないのだ。臣の返事を待っている。
夜なのに目がチカチカして、臣は堪らずに俯いた。


「…はい」


*****

投票結果をわくわく待ちつつ、鬼と私を進めてみます★

鬼と私の、エロ道中21

*****

暴漢らに襲われ、そして煉鬼に助けられてから3日ほど経過した。
昨日までは蹴られたところが熱を持って臣はウンウン唸っていたのだが、今朝はずいぶんよくなったように思う。

「煉鬼さま、もうオラ大丈夫ですから…」

身を起こしてそういうと、煉鬼は少々荒っぽく臣を再び布団に押し込めた。

「うるせぇ。てめぇは大人しくしてろ」

今は人間の姿をしている鬼、煉鬼はまた臣が何か言う前にふすまを開いて出て行く。
お手玉をして遊んでいたタミは、うふふっと笑った。

「煉鬼おにいちゃん、もっとやさしく言ってくれたらいいのにねぇ」

煉鬼が臣のけがを心配して、彼のかわりに宿の仕事を請け負ってくれているのだ。「お前が治らなきゃ、旅が再開できねぇだろうが」と呆れたように何度も言わているのだが、言われれば言われるほど、なんだかとてもむず痒い気のする臣である。

「タミはあの時のこと、覚えてるかい?」

神社で男たちから救ってくれた一切を、臣はよく覚えていない。痛みで意識がほとんどなかったのだ。
どんなようすだったのだろう。もしかしてタミは鬼の姿になった煉鬼を見てしまったのかなと思いながら聞くと、タミはふるふると首を横に振った。

「離れてろって言われたから、たてものの中に入ってたの。
そうしたら誰かが「もう出ていいぞ」って言ったから、おそとに出たの。
もう煉鬼おにいちゃんと、おにいちゃんしかいなかったよ」

「ふぅん…、え?誰かって?」

タミも自分で言っていて「あれ?」と言う顔をしている。兄妹そろってきょとんとしていると、ふいに窓がすっと開いた。

「邪魔するぞ」

「「わっ」」

同じように驚くふたりに、突然現れた男はもともと細いらしい目をさらに細める。
ここは2階だ。煉鬼なら軽々だが普通の人間ではなかなか出来ない登場の仕方である。

「あ、貴方は?」

無意識のうちに妹を背中にかばいながら、部屋についと入ってきた男に尋ねた。着流しの上に黄色の薄衣をはおった男は、慌てて身を起こす臣に近づく。怖い雰囲気は感じないけれど、煉鬼を呼んだ方がいいだろうか、どうしようかとおろおろする臣に、男は手をかざすと体に触れずにスーっと動かした。

「なるほど。鬼の番いか」

「!!」

どうしてそのことを?とびっくりした臣の耳にドダダダと階段を駆け上がる音が届く。

「てめぇ俺の嫁に何しやがった!!!」


髪を逆立てんばかりの勢いでやってきのは煉鬼。
ほっとする臣を挟んだ向かいで、細い眼の男はクスクスと笑う。

「そこな娘の願いを叶えたまでよ」

「あぁん!?」

ガラの悪い声を出す煉鬼に、ちょっと騒ぎすぎではと臣がヒヤヒヤしていると、タミが「あっ」と声をあげた。

「出ていいぞって言ったおにいちゃんの声だ!」

え?と臣も煉鬼もタミを振り返る。タミはそうだよね!とキラキラした目で男を見上げ、男はにっこりと笑いながら「そうぞ」と返す。

「ど、どういう…?願いって?」

「どうかおにいちゃんが助かりますようにとな。その娘が我が社(やしろ)で祈っておったのよ」

そこで煉鬼がぐいと臣を抱きよせながら、低く言った。

「お前、狐だな」


*****

し、し、新キャラを出してしまったぉ!!

鬼と私の、エロ道中20

*****

「上出来だ、臣」

男たちは突然聞こえた他者の声に弾かれたように顔を巡らせた。
しかしその声の主らしき者はあたりにいない。

今の声はなんだったんだと首を傾げて、おかしなことを口走った臣が悪いとばかりに、男たちは臣が転がっている足元を見た。

「ッ…いねぇ!?」

数人で囲んでいて、とても抜け出せるはずがないのに、そこはもぬけの殻。しかも意識が飛びかけていたというのにどういうことだと、男たちはもう一度あたりを見回すはめになった。

すると、薄暗い神社に一人の男が立っている。
目を凝らしてよく見ると、腕にはさっきまで自分たちが蹴っていた青年と彼が守っていた少女がいるではないか。

「よくも俺の嫁に傷をつけやがったな…」

「なんだてめぇ…!」

その男のまわりだけやけに暗いような気がするが、無駄に見栄を張る男たちは逃げればいいものを喰ってかかる。
煉鬼は動くのも辛そうな臣は片腕に抱き、自分の肩に凭れるように抱いたまま、もう片方の腕に抱えていた少女を地面に降ろした。

「離れてろ」

タミは何かを抑えているような煉鬼を見上げて、こくりと頷くと神社の社に身を隠す。
少女が視界から消えたところで、解放した腕を男がぐるぅりとゆっくり回した。

「地獄が見てぇようだな」

メラ、と男の口が真っ赤に光ったような気がする。と思ったら、男の口からチロチロと炎が漏れ出しているではないか。
そしてその炎に照らされた男の腕が、みるみる大きく、太くなっていく。
ゴキ、ボキ、と音がして、男の肩から巨大な、鋭い爪をもつ腕が生えた。

男の目が、ギラリと光る。

「ヒッ
お、鬼だ…!!」

誰かが震えながらそういう。それが男たちが聞いた、最期の人の言葉だった。


***

「ん…」

目を開けると、ここ数日で見慣れた天井が写った。
ぼんやりとそうして、はて一体何があったんだっけ?と考えていると、視界の端から妹がひょっこりと顔を出す。

「レンキにいちゃん!おにいちゃん起きたよ!!」

「タミ!…あ、ッつぅ…」

はっと今までのことを思い出した臣が体を起こそうとしてその背の痛みに顔をしかめる。
するとタミと反対側から男が顔を出した。

「おぅ、起きたか」

「煉鬼様…。さっきの奴らは」

「ちぃと撫でてやった。もう気にするな」

そのことに関しては聞いてはいけない気がして、臣はこっくりと頷く。
煉鬼は頭をゴリゴリと掻きながら、ずいと竹筒を渡した。

「水だ。飲め。
俺は病気を治すのは造作もねぇが、そういう傷は苦手なんだ」

「そんな、助けてくれただけでも…、ごほッ」

ぐいと遠慮なしに傾けられた筒から水が溢れて、臣は噎せ返る。ただでさえ横になったままでは飲みにくい上に、蹴られた背中が痛くて、大きく息をするのも辛い。
せっせっと息を切らす臣に、煉鬼は舌打ちしてグビリと竹筒の水を口に含んだ。

「え、ぁ。煉鬼様…」

肩の下にゆっくりと腕が入ってきて、少し身を起こされる。何をされるか理解して、妹の前なのにと臣はぼっと赤くなった。

「れ、レン…」

(早く治しやがれ。)

心だか、頭だかに直接煉鬼の声が流れ込んでくる。そのことと、その内容に臣が固まってしまっている間に、煉鬼はこれ幸いと臣の口を開かせて、濡れた口で塞いでしまった。


*****

鬼と私の、エロ道中19

*****


「おにいちゃん…、レンキにいちゃんも、どうしたの?」

「……」

「なんでもないよタミ」

風呂の一件の翌朝、タミはいつの間にか戻ってきた煉鬼に初めこそ喜んだものの、兄の見たこともないような不機嫌ぶりに困惑していた。

煉鬼はあれから一言も話さない。どこから調達してきたのか、酒瓶をぶらさけて時折喉を潤している。

「じゃあタミ、オラはお宿の手伝いしてくるから、大人しく待ってるんだよ?」

「うん…。がんばってね」

心配させまいとぎこちなく笑う臣に、余計にタミは心配そうに兄を見送った。
トントントン、と急な階段を下りていく音が遠ざかっていく。

「お兄ちゃんと、喧嘩したの?」

「いつものことだろ?アイツは小さいことですぐ怒りやがる」

「でも、あんなに怒ったおにいちゃん、はじめて…」

「うるせぇな。兄弟揃って口やかましいぞ」

タミの言葉を遮って、鬼が低く唸った。角は生やしていなくても、人間には出せない怒気が部屋を包む。大人であったら失神していたかもしれないほどだったが、普段から煉鬼に慣れていたタミはただ言葉を飲み込んだ。
しかしやはり大人に睨まれて嬉しいはずもない。タミは慌てて立ち上がると部屋を出て行ってしまった。

「・・・ふん。あんなガキ、知るか」

とぷ、と酒瓶から直接酒を飲む煉鬼。階下の臣のところに行ったのだろう。また臣の機嫌が悪くなるな、と考えたところで、鬼は盛大に舌打ちした。

「嫁の機嫌取りなんか誰がするか」


日が傾き、くたくたになった臣が帰ってきた。そこにはいびきを掻いて眠る鬼と、妹が…。

「タミ…?タミ?

れ、煉鬼さま!タミは??タミはどこですか?!」

「んぁ?」

狭い部屋を見渡して、少女の姿がどこにもないことに臣は動揺する。一方鬼はあくびをしながら、胸を掻いた。

「知らねぇよ。お前のところに行ってたんじゃなかったのか」

「き、来てません…」

さっと臣の顔から血の気が引いて、無意識に掴んでいた鬼の腕を離すとバタバタと部屋から出て行く。残された煉鬼は小さな窓を開けて、外の匂いを嗅いだ。

「遠くには行ってねぇな…」

身を乗り出しそうになって、煉鬼は「いや待て」と自分を制止した。
さきほど「嫁の機嫌取りなんかするか」と思ったばかりだ。乞われてもいないのに探す必要はあるまい。そう考えたのである。

ドスンと座りなおして頬杖をついた。

「探してほしかったら、しおらしくお願いしてみろってんだ」



「タミ!タミー!」

宿の主人に外出する許可をもらう際「最近は人攫いなんかもいるから気をつけろよ」と言われ、血眼の臣である。宿を出る前に、ちらりと鬼の顔が浮かんだが、昨日あれだけ怒らせてしまったのだから、頼んだところで加勢は望めないだろう。そう考え、泣きそうな顔で村を奔走していた。

何時間そうしていただろうか、いよいよ日が暮れるという頃になって、神社の近くでしゃがみこんでいた女の子を見たという情報をもらい、そちらに走る。結果として、タミは宿からそう離れていない人気のない神社にいた。

「タミ!!」

「あっおにいちゃん」

兄の姿を見て、ほっとした顔をするタミ。来たのはいいが、帰り道がわからなくなっていたのだ。

「どうして大人しくしてなかったんだい?心配したじゃないか」

「ごめんなさい…。これ探してたの」

そういって少女は握っていたものを兄に差し出す。
それは紫色の小さな花だった。

「タミが病気で寝込んでる時、おにいちゃんこれ摘んできてくれたでしょ?そしたらタミ、元気になったから…、」

兄にも早く元気になってほしかったのだと泣きそうな顔で言われては、叱れなくなってしまう。
臣は、こっそり溜息を吐いて、妹の頭を撫でた。

「ごめんな。タミも心配してくれたんだな」

うん、と頷くタミを抱き上げる。
タミのためにも、臣は帰ったら煉鬼に謝ろうと思った。

よくよく考えたら、わかったことなのだ。
今までだって、誰かに気付かれそうな状況はいくらでもあった。特に隣でタミが寝ていたときなど、どう考えたってあれだけ騒いで暴れていれば起きないはずがない。
煉鬼はずっと前からまじないをかけて事に及んでいたのだろう。だから彼にはいつものことだったのだ。
その不器用な優しさは、とても煉鬼らしい。
臣は暖かい気持ちになった。

「早く帰ろう。煉鬼様が待ってる」

「うん!」

自然な笑顔に戻った兄を見て、妹もこっくりとうなずく。
しかし境内を出ようとしたところで、こちらを伺う気味の悪い男たちが兄妹の行く手を阻んだ。

「…通してください」

男たちはひそひそと何言か交わすと、臣を囲むように立った。
煉鬼よりは小さいが、それでも臣よりは横も縦もある。

「金があるなら置いていけ。なければそのガキでいい」

「ッ…」

タミをぎゅっと抱きしめて、臣は男たちを見上げた。夕暮れの時間だ。男のギョロリとした目がやけに目立った。

「と、通してくださ…」

ドンと横から衝撃が襲う。蹴られた、と思ったころにはすでに臣は境内の石段に倒れ伏していた。しかも運悪く額をぶつけてしまったらしく、顔をドロリとしたものが流れる。

「う…」

「おにいちゃんっ」

クラクラする。霞む意識の中で、しかし臣は妹を離さなかった。男たちが臣を取りかこんでくる。タミを守るようにうつぶせになって体を丸める臣を無情に蹴りつけた。

「死にたくなけりゃ大人しく渡しな。俺らが上手く使ってやるよ」

「やだ…っ」

「けッ馬鹿が」

抗ってみるが、暴力と無縁の臣である。たった数発でも、すでに意識が飛びかけていた。
男たちはさっさと臣を気絶させて、タミを連れ去ろうと考えたらしい。ひとりの男が棒をもって、軽くブンブンと振り回す。空振りの音と、ほかの者が離れていく気配でそれを察した臣は、思わず叫んだ。

「助けて…煉鬼様ッ!!」



「上出来だ、臣」



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