令和元年、おめでとうございます。よろしくお願いいたします。

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不思議な男の人と、不思議な丸い生き物にぐるりと囲まれて、ティカルはちょこんと座っていました。
「で?お前はどこから来たんだ?カイと一緒の国?」
ティカルは少し考えて、プルプルと首を振りました。へぇ、いろんな世界があるもんだなぁと呟いています。
(…僕、ティカルっていうんだ)
「俺はユキ」
ティカルはウキウキしてきました。エンもティカルの考えていることを読み取ることは上手ですが、名前までは伝えることができなかったので、ずっと「空豚」のままでした。
「元の国、この場合は世界か?帰れないのか?」
ティカルは頷きそうになって、頷くことも、首を横に振ることもしませんでした。
(わからないんだ。いろいろな世界に行けるから、いつか、僕の世界にも行けると思うんだけど…)
あぐらに頬杖をついていたユキは、ふうんと呟きました。

「帰るの、怖い?」

ティカルがユキを見返すと、彼はじっとこちらを見ていました。まるで、回りの彼らのように自分も透明になって、すべて見透かせれているような気分になります。

(怖い?)
初めて考えることでした。もちろんプラムを思い出さない日はありません。さっきも、水に溺れて一心に考えていたのは彼のことでした。

しかし想うことはあっても、どうしたら会えるのか、その具体的なことなどを考えてこなかったことに気がつきます。
そして同時に、敢えて考えないようにしていたのだとも、気づきました。

それは、きっと、ユキの言うとおりだったのです。

(うん。怖い…。)
「何が怖い?」
促されるように尋ねられて、ティカルは目を閉じました。

(僕の世界は…、僕に、とても厳しい…。生まれたときから、ずっとずっと。

きっと、これからも…)

「…これからも、辛いことがあるだろうから、帰りたくないって?」
(帰り…たい。でも怖い)
「ティカル、お前を待っている人はいないのか?」
(いるよ。プラムっていうんだ」
考えるより先に、ティカルは即答していました。閉じたまぶたの向こう側で、ユキがそっと笑う気配がします。
「お前がいなくなったままだと、プラムの世界はどうなる?」
ふるりと、ティカルの肩が揺れました。プラムの今の気持ちを、いままで考えてこなかった自分をとても恥ずかしいと感じました。プラムだって、いえ、プラムこそ、とても厳しい世界で今までずっと戦ってきたのだと。

その上で、ティカルの首飾りで守られて、そんな厳しい世界に取り残されて、ティカルはたまらなくなって涙が出ました。

「プラム、プラムぅ…っ、ごめんね」
泣きじゃくって目を擦っていると、頭を撫でられました。
「想う力って、強いんだ。
どんなに世界がお前に厳しくても、忘れるなよ?」
そう言って、ティカルの手を握ります。その感触がとても鮮明で、ティカルは涙を払うように一生懸命瞬きをしました。
「あっ…!」
手を、蹄ではない人間の指を、じっと見つめました。見下ろすと、お腹が、ひょろりとした足が。
「もどってる!」
ユキがニカっと笑います。
「な?想う力って強いだろ?」


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ユキがレジェンドになりつつある…(笑