犬の日が通り過ぎてしまいましたが、話が浮かばなかったので子豚を書いてゆきます…!
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「王様、大丈夫かなぁ」
洗濯をしながら、そう思わず呟いたツツムに、使用人仲間も心配そうに頷きました。
「なんでも、夜もほとんど寝ないで仕事をしたり、調べ物をしたりしているらしいんだって」
調べ物が何なのか、なんとなくわかってツツムは思い出すように洗濯桶を見ました。泡だらけになりながら一生懸命洗濯をしていたティカルが思い出されます。
「じっとしていられないんだろうな」
ちょうどその頃、ツツムたちが心配するように目の下をクマで真っ黒にしたプラムのもとに、ティカルに首飾りを渡した魔法使いがやってきていました。
「な、なんですって?!ティカル王子が…」
ティカルが自分の首飾りをプラムに譲って、夜の女王の作った闇の中へ引き摺りこまれたと聞くと、老魔法使いはしくしくと泣きました。
老魔法使いも、ティカルが会議室で起こした事件のことを知っていたので、子豚になることが、どれほど嫌なのかわかっていたのです。しかしそれでも、プラムを想って行動したティカルのことを、魔法使いのおじいさんは誇らしく思いました。
「王様、首飾りを見せていただけますか?」
「…このままでいいか?」
プラムがかけられた夜の呪いは、女王が死んだことで消えたはずです。しかしプラムは、唯一のティカルとの繋がりであるその首飾りを、手放したくないのでした。
「結構でございます。失礼」
ティカルが決死の思いでプラムに譲ったそれは今、裏返ったその時の状態でプラムの首に下がっています。
魔法使いは首飾りをひっくり返して、じっくりとそれを見ました。
「・・・ティカル王子は、別の世界に飛ばされたのでしょうか」
「!!
そうだ。夜の女王はたしか「別の世界に飛ばしてやる」と言っていた。
…生きているのか?」
「この首飾りは、長くティカル王子と共にあったおかげで、深いつながりをもっているのです。
宝石の輝きが衰えないのは、まさしくティカル王子が生きている証です。
子豚の姿でしょうが、生きております…!」
プラムは、ほーっと息を吐きました。別の世界に飛ばされたティカルが、一匹の子豚が、果たして生きていけるのか、本当に心配していたのです。
横で控えていたオクも、安堵の顔をしています。
「ティカルは…、この世界に戻ってくることができるのか?」
一つ解決すれば次の心配が出来るもので、プラムは魔法使いに尋ねました。
「流石にわしにもわかりません…。ですが貴方様がこの首飾りを身につけてくだされば、少しずつ繋がりが出来るはずです。
王様とティカル王子が、互いに呼び合えば…いつかは…」
そうか…、と感慨深げにプラムは頷いて、裏返った首飾りを見つめました。
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「はぁ〜っこんな深い森の奥に、村なんてあるのかな?」
一方、エンと子豚のティカルは、森の中を歩いていました。
なんでもその村には予知や占いができる女の人が代々いるらしいので、おもしろそうだと立ちよってみることにしたのです。
「もう少しのはずなんだけどなぁ」
「ぴきぃ〜」
短い足をせっせと動かしていたティカルも、疲労困憊の声をあげました。
その時です。どこからかカコン、カコン、と音がするのに気付きました。
「これは…木を切っている音だ!近くに誰かいるぞ!」
「ピぃ!!」
音の方を頼りに進んでいくと、背の高い男の人が斧を振り上げ、大きな木を切っていました。しかし間の悪いことに、ちょうどこちらのほうへ切り終わった木が倒れ込んできたのです。
「ブヒー!!」
「空豚!危ない!!」
わたわたするばかりのティカルを抱えて、エンは何とか直撃を免れましたが、木の枝に抑え込まれてしまいました。しかも頭を打ってしまったらしく、めずらしくエンが気を失っています。
「ピィ、ピいー」
「おーい。誰かいるのかー?」
エンに必死で呼びかけていると、豚の鳴き声に気付いたらしく、木を切っていた男の人がこちらに向かってきました。
ティカルが場所を示すように鳴くと、男の人が「よいしょ」と掛け声をするのが聞こえます。
てっきり木の枝を取り払ってくれるのだろうと思っていたのですが、なんと驚いたことに、男の人は倒した木ごと、持ち上げてしまったのです。
根元ではないにしても、とても重いはずです。なんて力持ちなのでしょうか。
しかし関心も束の間、ティカルはその男の人を見て、びっくりして腰を抜かしてしまいました。
大木を担いでいた大男の顔は、牙のようなものが生えてて、耳も尖ってて、肌も灰色がかった色をしていました。
(ま、魔王だ…!)
ついこの間、エンに魔王の話を聞いていたティカルは、その話を思い出したのです。
「あぁ、よかった。死んではいないみたいだな」
ニカっと笑うと、ギラっと牙が光ります。ティカルはクラクラしてきて、そのままひっくり返ってしまいました。
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