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子豚な王子様57

急ですが、今回で子豚は完結します。
ながーく引っ張っておきながら、ちょっと駆け足になってしまいました。
お付き合いいただきありがとうございました。

お返事返せないかもです。すみません!

*****

ティカルとエンは、木々が生い茂る森のようなところに降り立ちました。

「あ、ここ…。きっとここだ」

「わかるのか?」

エンの問いに、夢見心地でうんうんと頷きます。

「うん。なんとなく、だけど」

「とりあえず、ティカルの服をどうにかしなきゃだなぁ…」

あぁそうだ。僕、裸なんだっけ、と思うのと、あの、何度となく経験のある光がティカルを包みました。

「え!?」
「ブヒ?!」

そうして、気が付くとティカルは子豚になってしまっていたのです。

「えぇ?どうしたんだよティカル?!」
(僕もわからないよ!)

いよいよプラムに会えるかもと思った瞬間に、ほんの少しですがティカルは「怖い」と思ってしまったのでした。
会って、もしもプラムが、別の人と一緒にいたらどうしようと、怖気づいてしまったのです。

しかし、二人がそのことを話し合う時間はありませんでした。

少し離れた茂みから、獣の唸り声が聞こえてきたのです。

エンが、再び子豚になったティカルを抱えて、走り出します。そこで、時空の渦を使わないあたり、まだまだエンも慣れていないのでした。

***


「お久しぶりです。テアさん」

「プラム王子、よく来てくれたね。
あぁ、もう王様だったか」

一方プラムは、彼が納める国のはずれのほうにある田舎の牧場に来ていました。
ティカル探しと政治で、煮詰まっていた彼のもとに、息抜きにおいでと手紙を送ってくれたのが、このテアという人なのです。

「大変だったんだって?」

「はい…」

噂として、プラム王が大事な人を失ったことは知っていたのですが、城から遠い場所にあるテアの牧場までは細かい情報は来ていませんでした。お茶でもしようかと、プラムを招き入れた彼でしたが、その時でした。

「ワン!」

大きな白い犬が、急に外で吠え始めたのです。テアは険しい顔をしました。

「王子、悪いけど少し待っていてくれ。
森で何かあったみたいだ」

「俺も行きます」

つい昔の癖で「王子」と言いながら、テアは首を振ります。

「普通の馬じゃ、この森は無理だ。待ってるんだよ」

そう言って、彼は外に向かって「シド!」と呼びました。するとすぐに彼の元へ黒い馬が走ってきます。
壮年といっていい年のテアですが、慣れた様子で愛馬に飛び乗ると、あっという間に森に行ってしまったのでした。

あの馬は普通じゃないんだろうかと、不思議な顔をしたプラムを残して。

***

森を縫うように走っていたエンでしたが、大きな木が通せんぼをするような場所に追い込まれてしまいました。

「白い大きな犬なら、よかったんだけどな…」

昔飼っていたのでしょうか、そうつぶやくと、銀色の狼が低く吠えます。敵意むき出しです。

食べられちゃうのかな、どうしようとティカルはドキドキしました。

この世界だと思うのですが、プラムの姿がありません。おまけにまた子豚の姿です。
しかし会わないままで終わりたくありませんでした。
ティカルは、エンに抱えられたまま、お腹に力を入れます。

「ピギぃーーー!」

「うわぁっ」

ティカル自身、思っていたよりも大きな声が出てびっくりしました。エンはもっと驚いたのでしょう。思わずティカルを持つ手が緩んでしまいました。
狼は襲ってくると思いきや、ティカルの声を聴いて、うん?と言いたげに首をかしげています。

ティカルは、ふと、近くにプラムがいるような気がして、気が付いたら走り出していました。

***

ティカルが大きな鳴き声を上げたころ、プラムは中で待とうか、外で牧場を見ていようか、それともやはり追いかけようかと思案している時でした。

はっと顔を上げて、森を見ます。

「ティカル?」

裏向きの首飾りを握りしめると、どうしてかポカポカと温かいような気がしました。
気が付いたら、プラムは走り出していました。お供も、馬も連れて行かずに。

迷ったらどうしようと、考える余裕もありませんでした。

走って走って、枝で服を破り、木の根に足を取られ、それでも走ります。

「ティカル!どこだ!」

何かが聞こえます。人の声のような、子豚の鳴き声のような。
子豚の姿でもいい、会いたい、抱きしめたい。

そしてとうとう。何かにつまずいて転んだらしい、ピンク色の塊がプラムの前に飛び出してきたのです。

「ティカル!」

駆け寄って抱き上げると、少しの間目を回していた様子の子豚でしたが、プラムを見て、嬉しそうに「ピキぃ!」と鳴きました。

「あぁティカル!よかった!

そうだ!首飾りを」

すぐにでも呪いを解こうと、今も裏返しの首飾りに手を伸ばしたプラムでしたが、ティカルが一声鳴きました。
まるで「待って」というようだったので、プラムは動きを止めます。

ティカルは、プラムに抱きしめられたまま、強く思いました。

彼の名前を呼びたい。
彼をぎゅっと抱きしめたい。

人間に、戻りたい。
そう、強く強く想いました。

そして想いはとうとう、ある魔女の強い強い想いのこもった呪いを、打ち破ったのです。

はっと息を飲んだ気配で、ティカルはそっと目を開けました。そして自分の、人間の手を見て、

「プラム!!」

大好きな人を、思い切り抱きしめました。

***

案の定、帰り道が分からなくなってしまった二人でしたが、途中で親切なクマやキツネの力を借りて、ようやく牧場に戻ることができました。

森で迷子になっていた旅人を見つけたテアは、牧場に戻ってくるとプラムはいませんし、旅人は「子豚を探しに行く」と言うのでほとほと困っていたところでしたが、プラムが、誰かを連れてもどってきたので、とても驚きました。

しかも彼が、旅人の探そうとしていた子豚で、本当は人で、そしてプラムの最愛の人だというので、その情報量に追いついていけないほどでした。


***

「田舎が吉、本当だったな」

「なんのこと?」

いつかの占いのことを思い出して、そうつぶやいたプラムを、不思議そうにティカルが見つめます。もう鼻も、豚ではありません。
首飾りの力がなくても、ティカルは人間でいられるのです。

「いや、なんでもない。
オクに嫌味を言われるだろうな。無理に休みを取らせたから、この場に立ち会いたかったと言うだろう」

その様子が想像できて、ティカルはニコニコ笑います。
プラムは愛おしそうにティカルを見て、そっと囁くように言いました。



「ティカル、目を閉じて」


**END**

子豚な王子様56

お久しぶりです。あっという間に(笑)寒くなりましたね。
お体にお気をつけて。それでは子豚にいきます

*****

「あ、あのね。エンは魔王になるかもしれないし、ならないかもしれない人なの。
でも、いい人だよ」

迷った末に、ティカルはユキたちに向かってエンのことを紹介しました。

「魔王になるかもしれないし、ならないかもしれない?
…まぁいいか。アオ、もう大丈夫」

しかしティカルの説明では、よくわからなかったようです。
ユキはしばらく困った顔をしていましたが、泉に避難していた小さい子たちがそろりそろりと近づいてくるのを見て、大きい丸い生き物をポンポンと叩きました。

「エン、この人は泉に住んでるユキさん。とその家族だよ」

続いてティカルは、エンに向かってユキたちを紹介します。
エンは、同じ男でも、ティカルもユキも全裸なので、やはり目線に困るらしく、あいまいにうなずいてアオを見上げました。

「はぁ…しかしでかいなぁ」

「この人が一番大きいの?」

ティカルがユキに尋ねると、ユキは自慢げに「そうだ」と頷きます。
そんなことを話していると、ようやくエンもティカルを見るのに慣れてきたようです。

「普通の子豚じゃないとは思ってたけど、人間だったんだな。
さっき、なんて呼ばれてた?」

「ティカル」

「ティカルか」

頷きながら、エンは微笑みました。そのようすで、大きな丸い生き物のアオも警戒を解いたようです。
すすすと泉に帰っていきます。

「ティカルは、ここの人間なのか?」

「ううん、違うんだ。待ってる人のいる世界が、別にあるよ」

エンは、ティカルをじっと見ました。子豚のときには感じたことのない、強さを、ティカルから感じた気がしたからです。

「エン、連れて行ってほしい。僕を待ってくれている人の世界へ」

「あぁ、いいとも」

さっき結構練習したからな。任せとけ。とエンはにっこり笑います。

「ティカル、」

踏み出そうとしたティカルに、ユキが話しかけます。
振り向くと彼は「忘れるなよ」と言いました。

「うん。忘れないよ。
想う力は、強いって」

ユキは「そうそう」と深くうなずきました。

「行くか」

エンの声に、うんと頷いて、ティカルは渦に包まれました。


*****


子豚な王子様55

ひえ。夏が終わってしまう。

*****

ティカルはぺたぺたと体や顔を触ると、はっと驚いたように鼻を押さえました。
「どうした?」
「ぼ、ぼくのはな…」
もごもごしながら、ティカルは恐る恐る泉のほうに、よたよたと膝で歩いていきます。
ユキや、透明の生き物たちもなんだなんだと不思議そうについていきました。

泉の岸に座り込んで、ちょこっと顔を覗かせたティカルは綺麗な水の中に鼻を押さえた自分がゆらゆら映っているのを確認して、そーっと手を離してみました。

「っ!
鼻が…人になってる」

水の鏡に映っていたのは、自分でも始めて見る、人間の鼻をしたティカルでした。ティカルの呟きで、ユキは、先ほどティカルが言っていた「厳しい世界」の意味を少し理解します。

「すごい…。どうして…?
これも想う力なのかな?」
嬉しそうに何度も、時には頭から泉につっこみそうになりながら、ティカルが覗き込んでいると、突然水面がゆらゆらが大きくなり始めました。
泉の真ん中あたりが、波の中心みたいだと理解するのと同時に、そこから大きな何かがドンと跳ね上がります。そして、ティカルを飛び越しました。

「アオ?どうした?」
振り向いたティカルが見たのは、ここにいる透明な生き物の中で跳びぬけて一番大きく、丸い生き物が、ユキのすぐそばに着地したのと、その後ろの、見覚えのある黒い渦でした。

「あっ」
ティカルと同様に泉の大家族もその渦に気づいたのでしょう。
小さい丸や少し大きな丸が慌てたようにティカルをよけながら泉にポチャンポチャンと潜っていきます。飛び出してきた大きな生き物と、ユキ、そして大きめの子たちは、ジリっと警戒したようにその渦を見ているようです。

「エン!」
ティカルが咄嗟に呼びかけると、渦は開いたり閉じたりを何度か繰り返して、ようやく中からエンが出てきました。うまくいかなかったのか、思い切り顔からでしたが。

「いって…」
「ティカル、知り合いなのか?」
大きな生き物の隣に立ちながら、ユキはまだ険しい顔をしていました。ティカルは慣れていたので何も感じなかったのですが、やはり魔王の力である時空の渦は、禍々しい気配を放っていたので、警戒したのです。

「うん。一緒に旅してたんだ」
ティカルは慎重に立ち上がって、久しぶりに二足歩行をしながら、次第に小走りになってエンに近寄りました。エンは鼻を打ったようで、ちょっと涙目になっています。
「エン、大丈夫??」
「・・・え、っと?」
エンは小走りに近づいてきた全裸の青年を見て、パチクリしました。
途中ではぐれてしまったティカルを探して、慣れないながらも、あちこち時空の扉をあけて、ようやくティカルの気配がする世界を見つけたのですが、キョロキョロしてみても、子豚の姿がありません。

しかし鼻の痛みが治まっていくのと同時に、自分の名前を知っている彼があの子豚なのかもしれないと思い至ったのです。
「もしかして、空豚なのか…?」
ティカルはぱっと笑顔になって、「そうだよ!」と頷きました。

「ティカル…、エンってのは何者なんだ?」
「うっわぁ!何だこのでっかいの!?」
ユキとエンが同時に話したので、ティカルはどっちに返事をしようと、オロオロしてしまったのでした。

*****

子豚な王子様54

令和元年、おめでとうございます。よろしくお願いいたします。

*****



不思議な男の人と、不思議な丸い生き物にぐるりと囲まれて、ティカルはちょこんと座っていました。
「で?お前はどこから来たんだ?カイと一緒の国?」
ティカルは少し考えて、プルプルと首を振りました。へぇ、いろんな世界があるもんだなぁと呟いています。
(…僕、ティカルっていうんだ)
「俺はユキ」
ティカルはウキウキしてきました。エンもティカルの考えていることを読み取ることは上手ですが、名前までは伝えることができなかったので、ずっと「空豚」のままでした。
「元の国、この場合は世界か?帰れないのか?」
ティカルは頷きそうになって、頷くことも、首を横に振ることもしませんでした。
(わからないんだ。いろいろな世界に行けるから、いつか、僕の世界にも行けると思うんだけど…)
あぐらに頬杖をついていたユキは、ふうんと呟きました。

「帰るの、怖い?」

ティカルがユキを見返すと、彼はじっとこちらを見ていました。まるで、回りの彼らのように自分も透明になって、すべて見透かせれているような気分になります。

(怖い?)
初めて考えることでした。もちろんプラムを思い出さない日はありません。さっきも、水に溺れて一心に考えていたのは彼のことでした。

しかし想うことはあっても、どうしたら会えるのか、その具体的なことなどを考えてこなかったことに気がつきます。
そして同時に、敢えて考えないようにしていたのだとも、気づきました。

それは、きっと、ユキの言うとおりだったのです。

(うん。怖い…。)
「何が怖い?」
促されるように尋ねられて、ティカルは目を閉じました。

(僕の世界は…、僕に、とても厳しい…。生まれたときから、ずっとずっと。

きっと、これからも…)

「…これからも、辛いことがあるだろうから、帰りたくないって?」
(帰り…たい。でも怖い)
「ティカル、お前を待っている人はいないのか?」
(いるよ。プラムっていうんだ」
考えるより先に、ティカルは即答していました。閉じたまぶたの向こう側で、ユキがそっと笑う気配がします。
「お前がいなくなったままだと、プラムの世界はどうなる?」
ふるりと、ティカルの肩が揺れました。プラムの今の気持ちを、いままで考えてこなかった自分をとても恥ずかしいと感じました。プラムだって、いえ、プラムこそ、とても厳しい世界で今までずっと戦ってきたのだと。

その上で、ティカルの首飾りで守られて、そんな厳しい世界に取り残されて、ティカルはたまらなくなって涙が出ました。

「プラム、プラムぅ…っ、ごめんね」
泣きじゃくって目を擦っていると、頭を撫でられました。
「想う力って、強いんだ。
どんなに世界がお前に厳しくても、忘れるなよ?」
そう言って、ティカルの手を握ります。その感触がとても鮮明で、ティカルは涙を払うように一生懸命瞬きをしました。
「あっ…!」
手を、蹄ではない人間の指を、じっと見つめました。見下ろすと、お腹が、ひょろりとした足が。
「もどってる!」
ユキがニカっと笑います。
「な?想う力って強いだろ?」


*****

ユキがレジェンドになりつつある…(笑

子豚な王子様53


*****


ふわふわと意識が戻ってきて、ティカルは目を開けました。
「ぶひ?」
立ち上がって周りを見回すと、どうやらティカルは森にいるようです。そして、泉のキラキラした水面を見て、ようやくここに落っこちたのだとティカルは思い出しました。

エンはどうしたのだろう。いつもなら、いっしょに違う世界にいけるはずなのに。そう思いながら、ぼんやりと泉を覗きこみます。
綺麗だなぁと眺めていると、次第に先ほどまでの記憶が蘇ってきました。
水に落ちたとき、誰かが助けてくれたような気がしたのです。両脇から腕が伸びてきて、通せんぼをする何かを叩いてくれました。
叩いた感触が柔らかかったなぁと思っていると、だんだん不思議な気持ちになっていきました。

どうして柔らかいって知っているんだろう?
蹄で引っかいたから?
でも叩いた感触を覚えてる。

うぅん?と泉を睨みながら頭をかしげていると、水面がゆらゆらと動き出してではありませんか。
「ぴぎッ」
慌てて飛び退くと、水面を割るように大きな何かが現れました。
水しぶきがかかって、思わずプルプルと体を震わせます。

「あれ?カイが来たのかと思ったら、子豚じゃねぇか」

水の中から出てきたのは、なんと人でした。ありえない位、長く息が止められる人なのかしらとティカルは不思議そうにその人を見つめます。

「子豚?うん?人?」
同じように四つんばいになって、彼もティカルと同じように不思議そうに見つめてきます。
どうしてこの人は服を着ていないのに堂々としているのだろう。とティカルは声が出せたら聞いていたかもしれません。

「服はここに来るときに捨てちまったからな」
「ブヒ?!」
まさか思っていたことに返事がくるとは思っていなかったので、4本の足と尻尾が思わずピーン!となりました。

「お前、本物の子豚じゃないな。あと、カイに会ったことがあるだろ?あいつらの気配がする」
どちらも正解だったので、ティカルは大きく、何度も頷きました。カイは、こことは違う森の、小さな家で暮らしていた車椅子の青年のことです。
「カイ、元気だったか?」
それにも大きく頷きます。すると青年はにっこり笑って、座り込みました。
「そっか。なぁ、お前のこと教えてくれよ。来客は久しぶりなんだ」
心の中で思えば、お話できるのかしらと思っていると、「そうそう、そんなかんじ」と頷かれます。
ティカルは、久しぶりに言葉が通じ合える人に出会って、とても嬉しくなりました。

「ブヒっ(あのね!僕の名前は)」
「あ、ちょっと待ってくれ」
しかし意気込んで話そうとしたら、男の人に遮られてしまいました。鼻からプスーと空気が抜けるのがわかります。

「おーい。恥ずかしがってないで、出てこいよ」
「ピぃ?」
彼が泉を振り返ってそう呼びかけます。ティカルは、まだ息が続く人がいたのかと驚いていると、だんだん、水面がゆらゆらし始めて、

丸くて透明な、不思議な生き物が現れたのです。しかもたくさんです。

「ぴ!ピキィっ!!」
「俺の家族だ。よろしくな」
そういってはだかんぼうの男の人はにっこり笑ったのでした。



*****



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