「王子を差し出せ」というプラムからの手紙を読んだ王様は、ドキドキしながら王妃のもとに向かいました。
部屋に入った途端、ただならぬ様子の王に、王妃は「何かあったの?」と駆け寄ります。
「実は…」
そう言ってプラムの手紙の内容を教えると、王妃は口を覆って「そんな…」と愕然としました。
そして王様の想像とは、違う言葉を発したのです。
「どうにか…何か他のものでは代えられないのですか?」
王様は驚いてじっと王妃を見つめました。きっと彼女は「ティカルを向こうに差し出しましょう」と言うと思っていたのです。
すると王妃は、俯いて「あなたの考えていることはわかります…」と静かに言いました。
「確かに私は、あの子を殺してとお願いしたわ。
あなたが私と結婚する前に、好き合っていた人の呪いだとわかっていたから、余計に…」
王様ははっとして王妃を見ます。女の勘というのでしょうか、やはり隠していてもわかってしまったようです。王も俯きました。
「でも引き離されてわかったの。私はなんてひどいことを言ったのだろうって…。
自分の子供を、殺して、なんて…」
ポロポロと王妃は泣き始めました。
「僕は…、君がずっとティカルを遠ざけているから、嫌いなのだろうと…」
「いいえ。本当は、子豚の姿の時から傍にいたかった…。けれど、一度でも殺してと望んだ私に、そんな資格なんてないわ」
時々王妃は、侍女を使ったり、自分でこっそりとティカルの様子を見守っていました。この前の湯殿のときも、王妃の侍女が「ファファ様がティカル様を連れていかれました!」と知らせに来たので、大慌てで探したのです。
だからティカルを助けることができたのでした。
「すまなかった。すべて私の責任だ…」
「いいえ。私だって、あなたに好きな人がいるとわかっていて一緒になったのですもの。私も同罪よ」
「ティカルと…やり直さないか?あの子もきっと望んでいるはずだ」
王妃は迷っていましたが、その時、外から子供たちの楽しそうな声が聞こえてきました。
それに混ざって、ティカルの声も聞こえてくるではありませんか。二人は不思議そうに窓からこっそりと外を見ます。
ティカルと遊んでいたのは、攻め込まれている隣の国との境目にある町の子供たちでした。
危険だからと、親元を離れてお城に避難させているのを、王様を思いだします。
その子供たちの中で、ティカルは顔を隠す布を取って、「ブタ星人」と名乗ってヒーローごっこをしていたのでした。
「くらえー!ブタ星人!!」
「うわーやられたー!」
盛大なやられっぷりに子供たちは歓声を上げて喜んでいます。見たこともないような不思議な豚鼻ですが、大人ばかりのお城で、率先して遊んでくれるティカルが、子供たちは好きでした。
ある女の子が、ティカルの膝に乗って尋ねます。
「どうして王子のお鼻は豚さんなの?嫌じゃないの?」
王と王妃はどきっとしました。一方ティカルは、少し考えて「嫌じゃないよ」と答えました。
「僕のこの鼻は、きっと何か意味があるんだと思う。
君たちの中で、足が早い人がいたり、よく目が見える人がいたりするでしょう?
もしかしたら足が早い人は、大事な連絡を遠く早く伝えることができるかもしれないし、
遠くがよく見える人は、嵐が来るのに早く気付くかもしれない。
でも、大事な連絡もなくて、嵐も来ないかもしれない。
僕の鼻も、何の役にも立たないかもしれないけど、
僕はこの鼻の意味を、じっくり探していこうと思うんだ」
じっと聞いていた子供たちは「ティカル王子のお鼻、おもしろくって好きよ」と言ったり、「ブタ星人になれるから役に立ってるよ!」とティカルを元気づけました。
ティカルは嬉しそうに笑って、立ち上がるとまたブタ星人になるのでした。
「・・・」
王は王妃の肩を抱きよせて、再び「ちゃんと親子になろう」と問いかけます。
今度は王妃も、泣きながら頷いてくれました。
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プラムの手紙がログアウト(笑
次にはちゃんとログインします。