「うわ、ぁ…」
身の丈はどんな大男よりも大きく、腕などはまるで丸太のよう。
そして額からは2本の角が堂々と生えている。
驚いた拍子に尻もちをついたままの姿勢で、青年は鬼を見上げた。
「何してんだって聞いてんだがよ。聞こえてないのか?」
鬼はひょいと首をかしげてしゃがみこんだ。
顔が、青年の目の前にくる。
「わっわっわっ…」
後ずさりしたくても、後ろにはタミがいる。彼女をそのままにして逃げることはできない。
そんなわけで彼はピキンと凍りついたように鬼と対峙した。
「耳でも悪いんか。ならしょうがねぇな」
「ならしょうがない」それを「話が通じなければ食べてしまおう」と勝手に思い込んだ青年は、慌てて口をパクつかせる。
「き、聞こえてるっ
耳は悪くない!」
「んだぁ?聞こえてんなら返事しろよ」
ひぃいっと青年はあげかけた悲鳴を必死に呑み込んだ。これ以上鬼を怒らせないようにしなければと思ったからだ。
「で?」
最初の「何してんだ」の続きなのだろう。やたらとフワフワする歯を叱咤激励しながら、なんとか青年は話した。
「この先の、村にいく途中なのです」
「村ぁ?もう夜になるぞ。何考えてやがるんだ
それよかこっちの村のほうが…」
そこまで言って、鬼は青年が今まで辿ってきた道を振り返り、言葉を切らせた。
青年は、うつむいて答える。
「そっちの村は…、オラたちの村は、無くなりました」
「…そのようだな」
鬼の目は、遠くもよく見えるのだろう。少し低い声で「何があった」と青年に尋ねてきた。
「最近、畑がやたらと荒らされるものだから、村の男衆たちで、狩りをしたんです…
そして、大きな鹿を仕留めて、しばらくは畑の被害もなくなりましたが…
村に、変な病気が流行りだして…」
はじめは、狩りに出た男衆の家、そして大きな畑を持つ家、そして父と母。
みんなが、段々呼吸が苦しくなって動けなくなり死んでしまう謎の病気で、村は覆い尽くされた。
「そいつもか…」
「はい…。でもタミは父が調合した薬が効いて、隣村のお医者に見せればきっと治るって」
だからこうして、病の妹を背負い、大急ぎで村を出てきたのだと青年はいった。
しかし、鬼は首を振る。
「無理だな。医者じゃ、そいつは治せねぇ」
「え?」
「そいつは呪いだ。山の主を殺した者たちへの呪い。
人間でそれを治せるのは…、京にいる陰陽師とかいうやつらくらいだろ。それも凄腕でないと無理だ。
そこに辿りつくまでに、このチビも、お前もくたばっちまうだろうよ」
「そ、そんな…」
ふるふると肩を震わせる人間に、鬼は頭を掻きながら「まったくなぁ」と呟く。
「なんで主を殺しちまったんだか…。供え物とかしておけば、山のやつらは人間の領域には入ってこなかったろうに」
山への畏怖を忘れると、だいたいこうなるんだよなぁ、とそれほど残念そうには聞こえない声でそういう。
「ど、どうしたら…っ」
「ああん?」
青年は尻もちをついていた姿勢から、正座に座りなおして、膝の前に手をついた。
「どうしたら、妹は助かりますか?!
タミはまだ5つになったばかりです…っ
赤ん坊の時から病弱で、外で遊んだことなんかなくて…、このまま、なんの楽しい思いもさせないまま死なせたくないんです!
どうか!どうか妹を助けてください!!」
ガバっと頭を下げる青年に、鬼はきょとんと眼を丸くした。
「おいおい。お前さん、俺が何かわかってんのか?」
「は、はぁ。鬼、さまですよね?」
「さま、ってなぁ。」
鬼と言ったら、人間は大概怖がるものだ。
青年だってさっきまで、腰を抜かして怖がっていたというのに、鬼はまさか頼られるとは思ってもおらず、再び頭を掻いた。
「やはり鬼さまでも、山の主の呪いは解けないのですか…?」
「なにぃ?」
ピキっときた。青年にそんなつもりはなかったようだが、馬鹿にされたみたいで頭にきてしまう。
たかが一つの山の主と、あの世とこの世を行き来できる鬼では、断然鬼のほうが強いのだ。
「おぉし。治してやろうじゃねぇか」
そこで鬼はニヤリと笑い、青年を見下ろした。
「ほ、本当でございますか!?」
ぱぁっと顔を明るくして、青年は何故か目をギラつかせる鬼を見上げる。
「あぁ、ただし条件がある」
立ち上がった鬼はずいと青年に顔を近づけた。
「条件?」と反復する彼に牙を見せながら、鬼は言う。
「条件は、俺の嫁になること、だ」
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ワイ!オー!エム!イー!
YOME!!!!
とりあえずエロ部に到達するまでは急ピッチで行きたいです。