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子豚な王子様51

明けましておめでとうございます!
亥年ということで、今年の目標はまずは子豚を完結させたいです。気長すぎ!


*****


「・・・」
細身の男の人がいなくなって、しばらく、ルエドと呼ばれた人もエンもなかなか話しませんでした。
しかしようやく、窓を背にした男の人がため息をついて尋ねます。

「時空を操ったのか。自力で?」
エンは向こうから質問がくるとは思っていなかった様子で、少し迷ったように口をパクパクさせました。
「…いや、この子豚が」
「ぶひ?!」
まさかこちらに話が飛んでくるとは思っていなかったので、ティカルは思い切り鼻を鳴らしてしまいました。ルエドはちらりとこちらを見ましたが、すぐに興味なさそうにして、椅子に腰掛けます。

「だがここに来ようと思ったのはお前の意思だろう。豚が魔王の城に来ようと思うか?」

魔王と聞いて、ティカルは足と尻尾がピーンとなるのを感じました。道理でこの城は禍々しい雰囲気があるはずです。角の生えた人がいるのも頷けます。

「俺は…納得するまで、見極めようと思って」
時間をかけて、エンはそういいました。ルエドは落ち着いた声で「見極める?」と頬杖をして繰り返します。
「魔王は、必要なのか?いなくても、世界は回っている。小さな悪事はあっても、大部分は平和だ」
「ふ、そうかもな」
エンの言葉にルエドはクスリと笑います。その落ち着きようがエンは気に食わないのか、むっとした顔をしました。

「人間にとって、余は必要のない存在だろうな。次から次に、勇者と名乗る馬鹿共が余を屠りにくる。よく飽きないものだ」
「そうじゃなくて、俺が言いたいのは…」
エンが言いかけるのを、すっと手を上げてルエドは止めました。ティカルは「もしかして、この人が魔王なのかしら?」と角も牙も生えていない男の人をまじまじと見ていました。

「この城の周りは、元々小さな国が多かった。小競り合いも多発して、生まれるだけ死ぬような時代があった。
だが今は、余を倒すために国同士が結託、合併を繰り返して、大きな国になったようだ。同じ国だから、当然小競り合いも激減した。

どうだ?なかなか余も役に立っているだろう?」

どこか馬鹿にしたように、魔王はそういう言いました。
「余は時代を変える存在だ。時代が余を求める。お前も、いずれ時代に呼ばれる時が来よう」
お前、と言われて、ティカルは誰のことかしらとキョロキョロしました。ふと見上げると、エンがくっと唇を噛んで下を向いています。
「ピィ…」
ようやくティカルは、なんとなくを察することができました。
ルエドという人は、きっとずっと昔の人で、その時代の魔王なのでしょう。そしてエンは魔王の後継者なのです。だからエンは、旅をしながら、ずっと悪いことや魔王のことを気にしていたのです。

しかしそれを知っても、ティカルはエンのことを怖くなったりはしませんでした。同時に、ルエドという前の魔王のことも見れば見るほど、エンに似ているように感じて、怖いとは感じませんでした。

魔王はぼそりと「飽きたな」と言って、立ち上がります。そしてニヤリと笑いました。
「隣の部屋に、お前の母親がいる」
「ユウが?」
「ちょうど今、お前を身篭って、哀れなほどに苦しんでいるぞ」
ティカルもエンもはっとしました。ここに来る途中、うめき声が聞こえる扉の前を通ったのです。きっとあそこに、エンのお母さんがいるのでしょう。エンが今にも走り出しそうな雰囲気を出しました。
しかしそこで魔王が、
「行くのか?アレを助け出したら、お前はどこの世界にも存在できなくなるぞ?生まれないことになるからな」
そういわれて、エンはビクリと動きを止めました。扉に伸ばしていた手を、ゆっくり体に引き寄せます。

「懸命だ」
やはりこの人は、魔王なのだとティカルはぞっとしました。わざわざお母さんの話をして、エンを怒らせなくてもいいのに、そうしたら分かり合えるかもしれないのに、と思いましたが、魔王はそれを拒否しているようにも見えました。

「さぁ、そろそろ帰ってもらおう。一つの時代に魔王は二人もいらぬ」
魔王が片手を挙げます。
「下ばかり見てないで、よく見ろ。時空はこうやって操るのだ」
「え?」
エンが思わず顔をあげると、魔王の上げていた片手から渦が起こり、黒い闇が広がりました。いつもはティカルの足元に起こっていたものです。
「ピィ!」
びっくりしていると、強い風を感じて、ふわりと体が宙に浮きました。闇がティカルたちを吸い込んでいます。エンは咄嗟にティカルのお腹を掴みました。
「まだ!話が!!」
エンが吸い込まれながら言いますが、巻き込まれないよう闇から一歩引いた魔王は面倒そうに首を振りました。
「埒が明かぬ。お前と話すのはもう飽きた」
「なんだよ!」
まるで小さい子供のように癇癪を起こすエンに、魔王はふっと笑います。
「なかなか新鮮で楽しめた。思いがけず情報も得られたしな」
「ブヒ?」
エンが「情報って何」とまた大声を張り上げようとしている途中であたりは真っ暗になり、魔王が時空の扉を閉めてしまったのだなとわかりました。真っ暗の中でエンがブツブツとぼやいています。それがいつものエンよりも幼く感じられて、ティカルは人の姿だったら笑っていただろうなぁと思うのでした。



しんと静かになった部屋で、何もなくなった空間をぼんやりと見る魔王の姿がありました。
「ユウ、か…。」
そう呟いて、少しだけ口の端をあげたのでした。


*****

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