*****
ふわふわと意識が戻ってきて、ティカルは目を開けました。
「ぶひ?」
立ち上がって周りを見回すと、どうやらティカルは森にいるようです。そして、泉のキラキラした水面を見て、ようやくここに落っこちたのだとティカルは思い出しました。
エンはどうしたのだろう。いつもなら、いっしょに違う世界にいけるはずなのに。そう思いながら、ぼんやりと泉を覗きこみます。
綺麗だなぁと眺めていると、次第に先ほどまでの記憶が蘇ってきました。
水に落ちたとき、誰かが助けてくれたような気がしたのです。両脇から腕が伸びてきて、通せんぼをする何かを叩いてくれました。
叩いた感触が柔らかかったなぁと思っていると、だんだん不思議な気持ちになっていきました。
どうして柔らかいって知っているんだろう?
蹄で引っかいたから?
でも叩いた感触を覚えてる。
うぅん?と泉を睨みながら頭をかしげていると、水面がゆらゆらと動き出してではありませんか。
「ぴぎッ」
慌てて飛び退くと、水面を割るように大きな何かが現れました。
水しぶきがかかって、思わずプルプルと体を震わせます。
「あれ?カイが来たのかと思ったら、子豚じゃねぇか」
水の中から出てきたのは、なんと人でした。ありえない位、長く息が止められる人なのかしらとティカルは不思議そうにその人を見つめます。
「子豚?うん?人?」
同じように四つんばいになって、彼もティカルと同じように不思議そうに見つめてきます。
どうしてこの人は服を着ていないのに堂々としているのだろう。とティカルは声が出せたら聞いていたかもしれません。
「服はここに来るときに捨てちまったからな」
「ブヒ?!」
まさか思っていたことに返事がくるとは思っていなかったので、4本の足と尻尾が思わずピーン!となりました。
「お前、本物の子豚じゃないな。あと、カイに会ったことがあるだろ?あいつらの気配がする」
どちらも正解だったので、ティカルは大きく、何度も頷きました。カイは、こことは違う森の、小さな家で暮らしていた車椅子の青年のことです。
「カイ、元気だったか?」
それにも大きく頷きます。すると青年はにっこり笑って、座り込みました。
「そっか。なぁ、お前のこと教えてくれよ。来客は久しぶりなんだ」
心の中で思えば、お話できるのかしらと思っていると、「そうそう、そんなかんじ」と頷かれます。
ティカルは、久しぶりに言葉が通じ合える人に出会って、とても嬉しくなりました。
「ブヒっ(あのね!僕の名前は)」
「あ、ちょっと待ってくれ」
しかし意気込んで話そうとしたら、男の人に遮られてしまいました。鼻からプスーと空気が抜けるのがわかります。
「おーい。恥ずかしがってないで、出てこいよ」
「ピぃ?」
彼が泉を振り返ってそう呼びかけます。ティカルは、まだ息が続く人がいたのかと驚いていると、だんだん、水面がゆらゆらし始めて、
丸くて透明な、不思議な生き物が現れたのです。しかもたくさんです。
「ぴ!ピキィっ!!」
「俺の家族だ。よろしくな」
そういってはだかんぼうの男の人はにっこり笑ったのでした。
*****